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OTOGI WORLD   作者: SMB
* the real world *
5/92

猫との出逢いは突然に2


ある人物に連絡を入れた後。

大学からそう離れていない場所に、小さな動物病院があった。


その名も、まなか動物病院。

真中ありさ。

私の友人の家だ。


ありさ「どこであの猫拾ったの?車にでもひかれてた?」


隣のソファに座る彼女は、二本のジュースの缶を持っていた。

その内の一本を、私に手渡してくれた。


海希「ありがとう。大学でね、他の猫と喧嘩して怪我でもしたのかな?私が見つけた時には、もう怪我してたのよね」


オレンジの味がするジュースを飲みながら、ありさに訳を話す。


そんなに長くないエピソードだ。

まだ密かにヒリヒリする手の甲を触りながら、あの怯えた猫の姿を思い出す。


ありさ「まぁ、命に別状はないみたいだよ?でもなんか変な怪我みたいだったけど」


海希「変な怪我?」


ありさ「うん。刺し傷とか、あと火傷もしてたみたいだし、それに弾痕も....誰かに虐待でもされてたのかも」


海希「弾痕!?」


動物虐待どころなはない。

それは、玩具のものなのだろうか。

そんな事をする人間が、本当にいるのだと実感する。


ありさ「珍しそうな猫だしね。もしかしたら、危ない人が飼ってたのかも」


海希「可哀想...だからあんなに怯えてたのかな」


ありさ「猫って、もともと警戒心強いしね。で、どうするの?」


言葉の最後に付け足された疑問詞。

私は、理解するのに時間が掛かった。


海希「どうするって?」


すると、ありさは目を丸くした。


ありさ「どうするって、あの猫の事」


猫。

私が見つけた、あの猫。


ありさ「飼い主がいたにしても、どこの誰かも分からないだろうし、虐待魔かもしれないしね」


ようやく、意味を理解する。


どうすると言うのは、あの猫の寝床の話だ。

確かに、飼い主を探すにしても簡単な事ではない。

かと言って、捨てる訳にもいかない。


ありさ「うちはもう犬飼ってるし、唯はどうだろうな...あの子、確か動物アレルギーだったし」


私の両親はどうだろう。

2人とも、少なくとも動物嫌いやアレルギーではない。


海希「私の親に聞いてみる。もしかしたら、引き取ってくれるかもだし」


ありさ「それなら安心だね。じゃぁ、しばらくあの子は海希が預かる?」


私の住んでいるアパートは、ラッキーな事にペット同居可なのだ。

親に引き渡すまでなら、私が面倒を見ても良い。

むしろ、その責任はあるだろう。


海希「うん。そうする」


ありさ「それにしてもオッドアイの猫か。本当に珍しい猫を拾ったのね」


オッドアイ?

なんだそれは、と頭の中でハテナが浮かぶ。


海希「オッドアイ?」


ありさ「そう。虹彩異色症って言って、両目の色が違う事をそう呼ぶの。白い猫に多いって良く聞くんだけど...あの猫はほとんど黒猫ね。とても珍しいの」


なるほど。

猫が好きな割にあまり詳しくない私に、ありさは丁寧に説明してくれた。


海希「それって病気なの?」


ありさ「病気ではないらしいけど、遺伝とか色々....でももしかしたら、目に何か虐待されてたのかもしれないわね」


ならば、とても可哀想だ。

もしかしたら、目が悪いかもしれない。

そんな猫を放っておくのは、私には出来ない。






こうして、しばらくの間、私があの猫の面倒をみる事になった。

動物専門の医者のありさの親から、包帯でぐるぐる巻きにされたあの猫を引き取り、お礼を言ってから家に帰る事にした。


買い物をするのに、スーパーに寄る事を忘れていた事に気付いたのは、家に帰ってしばらく経ってからの事だった。


仕方がないので、自分の夕食は、非常食用にとってあったカップラーメンをチョイスした。

私はこれで全く問題はない(健康的には問題)のだが、猫の食事にするにはまずい。


海希「鶏のササミならあるけど....」


とりあえず魚が好きなんだよね?と心の中で訊いてみる。

やはり、返事のない黒と白のモノトン猫は、カーペットの上で体を丸くさせ、目を閉じている。


そこから動く気配はない。

そんな態度をされると、死んでいるのかとヒヤヒヤさせられてしまう。


海希「まぁ良いや、これしかないしね」


鶏のササミ(サラダの余り)と、水の入ったペットボトル。

そして小皿を手に取り、猫の元へとやって来る。


気配を感じたのか、耳がピクリと動いた。


海希「私ね、海希って言うの。稲川海希(イナガワ アマキ)、よろしくね」


無反応な態度。

次は、餌で釣ってみる。


海希「ご飯食べる?」


声を掛けると、うっすらと瞼を持ち上げ、こちらの様子を伺っている。


皿の上に水を注ぎ入れ、さらに鶏のササミを手の上に乗せてみる。


海希「うーん、食欲ないのかな」


やはり魚じゃないと駄目なのか。


猫は一向に興味を示さない。

愛想のない生き物とは思っていたが、食べ物をチラつかせても愛想のない猫だ。


海希「食べないなら、私が食べるからね」


そう言って、ササミのかけらを口に入れる。

柔らかく、脂っ気もなく、ヘルシーで美味しい。


海希「うん、美味しい」


モノトン猫は、私の一連の動作をジッと見ていた。

すると、鼻をちょこちょこと動かし、私の手元にある鶏のササミを嗅いでいる。

食べ物だと分かったのか、興味を持ったようだった。


海希「待ってね、今あげるから」


もう一度手に乗せる。

口元まで持っていってやると、猫は鼻を近付けた。


しばらく様子を見た後、やっと口にした。

クチャクチャと小さな音を立てながら食べている。

空になった私の手のひらを舐め終わると、ジッとこちらを見ていた。


か、かかかわいい!!!!!


もうないの?と、言わんばかりの表情だ。

イエローとブルーの瞳が、私を上目遣いで見つめている。


私は更に、手のひらに残りの鶏のササミを乗せ、また口元に持っていってあげた。


猫は躊躇なく、それを食べていた。

やはりお腹が空いていたのか、もりもりと食べている。


水をペロペロと舌で上手に飲んでいるその光景に、私はほっぺが落ちそうなくらい見惚れていた。


猫は可愛い生き物だとは思っていたが、想像を上回っていた。

とても癒される。


海希「あぁ...可愛い!!!!」


優しく頭を撫でてやる。

猫は満足したのか、また体を丸くして瞼を閉じた。


きっと疲れて眠たいのだろうと察し、私も夕食をとる事にした。


海希「あ、名前決めてあげなくちゃ」


麺を啜りながら、考えてみる。

名前を誰かに付けるなんて、テレビゲーム上でしかした事のない事だ。


海希「タマ...だとありきたりだよね」


眠っている猫の姿に目を移す。

目もまん丸で、今も体を丸めていて、コロコロしている。


海希「....コロ、で良いか」


とても適当に付けてしまったが、悪くは無いだろう。

私は、カップラーメンのしめのスープをズズッとすすった。



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