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OTOGI WORLD   作者: SMB
* have an adventure *
50/92

おおかみさんとのお食事会

ほんの若干、性的描写注意


海希「......」


私の隣で焼けた魚にガツガツと食い付く狼の姿は、とても異様に見えた。

私に見向きもせず、ただただそれに食い付いている。


木陰に腰を下ろし、持っていたマッチで火をおこして、彼が獲った魚にありついている。


一番の疑問は、どうして私は彼と仲良くバーベキューをしているのかだ。

この光景が不思議でしょうがない。


ロイゼ「...お前、見惚れるほど俺に惚れてんのか?」


青い瞳にギロリと睨まれ、ハッと我に返った。


異様過ぎて、思わず目を奪われていた。

決して、恋や愛などの感情はない。


海希「とんだ自惚れね」


串に刺さった魚。

私はそれを口にする。


急いで逸らした視線は、彼の側に置いてある猟銃に移っていた。

その結果、さらなる謎が増える。


海希「...使い方、間違ってない?」


ずっと気になっていた事だ。


狼が猟銃を愛用するとは。

明らかに、彼が使う立場ではない。

その銃口に狙われる立場なのに、この狼は容赦なく撃ってくる。

なんだか変な感じだ。


それに、狼とは魚を好んで食べるものなのか。

私のイメージでは、お酒や肉をかっ喰らう生き物だった。


ロイゼ「はぁ?なんの話してんだ。っつうかお前、俺の事が怖くねぇのか?」


怖いに決まっている。

魚の骨までバリバリと食べている姿は、なんだか恐ろしい。

まさに野獣だ。


それとも、好んでカルシウムを摂っているのだろうか。

確かに彼は骨太そうに見えるし、口元から見えている丈夫そうな牙を保つには、カルシウムが必要だろう。


ロイゼが食事をした後は跡形も残らず、とても綺麗なものだった。

私が食べ終わると、こうやって骨が残る。

綺麗に残さず食べるのはとても良い事だが、私の方が正しい食べ方だ。


海希「あなた、狼に見えない。パッと見は犬ね」


初めて会った頃は、それはそれはとても恐ろしい狼だった。


が、今はそんな風に見えない。

こうやって食事を共にしているロイゼの耳と尻尾が揺れている姿は、どちらかと言うと犬に見える。


ロイゼ「い、いぬだぁ〜!?」


私がそう言うと、ロイゼがとてつもなく嫌そうに顔を顰める。

眉間には何本もの深い皺を刻み、串を後ろへ放り投げながら、私に声を荒げた。


ロイゼ「俺はあんな奴らみたいに言いなりになんかならねぇ!それに、ヘラヘラ笑って馬鹿みてぇに尻尾も振らねぇよ!お前、失礼だぞ!」


お前だって犬に対して失礼だ。

あの忠実さが犬の良いところ。

それを取ってしまえば、狼と同じだ。


海希「あなただって、私を捕まえないの?」


まるで、飼い主とペットだ。

見た目からして、恩を仇で返すようなタイプのロイゼ。

彼の事だ、何か裏がある。

そうとしか思えない。


ロイゼ「さっきも言ったろ。お前みたいな奴は、誰も買っちゃくれねぇよ」


そんな事はお前に決めつけられるような事ではない。

私が言うのもなんだが、レイルやバレッタには絶対に売れる。

値札にもよるが、その自信がある(決して売られたい訳ではない)。


なにはともあれ、彼の中で私は獲物リストから除外されたようだ。

とりあえず、その事には喜んでおこう。


ロイゼ「まぁ、その気になりゃぁまた捕まえてやるよ。お前、結構チョロいもんな」


ロイゼは余裕そうに笑みを浮かべ、私を見下していた。


チョロいと言っている割に、幾度となく失敗に終わっているではないか。

と、忘れずに心の中で毒吐いておく。


ロイゼ「しっかし、お前も馬鹿だよな。俺を助けようとするなんて。今まで俺に何されてきたのかもう忘れたのか?」


えっ...


助けるとは何の事だ、と私は頭の中で思考を働かせた。

いや、思い当たる事は一つしかない。

先程の狼の群れの襲撃事件だ。


海希「あなた、意識あったの!?」


ロイゼ「あんな奴らにやられる俺じゃねぇからな。それに、お前の泣きべそも拝めた事だし」


と、目を細めながら鼻を鳴らしている。


なんて嫌な奴。

誰の為に必死だったと思っているんだ。


海希「当たり前でしょ!見殺しには出来ないわ」


そもそも、どんな理由であれ私を庇ってくれた。

それに、あんな縫いぐるみの姿では放っておく事など出来ない。

そこが、私の甘い所だとも言える。


海希「...ロイゼって、意外に良い奴ね」


ロイゼ「はぁ!?」


真っ赤な耳と尻尾が、ボワっと逆立つ。

まるで、良い奴だと言われる事を忌み嫌っているような反応だった。


海希「なんだかんだで私を助けてくれたし...今もこうして、一緒に食事もしてくれてる」


ロイゼ「それはお前が俺様の獲物で、あいつらが横取りしようとしてたからだ!それに俺様は腹が空いたからしょうがなくここにいるんだ!変な誤解してんじゃねぇよ!」


横から彼の怒声が飛んでくる。

けれど、嫌な気分にはならない。


そんな事を言いながら、ご丁寧に私の分まで魚を用意してくれた。

言葉は乱暴で悪い奴だが、今はそんな風に見えない。


海希「ありがとね、ロイゼ。助かったわ」


彼に笑い掛けながら、お礼を言った。


初めて会った日の事を考えたら、やはりおかしい事なのだが、私に迷いはなかった。


第一印象は最悪だったが、そこから仲良くなれる事だってある。

現に、ジャックだってそうだった。

私はそれを、現実世界の生活の中で学んだのだ。


ロイゼ「.....っ!!!」


ロイゼは、少しうろたえているようだった。


こういう言葉に、慣れていないのかもしれない。

悪い事ばかりしてきた狼は、私みたいな女にお礼を言われた事なんてないのだろう。

想像が出来る。

これをきっかけに、真っ当な人生を送って欲しいものだ。


ロイゼ「......」


彼の青い瞳が、私をジッと見ていた。

キリッとした目元に、整った鼻立ちと少し焼けた肌。

その凛々しい表情は、よく見れば男前だ。


そんな彼に見つめられているのだから、なんだか頬が熱くなった。


一体何を考えているのだろう...

またお前を捕まえる、なんて言い出したらたまったものではない。


ロイゼ「...ふ〜ん、そうか」


やっと口を開いたと思ったら、ニヤリと彼が笑った。

その瞬間、ロイゼの手が私の体を押し倒す。


海希「え!?」


仰向けになった私の体を、大柄な狼が覆っていた。

私の目の前に、彼の顔があった。


海希「な、なにすんのよ!」


本当に何を考えているのか分からない。

見上げた彼の表情からは、何も読み取れない。

とにかく、私は身動きが取れないでいた。


ロイゼ「何って...喰うんだよ」


...は?


私の思考回路が停止する。

こいつは一体何を言っているんだ。


海希「えっ?な、なに?」


ロイゼ「だから、お前を喰う」


そう言いながら、私の首元に唇を落とす。

暖かい舌が私の首筋に触れ、私の体に衝撃が走った。


その瞬間、私はようやく今の状況が理解できた。


海希「は!?馬鹿なの!!?いや、馬鹿なのよあんたは!!!!」


両手を使って彼を乱暴に押しやる。

私の思考回路はショート寸前だった。


ロイゼ「だから...っ!!こら、動くな!!!」


彼の大きな手が、服の中に忍び込んで来たのが分かった。

そんな事をされて、動かない訳がない。

私は必死に抵抗した。


海希「今すぐやめて!!!私は美味しくないわよ!!?」


ロイゼ「やめねぇに決まってんだろ。って言うか、別にそう言う意味じゃねぇから。お前を殺さねぇ、攫わねぇとなると喰うしかねぇだろ」


海希「もっとあるでしょ!?」


どうしてそんな選択肢しかないのか。


帰りたい。

元の世界に帰りたい。

今なら迷いなく帰る事が出来ると思う。


ロイゼ「俺様は狼だ...肉食で強欲で、怖い怖い狼なんだぜ?」


耳元で呟かれ、彼の吐息が耳に掛かる。

私は身震いした。


こんな狼は嫌だ。

こんな邪な狼など、このメルヘンな世界には似合わない。

アダルティ過ぎる。


ロイゼ「言ったろ?俺は欲しいと思ったものは何だって手に入れなきゃ気が済まねぇんだ。それに、お前みたいな強気な女は嫌いじゃねぇ。俺に礼をするなら、お前の体で頂こうか」


首筋に歯を立てられ、チュウっと音をたてられながら何度も吸いつかれる。

その舌は下へ下へと這っていき、服のボタンが乱暴に外されていく。

もう片方の彼の手は、既に私の足を弄り始めていた。


海希「おすわり!おすわりだってば!!」


ロイゼ「だから、俺は犬じゃねぇって言ってんだろ!」


望みの"おすわり"もきかない(そもそも躾けてないのできく筈もない)。


とてもがっかりだ。

可愛い犬なら今までの事は水に流してやろうと思ったのに...


この〜っ!!!!

野獣め〜〜っ!!!!

変態狼〜〜っ!!!!!

○○狼〜〜〜〜っ!!!!!


どうしてこいつは、こんなに狼設定に忠実なんだ。

さっきまで犬の忠実さを馬鹿にしていたくせに、その辺りはなんとも抜け目がない奴だ。

狼に食べられてしまうなんて、そんなメルヘンなアダルティは要らない。

いや、あってはならないのだ。

こんな悪夢は終わらせなければいけない。


私の胸に顔を埋めるロイゼ。

反撃態勢に入る為、彼の頭に手を伸ばした。


ロイゼ「げ!?てめっ...!!!」


犬耳を咄嗟に掴み、思い切り引っ張ってやった。

いつもレイルに鍛えられた緊急脱出用の技。

やはり、これは効果覿面のようだ。


ロイゼ「いででででででっ!!!!!やめろ!!!やめろって!!!!」


逃げるロイゼから手を離す。

すぐに立ち上がり、ポケットから取り出したあの御守りを振り回した。


彼の顔が青ざめたのが分かった。


ロイゼ「分かった!俺が悪かったって!!!!」


海希「私は怒っているのよ!!!」


逃げて行くロイゼの後を追う。


私は完全にキレていた。

頭に血が上り、がむしゃらに彼を追った。

疲れや悩みが吹っ飛んで、鬼の形相で御守りを振り回していた。


絶対に許してやるもんか!

確実に仕留めてやる!

その姿で何処にも行かせないようしてやる!

と、叫び回っていた。


けれど、やはり野生の狼の走りにはついていける筈もなかった。

しばらく追いかけ回すと、私の体力も限界が来た。


足を止めてその場で膝に手をつき、ゼェゼェと激しく息を切らす。

こんなに走り回ったのは何年振りだろうか。


流れ落ちる汗を拭い、遥か向こうに走り去っていくロイゼの背中を睨んだ。


海希「ちっ、逃したか!!!」


縫いぐるみにし損ねてしまった。

あいつをあのままにしておけば、この世の女性は安心して夜道を歩けない。

いや、昼間でもこの有様だ。

やはり息の根を止めるべきだった。


しかし、彼には底知れぬ回復力があるようだ。

たとえ半殺しにしても、数分でけろりとしているだろう。


首筋がまだゾワゾワする。

思い出しただけでも虫唾が走った。


ここの男共は、みんな本能に忠実過ぎる。

とくに獣耳を生やした男共だ。

やはり、野生動物(レイルは飼い猫の筈なのだが、やはりただの変態猫だ)は厄介だ。


気を取り直し、はだけてしまった服を戻してからリュックを背負う。

湖を横切るようにあった大きな橋に、足を踏み入れた。








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