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OTOGI WORLD   作者: SMB
* the real world *
8/92

亀裂の入った午後


大学へと向かう早朝。


門を潜る。

午前の授業の為、教室へ向かう。

その途中、たくさんの生徒が歩いている中、私は友達の姿を見つけた。


海希「唯、おはよう!」


明るく声を掛ける。

いつものように。

なにも変わらない日常。


唯「あ...おはよう」


返ってきた言葉は、妙にぎこちない。

いつも元気で、明るくニコニコしている唯にしては、どこか様子がおかしく見えた。


海希「どうかしたの?」


唯「ん?何かあたし、変だった?」


ガラリと声のトーンが変わる。

いつもの唯の明るい声。

けれど、表情は曇っているように見えた。


海希「変って言うか、元気ない?」


唯「そんな事ないって!元気元気!...じゃぁ、あたし先に行くから...!!!!」


短く言葉を切るように。

そして、足早に去っていく。


何かあったのだろうか。


唯とは中学からの付き合いなので、明らかに様子がおかしいのは分かる。

体調でも悪いのか。

それなら誰にだってある事だ。


その時の私は、唯の事をそこまで気に留める事はなかった。


いくつかの授業を終え、無事に昼休みを迎える。

中庭でお昼を過ごすのは日課になっていた。

誰もいないベンチに座り、お弁当を膝の上に乗せ、2人が来るのを待っていた。


しばらくしてやって来たのは、ありさだった。

長い髪を揺らしながら、小走りでやって来る。

私は軽く手を振り、隣に招いた。


ありさ「ごめんね、遅くなって!ちょっと後輩に捕まっちゃってさ」


海希「私は全然大丈夫。なんか唯も遅くなってるみたいね」


ありさ「あぁ、唯ね...」


呼吸を整えてから、ありさはお弁当を取り出した。

私と目を合わせず、彼女はお弁当を開く。


ありさ「なんかあの子、気分悪いみたいでお昼は遠慮するってさ」


朝に会った唯の姿が、頭に浮かんだ。

やはり体調が悪かったのかと、納得する。


海希「やっぱり体壊してるんだ...大丈夫かな?」


あとで連絡してみよう。

そんな事を思いつつ、私はお弁当のおかずを口にした。


ありさ「うん、体調が悪いって言うか...」


少し黙ってから、またありさが口を開く。


ありさ「私から言うのも悪い気がするんだけど....唯、振られちゃったみたいで」


その言葉に、私は驚いた。


最後まで聞かなくても分かる。

いつも、あれだけ嬉しそうに唯が話していたのだ。

分からない訳がない。


海希「そうなんだ...って言うか、好きって言っちゃったの?!」


つい最近まで、一緒にご飯を食べに行くと言っていた気がする。

そんな急展開になっていたなんて、全く知らなかった。


どうしてそんな先走った真似を。

もう少しじっくりと事を進めるべきだったのに(恋愛に奥手な私が言うのもなんだが)。


ありさ「うーん...よく分からないけど。まぁ、しばらくそっとしといてあげよ」


日向先輩とは、学校で何度も会った。

何気ない話をしたが、彼の口から唯の話を聞いた事がない。


日向先輩はモテる。

モテるのに彼女がいないのは、何人もの女の子を振っているからだとは想像はつく。

自分の友達がその一人になってしまったかと思うと、なんだか変な気持ちになる。


海希「似合ってると思ったのにな」


王子様のように優しい日向先輩。

お姫様のように可愛らしくて、明るい唯。

まるで、どこかのおとぎ話に出てくる2人だ。


唯なら、日向先輩を攻略出来ると思っていた。


だけど、それは本人同士の問題だ。

お見合いを無理やり成功させようとするようなおばさんにはなりたくない。

空気を変えるように、私達は昼食を楽しんだ。







その次の日。

さらに次の日も次の日も。


ありさから唯の衝撃ニュースを聞いた日を境に、私はまともに唯と話す事がなかった。

話す事がなかったのではない。

まともに会う事がなかった。


当たり前のように、3人で中庭のベンチに並び、昼食を楽しむ事も。

時間が合えば、3人で並んで帰ったり。

休みが合えば、買い物に出かけたり、喫茶店でお茶をしたりした事も。


そんな女子3人の楽しい時間が、全く消えてしまった。

たまに唯を見かけても、彼女は私に気が付くと落ち着かない様子で去って行く。


まるで私を避けるように。


それが何度も続き、さすがに違和感を覚えるようになった。

今考えてみれば、日向先輩との事をどうしてありさだけが知っていたのかも疑問だった。

何度かありさにさりげなく唯の話を振ってみたが、彼女は気のせいだとの一点張りだった。


失恋すると、1人になりたい時もある。

唯も先輩には本気だったので、今までの態度とは違うのも納得はいく。


けれど、それでも違和感があった。

唯の私への態度は、気のせいではなくなってきているのだ。







海希「人間って難しい...」


ご飯中のコロを相手に、私は頬杖をつきながらブツブツと呟いていた。

相変わらず、この猫は私の話を聞いていない。


海希「友達が友達を避ける時って、どんな時だと思う?」


ご飯に夢中のコロは、空になったお皿を舐めていた。

今日は奮発して、高めの缶詰を買った。

やはりご飯が無くなった事を名残惜しそうにしている。


海希「訳分かんないわよね。何か言いたい事あるなら言えばいいのに」


言いたい事がないから言わないのだろう。

そう願いたい。


海希「コロは、他の猫に嫌われるタイプでしょ?」


ピクリと耳が動く。

それと同時に、左右の色が違う瞳が私を捉えた。


海希「だって、やんちゃそうだし。弱い者いじめとか好きそうだもんね」


言葉が伝わらない事をいい事に、偏見で言ってみる(猫を偏見で判断するのも難しいが)。

いつも私の話を聞かないコロは、ジッと私を見ていた。


まるで、人の言葉を聞いているかのように目を細め、ジッと私を見つめる。

その耳も、私の方に向けている。

そして、猫らしく鳴くのだ。


海希「...なんてね。弱い者いじめなんて、コロはしないわよね」


ごめんね、と一言謝っておく。


床に頭を寝かせ、目を閉じる。

ありさと唯と3人で過ごした日々。

中学からの付き合いなので、思い出はたくさんある。


唯がいつ元気になるかは分からない。

きっと、それを待つ事しか出来ない。

そんな気がした。








夢の中に、私はいる。


いつの間にか眠ってしまったみたいだ。


私を癒してくれる夢。

空は薄暗い雲が覆い、風はない。

それでも瞼が重い。


そっか、夢だから....

私の夢だから、影響されるんだ...


人の夢は見た人の記憶に影響される。

いつもと違うのは、それが原因なのだろう。


また男性の姿が見える。


私の記憶に影響しているのなら、この人は誰なんだろう。

こちらに背を向け、ぼやけて見えるその背中が揺らめいている。


あの優しい笑顔が見えない。


悲しい。

知らない人なのに、とても胸が締め付けられる。

何故か、もうこの人と会えないと分かる。


知らない人間の筈なのに...


暗い気持ちになる。

夢の中だけでも、明るい気持ちにさせて欲しい。


また落ちていく。


夢の中で、更に落ちる夢は不思議だった。

安心する気持ちと、なぜか見たくないと思う感情が入り混じるような感覚だった。



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