ぼっちになりたいお嬢様とテレビ
本来あるべき付属品が、とうとう我が家にやってきました。
我が家はNHKの委託業者が受信料の請求に来ても一度も払った事がない。
空菱が追い帰しているのではない。
ましてやわたしが追い帰しているのではない。
庶民に譲歩するわたしや空菱は受信料を払う気満々だ。
それに、テレビがある家は法律で受信料を払う決まりがある。
だが、我が家に来訪するNHKの委託業者さんは、可哀想な子を見るような視線をわたしに向けて帰ってしまう。
我が家のテレビはオブジェ。
バカでかいテレビが沢山あってもアンテナ配線が無いから請求できないのだ。
しかし!
とうとう我が家にアンテナ配線がやってきた!
「空菱! NHKの委託業者を呼んでください!」
「とうとうこの日がやってまいりましたね」
どS教育係様が『アンテナ配線はいらない』と家電屋さんに言ってたのわたし知ってるんだからね!
「ドリル! 新聞全社の番組欄を広げろ!」
「すでに用意してますわ」
アンテナ配線を接続するという事で新聞も全社契約した!
我が家は今、洗剤が沢山ある!
1日1着1捨は下着だけ洗う事になった!
「一条! オススメ番組はなんだ!?」
「姫さんに世話んなる前は、電気の契約を切られていたからテレビなんて見られねえよ。それでもテレビのアンテナ配線は繋がっていたからNHKの受信料は払っていたけどなあ」
「空菱! 弁護士をNHKに行かせなさい!」
「花菱! 八王子からも弁護士団を!」
「「かしこまりました」」
やはり、わたしは一条よりも恵まれているようだ!
「一条! 今はテレビ見たい放題!」
「テレビだけでなく風呂も入りたい放題だなあ。焼いた物を食えるようになったし、姫さんには感謝だあ」
「空菱! 草津温泉の湯を一条の部屋に!」
「花菱! 全国のA5肉を一条さんの部屋に!」
「いらねえよ」
「「かしこまりました」」
「かしこまるな。……て聞いてねえし」
一条はどうやって生きてきたんだ!
ただでさえ聞きにくい内容なのに余計に聞きにくくなった!
「一条さんは今までどのように生きてきましたの?」
ナイス!
さすが空気を読まない女ドリル!
ズゲズゲと土足で上がり込んでくる事に関して右に出る者は筋肉オヤジしかいない!
「どうやってと言われても、10年前ぐらいに親が蒸発してからは柳田さんが引受人になってアパート借りてたぐらいだ。住所がねえと働けねえからな」
「一条さんは、ご、5歳で、独り立ちを……?」
「ガキを雇ってくれるからおかしいとは思っていたんだけどよお。柳田さんが姫さんの裏事を担当してるって聞いて納得だあ。現場には、如何にもな連中しかいなかったからな」
「如何にもというと、柳田庶民が捕まえた暗殺者連中と一緒に働いていたのか?」
一条、まさかの闇の住人!?
「柳田さんが紹介してくれた現場だからマシな方の連中だと思うぞお。生きて足を洗えたって喜んでいたからなあ」
一条を貧乏から闇の住人にチェンジ!
「暗殺者矯正施設に将来有望な子供がいると聞いた事がありましたが、一条さんでしたか」
「義務教育の代わりに、オッサン等には勉強と実践技術を教わり、姉さん等には実習で女を教わっていたけど、何が有望かはわからねえなあ」
「汚れていますわ!」
ドリル!
失礼たぞ!
闇の住人とはそんなもんだ!
でも……。
汚れていますわ!
一条さんたら悪人顔そのままに汚れていますわ!
「想像力の薄いヤツだな。ガキが全裸の女暗殺者等に毎晩剥かれてレイプされてんだぞ。汚れてますわ、ではなく、汚されてますわ、だろ」
「「…………」」
闇の住人の営みは予想以上でした。
惨い。
惨すぎる。
男暗殺者に少女がレイプされるのと女暗殺者に少年がレイプされるのは、どちらが惨いのか?
少年は漢に成った、少女は心に傷を負った、と思えるのは庶民だけだろう。
少年と少女は生殖行為を愛の確認とは思えなくなり、語弊になるかもしれないが生殖行為が1つのルーティンにしかならなくなる。
親が蒸発した後の幼少期から愛の形が1つのルーティンになってしまうと、愛の感情が失望し表現方法さえ失う可能性がある。
わたしは帝王である親が原因で愛に吐き気しかしないが、一条は親の蒸発で愛を失い、愛ある生殖行為から産まれる命の価値を女暗殺者に無くされ、暗殺者としての英才教育を受けていたと予想ができる。肉体的•精神的•感情的、表せられる言葉の数だけ惨いとしか言いようがない。
やはり、わたしは一条よりも恵まれているようだ。
柳田庶民を厳罰に処するところだが、一条は幼少期からそういう環境でしか生きられなかった可能性も浮上してくる。何故なら、お人好しの柳田庶民が引受人になってまで一条を見守っていた理由に見当が付かないからだ。
「一条。庶民の娯楽を楽しもうではないか」
「なに温かい目になってんだ」
「テレビには庶民の愛が詰まっていますわ」
「詰まってるのは好感度上げに必死な連中のお涙企画とお偉いさんが我が物顔で語っている競馬よりも外れる世論だろ。ニュースなんて二転三転して3日後にはなんのニュースだったかわからなくなるからな」
闇の住人さん。さすがにドリルみたいに愛が詰まっているとは思っていないけど、わたしの楽しみを壊さないでもらえます。
「ワタクシ。お笑いには愛があると思いますわ」
「…………」
んっ?
どうした貧乏から闇の住人、護衛からアサシンにジョブチェンジした一条。何か思うところでもあるのか?
「確かに、お笑いには芸人達の心の叫びがあるな。伝わるモノがある」
なんと!
お笑いは闇の住人にも光を与えていましたか。
なるほどなるほど、お笑いですか。
アサシン一条が伝わるモノがあると言うからにはそれなりなのでしょう。
だが、闇のビッチに汚されていたアサシン一条の闇にお笑いという光は差し込みましたが、わたしにはどうかな?
………………
…………
……
「ぎゃははははははは、なにコイツ! はははははははははははは、ぶっ飛んでるぶっ飛んでる! メニメニってなに?! はははははははははははははははははは」
眩しい! 眩しいぞ、庶民!
大義大義大義である!!
「姫さん笑いすぎだろ。てっつぁんは必死なんだ」
「これ演技じゃないだろ!」
「こんな企画でさえてっつぁんは全力で向き合う……というか、これが素だから恐ろしいだろ。心の叫びがだだ漏れすぎて笑うしかねえよ」
「てっつぁんのオイシイオイシイという声が聞こえますわ!」
とんでもない芸人がいたもんだ。
全国放送で大人のイジメを流しているみたいな企画に芸人として紳士な仕事をしている。プロだ!
「てっつぁんには副賞にあからさまな時限式C4を詰めた庶民栄誉賞を送ってやろう!」
「表彰式を挙げますわ。ガチだから、これガチだからを目の前で見られますわ」
「ドン引きしたてっつぁんしか見られないと思うからヤメてやれ」
庶民はこんな贅沢な娯楽を毎晩見ていたのか!
けしからん!
何がけしからんってどS教育係様が元帝王でありお嬢様なわたしに見せなかったのがけしからん!
……んっ?
あれ?
「また来週ってなんだ!?」
「1時間番組だから終わったんだ」
「なんで1時間なんだ!? 24時間やればいいだろ!」
「てっつぁんが過労で死んじまう」
んっ?
この文字列は……。
「なんで会社名が流れている?」
「スポンサーだ。番組を作るためにはお金が必要だからな。CMもやってただろ。語弊があるかもしれねえけど、スポンサーは自社宣伝のために番組に投資してんだ」
「わたしが番組に投資したら女神オーディンであり姫様な新垣唯衣と流れるのか?」
「個人が個人名をCMするために投資したって話は聞いた事ないなあ」
聞いた事がない……か。
ドリルを見ると、頷きで返される。どうやらドリルも聞いた事がないようだ。
という事は……。
「空菱! CMを女神オーディンであり姫様な新垣唯衣の名前で埋めてください!」
わたしが初めての人間、いや、女神!
「かしこまりました」
「かしこまるなよ」
「花菱! 女神オーディンの従者騎士八王子沙織の名前を唯衣ちゃんの下に!」
「かしこまりました」
「おいおい。他のスポンサーもいるんだから金持ちの道楽で荒らすな。たく、姫さんにテレビを見せていなかったのはコレがあるからだな。って……おいおい、どうなってんだ、対応早すぎだろ」
流れているCMに【提供•女神オーディンであり姫様な新垣唯衣】と流れ出し、その下に【女神オーディンの従者騎士八王子沙織】と表示されている。
「他のスポンサーのCMに被ってんだろ。ひよこちゃんがお前等の一挙手一投足つったのモロに正しいじゃねえか。ブランディングのために企業がCMにどれだけお金をかけてると思ってんだ。やめてやれよ」
「CMに女神オーディンが降臨したのだ。3ヶ月でマッチョになるだけでなく、拳銃の弾丸程度なら弾ける本物のマッチョになる」
「さすが命の天秤がない所では制圧破壊前進に定評ある自己中お姫様だ。てゆうか姫さんよお、なんだかんだでダンナのこと好きだよな」
「?」
一条は何を言ってるんだ?
「自覚なしかよ。普通、嫌ってるヤツがやった事を口に出さないだろ。筋肉で弾丸を弾けるとか本物のマッチョになるとか、なんだかんだでダンナを褒めてるし、今のマッチョとダンナを比べてダンナWINみたいに思っているだろ」
「あの筋肉にかなう人類はいない。好きではないし、どちらかと言えば嫌いだが、あの筋肉はスゴい。怪物だ。ムキッてした時、サウナみたいに熱くなるし」
「ダンナに言ってやれよ。きっと喜ぶぜ」
「ミラクルヒューマンですわ!」
おいおい。
筋肉オヤジをミラクルヒューマンって言ったか?
ドリル、男の趣味悪すぎだろ。
あのデケェ手で無駄にデカいチチを揉まれたら引き千切れるぞ。
「おお、ミラクルヒューマンだ」
一条まで……。
あの筋肉オヤジにミラクルヒューマンとは過大評価だ。
「唯衣ちゃん、ミラクルヒューマンですわ!」
んっ?
なんだ、筋肉オヤジではなくテレビだったのか。
…………んっ?
……んんっ?
んんんっ?
「おいおい。マジかコイツ等」
「賛否は分かれているけどよ、これも一応お笑いネタだぞ」
「こ、このキレキレのダンスと早口がお笑い? 奥深いなお笑い……」
「そろそろですわ!」
何が?
何がそろそろなんだ?
【I'm a miracle-human】
「なんだコイツ!!!!」
「あっつぁん絶好調ですわ絶好調ですわ!」
「あっつぁん今日もキレてんな」
「なんだこのニヤけ顔でのダンス! イラッとするけどおもしろい! 間違いなくミラクルヒューマンだ!」
てっつぁんにあっつぁんにどうなってんだ、庶民!
あっつぁんにも庶民栄誉賞だ!
副賞は砕いた真珠を含んだフレームのサングラス!
んっ?
これは、また……。
【「「「I'm a miracle-human」」」】




