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ぼっちになりたいお嬢様の闇

 

 体育館では、乱闘した庶民生徒に対してひよこちゃんプロデュースの特別授業(?)が開催され、乱闘騒ぎに加わっていなかったわたしとドリルと一条と数名の一般庶民生徒は昼からの授業が自習になり、なぜか筋肉オヤジの筋肉授業を受けている。

 ノートにシャープペンを走らせるよりも、見て聞いて感じろという根性論丸出しの自論はウザいにも程がある。


 体育館での特別授業を受けていた庶民生徒が青ざめながら口をハンカチで押さえて帰ってきた。庶民男子が2人と庶民女子が1人。他の庶民はどうしたんだ?


「特別授業はどうでした?」


 おい、ドリル。

 見るからに忘れようとしているだろ。

 可哀想だから聞くな。


「人間は……簡単には死ねない」

「途中、空菱さんと花菱さんが2人連れてきて……」

「ひよこちゃんが枝切りハサミを持ちだして……」


 聞きたくない、聞きたくない!


「男だったのが救いだったな」

「女の人だったらアソコをどうされたんだろう」

「ひよこちゃん……食わしていたな」


 ナニを食わしたのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお?!


 もう、ひよこちゃんを可愛いひよこちゃんとして見られない!

 汚れてるひよこちゃんはただのクズ女だよ!


「みなさんしか戻ってきていませんが、まだ授業は続いてますの?」

「俺等3人と上級生数人以外は惨劇に気絶して体育館で寝てる」

「いや〜〜でも、姫様が無傷で何よりですよ」


 ドリル。姫様なんて呼ばれてるのか。

 姫様ってウケるんですけど。

 バカじゃないの。


「結衣ちゃんに傷付けていたら親兄弟親戚までどうなっていたかですわ」

「そうだな。姫様に弾丸向けた報いだって思ったら、なんとか持ち堪えられたし」


 んっ?

 なんか変だぞ。


「あの。姫様。……今後も、守らせていただきますから! 総帥になってください!」

「姫様は総帥ではなく神の上に立つ事を望んでいるんだ。俺等が押し付けたらダメだろ」

「私等も姫様について行くなら八王子さんみたいに従者にならないとね」


 姫様、わたしでした。

 おい、一条!

 笑うな!

 女神オーディンであり姫様なわたしを笑うな!


「一条さんは結衣ちゃんに選ばれた護衛、騎士ですわ。ワタクシよりも信頼されてますわ」

「マジかよ! 一条、仲良くしてくれ!」

「俺も仲良くしてくれ!」

「騎士様、私も!」


 ぷぷー!

 騎士様だってーー!

 ウケるんですけど、ウケるんですけど!

 貧乏騎士様ウケるんですけど!


「いや、仲良くするのはいいけど、俺は雇われた貧乏傭兵だ。騎士というならアーマーを装備している八王子だろ」

「中世ヨーロッパ風にしないと傭兵や騎士になれないのか?」

「俺は中世ヨーロッパを意識してねえけど」

「一条は見た目が中世ヨーロッパの山賊みたいな感じだろ」


 よっ、悪人顔!


「悪人顔は否定しねえけどよお…………って、姫さん、テメェ、さっきから何笑ってんだ」

「中世ヨーロッパの山賊!」


 ぷぷー。

 笑いますよ。一条ったら山賊にしか見えないし!


「姫さんよ〜、中世ヨーロッパつうのは護衛付きの馬車を乗れる貴族様や商人しか街や村から出ようとしないし、人口が減ると貴族に入る税金が減るから、よほどのコネがない限り庶民は村や街から出られねえ。そんな世情で、貧乏な俺が山賊なんつう山菜取りしかできねえ商売をやるわけねえだろ。歴史的には、未開地の開拓人夫に気が荒い連中が多く、山賊と勘違いされていたっつう感じだ。冒険者みたいに思われていた筋もあるけど、中世ヨーロッパの歴史的には山賊は開拓人夫の方が納得できるのが筋だ」

「傭兵一条、庶民を拘束する貴族をぶん殴れ!」

「姫さんが殴れっつうなら殴るけどよ。貴族様は、自分が見る前に結婚相手の顔を見た庶民を死刑、奴隷商人から買ったメイドで拷問の練習している最中に顔に血が付いたから死刑、馬が庶民の髪飾りに反応して嘶いたから死刑、こんな感じで色々あるけどよお、庶民が貴族様を見られるのは大罪人の公開処刑をする時ぐらいなんだ。今の時代みたいに平和じゃねえから、馬に乗って街を歩き回るなんて殺してくださいと言ってるようなもんだ。外に出る時は戦の時だろうと貴族様は馬車の中。周りには大勢の護衛。外に出たり闘ったりする貴族様は、将来貴族の婿養子になる次男や三男や愛人の子ぐらいだなあ。結果を言うと、次男三男は簡単に殴れるけど、領主やその長男という政治的な権力がある貴族様を殴られる距離にいる庶民は、奴隷商人から買われたメイドしかいねえって事だ」

「女神になる前の帝王なら、制圧破壊前進の餌食にしていたな」

「貴族様の傲慢を制圧破壊前進できる姫さんと貴族様は、何が違うんだあ?」

「わたしは庶民に譲歩する帝王だったし、女神になった今も変わらない。庶民に譲歩しない貴族と一緒にするな」

「姫さんが中世ヨーロッパにいたら100年戦争が1年で終わっていたかもなあ」

「100年戦争が1年? ……いや、戦争は終わらない。神や女神や帝王や王が戦争を望まなくても、戦争は起きる。どんな形で戦争が終わっても、犠牲になった庶民の人数を数字や思想でしか理解していない連中が戦争をする。その場では収束を見せても、戦争は無くならないんだ。それが100年戦争だ。1年…………わたしには長い時間だな。生きているかもわからない」


 バンッ!!!!


 なんだ!

 うおっ!

 筋肉オヤジ、教卓を粉々にするなよ!


「「「姫様!」」」


 なんだ!

 どうした庶民三人衆!?


「頼りないですが、姫様を絶対死なせません!!!!」

「命をかけて姫様を守ります!!!!」

「そんな事言わないでください!!!!」


 やっちまった。

 また空菱に怒られる。


 一条の言葉に流されていた。

 庶民と生きる世界が違うわたしは、庶民に譲歩していなかった。


 この庶民三人集は、わたしが危険になれば代わりに死のうとする。

 目でわかる。

 あの目。わたしの嫌いなあの目から、お嬢様だったわたしを知り、わたしを守ろうとする目になる庶民がいる。

 わたしから距離を置き、糞虫を見るような目になり、陰口を言ってくれる庶民ならわたしは我慢できる。だけど、この3人のような自分達の犠牲をいとわないような目になられるのは、堪えられない。


 わたしは女神オーディンになっても庶民を守る力はない。

 そもそも、わたしに庶民を守る力があれば、ぼっちになんて……。


「俺は死なん! 俺が3人を、一条や八王子を、みんなを、お前を守る! 死なない俺が守る!!!!」


 ………………

 …………

 ……


 いや、死なないだろうけど。

 心臓が止まっても胸筋で心臓を動かし続けて生きてそうだけど。

 筋肉オヤジなら銃弾の嵐の中でも『ルーティーンだ』とか言いながら筋トレしてそうだけど。


 お前だけは気にくわない。


「うるせえ! 100年戦争について語ってんだ! テメェは黙って筋肉授業でもしてろ!」

「信じる者ではなくても筋肉は救う!!」

「なにが救うだ。ジャンヌダルクは神ではなく筋肉を信じたら宗教裁判にならなかったのか!?」

「神を信じ抜き! 同じ神を信仰する者達に誹謗中傷を浴び! 宗教裁判で人を誑かした売女だと罵詈雑言を浴びせられても! 俺が、今の俺がその場にいれば! 守れる! 今の俺なら、守れるんだ!!!!」


 バカすぎる!


 守る。守らない。の話ではないんだ。

 大きな力に対しては個々の力は無力と同じだと言ってるんだ。

 庶民は、

 庶民でなくても、

 人間なら大きな力の前では殺されるんだ。

 中世ヨーロッパだったら命だったかもしれない。現代は命の代わりに、社会的に殺されるんだ。


 お嬢様の世界は命なんだ。

 命を失うんだ。


 思い出の終わりは死に別れなんだ。

 ……死に別れさえさしてくれない【黒血を継ぐ魔女】なんていうタチの悪い暗殺者だっている。


 筋肉オヤジみたいな勇者思考はアンチマテリアルライフルの弾丸を通用しないから言えるんだ。

 1発、2発、3発……45678910……。


 何発目でお前は死ぬんだ?


 プツッ。


 わたしの中で何かが切れた。


「守れない」「誰もわたしを守れない」「お前程度の筋肉庶民がわたしを守れるなら」「なんで帝王の親がわたしを守らなかった!」「守れるなんて憶測で言うな!」「命はその場にしか無いんだ!」「ナイフ1刺し、弾丸1発の傷は身体と心に一生残るんだ!」「現在進行形で守れるなんて戯言をほざけるのは何もわからない庶民の特権だ!」「未来に勝利があると夢を見られるテメェの守れるという言葉は戯言なんだ!」「お前程度が命を守るという言葉を使うな!」「今か、放課後か、明日か、明後日か、いつかはわからない!」「わたしは殺されるんだ!」「お前等もわたしなんて守らなくていいんだ!」「わたしの近くにいれば死ぬんだ!」「殺されるんだ!」「勇敢だと語るのは精神衛生上美談にしたい連中が嘯く後日談なんだ!」「理解すれ!」「わたしと関われば死ぬんだ!」「殺されるんだ!」「だから関わるな!」「わたしが1人でいれば誰も殺されないんだ!」「傷つかないんだ!」「だからわたしは誰とも関わらない!」「だから傷付けない!」「だから誰もわたしと関わるな!」


 焦燥、焦燥、焦燥、焦燥、焦燥、焦燥、焦燥、焦燥………


「よう、姫さん。なんで俺を護衛にした?」


 決まっているだろ、一条!


「お前はわたしと同じく、誰かのために生きていない」

「俺好みの模範解答だ」


 わたしには家族が無い。友人や恋人もいない。

 人間である以上は家族•友人•恋人のどれかの繋がりがあり、大事な者がいる。

 わたしと一条にはソレが無い。

 だから一条を護衛にできた。

 一条が死ねばわたしが死ぬ。わたしが死んだ時には一条も死んでいる。


 誰かのために生きていない、とは、言葉を変えれば『誰もいない』なのだ。


 お嬢様の世界では、大事な者がいる時点で弱みになり、死に直結する。

 そこに戯言は通用しない。

 命乞いはしないのか? 言い残す事はないか? 冥土の土産に聞かせてやろう? そんな厨二発言は無い。皆無。

 ナイフ1刺し、弾丸1発。

 気づいたら身体に穴が空いて人生終了。それが、お嬢様の世界。

 何故かはわからないが、一条はソレを理解しているため、大事な者を作ろうとしない。『仲良くしてくれ』と言われて人当たりの良く返答したのも、社交辞令でしかない。おそらく、教室に拳銃を持った暗殺者が入ってきたら、庶民三人衆やドリルを暗殺者に向けて蹴り飛ばし、雇い主であるわたしの護衛という役目を果たす。社交辞令には、人対人ではなく有事に道具として使いやすいように人付き合いする、といった感じだろう。


「よう、ダンナ。俺は姫さんに一票だ。命を取り合う場では、姫さんの言葉に間違い無さすぎだかんなあ。お前等も姫さんと一緒に死ぬだの守るだのほざくなあ。第一よお、感情で動けるほど命の現場は甘くねえんだあ。お前らの油断一つ、命一つが足手まといになっちまうし、それで姫さんが死んじまうんだあ。目の前で姫さんが脳ミソぶちまけるのを見てえなら別だけどよお」


 一条は優秀だ。

 ドリルや筋肉オヤジが教室内にいるのは味方だと言ってても、一切の油断が無い。

 視点を変えれば味方が一番危険なのだ。それは裏切り以上に危険な、わたしの咄嗟的な行動になるのだが……一条の洞察力はわたしを見抜いているようだ。そして、庶民三人衆をわたしから遠ざける発言は、わたしの咄嗟的な行動に対して油断していない事を教えてくれた。


 教室内は静寂し、針時計の音だけがカチカチと鳴る。


 筋肉オヤジ。弾丸が通らない筋肉を身に付けたのは評価する。

 でも、お嬢様の世界では無力なんだ。

 青春みたいに勝利を得て喜べる感情や社会みたいに勝利の形を変える野心とは違うんだ。


「俺は、俺はそんなお前らを……」


 筋肉オヤジ。諦めろ。


「はいは〜〜〜〜〜〜い。青春はそれまでで〜〜〜〜す。先生の青春は血みどろでしたので綺麗なあなた達が羨ましいで〜〜〜〜す。ですが、1つ経験上のお話をしま〜す」


 あきらかに今までの話を聞いていただろうひよこちゃん。

 今の服は血みどろではなく、午前中とは違う綺麗なゴスロリパジャマ。体育館での特別授業(?)を見ていなかったわたしとしては、着替えてくれてありがとうです。

 それよりも、教室の扉が開いた音や気配すらなかったけど、どうやって入ってきたの?


「新垣さん。一条君」


 んっ?

 ひよこちゃん。

 なんか怒っている気配がする。


「先生はあなた達の言う事が正しいと実践から理解しています。生徒会長さん含めて、感情や利益でなら動けるあなた達は間違っています。今、この場で……お前等を喰ってやろうか?」

「一条!!!!」

「割に合わねえなあ!!!!」


 咄嗟に出た言葉は隣にいるドリルでもひよこちゃんの近くにいる筋肉オヤジでもなく、一条だった。

 一条が見抜いていた、わたしの咄嗟的な行動。

 ひよこちゃんの全員を殺すという殺意、殺気ではなく明らかな殺意を向けられて、わたしはドリルや筋肉オヤジや庶民が逃げられる時間稼ぎに『大事な者がいない一条なら殺せた』。


 一条は机を蹴り飛ばし、周りの机を巻き込みながら机越しにひよこちゃんを蹴る。

 ズガンッと机の木の部分は砕け、骨組みをへし曲がる。

 一条の蹴りは暴漢の足を浮かせるほどの威力がある。そして、今の蹴りはソレ以上の威力だ。

 そんな威力の蹴りを受けたのに、ひよこちゃんのいる位置は1ミリも変わっていない。

 寒気がするのに、気持ち悪い汗が額から流れる。


「ちっ」


 一条の舌打ちが聞こえた。

 舌打ちする余裕があるのは流石だ。

 わたしにそんな余裕は無い。


「生徒会長さ〜ん。コレが答えですよ〜」


 ガタンッと机は床に落ちる。

 そこには指先にある白色チョークを一条の靴裏にチョコンと付ける、ひよこちゃん。

 先ほどの殺意はどこに行ったのか、ひよこちゃんはいつものひょうひょうとしたひよこちゃんに戻っていた。


「新垣さんは、一条君を犠牲にできても生徒会長さんは盾にもできないので〜す。大口径の弾丸から自分を守ってくれても、新垣さんや一条君は『先生と見えている世界が同じ』なので、なんの感慨もありませ〜ん。だって、どんな気持ちも死を前にしたら、無駄、じゃないですか〜〜〜〜。はははぁ」


 ひよこちゃんの言うとおり、どんな気持ちも死を前にしたら無駄なのだ。

 だから敵よりも味方の方が危険なのだ。


「無駄では……」

「無駄で〜〜す。だって〜〜お前は今、誰も守れなかっただろ?」


 うおっと!

 とんでもない殺気だ。

 殺意じゃなく、殺気だ。

 この差は庶民にはわからないだろうな。

 わかりやすく言えば、雰囲気や言動から感じるのが殺気であり、殺意は明確な意思。

 どちらも感じるモノなのだが、お嬢様の世界、死が当たり前の現場では、殺気のように雰囲気からわかるモノでは暴漢のようにわたしというターゲットに気づかれる。殺意のように、ナイフが届く範囲……いや、ナイフを射し込むまで、殺気を消し、ナイフを射し込んだ時に見せる明確な意思が殺意になる。


 しかし、ひよこちゃんはその明確な意思を行為ではなく、殺気と同じ雰囲気から魅せた。


 異常だ。行為を無しに殺気と殺意を使い分けて、暴漢の相手ならいいけど暗殺者がいるお嬢様の世界で筋肉オヤジは通用しない、と教えたのだから。

 もしもひよこちゃんから本気の殺意を向けられていたら、わたしやドリルは脳内で死をリアルに連想させられ、庶民三人衆は気絶していただろう。

 わたしが一条をセミプロと判断したのは、暴漢に蹴りを入れた後も殺気や殺意を出さずにいたからなのだが。そんな一条と比べても、ひよこちゃんは別格。——異常。


「ひよこ女史。ご指導ご鞭撻、ありがとうございます」


 筋肉オヤジはひよこちゃんに一礼する。


「先生が15年間鍛えてきた生徒会長さんですが、先に申し訳ありませんと謝りま〜す。新垣さんや一条君の闇は先生の青春よりは深くはありませんが、予想以上でした〜」

「…………————————」


 筋肉オヤジはひよこちゃんに何を言うわけでもなく、口だけ何かを喋っているように動かし、教室を後にした。


「はいは〜〜〜い。八王子さんも死にたくなければ……」

「吐くな弧弱」

「弧弱、ですか〜?」


 弧弱とは、幼くて身寄りがないこと、そのさま、その人。を意味する。

 珍しく怒っているドリルが、ひよこちゃんに身寄りがないという意味で言ったとは思えない。暗殺者を、人間を、教材として扱えるひよこちゃんは、それだけズレているのだから。


「ほほほ。甘い戯言を吐く閣下への教鞭に彼の欠落へ触れたのは目を伏せますが、命を第一に考える結衣ちゃんを卿のような命の価値を教われなかった弧弱と類似させる発言は些か、虫唾が走りますので早々と取り消していただけます?」


 ひよこちゃんを弧弱と言ったのは、ひよこちゃんに命の価値を教える身寄りがいなかった、という意味だったか。

 だとしたら、なんだかんだでドリルや空菱や花菱じいちゃんがいたわたしは深淵の入口を彷徨いていただけで、『新垣さんや一条君の闇は先生の青春よりは深くはありませんが』とひょうひょうと言った言葉どおりなら、ひよこちゃんは深淵の住人。

『先生と見えてる世界が同じ』という発言に虫唾が走ると言うのは、ドリルらしい。


 でも、わたしはおかしいのかな?


 わたしとしては、ひよこちゃんに『あなた達は先生と違って救いがある』と言われているように感じる。


「八王子さん、模範解答で〜す。新垣さんは先生みたいにならないように、先生から学んでくださいね〜。……それで八王子さん。あなたは先生から何を学びましたか〜?」


 やっぱりそうだった。

 この人は優秀な反面教師だ。

 わたしが反面教師になると嘯かれているのとは格が違う。ひよこちゃんは自分の言葉と行動に責任を乗せ、自滅する人間を実演……いや、自滅している自分を魅せている。

 ドリルが1番に嫌う人種だ。


 それにドリルはひよこちゃんから学ぶも何も……。


「卿は、八王子が閣下のような甘い戯言を吐く人間と思われていまして?」

「八王子さん、合格で〜す。そして先生の特別授業を乗り越えたあなた達3人は、お姫様を守る、という戯言を言いたいなら、まずは一条君みたいに自分を守れるように成長してくださ〜い」


 根っからの反面教師だな。

 貧乏という境遇から自分で自分を守る事しかできなかった一条を理解している。


「褒められている気がしねえなあ」

「先生は新垣さんと先生が類似しているという発言は取り消しますが、一条君と類似しているという発言は取り消しませんよ〜」

「俺もその辺は否定しねえよ。だがあ……3人に『俺みたいに』つうのは反面教師としてどうかと思うぞお」

「それは揚げ足取りで〜す。一条君を見習い、一条君に学び、ではありませ〜ん。一条君みたいに、で〜す。自分達で自分達を守るのではなく、一条君のように自分で自分を守られるように成長する、で〜す」

「合格点をやれるぜひよこちゃん。クソみてえな学校だけどよお、あんたからは学ぶもんがありそうだあ」

「生徒に評価をいただいても嬉しくありませ〜ん」


 帝王でありお嬢様なわたしでは気づかなかったかもしれない。

 女神オーディンであり姫様なわたしになったから、見られるようになり思えるようになったのかもしれない。


 わたしは、


 ひよこちゃんや一条と比べたら、


 恵まれていたのかもしれない、と。


「ドリル……」

「いかがなされました?」

「————、—————」

「もったいない御言葉ですわ」



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