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全てを守りたい御曹司VSじゃじゃ馬(妹)

 自分をお嬢様だと自称していた妹が、停学明けに変な格好しながら巨馬に乗り、銃刀法違反していたら、兄はどんな反応をすれば良いのだろう。

 廊下で正座し、そんな事を考えながら半紙に筆を流して【国語】と書いている。

 一条の話では、妹は高確率で授業をサボるらしい。

 入学式翌日に平然とサボる妹なら、授業もサボるかもしれない。いや、兄なら妹を信じなければならない。妹は授業を受ける。俺がここに居るのは万が一のため、念のために待機して……〜〜〜〜。


 妹がサボる気満々で教室の扉を開いた。


 一条の高確率という言葉は立証され、兄が思う妹への信頼は見事に裏切られた。

 どうやら父さん譲りの自由な考えはしっかりと妹に遺伝しているようだ。

 父さんには八王子会長という協力者や母さんのドメスティックというブレーキ機能が備わっているから自由に制限を付けられる。だが妹には、妹を全肯定する八王子と妹を雇い主として肯定する一条しかいない。


 妹の額に【国語】と書いた半紙を貼る。

 このまま引き下がってくれたらいいが、4歳までしか生活していない両親との思い出、記憶に残る父さんはこの程度では引き下がらなかった。おそらく、妹も引き下がらないだろう。

 案の定、妹は授業をサボるために逆側の扉へ向かった。

 父さんならどうする? と考えたら答えは簡単。

 妹は逆側の扉から逃げると見せかけて、この扉から逃げようとする。

 とりあえず、頭突きしたら妹は気絶するため、デコピンで対処する。

 一応、手加減して妹の額に……、


(やりすぎた!!!!)


 八王子が背後にいなかったら飛んで行くところだった!

 軽すぎるぞ妹!!


 次の休憩時間も授業をサボるために扉を開けてくるだろうし、もっと手加減できるようにならないとな。

 俺はデコピンの練習しながら授業が終わるのを待つ。

 むっ?

 足早に扉へ近づく音がする。

 いや、父さんならどうする。と考えたら答えは簡単。

 妹は扉を壊して強行突破してくるだろう。

 器物破損を防ぐため、いや、扉は防弾防刃なため父さんなら兎も角、妹ならケガする。こちらから扉を開ける。

 案の定、かぼちゃパンツを恥ずかしげもなく出しながら、飛び蹴りしてきた。

 父さんが強行突破してきた時の母さんは金属バットで父さん殴っていたが、妹をそんな物で殴るわけにはいかない。

 妹の靴裏に手加減に手加減したデコピンをする。

 だが、軽すぎる妹は5回転して八王子に受け止められる。どうやら更に手加減した方が良いようだ。


 次の休憩時間は……。

 父さんならと考えるまでもなく、予想どおり世界一の椅子、巨馬で突進してきた。

 椅子が巨馬になるまでなら八王子グループのテクノロジーを屈指して作ったと聞いたからギリギリ受け入れられる。だが、最高速度500キロメートルは椅子ではなく車ではないか? と思ってしまう。

 どちらにしても筋肉の前では車と椅子に大差はない。

 巨馬の顔を鷲掴みし、妹へデコピンを向ける。


(これで授業をサボるのを諦めるだろう)


 と思った矢先。

 何を考えたのか妹は自分を2度も飛ばしたデコピンに思いっきり頭突きしてきた。

 教室内は妹の無謀さに静まり返る。

 巨馬の背中でヨダレを垂らしながら気絶する妹を唖然と見ていると。


「ダンナ。この馬鹿ぷりは誰に似たんだあ?」


 一条。馬鹿ぷりは誰に似たんだ、の誰とは家族限定で言ってるのか? かなり失礼な問いだと思うぞ。だが、あの父さんな以上は否定できない。


「おそらく、父だ」

「唯衣ちゃんは総帥似ですわ」

「ダンナよお、馬鹿親父は兎も角、母親がこんな娘を見たら泣いちまうぞお」


 いや、泣かない。

 そんな生易しい母親ではない。


「一条さん。奥様には絶対秘密ですわ。ワタクシのお父様も奥様には『唯衣ちゃんは奥様似の淑女だ』とだいぶ盛って話しております。実は総帥似だと奥様に露見したら八王子家にも被害が出ますわ」

「4年しか母さんと暮らした事はないが、絶対に母さんには言ってはならないのはわかる。……1年J組の諸君、悪いが箝口令を敷く! 妹が父親似なのを親兄弟には他言しないように!! もし聞かれたら……心苦しいが、母親似の淑女だ、と言ってくれ。頼む!」

「どんな母親だよ。俺にはどっちもどっちにしか思えねえぞお」


 1年J組に箝口令を敷き、世界平和のために妹は母親似という事にしてもらう。妹のクラスを新垣派と一般生徒だけにしといてよかった。


 3時間目が終わり、休憩時間。

 あのまま昼休憩まで寝ていてほしい。

 授業を受けさしている意味はないが、世界平和のために妹はおとなしくしてほしい。

 三度目の正直で気絶したのだ。諦めるには十分。父さんも3回までしか母さんには逆らわないし、母さんも仏の顔も三度までというように3回までしか許してくれない。

 天に祈っていると、ふと、思い出す。

 入学式の時に、妹は空菱さんの怒りゲージが最初から振り切っていたと言った。おそらく、母さんが3回までは許しているのを前提に、空菱さんは父さん似の妹を教育しているのではないだろうか。

 三度目の正直に失敗し、仏の顔も三度までを学んでいるなら……。


『我が名は新垣唯衣! 女神オーディンであり巨人族を滅ぼす者!』


 妹は、空菱さんの教育から何も学んでいなかったようだ。


 妹の辞書には三度目の正直の部分に制圧破壊前進と書かれ、仏の顔も三度までの部分に仏の顔を何度も踏む、もしくは仏滅と書かれているのだろう。

 それも余程の事でないと3秒で忘れるというポジティブさなら、自分の行いを見直す事もしない。

 これでは天に祈りが届いていたとしても、神様の力は通じない。

 妹は父さん以上だ。

 間違いない。そして認めるしかない。

 妹は父さん以上の馬鹿だ。


 俺は覚悟を決めて扉に手を伸ばす。

 すると、俺が開ける前に扉は開く。

 卵みたいな形した世界一の椅子と八王子がいる。

 世界一の椅子の中には……3Dの妹。


「筋肉オヤジ! 窓から逃げるとは思わなかったようだな!」


 妹は窓を解放し、跳び下りる。


 何をしているんだ!?

 一足飛びで妹が跳び下りた窓へ行くと、壁を二足歩行で駆け上がる妹が…………ひよこ女史、何をやっとるのですか!!!!


『ヒャッハァ』


 妹の声だ!!!!


「一条、捕まえろ!!」

「俺あ、お嬢様の味方だつったろお」

「護衛なら1人にするな! 学校内も安全とは言えないんだぞ!」

「兄妹の微笑ましい遊びじゃねえかあ。教室の外には『凄腕の護衛が3人もいる』んだあ、負けんなアニキい」


 俺はアニキではなくお兄ちゃんと呼ばれたい!

 いやいや、そんなことより、こんなモノは遊びとは言えん!

 兄妹の遊びは…………兄妹の遊びは……。

 あの妹との兄妹の遊びは俺の妄想していたモノでは役に立たない!!!!

 青天の霹靂だ!!


 妹を追って多目的ホールに出ると下り階段を見る。

 空菱さんが三角帽子を回収していた。


「花道様。唯衣お嬢様は上に行きました」

「申し訳ありません!」


 俺は3階に上がる。

 3階の多目的ホールに落ちている青色ローブを【黒血を継ぐ魔女】が拾って……。


「ぶばぁ!!」

「妹ちゃんは上に行ったわよ」

「な、な、な!」

「花菱君が追ってるから安心よ」


 あんたの存在が一番安心できんのだ!!

 それに一条、凄腕の護衛が3人もいる、と気配を察知していたのは褒めたいが、凄腕の護衛3人の中の1人は暗殺者だ!

 後で教えてやらんとならない!!


 4階に上がる。

 屋上への上がり階段で花菱さんが眼帯を拾っていた。


「は、花菱さん。【黒血を継ぐ魔女】が3階にいましたが?」

「お父様がお二人の前にいなければ、今のところは、空菱以外に害はありません」

「そうなのですが……」

「今のところは、ごゆっくりとかくれんぼを楽しんでください」


 と言われても、【黒血を継ぐ魔女】を自由にさせすぎな気がしますが。

 妹は気配に気づかないですが……いや、俺も【黒血を継ぐ魔女】の気配に気づかなかったな。一条は気づいていたかもしれないのに。

 プラスに考える事にしよう。【黒血を継ぐ魔女】が校舎内にいるから一流の暗殺者は侵入しない、と。


 だが、【黒血を継ぐ魔女】が平然と居られる環境なのだ。遊びだとしても妹を1人で居させるわけにはいかない。


 4階の多目的ホールから3年の教室が並ぶ廊下を見る。

 俺は授業免除を受けているが、無遅刻無欠席で教室には通っている。

 俺が見慣れている3年校舎に逃げるとは…………〜〜妹よ。


 消火栓設備からブレザー制服の生地が出ているぞ。


 涙が出てきそうだ。

 生地が出ている妹の馬鹿っぷりで出ている涙ではない!

 俺の妹は、父さん似の妹は、母さんにも似ていたからだ!!!!

 今の妹は、気まずい事があると隠したい事を隠しきれない母さんではないか!

 馬鹿な父さんにもわかる見え見えの天然ぷりは母さんそのものではないか!!

 俺は4歳までしか生活した事がない両親を妹の馬鹿さと天然ぷりから感じられる!!!

 いや、感動して涙を流している場合ではない!


 遊びだ! これは遊びだ!!


 妹よ。

 その消火栓設備には秘密のボタンがあるのだ。エレベーターのように地下へと行く事ができる。そして、お前と八王子と俺の指紋と顔を認証したら北の山奥にある基地へ続く扉が開く。

 その第一の扉を見抜けるか妹よ!!


 消火栓設備に近づいても妹のブレザー制服は引っ込まない。

 通り過ぎても、少し離れても、だいぶ離れても……。

 どうした妹?

 そおっっっっと、足音を消して戻ると、


 バンッ!


 突然、消火栓設備の扉が開く。


 …………妹よ。

 もう少し、タイミング早く出てきてくれたら遊びを楽しめたのに……。

 正面に来られたら捕まえるしかないではないか。


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