永遠の青年の迷子保護
このお話だけ間違えて削除してしまったので更新が重複してしまいました!あと、いつの間にやら間違えて完結済設定に...申し訳ありません!
ウィールと別れた私は、城下町を出るとまっすぐに森へと続く道を歩いた。
いつの間にか、目線が自分の足元に落ちていた。
人間という生き物は、どうして暗い気持ちになると下を向いてしまうんだろう。
海希「はぁ...」
口から出てしまうのは、やはり重たい溜息で。
1人になれば、いろいろと考え込んでしまう。
しかも一度考えてしまうと、負の底なし沼に沈んでいく私の気持ち。
私が私を責め立ててくる。
お前はお前じゃない。
もう、お前の居場所はないんだと。
どうしてこんな所にいるんだろう。
エマとしてこの世界を捨てた筈なのに、また私はここにいる。
謝らなければならない。
唯やありさ、それにお父さんやお母さん。
いろんな人を巻き込んで、私はのうのうと生きてしまっている。
苦しくて堪らない。
いや、私なんかよりも、記憶を消された人の方が苦しい筈。
それに、消された魔女達。
一番苦しいのは、稲川海希本人だ。
彼女の死体は、どうなっているんだろう。
考えれば考えるほど、この負の感情から抜け出せなくなっていた。
私は、彼女になり代わってここにいる。
それは、謝ったって許されない事だ。
やはり、ウィールが言ったようにこれからの人生を楽しむ事なんて出来ない。
彼女を差し置いて全ての責任から逃げてしまった私に、そんな資格はない。
ピーター「アマキ?」
ふと、顔を上げる。
目の前に、緑色の青年がいた。
どうやら、たまたま向こうから歩いて来ていたらしい。
私とした事が、全然気が付かなかった。
相変わらず目に優しい彼は、私に微笑んでいる。
ピーター「暗い顔なんかして、どうしたの?」
海希「...少し、考え事をしていたの」
嫌な所を見られてしまった。
きっと、とても情けない顔をしていただろう。
ピーター「君らしくないな。なに、まだ帰る事をレイルに言っていないの?」
海希「それは言った。けど、反対されちゃった」
ピーター「だろうね。俺やドロシーだってここにいて欲しいって願っているんだから」
それは...出来ない。
向こうには、たとえ本当の友達や両親じゃなくても、残してきた人達がいる。
本物じゃなかったからこそ、余計に会いたい。
私がうまく返事を出来ないでいると、ピーターが私の顔を覗き込んできた。
緑の瞳が細くなり、私に優しく笑い掛ける。
ピーター「空の散歩でもする?」
それは、彼の特権である力だ。
ピーターは自由に空を飛べる。
私も何度か、彼に抱えて貰いながら空を飛んだ事がある。
海希「ううん、やめとく」
もちろん、私は断りをいれた。
彼との飛行体験は、あまり良い思い出がない。
彼とのフライトはいつだって危険に脅かされている。
ピーター「そんな事を言わずにさ。たまには、俺のお願いもきいてよ」
ニコニコと。
とても爽やかな優しい笑顔を私にごり押ししてくる。
お願い...
そんな言い方をされてしまったら断れない。
彼には、これまでに何度も助けられているからだ。
私にとって、とてもずるい言い方。
海希「ピーターって、優しい振りをして強引よね」
レイルとは違う。
遠回しに、追い詰められる感じ。
この葉緑体の方がタチが悪いのかもしれない。
ピーター「ははっ、今の俺の言い方ズルかった?」
そう言いながら、私の腰に手を回す。
フワッと飛び上がる彼に体を預けると、一瞬にして空に舞い上がっていた。
向こうの世界では絶対に体験出来ない。
やはり、とてもメルヘン過ぎる世界だ。
海希「どこに行くの?」
気持ちの良い風が私の髪を揺らす。
あまり下は見ないように、ピータの緑の服で目を癒していた。
ピーター「俺の家だよ」
その言葉に、私はギョッとした。
目を見開き、彼の顔を見上げる。
海希「ちょっと待って!なんでピーターの家なの!?」
こんな何を考えているか分からない葉緑体の家なんて危険過ぎる。
何しろ、レイルよりタチが悪いのだ。
前科持ちの年齢不詳の青年。
もしくは、子供にされて監禁されるかもしれない。
ピーター「冗談だよ。君って面白いな」
ははっ、と爽やかに笑っている。
笑い事ではない。
彼が言う冗談は、私の心臓に悪い。
それは前に伝えた筈だ(意識して貰っていると喜んでいたが)。
ここが上空でなければ、彼を張り倒していたところだ。
レイルのワープより移動するには時間が掛かったが、歩くよりはとても楽な手段だった。
しばらくして降ろして貰った場所は、どこかの公園だった。
緑の生い茂る、小さな公園。
滑り台とジャングルジムと、砂場とブランコがある。
メルヘンな世界にも公園があるのか。
初めて知った場所に、私は公園内を観察していた。
海希「わっ!!」
ピーターに腕を掴まれ、体がみるみる内に小さくなる。
子供になってしまった私は、隣にいた大きなピータを睨み上げた。
海希「何するのよ!?」
やはり、こいつは私を子供にして監禁したいのではないかと疑うしかない。
ピーターへの不審感が半端なく膨らんでいく。
ピーター「今の君は見ていて分かるくらい素直じゃないからね。子供に戻れば、素直になれるだろ?」
ヒョイっと私を抱き上げると、スタスタと歩いていく。
向かった先は、2つ並んだブランコだった。
そこにピーターが座ると、膝の上に私を乗せた。
海希「あなたね...!!」
ピーター「あとでちゃんと戻してあげるから、怒らないでくれよ」
ゆっくりと揺れるブランコ。
ピーターの膝の上で揺られながら、私は変な気持ちでいた。
ブランコなんて、何年振りだろうか。
しかも、年頃の男の膝に乗るなんて...
...いや、彼は年齢が分からないので、年頃なのかも分からない。
海希「どうしてピーターは歳を誤魔化しているの?」
しみじみと思う。
いつも彼に同じような事を言っているが、やはり同じような言葉が返ってきた。
ピーター「そんな事を聞いてどうするの?」
海希「本当はいくつなのよ?」
ピーター「君とあまり変わらないよ。何度も言ってるだろ?」
いつものように、答えてはくれない。
落ち着いた口調で、簡単に流されてしまう。
海希「ピーターはピーターなのに...私、あなたがお爺さんでも嫌いにならないわよ?」
すると、ピーターはクスッと小さく笑った。
ピーター「お爺さんだなんて酷いな。俺はそこまで老けてないよ」
なら、あの時のあれは何なんだ。
ピーターであって、ピーターではないもの。
あの雨の日の草原で、私はこの目ではっきりと見たのだ。
驚き過ぎて、悲鳴さえ上げてしまった程だ。
ピーター「たまに副作用が出るんだよ。体の細胞を新しくしたり古くしたりしているから、みんなより壊れているんだ」
...嘘くさい。
とても疑わしい。
苦しい言い訳にしか聞こえない。
ピーター「それに、君だって同じだろ?」
海希「私は歳を誤魔化していないわよ」
記憶が別の人間のものなので、多少の誤差はあるかもしれない。
けれど、彼とは比べものにはならない。
ピーター「そうじゃなくて、向こうの世界の住人だろうがここの世界の住人だろうが、アマキはアマキだ。他の誰でもない君なんだから、もう少し自分を大切にした方が良い」
静かに揺れるブランコ。
その揺れのせいか、なんだか居心地が良い。
自分を大切にする...
そんな事、許して貰えるのだろうか。
でも、誰かに言って貰えて少しホッとした自分がいる。
私は私。
他の誰でもない私。
そう言えば、レイルにもそんな事を言われた気がする。
そんな私が好きだと、あの猫はまっすぐに言ってくれていた。
海希「あなた達は、とても優しいのね」
私を責めたりしない。
あの王妃様も、レイルもドロシーも。
みんなの記憶を消してしまったのに。
それが、余計に辛い。
ピーター「当たり前じゃないか。俺達は友達だ。友達が悩んでいるなら、いつだって助けるさ」
ピーターは優しい。
おまけに、目にも優しい。
初めて会った時からそうだったが、たまに裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
海希「...ありがとう」
けれど、今の私は子供だ。
ピーターの言う通り、子供の時くらい勘ぐるのはやめよう。
子供らしく、素直になればいい。
海希「あなたの言う通りね。たまには子供に戻るのも良いかもしれない」
不思議な感覚。
これも、向こうの世界では体験出来ない事。
私は、本当に変な世界に迷い込んでしまったようだ。
甘いようで、甘くない世界。
でも、悪くはない。
ピーター「そう。なら、このまま子供のままでいる?」
後ろから腕が回ってきた。
その行動に、私の警告ランプが灯る。
目を見開き、思わず声を張り上げた。
海希「なっ...何してるの!?」
ニコニコと笑っているピーターは、私を縫いぐるみと勘違いしているのか、優しく抱え込んでいる。
優しい筈なのに、その腕の力に抗えない。
ピーター「君を見ていたら、つい可愛いなって思っちゃって」
海希「つい、じゃないわよ!早く戻しなさいよ!」
油断ならない葉緑体だ。
子供に手を出すなんて、こいつはとんだ犯罪者だ。
...いや、私は子供じゃない。
ピーター「戻してあげても良いけど、このままの体勢で戻しちゃったら...なんだかレイルに悪い気がするな」
海希「!」
やばい。
これは罠だ。
私をはめる罠。
耳元で囁かれ、私の背筋はゾクゾクとしている。
ピーター「君を戻すなら、俺も少し大人に戻ってみようかな。それなら、大人の恋人同士に見えるだろ?」
海希「はっ!?ちょっと待って!何の話してるの!?」
ピーター「それとも、君は振り回される方が好き?可愛い歳下君タイプか、頼れる歳上男性。俺はどっちでも良いから、君に選ばせてあげるよ」
海希「私達は友達なんでしょ!?」
何が恋人同士だ。
さっきまで、友達と連呼していたじゃないか。
それに年齢設定を変えられる男なんて、聞いた事がない。
そんなのはゲーム上だけで十分だ。
ピーター「君って本当に面白いよね。本気にしなくても冗談なのに」
そう言いながら、私を離してくれない。
一体こいつは、何がしたいのか分からない。
だいたい、すでにこんな状況にしておいて冗談では済まされない。
犯罪だ。
これは、完全な犯罪だ。
ピーター「あぁ...悪い冗談も、ここで終わりだね」
海希「!」
目の前に現れた青い光。
丸い形になり、やがて魔法陣を創る。
そこから出て来たのは、猫の青年だった。
そこから飛び出して来たレイルは、私達に目を向ける。
レイル「おい、ピーター探したぜ!この前の子供の玩具なんだけど...」
どうやら、私ではなくピーターに用があったらしい。
けれど、子供の私と目が合うと彼はその場で立ち止まった。
彼の鼻が、激しく動いている。
レイル「...アマキ!?」
子供だったので、すぐには分からなかったらしい。
ただ、彼は匂いで判別出来る。
慌ただしくピーターから引き剥がされ、レイルの後ろへと保護された。
いつの間にか、レイルは拳銃を彼に向けている。
レイル「てめぇ!!俺がいない間にこの子に手出しやがって!!」
ピーター「勘違いするなよ、少し遊んでいただけだって」
熱くなっているレイルとは裏腹に、ピーターはとても冷静だった。
あれが遊びだったのなら、彼はとても火遊びが好きなんだろう。
平和主義と言っておいて、彼は危険な種を蒔いている。
レイル「嘘吐くな!!俺のアマキになんて事を...」
海希「あんたのじゃないわ!!」
そこは聞き捨てならない。
私は即座に否定しておいた。
でも、レイルには感謝だ。
あのままだったら、私はどうなっていたか分からない。
いや、想像したくない結果になっていただろう。
ピーター「俺は君に変な事なんてしていないよね?」
この男、私に確認をしている。
優しい笑みを浮かべながら、私の返事を待っている。
ピーター「ねっ?俺達、友達だもんな?」
友達だから、友達を助ける。
それは、彼がさっき言った言葉だ。
更に、前に言っていた彼の言葉が私に圧力を掛けてくる。
ピーターが危ない目にあったら、今度は私が助ける。
やはり、彼は腹黒い。
そうやって、遠回しに私を追い詰めてくる。
海希「...大丈夫よ、レイル。少し話していただけ」
これは、ピーターの為じゃない。
前回のように、彼らの不毛の争いを見たくないだけだ。
私は巻き込まれたくないのだ。
レイル「ブランコにわざわざ2人で乗ってか?」
ピーター「そう!子供だけだと心配だろ?」
レイルの二色の瞳が私を見下ろす。
浮気じゃないよな?と、私に視線を送ってくるのが分かる。
これ以上、私になんて言わせたいのか。
海希「って言うか、早く戻してよ!」
いつまで子供でいれば良いんだ。
もう子供の姿は存分に楽しんだ。
これ以上、この姿でいるのは嫌だ。
レイル「まぁ、確かに子供のアマキも可愛いけど...でも、こんな姿じゃアマキにいろいろしてもらえない!ピーター、早く戻せよ!」
何をさせるつもりなんだ、この変態猫め。
結局、考えている事はピーターと同じじゃないか。
ピーター「分かってるよ。そう言う約束だったからね」
やはり、何を考えているか分からない男だ。
こいつと一緒にいる時は、絶対に油断してはならない。
この緑まみれの青年と2人きりになってはいけないと、私の中で教訓が生まれた時だった。




