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OTOGI WORLD   作者: SMB
* trace of the cat to laugh at *
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笑う猫の施し


猫の青年は、1人立ち尽くしていた。

金色の金具で装飾された分厚いドアの前。

両腕を組みながら、眉間に皺を寄せる。


レイル「う〜ん...」


不思議だ。

不思議な自分の行動に、悩まされるしかなかった。


レイルは性懲りも無く、またこの場所に来ていた。


青い空の下。

今日も天気が良い。


大きな邸の前。

既に、何度も足を運んでいた。

しかし、何度来ても人の気配はなく、誰にも会えずにいる。


それでも、何度も足を運んでしまう。

無性に、この場所に来てしまいたくなるのだ。

何の為にやって来たのか。

誰に会いたくてここまで来たのか。

いつも、ここに来てから悩んでしまう。

その答えが、いつまで経っても見つからない。


ここには、男爵しか住んでいないはずだった。

しかし、扉をノックしても彼が出てくる事はなく、いつもレイルは誰に会う事もなく帰るはめになる。


その繰り返しだった。


レイル「俺、こんなに男爵が好きだったんだな...」


あまり人に懐かない自分が男爵に心を開いていた、という事になる。


しかも、無意識だ。

男爵への関心は薄かったはずなのに。

決して彼が嫌いだという事ではないが、好きだとも言い難い。


そんな彼に会いに来る為だけに、ここに通い詰めるとは。

ある意味、自分が怖くなった。


レイル「....?」


微かな臭いに、レイルの鼻が反応した。

なんだかよく分からないが、変な臭いがする。

それも、良い臭いとは言えないもの。


開いたままの窓を見上げても、男爵の姿は見えなかった。

こうも留守が続くと、ここに来るのも面倒になってくる。

何しろ、自分が何をしにここに来たのかも分からないのだから余計に億劫に感じた。


いつものように、レイルは拳銃を取り出した。

理由もなく今日もここへ来てみたが、やはりあの男に会えなかった。

仕方なく、家に帰る事を決断した。


レイル「!」


何かの気配に振り返ると、背後に数人の子供がいた。

レイルと目が合った瞬間、子供達が怖がるようにビクッと肩を震わせる。


レイル「なんだ?」


ピーターのように、誰にでも優しい訳ではない猫。

警戒心の強さは自慢できる一つだった。

二色の瞳でギロリと睨みを利かすと、子供達が怯えた。


レイル「男爵のおっさんならいないぜ?いっつも留守だから、もう帰って来ないんじゃねぇか?どっかに長期で出掛けてんのかも」


せめてもの親切心だった。

無駄に足を運んでいるのなら、この子達にも教えてあげた方が良いと思った。


少年「...おじちゃんがいないと直して貰えない」


肩を落とし、泣き出してしまいそうな相手にレイルは後退りした。


泣いている人間は苦手だった。

とても面倒であり、何をしてやれば良いか分からなくなる。

それに、狂乱(誰かさんを思い出す)しそうで怖い。


レイル「泣くな!男だろ!?」


少年に強く言った。

しかし、相手はレイルの声に怯えるだけだった。


よく見れば、子供達の手には玩具が抱え込まれている。

不思議に思い、レイルは彼らにゆっくりと近付いた。


レイル「なんだよ、それを直して欲しいのか?」


ヒョイっと取り上げる。

レイルの興味をひいたのは、車のミニチュアだった。

精巧に作られた、両手サイズのもの。

四つあるタイヤの一つが、取れてしまっている。


子供「そう...おじちゃんは、いつも直してくれるんだ」


半べそをかきながら、少年は言った。

そして差し出したのは、取れたタイヤの部品。

それが、小さな手で握り締められている。


レイル「俺に貸せ」


乱暴にその部品を奪い取る。

カチャカチャと音を立て、自分なりに弄ってみた。


細かい作業は好きだった。

自然に集中してしまい、いつの間にか夢中にさせてくれるからだ。

周りを気にせず、1人の世界に入り込める。


レイル「よしっ、これで良いか?」


見た目的には問題ない。

レイルは満足し、タイヤが四つになった車のミニチュアを少年に返した。


すると、少年の表情がパァッと明るくなる。


子供「わぁ...ありがとう!」


とても嬉しそうに笑っている。

その笑顔に、なんだか変な気分になった。


少女「ねぇ、あたしのもやって!」


後ろにいた少女が、小さな箱を渡してくる。

レイルはその箱を受け取り、何気なく開けた。


オルゴールだ。

細かいものが、たくさん詰まっている。

試しにネジを巻いてみたものの、なんの引っかかりもなく、緩く回ってしまう。

どうやら、ネジが空回りしているようだった。


レイル「あぁ...空回りして巻けないんだな。なら、一回分解してやってゼンマイを見てやらないと分からないな」


と、オルゴールの箱を左右上下からくまなく見てみる。

はたして、これは簡単に分解出来るのだろうか。


少女「直る?」


ちゃんと直るかなんて、自分でも分からなかった。

第一、故障の原因なんてまだ分からない。


レイル「新しいの買って貰えよ。どうせまた壊れるぜ?」


少女「駄目!それはお婆ちゃんに貰った物だもの...もう、お婆ちゃんはいないから....」


今度は少女が泣き出しそうになっていた。


その姿に、レイルの頭は重くなる。

この姿には、もううんざりだった。

眉が吊りあがり、目の前の少女に叫ぶ。


レイル「分かったから泣くな!とりあえず俺が直しといてやるから、また明日同じ時間にここで待ってろ!」


少女「まだ泣いていないわ」


レイル「どうせ泣こうとしてただろ?!いいか、絶対に明日ここにいろよ」


何度も少女に言い聞かせ、レイルは別の方向に銃を発砲した。


現れた魔法陣。

レイルは飛び込むと、その姿は瞬く間に消えてしまった。





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