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ぼっちになりたいお嬢様は狙撃される

 

 そして昼休憩。

 やはりと言うべきか、教室の扉を開いたら半裸の筋肉オヤジが仁王立ちしていた。


「どけよ。飯を食いに行くんだよ」

「お嬢様言葉はどうした?」

「わたしは女神オーディン。お嬢様ではない」

「……なるほど。学食へ行くのか?」


 学食ってなんだ?


 おいおいおい、その手はなんだ。昼休憩は学生が授業から解き放たれる時間であり、拘束される謂れはないぞ。

 ぶっとい5本の指がわたしの頭を鷲掴みし、そのまま持ち上げる。

 毎度毎度この男は人の頭を鷲掴みしやがって、何を考えているんだ。人の頭はバーベルではないんだぞ。

 はぁ〜……まったく。


 学生食堂。略して学食。

 庶民学校が庶民学生のために庶民料理を庶民価格で提供する食堂。

 ラビット•イヤーに行こうと思っていたのに。まったく。筋肉オヤジはどれだけわたしを拘束したいんだ。


「お嬢様ではないなら、庶民のいる庶民の食堂で食えるな?」

「お嬢様ではなくても、人混みにわたしがいたらダメなんだよ」

「遠慮するな」

「遠慮ではない。……」


 筋肉オヤジはわたしの頭を鷲掴みしながらズガズガと食堂へ入っていく。

 おい。わたしの話を聞きなさい。


「筋肉オヤジ。女神オーディンが食べるには食堂を検査しないとならない」


 ケチ付けてラビット•イヤーに行くとしよう。

 そもそも、こんな景色のいい食堂では食事をできるわけない。


 頭を鷲掴みされながら窓際に連れて行かれる。


「女神が食事するには、この窓ではダメだ」

「防弾ガラスだ」

「なに!」


 わたしは高さが床から天井まである一面ガラスをコンコンと小突く。

 窓特有の全体に響き渡る感触はなく、壁を叩いているみたいだ。筋肉オヤジの言うとおり、防弾ガラスですね。

 おかげさまで狙撃の心配は無くなり、窓を理由にラビット•イヤーへ行くための名文が無くなった。


(このままでは昼休憩も拘束されてしまう)


 周りを見渡し、


「調理場に行け」


 頭を鷲掴みされながら調理場に連れて行かれる。

 わたしは料理を作るおばさん等の手を見ながら調理場を見渡し、食事の匂いが混ざる空気を鼻から思いっきり吸い込む。

 良い匂いだ。ここの料理は女神が食べても支障ない。

 どうしよう、このままではラビット•イヤーに行けなくなる。


「ラーメン壺盛り、カツ丼壺盛り、ポテトサラダ鍋盛り、タクアン一本が無いと女神オーディンであるわたしは食べない」

「それだけでいいのか?」


 壺盛り鍋盛りあるんかい!


「食後のデザートにもりそばタライ盛り」

「料理長。俺も同じのをお願いします」

「はいよ」


 料理長のおばちゃん。

 軽く了解しないでよ。

 つか、筋肉オヤジが利用する学食だから壺盛りや鍋盛りがあるのは当たり前か。

 完全にラビット•イヤーへ行けなくなってしまった。


 窓ガラスは防弾ガラス。料理を作るおばちゃん等の手には拳銃を握り訓練した痕はない。調理場の衛生面も良く、嗅ぎ取れる毒物の匂いは無い。

 朝日ケ丘大学高等部はどうなっているんだ?


 わたしは頭を鷲掴みされたまま窓際の席に連れて行かれる。

 ポツンと孤立した丸テーブルがある。椅子は4席。

 半円に並べられた周囲のテーブルとの間隔は広く、目測で10メートル、会話内容が聞き取れない程に開いている。食堂自体が広いというのもあるが、この窓際の席だけ誰かのために誂えたように見受けられる。

 筋肉オヤジの場所だと暗黙のルールでもあるのかな。ある意味、2回も留年していたら主みたいなモノだし。


 外には、少し離れた場所に噴水のある池があり、囲う桜の木が満開になっている。防弾ガラスの手前には手入れの行き届いた花壇がある。防弾ガラス越しなのに芝と桜の匂いがしそうだ。

 学食はわたしの部屋には劣るけど、警察署以上に落ち着いてご飯を食べられる場所かもしれない。


 わたしとドリルは狙撃の心配ない防弾ガラスを背中にし、食堂内を見渡せるように座る。その向かいに筋肉オヤジが座る。


「ドリル。周りしか心配……」

「いらねえよ」

「一条?」


 一条は鯖の味噌煮定食を乗せたトレイを片手に、筋肉オヤジの隣に座る。体勢は足を組みながら筋肉オヤジの方を向き、膝にトレイを乗せて左手で支えている。足を組んではいるけど、有事には、一条なら即座に動ける姿勢だ。


「まぁアレだ。家賃と光熱費分だ」

「…………」

「耳の早い連中ならレンタル店での暴漢退治を知ってんだろ。学食や教室内で馬鹿神に近づくヤツがいれば俺が壁になってやんよ」

「それではワタクシも」


 ドリルは無駄にデカイ胸元から黒色の扇子を出して天井に向ける。その瞬間、ザザザザザザッとわたし達のテーブルを囲うように並ぶテーブルを前にする庶民が一斉に立ち上がり、学食内に一触即発の空気が流れる。


「いずれは新垣グループ総帥派や八王子グループに属する予定の先輩や同級生ですわ」


 ドリルは真剣な表情になると、


「結衣ちゃん。中学生までは住んでいる地域で通う学校を決められておりましたが、高校に学区はありません。一条さんは懸念しております教室内も、一般生徒以外は総帥派と八王子グループに属する親を持つ者達に閣下がしてくださっております。閣下が結衣ちゃんの近くの席に置き、結衣ちゃんが選んだ護衛さんにはかないませんが、花にたかる蛾を追い払う壁にはなりますわ」


 ドリルが黒色の扇子を下げると、ザザザザザザッと周囲の庶民が座る。


「家賃と光熱費を違う方法で稼がないとならねえな」

「結衣ちゃんが選んだ護衛さんの手を煩わせてしまっては、八王子の面目丸つぶれですわ」

「過剰評価だなあ。期待されてもできる事しかやれねえよ」

「ワタクシもやれる事しかできませんわ。結衣ちゃん。中学までは頼りなかったかもしれませんが、今は違います。ワタクシも帝王の他人から女神オーディンの従者に格上げされました。周囲の蛾は護衛と従者に任せて、学校を遊び場にしてくださいませ」


 義務教育中と比べたら居心地は悪くない。

 従者のドリルと護衛の一条がいるだけで、わたしの中の嫌悪と焦燥が緩和されているのはわかる。もちろん周りの庶民が壁になってくれているから得られる緩和だ。

 人混みの中は怖くて神経を研ぎ澄ませる場所だったのにな。緩和してくれたのは、感謝する。でも、この緩和は許容できない。

 庶民は庶民なのだ。

 庶民はお嬢様の世界に足を踏み入れてはならないのだ。

 将来、新垣グループや八王子グループに就職するという夢があるなら、尚更、わたしと関わるべきではないのだ。

 感謝はする。でも、わたしに関わるな、庶民……。


「なんだ、筋肉オヤジ。人の顔を変な顔で見るな」

「んっ、……あぁ……」


 筋肉オヤジがわたしの顔を見て涙を流していた。


 なに泣いてんだ。青春筋肉してんじゃ……。


 ドンッドンッ————


 花火?


 いや、違う!


 コンマ何秒かだった。


 眼前にいたはずの筋肉オヤジはわたしの前にいない。


 刹那。


 ズガンッ! と背後の防弾ガラスからの衝撃がわたしの背中に伝わり。


 ドンッ! 続け様にくる衝撃はわたしを覆い被さる影から直接伝わる。


 暑い、熱い……。

 中空からテーブルに落ちてくるガラス片が、綺麗————


「ケガはないか?」


 優しい声。

 わたしを守ろうしてくれた声。

 でも、わたしは答えられない。


 だって、防弾ガラスが割れて、背後から直接衝撃が伝わってきたんだから……。


 周囲の庶民は殺気立ち、わたし達に背中を見せながら立ち上がっている。

 何故、誰もこっちを見ない。

 そんな連中の相手をするより……救急車を。


「アンチマテリアルライフルってところか」

「12.7mm×99mmNATO弾、バレットM82A3ですわね」

「えっ?」


 斜向かいでは、一条が鯖の味噌煮定食を気楽に食べている。

 隣では、黒色の扇子で顔をあおぐドリル。

 そして、わたしの背後には、アンチマテリアルライフルからの大口径弾をその背に受けた……筋肉オヤジ。


「すまない。まだ、胸筋や背筋で挟めないんだ」

「?」


 まだ、生きている?

 筋肉オヤジはまだ生きている!


 筋肉オヤジは蚊に刺された時のように背中を掻きながら踵を返すと、わたしに大きな穴が空いたブレザーを向ける。手に何かを摘み、視線を刑務所のような高い壁の先へ向けると「もう大丈夫だ」と言いながら向き直り、わたしの掌にペットボトルの蓋を歪にした感じの鉄屑を置く。


「熱っ!」


 鉄屑をテーブルに落とす。

 なにコレ?

 燻りながらテーブルを焼いているけど……。

 なにコレ?


「撃ちたてホヤホヤですわね」


 ドリルがマジマジと見ている。

 撃ちたてホヤホヤ?


「だ、弾丸? コレが弾丸なら撃ちたてホヤホヤだけど……筋肉オヤジは撃たれたんだから」


 あっ!?

 庶民が危ない!


「狙撃だ! ってなんで学食内が乱闘騒ぎになってる! 調理場のおばちゃん連中を避難させ……ない……と?」


 おばちゃん連中無関心だし!

 普通にラーメン壺盛りとカツ丼壺盛り持ってきた!

 狙撃だよ!

 それにガキの喧嘩に興味なし?

 大人としてどうなの?


 …………んっ?


 わたしの背後にいた筋肉オヤジはアンチマテリアルライフルの大口径弾に撃たれたのに、なんで生きている? なんでわたしも生きている?


 困惑。

 困惑困惑。

 困惑困惑困惑。


 戦車の鋼板を突き破り、コンクリートを貫く、文字通りのアンチマテリアルだぞ!

 なんでわたしは生きている!?

 なんで突起しているはずの弾が、人間の身体に当たってペットボトルの蓋みたいな円柱形に…………。


 ……おい!


 おい、おい、おいおいおいおいおいおいおいおい!!


「マジか!?」


 筋肉オヤジを見上げる。


「どうした? 変な顔して」


 変な顔?

 わたしはどんな顔してんだ?!

 知らんそんなもん!


 わたしは目元を袖で拭きながら、


「アンチマテリアルの大口径弾だぞ! 戦車の鋼板を紙切れみたいに破ってコンクリートにでっけえ穴を空けながら貫くんだぞ!」

「まだ胸筋や背筋では挟めないが、大丈夫だ」

「閣下なら戦車の弾丸や戦闘機のミサイルでも大丈夫ですわ」

「アンチまでの弾丸なら『貫く』だけどよお、戦車の弾丸と戦闘機のミサイルは『爆破』だあ。まぁ、ダンナならC4でも大丈夫だろうけどなあ」


 ………………

 …………

 ……


 なに言ってんの?

 殺人アンドロイドでなくて人間だよ。

 設定•筋肉って鋼板や防弾ガラス以上の硬さなの?

 アップロードしたら液体金属になれるの?


「それよりも、いくらアンチでも遠距離なら同じ箇所にピンポイントで撃ち込まねえと防弾ガラスを破れねえだろ。それをコンマの誤差で続け様に撃てるっつうのは、1人じゃねえなよな」


 そうなんだけど。そうなんだけどさ。

 筋肉オヤジの異常性はスルー?


「そうですわね。ワタクシが気になるのは、防弾ガラスに穴を空けて好機到来ですのに、撃ち込でこない事ですわ」


 お前らさ、受け入れるの早くね?


「アンチマテリアルライフルを遠距離射撃する時点でプロですが、学校の高い塀を躱して撃ち込んできた狙撃場所は見る人が見れば明らか。引き際の決断力を妥当と判断しますと、些か『遊びではない匂い』がしますわね。花菱と空菱を誘い出す囮かもしれませんわ」


 わかりましたよ。わたしも受け入れますよ。

 筋肉オヤジが液体金属になるのを楽しみにしますよ。


「なるほどなあ。まぁでもアレだな。2人の狙撃手が防弾ガラスに一箇所しか穴を空けてねえ時点で、外からの狙撃はもう無いなあ。戦車や戦闘機を持ち込んで戦争をおっぱじめるなら別だけどよお」

「おっぱじめるなら最初から戦車や戦闘機で来ますわ」


 その心は!


「「学校内に『暗殺者』がいるなあ、ますわ」」


 正解!


 それも高レベル。

 空菱と花菱じいちゃんの2人相手なら勝てないけど、どちらか1人なら暗殺を成功できる自信があるレベルの暗殺者。


「はいは〜〜〜〜い。戦争ごっこはヤメましょうね〜〜」


 ひよこちゃん?

 このタイミングで?

 まさかひよこちゃんが……?


「はいは〜〜〜〜い。早くヤメねぇとコイツみたいにしますよ〜。 てへっ」


 てへっ、てそんな可愛いく……んっ!?


 んんっ?!


 ひよこちゃん血だらけなんですけど!

 その永遠の輝きの下にある活け締めされたマグロみたいな赤黒いのはなんですか!?

 思いっきり18禁だよそれ!

 誰かモザイク処理して!!

 うおっ?!

 乱闘中だった庶民がモザイク処理されてない物体を見た瞬間、一斉にドン引きした!


「はいは〜〜〜〜い。乱闘騒ぎしたテメェ等は、この教材を使ったアイアンメイデン(拷問)と屠畜の授業になりますので体育館に集合で〜す」


 ひよこちゃん。

 何者?


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