ぼっちになりたいお嬢様VS筋肉オヤジ
HRが終わった後、女神オーディンのわたしと従者ドリルは修行のために教室を後にしようと、扉を開けた。
廊下が暗い。というか半裸の巨人族が女神オーディンの進む道に立ち塞がっている。
「おい。筋肉オヤジ。どけよ」
「授業を受けろ」
「女神オーディンであるわたしの覇道に授業の二文字は無い」
「国語の二文字を書いておいた」
筆字で国語と書かれた半紙を額にペタと貼られる。
「…………」
ここで強行突破を試みてもいいが、扉は巨大で塞がっているため、試みる気も失せる。
だが、教室には扉が2つある。
歩を進め、向こう側の扉から出て行こう……と見せかけて! こっち!
ゴッ!
「いだぁぁぁぁ!」
額を貫いた今の衝撃はなんだ!!
身体が浮いたどころじゃなく、飛んだぞ!
後ろにドリルのチチが無かったらぶっ飛ばされていたぞ!
「な、なんだ今の!?」
「デコピンだ」
筋肉オヤジは親指の腹に中指の爪を付けては跳ねらせ、ビュッビュッと指先から突風を生み出す。
「ま、マジか!」
コイツは人間か!?
「授業を受けるんだ」
「…………」
筋肉オヤジのヤロォ……。
とんでもない必殺技を持っていやがった。
ここはおとなしく引き下がるが……。
1時間目の国語の授業が終わり、休憩時間。
間髪入れず、教室の扉へと走る。
筋肉は扉の向こう側にいるだろう。
扉ごと蹴りくれてやる!
「どらぁぁぁぁぁ!」
不意に、横開きの扉が開く。
「うおっ!」
「甘い」
「テメェがな!!」
勢いそのままに筋肉オヤジの顔面に飛び蹴りを……。
ゴッ!
靴裏にデコピンが炸裂。
だが、このまま押し込んで……〜。
ダメだぁぁぁぁ!
弾き飛ばされ、中空で身体が回転する。
回る回る回る!!
なんちゅうデコピンだ!
「ドリル! キャーーチ!」
「はいですわ」
ドリルのチチに受け止められる。
「何回転した!」
「5回転ですわ」
「わたしじゃなかったら死んでるぞ!! 足の裏痛いし……ああ! 靴裏に穴空いた!」
クレームを言ってると、数学と筆字で書かれた半紙を額にペタと貼られる。
「授業を受けろ」
次の休憩時間……。
筋肉オヤジをぶっ倒すために世界一の椅子第四形態スレイプニルで特攻する。
「くたばれやぁぁぁぁぁ!」
「甘い」
筋肉オヤジは右手でスレイプニルの顔面を鷲掴みする。
「なにが甘いだ! 最高速度500km出せる馬力なめんなよ! スレイプニル、制圧ペシャンコ前進!!!!」
スレイプニルは八本ある足の前足2本と後足2本の膝にある車輪を床に下ろす。
床にタイヤが付いた瞬間、ギュギャギャギャとタイヤを高回転させる。
「がはははは! 潰れろ潰れろぉぉぉぉ……んっ?」
あの……。
最高速度500kmを出す馬力なのですが……。
人間なら止めちゃダメでしょ。
「…………」
車輪が空回りする中、怪物のゴツい左手がデコピンの形を作り、わたしの額に向かってくる。
スレイプニルの馬力を右手のみで押さえ込み、デコピンするだけの余裕があるとは……。
ふっふっふっ。
「あっぱれだ! だが、わたしはただではヤられんぞ!
痛み分けだ!!
「うおらっ!!!!」
デコピンに向けて頭突きを放つ!
ズゴンッ!
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「がはははは! わたしの頭突きは震源を作る!! ドリル、マグニチュードなんぼだ!?」
「新垣さ〜ん。おはようございま〜す」
「んっ? ……?」
筋肉オヤジがいないぞ。
ぶっ飛んだか!?
「授業中ですよ〜」
「授業? ……まさか!? わたしの頭突きが生み出した衝撃が………」
「次元を切り開いてませんから時空間移動なんてしてませんよ〜。生徒会長さんのデコピンで30分ほど夢の中に移動しただけで〜す」
「…………マジか!」
わたしの額にはアロエの匂いがする包帯が巻かれ、世界一の椅子は第四形態スレイプニルから第三形態のオーバル型になっていた。
か、怪物だ。
震源を生むと噂されてもいいわたしの頭突きをデコピンで……〜。
否、否否否!
認めん、認めんぞ!
こうなったら頭脳戦だ!
わたしは3時間目の残り時間20分ぐらいを使って筋肉オヤジ対策を考える。
「ドリル。お前は世界一の椅子の3D結衣と一緒に、後ろの扉で控えていろ。筋肉オヤジをおびき寄せたら、トイレに行くとか言えばいい」
「閣下は3D結衣ちゃんと結衣ちゃんの見分けができますわよ?」
「見分けるという事は、見なければならないという事だ。筋肉オヤジが後ろの扉におびき寄せるのが重要なんだ」
「なるほどなあ。ダンナが後ろの扉に来たところで、女神さんは前の扉から逃げるつう感じだな」
一条に頷きで肯定を示すと、
「わたしはスレンダーボディを活かし、一条の後ろに隠れて前の扉に行く。筋肉オヤジが3D結衣に目を奪われている隙に逃げる」
「5秒稼げればいいだろうなあ。厳しいんじゃねえか?」
「十分だ。5秒あれば多目的ホールに行ける」
「先生も手伝いますか〜?」
ひよこちゃん。授業は?
……そういえば毎時間ひよこちゃんが授業してるな。
いや、今はそんな小事より筋肉オヤジだ。
それに、ひよこちゃんが手伝ってくれるのは心強いし、対策の幅も広がる。
「ひよこちゃん。コレはラグナロクだ。覚悟はあるのか?」
「先生はラグナロク経験者で〜す」
「…………深くは聞かない」
ひよこちゃんの厨二発言を深くは詰めず、ドリルへ視線をやり、
「ドリル。わたしの着替え用の三角帽子•青色ローブ•眼帯の三種の神器をひよこちゃんに」
「はいですわ」
ドリルは、世界一の椅子の背後に回るとなんだかんだして収納されている三種の神器を出す。
「3D女神さんがバレても、ひよこちゃんが三種の神器を装備して女神さんの席にいれば20秒は稼げんなあ」
そのとおり。
完璧だ。
完璧すぎる!
3時間目は終了し、休憩時間。
わたしは一条の背後に隠れながら教室の前の扉へ行く。
ひよこちゃんはノリノリで三種の神器を装備し、わたしの席を前にして「くっくっくっ」と不敵に笑う。
なんか、三種の神器がわたしより似合っている気がする。
ひよこちゃんはバッと立ち上がり、青色ローブをバサッと広げると、
「我が名は新垣結衣! 女神オーディンであり巨人族を滅ぼす者!」
声がわたしなんだけど!
どうやってんのそれ!?
「ラグナロク開戦!」
ひよこちゃんは、すでに後ろの扉の前で待機しているドリルに、わたしの声で作戦開始を伝える。
ドリルは扉を開ける。
「八王子。新垣と……むっ、これは」
筋肉オヤジはすでに扉の前で待機していた。
……コイツ、授業受けてんのか?
「結衣ちゃんですわ」
「3Dだな。新垣はどこに……」
3D結衣を一目で見抜いたか。
ドリルだけでは5秒も稼げなかったな。
「筋肉オヤジ! 窓から逃げるとは思わなかったようだな!」
三種の神器を装備したひよこちゃんはわたしの声で筋肉オヤジに言うと、窓を開け放ちローブを風に靡かせる。
筋肉オヤジはひよこちゃんに向けて走り出す。
好機!
一条は空気を読んで扉を開ける。
「ヒャッハァ!」
「叫んだらバレんだろうが」
知らん知らん知らん!
教室からの脱出成功!!
おっ、筋肉オヤジが教室から出てきた。
遅いんだよ!
「バァカ、バァカ、バァカ!」
廊下を抜けると多目的ホールがある。
ここは2階!
「吹き抜けから飛び降りてエントランスホールにぃぃぃぃ……」
否!
ここは階段で逃げるが吉!
下り階段へ三角帽子を投げて1階に行ったと見せかける。
3階に上がり、念のため、3階の多目的ホールに青色ローブを投げて3階にいると見せかける。
4階に上がり、念には念を入れて、屋上への上がり階段に眼帯を投げる。
後は4階に潜んで、あの怪物をやりすごすだけだ。——良策。
装備品が黒襟白ブレザー制服だけになったから防御力は下がったけど、その成果は計り知れない。
わたしの勝ちだ!
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「俺あすげえ馬鹿の護衛になっちまったようだなあ、馬鹿神。ヒャッハァだよなあ? ヒャッハァが無かったらひよこちゃんがかなり時間を稼いでいたよなあ?」
「はい」
ヒャッハァです。わたしがヒャッハァと言わなければ、逃げられました。
「先生は飛び降りたと見せかけて屋上に行ったんですが〜……意味なかったですね〜」
なにそれ?
「いやいや。ひよこちゃんが飛び降りたと見せかけて屋上に行ったのは時間稼ぎとして十分だあ。青色ローブしか見えなかったけどよお、壁を垂直に走ってなかったかあ?」
「ロッククライミングで〜す」
「壁を二足歩行で登るのをロッククライミングとは言わねえよ」
「落ちる前に次の足を付けるので〜す。水の上を走るのと同じで〜す」
同じではないね。
重力無視だし。
「とりあえず、今回の失敗はわたしとひよこちゃんが原因という事だな」
「ちげえだろ。ダンナはひよこちゃんが壁を走ってるのを見て馬鹿神でねえのはわかったみてえだけど、ヒャッハァがなかったら、壁を垂直走行するひよこちゃんを見た後に、教室内で馬鹿神が隠れそうな所を探すだろうが。ひよこちゃんは時間稼ぎの役割は果たしている」
「あのぉ……もしかして馬鹿神って定着してます?」
「ワザとダンナと鬼ごっこするためのヒャッハァなら捕まった時点で駄目神。逃げ切れると思ったヒャッハァなら馬鹿神。あきらかに逃げ切れると思っていたよなあ?」
…………さぁ〜。
鬼ごっこしようとは思っていなかったのは確かです。
「馬鹿神でも駄目神でもなんでもいいけどよお、諦めろ」
「わたしの自由が犯されているんだぞ!」
「世界一の椅子の中でカフェイン入りのハチミツミルクを片手にDVD見たり爆睡してる時点で、世界一自由な授業時間をすごしているだろうが。休憩時間に何かしてえ事でもあるのかよ?」
「…………」
休憩時間に何かしたい事?
別に無いけど、筋肉オヤジに拘束されてるみたいで気に入らない。
「西洋槍術と剣術の修行ですわ」
…………修行?
おおおおう!
そういえば修行するんだった!
「グングニルとエクスカリバーは没収されてんだろ。生徒会室にあるだろうけど、ダンナの許可なく持ち出したら折られるぞ」
「そうですわね」
「修行だ! 修行するんだ!」
「あのよお、馬鹿神。日本の槍なら打撃に使えるけど、二股の槍は耐久性の問題があるから突くのみだからなあ。ロングソードは日本刀みたいに斬るよりも刃の厚みを利用しての打撃武器に近い。斬り殺す文化は、日本や青竜刀がある中国に濃いだけで、中世ヨーロッパは敵将や貴族を人質にするのを重視しているから、勝敗は身代金の額、財力を削る事が目的なんだ。大将首を率先して取りに行くなんて日本か中国ぐらいで、他国は人質交渉を重視して資産の削り合いだ。そもそも大将が着てる甲冑を斬られる槍やロングソードがあるわけねえだろ。槍は馬上から甲冑着た貴族を落とすため。ロングソードは甲冑をぶっ叩いて関節部分を動かさないようにするか、甲冑を着れない庶民をぶっ殺すための道具でしかない。花菱のじいさんが2人に日本の武術しか教えないのは、日本の武術は攻守に長けているからだ。どうせ武器の違いでチャンバラになっているとか勘違いしてんだろ。どんな武器でも刃なら生身に触れたら斬れるんだ。ダンナの筋肉に刃が通らない時点で、自分達の実力云々ではなく、あの筋肉には文字通り刃が立たないと理解して、違う戦略を練る方が賢い選択だ」
多少は西洋の知識があるようだが、一条は現代版の神槍と聖剣をわかっていないな。
グングニルとエクスカリバーの封印を解けば、どんな筋肉も木っ端微塵だ!
「ふっ、なにもわかってないな。グングニルとエクスカリバーは封印を解けば……」
「封印でもなんでもいいけどよお、その封印はボタン押せば解けて発射みたいな感じだろ?」
「そうですわ」
「修行は必要ねえな」
…………本当だ!
必要ねえ!
まったく必要ねえ!!




