新スキル 魔鉱反射炉
俺は白い壁に囲まれた教室にいた。
何故ここが教室かわかったかというと、机が一つと正面にホワイトボードがあったからだ。
俺は学ランを着て、椅子に座り先生の授業を傾聴する大勢を取っている。
「Good morning anyone!」
白ブラウスに黒いタイトスカートの金髪女性が元気に呼びかけてくる。先生は縁なし眼鏡をかけ知的を装っているが、はきちれんばかりに膨らんだバストと上向きのヒップばかりが強調されており、俺の集中を見事に阻んだ。
「貴方がどこの何者かはどうでもいいの。このメッセージは特定の誰かに送ってるわけじゃないから。アテナが贈ったスキルは気に入ってくれたかしら?」
俺の口は全く動く気配がない。まるで動画を一方的に流されているみたいだった。
「アテナ、ずっと不満だったの。ほら、今のVAFって超速攻瞬殺が基本じゃない? クソみたいなスキルがエンチャントで大化けって馬鹿らしいでしょ。でしょでしょ?」
知るか。こいつは何を言ってるんだ。
「なのでお父様に内緒で作っちゃいましたー。それが“死儀”と、“魔鉱反射炉”よ」
どうやって使うの?
「スキルってね、ハイリスクハイリターンなの。強い力ほど致命的な欠陥があるんだな。でもエンチャントがそれを補っちゃう。こうしてチートがまかり通る。それを防ぐにはどうしたらいいと思う?」
スキルか、エンチャントを防ぐ。
「貴方の死儀は、エンチャントを無効化し破壊するわ。スキル自体を無効化するわけじゃないけど、エンチャントがないと、命中や持続時間がクソ過ぎて使えたものじゃない。十分ワンチャン狙えるゾ☆」
先生のウインクが可愛くて話が耳に入らねえ。何かすごいこと話されてる気がするんだけどな。
「そして魔鉱反射炉は」
二
死十朗の持つ刀が赤さびに覆われていた。これで斬れるのか疑問だ。指で触ってみると、根本から折れた。経年劣化したようにぼろぼろだ。
「何だ、これは……」
地面に刺さることなく刀は崩れて形を失う。死十朗は絶句した。
「お前がやったのか?」
俺は無言で頷く。そして、突き立てられた幾本の刀の中から手近なものを選んで振ってみた。重さを感じず、自分の手の延長のように扱える。両手で持って構えるとそれなりに格好がついた。
「それがどうした」
死十朗が加速をつけて、俺の間合いに踏み込んできた。俺は単に刀を持ってるだけだから、防御も回避も間に合わない。
振りあげられた刀は既に錆びており、俺の肩にぶつかっても大した痛手じゃない。刀の衝撃でよろけたけど、それだけだ。
死十朗はいよいよ苛立ったように、ボロ刀を地面に叩きつけ踏みにじる。
「おい、可哀想だろ。元々は名刀だったんだから」
「……、黙れ」
死十朗は俺に怒りをぶつけているわけじゃない。自分のいたらなさに憤っているのがわかる。自嘲気味に笑みさえ浮かべた。
「これらの武器は模造品に過ぎない。金無双で破壊した武具を矢倉で再現しているだけだ。それが祟ったか……」
死十朗は新しい刀を手に持った際に俺から目線を外した。その隙を見逃さず、俺から斬りかかる。妹と少しやったことのある剣道が生きたのか、刀は死十朗の片頬に傷をつけた。
「ずいぶんとやる気になったな。さっきとは別人のようだ」
「ああ、大事なことを思い出したからね」
俺の持つ刀は怜悧な光を放ち続ける。死十朗の刀は酸化したように使い物にならなくなった。
新しい力、魔鉱石反射炉の事をアテナ先生にさっき教わった。
「でも打ち消すだけじゃつまんないじゃない。魔鉱反射炉はその欠点を補うためもの。死儀で相手のエンチャントを奪って、逆に自分のエンチャントとして加工できるんだゾ。アテナすごいでしょ、でしょでしょ?」
映像授業のアテナ先生は俺の知ってるアテナとはどこか違った。外見とかじゃなくて、自信のない構ってちゃんの匂いがする。話に出てきたお父様と関係があるのか。ビッチはビッチだから別にいいけど。
要約すれば、死十朗の武器は全部エンチャントでできており、俺はそれを支配できるってことか。相性の問題だが、かなり優位を築ける力だ。
「……、やはり神官の試練を受けるだけあって、一筋縄ではいかぬか」
死十朗はあきらめるどころか、さらなる闘志を燃やしたように唇に垂れた血を舐めた。
「全身全霊でお相手しよう。終の秘剣、雁木で」
スキル紹介
死儀
相手のスキル専用エンチャントを破壊する。スキル自体を無効化するわけではないが、プレイヤーの多くの戦術が、エンチャントに依存しているため有効となる。
プレイヤーの戦術は大きく分けて二つ。
石化、麻痺など状態異常による短期決戦、あるいはchainと呼ばれるコンボ攻撃 (大エンチャント発動後、小エンチャントを派生するスキルで攻めを継続する)のいずれかである。死儀はそのどちらも防ぐことが可能。
魔鉱反射炉
死儀で破壊したエンチャントの組成を解析し、コピーを作り出すスキル。作りだしたエンチャントは、強化あるいは弱体化させて使用できる。
ただし、あくまでコピーであるため、正規のエンチャントではなく保存、譲渡は不可。