金無双 其の一 概略
三百年前のVAFの戦闘は今とは比べものにならないほど、鈍重だった。
何よりも重要視されたのは、堅さと体力、破壊力。
ぶ厚い装甲を楯に相手の攻めを受け流し、攻めが切れた所で強烈なカウンターを食らわせるのが本筋とされた。
守りを崩すために、武器は強力に、より大型になっていった。それに対抗するために鎧も重さを増すイタチごっこがどこまでも続いた。
魔物も大型のものが多数を占め、素早い動きをするものはそれほど多くなかった。この戦術が成立したのは、そういった事情も絡んでいる。
誰もが、最強の矛か、楯か、それだけに頭を悩ませていた頃、全く別の戦術を編み出した男がいた。
男は鎧はおろか、武器らしいものも持っていなかった。
右手に樫の棒を持ち、黒の着流しに草履を履いただけの軽装。
だがひとたび戦場に出れば、男の前ではどんなに堅い鎧も鋭い武器も意味をなさなかった。
男は樫の棒であらゆるものを砕いた。それでいて男は人を傷つけることはしなかった。男が砕くのは、武器や鎧のみ。
男はいつからかこう呼ばれるようになる。
金無双。
金剛石すら砕く男は、VAFで覇権を握ることになる。
だが、ある時を境に、男の消息は途絶えた。
一説では、好意を寄せていた神官に袖にされ、死を選んだという。
彼の行方を知るものは誰もいない。