彼女への気持ち
レイルと海希の共同生活が、とても平和に過ぎていく。
とてものんびりとした毎日だった。
その為か、日が過ぎていくのが早く感じてしまっていた。
もともとレイルがいた世界から、遥かに離れた別の世界。
能力が使えない世界に、自分はやって来てしまった。
レイル「...ここには、マナはないんだよな」
ずっと気になっていた事だった。
マナの力を感じない。
しかし、自分の中から魔力のようなものを感じる。
これは、きっと黄金の林檎のせいだ。
だとしても、この世界で自分は生きていけるのだろうか。
どんな世界かは知らない。
自分が知っているこの世界は、海希との生活空間だけだった。
いずれは帰らなければならないだろうと、レイルは思った。
向こうに帰り、林檎を食べた事を償う。
きっと、自分の命はない。
どうして男爵は、こんな林檎を持っていたのだろうか。
そこも少し引っかかっていた。
それに、あの林檎を先に食べた別の誰かは、何処で何をしているのかだ。
疑問に思う事は、たくさんある。
今だって、その疑問に思う一つとレイルは対面している。
海希「人間って難しい...」
ブツブツと呟いている海希。
レイルは構わず目の前のご飯に夢中になっていた。
海希「友達が友達を避ける時って、どんな時だと思う?」
レイル「避けるくらいなら俺だったら殺すけどね。おかわり」
お皿についたものまで綺麗に舐め取る。
しかし、一向におかわりは出てこない。
海希「訳分からないわよね...何か言いたい事あるなら、言えばいいのに」
レイル「あんたみたいにか?俺に好きだって言ってくれたあんたみたいに、俺も言えば良いのか?」
頬が熱くなる。
あの時の事は忘れていない。
ついでに言えば、彼女のあの姿もだ。
忘れられないのだ。
こんな時、物覚えの良い性格が憎くなった。
海希「コロは...他の猫に嫌われるタイプでしょ?」
レイル「は?」
海希「だって、やんちゃそうだし...弱い者いじめとか好きそうだもんね」
冷たい。
当たってはいるが、好きな相手をそんな風に見ているだなんて。
レイルは、とてもショックだった。
レイル「あんたは、そんな奴が嫌いなのか?嫌なら頑張って直す。....できるだけ」
海希「....なんてね。弱い者いじめなんて、コロはしないわよね」
下げておいての持ち上げテクニック。
なんて女なんだ。
と、レイルが驚いていると、海希はその場で頭を寝かせ、目を閉じた。
しばらくすると、小さく寝息を立てているのが聞こえてくる。
その寝顔に、レイルは思わず見惚れていた。
レイル「......っ」
ゆっくりと、彼女の顔に鼻を近付ける。
相変わらず、懐かしい匂いがした。
とても心が落ち着く匂い。
初めてあった相手なのに、何故か初めて会った気がしない。
それに、彼女に触られていても、嫌な気はしないのだ。
レイル「アマキ....」
猫の姿から、青年の姿になる。
こんなに誰かに惹かれるのは、初めての事だった。
レイル「初めて....?」
初めてと言うより、どこか懐かしく感じる感覚。
こんな気持ちになるのは初めてなのに、初めではないような気がする。
とても不思議な気分だった。




