ぼっちになりたいお嬢様
題名にはルビが振れないので、ここでルビ付きの題名を紹介します。
【留年生は留年生の留年生!】
と読みます。
その意味は——
【留年生】
文字どおりの留年生です。
【留年生】
学校を留年して社会に出ない留年生です。
【留年生】
学校、生徒、主人公新垣結衣の守護神的存在みたいな感じです。
作者としてはあらすじから読んでいただけると助かります。
【注意】
お嬢様視点に不快になる発言や表現などありますが、そんなお嬢様も楽しんでほしいです。
拙い文章ではありますが、よろしくお願いします。
ヒャッハァ!
教室からの脱出成功!!
「バァカ、バァカ、バァカ!」
廊下を抜けると多目的ホールがある。
ここは2階!
「吹き抜けから飛び降りてエントランスホールにぃぃぃぃ……」
否!
ここは階段で逃げるが吉!
下り階段へ三角帽子を投げて1階に行ったと見せかける。
3階に上がり、念のため、3階の多目的ホールに青色ローブを投げて3階にいると見せかける。
4階に上がり、念には念を入れて、屋上への上がり階段に眼帯を投げる。
後は4階に潜んで、あの怪物をやりすごすだけだ。——良策。
装備品が黒襟白ブレザー制服だけになったから防御力は下がったけど、その成果は計り知れない。
わたしの勝ちだ!
——————
————
——
と思っていたあの時に、4階多目的ホールから吹き抜けを飛び降りて、エントランスホールに着地すれば逃げ切れたかもしれない。
なんなら2階多目的ホールから吹き抜けを飛び降りても、逃げ切れたかもしれない。
何故、階段を選んでしまったんだ。しかも上って……
2分前のわたしよ。
エントランスホールに逃げるのをオススメする。
小柄な体格を生かして屋内消火栓設備に隠れているわたしの耳に、ズシンッズシンッと怪物の足音が届く。
わたしの装備品は時間稼ぎにもならなかったようだ。
どうしよう。どうしよう。どうしよう!
いや、まだ希望はある。
怪物が屋内消火栓設備を通りすぎて奥に行ったところで、飛び出して逃げる! ——名案。
ズシンッズシンッズシンッ
屋内消火栓設備の中にあるホースが振動で揺れているんですけど。——緊張。
……ズシンッ……ズシンッ……
奥に行ったな。だが、まだだ。——待機。
…………ズシ………ズシ……
10メートルぐらいか。もう少し我慢だ。——待機。
……………………。
足音が聞こえなくなった。予測で15、20メートル。——好機!!
「南無三!!!!」
バンッ!
屋内消火栓設備から出る。
初めの一歩からトップスピードだ!
靴裏を滑らせてキキィと摩擦音を鳴らしながら、身体を傾けて無理矢理方向を定め、多目的ホールへ向けて逃げ……
「なにぃぃぃぃ!?」
なんで怪物がこっちにいる?!
「足跡は逆方向に行ったのをちゃんと聞いちゃられちゃっヂャッ!」
イダァ!
舌噛んだ!
なんで怪物がこっちに?! なんでなんでなんでなん……まさか、足音を消している間に……。
野生のクマが自分を狙うマタギの目を掻い潜るために、足跡の上を逆に歩いて足跡からの追跡を難しくし時間稼ぎするという【止め足】を使ったのか!
そんな知識と使い所を間違えない知能が怪物に備わっていたとは予想外。
大木のような腕が廊下を塞ぐように広がる。
ジリジリと後ずさるが、怪物は一歩踏み出しただけでわたしの前に。
なんっちゅう歩幅してんだ!
10メートルを3歩ぐらいで行けんじゃね?!
トンッ……。
背中が壁に付いてしまった。
廊下の突き当たりだ。
大木のような腕がゆっくり動き出すと、一本一本がぶっとい五指をわたしに向けてくる。
bat-endフラグGETだぜ!
否ぁぁぁぁ!
諦めんぞ、捕まらんぞ!
フラグなんてへし折ってやる!
「その世界樹の根っこみたいな両足の間をすり抜け……んっ?」
わたしの全身を覆うように影を作る怪物は、ジワジワと焼かれているように全身からモヤモヤと白い煙を出している。
窓から入る紫外線で浄化しているのか?
パンプアップにより激しく筋肉が脈打つ事で、汗を蒸発するほどの体温を生んでいる、というアホなことはないはずだ。紫外線で……
紫外線で煙が出るほど汗が蒸発するかあ!
デタラメなんだこの怪物は!
アヅッ! なんか熱っ!
廊下がミストサウナ室になってる! ——汗臭。
何故、この怪物は半裸でわたしを追い詰めてくるのだ。
何故、この怪物生徒会長は休み時間になると現れるのだ。
何故、この怪物留年生は……
『あ〜〜ら〜〜が〜〜き〜〜ゆ〜〜い〜〜』
ぶっとい五指がわたしの頭を鷲掴みし、そのまま持ち上げられる。——non-communication。
毎度毎度乙女の頭を鷲掴みして、持ち上げないでほしい。
庶民女子ならトラウマになってんぞ。
んっ? なんですって?
筋肉オヤジを見上げるが、わたしの頭を鷲掴みしながら無言で歩いている。
【頭を鷲掴みされて身体が宙ぶらりんだけど首は大丈夫か?】
どうやら異次元からの庶民語が聞こえてしまったようですね。
異次元庶民の皆様、お気にせず。
わたしは女神オーディンですので大丈夫なのです。