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OTOGI WORLD   作者: SMB
* have an adventure *
47/92

ジャックは仕事人


海希「すみませ〜ん....」


真っ暗なトンネルに向かい、声を掛けてみる。

私の声が反響するだけで、とくに変わった反応は見られない。

と言うか、この暗さでは誰かが立っていたとしても見えない。


勝手に入って良いものなのか...


私が悩んでいると、突然大きな怒鳴り声が、奥から響いてきた。


??「なんだと、このやろー!俺の言う事が聞けないのかぁ!!!?」


??「あったり前だろ!この我儘ジジイめ!」


誰かが言い争っているらしい。

次に聞こえてきたのは、何かと何かが激しくぶつかり合う音。


....なんだか物騒な気がする。


しばらく聞いていると、激しい金属音がピタリと止んだ。


暗いトンネルの奥に、一つの小さな明かりが見えてくる。

その明かりが徐々に私の方へと距離を縮め、いずれ人の影を作る。


中から出てきたのは、ランタンを持った人間だった。

その人物の顔は、泥で酷く汚れていた。


??「たくっ、あの若僧め!俺達を年寄り扱いするとは!」


ツルハシを持った、小さな老人が出てくる。


彼は、とても怒っているようだった。

眉を吊り上げ、鼻息を荒くしている。

その理由は、私には分からない。


??「しょうがないだろ?あいつは仕事の事しか考えていないから。おおめにみてやりなって」


海希「!?」


次から次へと出てくる小さな老人。

綺麗な列を作り、面白いように足並みが揃っている。

その姿は、どこかの絵本に出てきそうな小人のようだ。


着ている服は、全て色違い。

最終的に、私の目の前に同じ顔が7つ並んでいた。


....7つ子?


一瞬、目を疑った。

見直すように、何度も瞬きを繰り返す。


私の中で、3つ子までは許容範囲だ。

だが、7つ子になれば話は別になる。


ご両親は、さぞ大変だっただろう。

同じ女として尊敬に値する。


??「そんな事より早く帰ろう。ビアンカの子守唄で、早く眠りたい」


大欠伸をかましながら、その中の一人が口にした。


虹色を連想させる7つの色違いの服。

顔は同じでも、よく見てみれば眉の形や鼻の大きさが、微妙に違う事に気が付く。


一人は眼鏡を掛けていたり、一人は髭を生やしていたり。

どうやら個性はあるようだ。


??「ん?あんた、誰だ?」


その中の一人が言うと、いっせいに私に視線を移す7つ子達。


14つの目に凝視され、私は思わず後退った。


なんだか奇妙な光景だ。

双子ならまだ可愛かったかもしれないが、これが7人となれば、少し不気味に感じる。


それくらいに、彼らはとてもシンクロしていた。


海希「あ....どうも」


とりあえず、挨拶はしておく。

彼らは視線を逸らす事なく、私をジッと見ていた。

そこまで見られていると、私に穴が空いてしまいそうだ。


??「あぁ!ほら、彼女は道端で拾った子じゃないか!」


その中の1人が、やっと口を開いてくれた。


どうやら、私の事は知っているらしい。

しかし私が返事をする前に、それをきっかけに他の老人が次々に言葉を発していく。


??「もう怪我は大丈夫なのかい?」


??「お嬢さん、ここは立ち入り禁止だぞ?何しに来た?」


??「そんな事より、ビアンカはどうした?彼女があんたを見ていたはずだ」


??「あんたも家に住むといい。ビアンカだけじゃ、家事は大変だろうからな」


??「それは良い!きっと彼女も喜ぶぞ!」


??「じゃぁ、早速一部屋空けないとな!休みを貰って、歓迎パーティーを開こう」


??「そうだ、そうしよう!ビアンカの料理が、うんと食べられる!」


....このジジイ共め。


私は聖徳太子ではないのだ。

既に、話についていけていない。


むしろ、何を言っているのか分からない。

勝手に話し出す老人達は、私の返事など求めていないように見える。


海希「この中にジャックさんはいますか!?私、ジャックさんに用があって!」


全員の言葉を遮るように、私は大きな声を出した。

最後まで放っておけば、話がどんどんややこしくなるだろう。


さっきまで口々に喋っていた7人全員が、シーンっと静まり返る。

やはり、その光景も異様に見える。


??「....はっ。なんだ、あいつに用があったのか」


1人が不機嫌そうに言った。

一番最初に出て来た老人だ。

何故か、とてもピリピリしている。


??「ジャックなら中にいるよ。行ってみると良い」


7つ子達は、綺麗な列を保ったまま私の目の前を通り過ぎて行く。

その後ろ姿でさえ、やはり色違いの同じ背中。


視線がトンネルに戻る。


行くのか...ここを。


なんだか不安だ。

きっと、先の見えない真っ暗闇だからだろう。


意を決して、私は足を踏み出した。

一歩進むたびに、ジャリっと砂を踏みつける音がこだまする。


不気味な闇の中。

不安だけが募っていく。


足を取られないように、冷たい壁に沿いながら歩いた。


私の目も暗さに慣れてきた頃だった。

奥まで進むと、途中から壁に豆電球が備え付けられ、その先を暖かみのある色の明かりで照らしてくれていた。


その為、恐怖心もなくなり躊躇なく前へと進む事が出来た。


先の方から、カツーンカツーンと何かの音が聞こえてくる。


広い場所まで来ると、たくさんの採石用の道具と思われる物がゴロゴロと置かれていた。


ツルハシや懐中電灯にロープ。

シャベルや軍手など。

それらが散らかっているのだ。


細いレールが何本も敷かれており、いくつものトロッコが停車している。


更に周りを見回すと、茶色の固い壁の一部がキラキラと光っていた。

まるで、イルミネーションのように輝きを放つ。


よく見れば、鉱石のような物が埋め込まれている。


青や赤、緑や黄色。

色や大きさも様々で、星のようにとても綺麗で、目を奪われてしまう。


海希「綺麗....」


初めて見る物だった。

まるで、プラネタリウム。

とても神秘的。

宝石のようにも見える。


??「ふぅーっ...!!!」


その声に、私は反応した。


奥の方に、1人の男がいた。

背には斧を背負っている。


その斧をみて、あのテヘペロ女神が頭に浮かんだ。


...あの斧は、彼のものだったのだろうか。

なんて、しょうもない事を考えてしまった。


男「さて、続きはまた明日だな。この調子ならまだ納期にも間に合うし....」


流れる汗を拭うと、彼自身の頬が土で汚れてしまっていた。

そんな彼に、私は少しずつ近付いていく。


海希「あの...」


独り言を呟いている青年の背中に、恐る恐る声を掛ける。

すると、彼の目が私を捉えた。


男「...ん?誰だ?」


さっきの老人達と同じ反応。

ごく当たり前の反応だったので、私は気にも留めなかった。


が、相手はとても面倒くさそうに言葉を続けた。


男「ここは立ち入り禁止だ。なんで入ってくるかな、怪我されてもこっちは責任とれないからな」


予想だにしていなかった冷たい態度に、私は少し不快感を覚えた。

まさか、この人がジャックなのだろうか。


海希「あなた....ジャックさん?」


男「!」


すると、彼は私から一歩退いた。

突如、私を警戒し始め、更に眉を寄せた。


ジャック「なんで僕の事知ってるんだ...?なに、ストーカーか?」


誰がストーカーだ。

そんな趣味は持ち合わせていない。


初対面の相手に、よくもそんな事が言えるものだ。


海希「誰がストーカーよ!失礼ね、あんた!」


私が強く言うと、彼は少したじろいだ。

しかし、すぐに言葉は返って来る。


ジャック「だったら、なんで僕の事知ってるんだ!?ストーカーとしか考えられない!言っておくが、僕は女が嫌いだ!」


その発言は、なんだか問題ある発言だ。

私はフッと鼻で笑ってみせた。


海希「へぇ、そう。じゃぁ、あんたは男に興味あるのね」


とりあえず拾っておく。

流す事など出来ない。

これは、私を問答無用でストーカー扱いした罰だ。


ジャック「なっ!!!?」


彼の頬が引き攣っている。

こんな暗い場所でもはっきりと見えた。

ざまぁみろと心の中で毒吐く。


ジャック「そんな変な趣味はない!お前、性格が捻じ曲がっているんだな!」


海希「あんたに言われたくないわよ!」


私の性格が捻じ曲がっているのは認めよう。

だが、お前は捻じ曲がりくねっている!


...と言うか、初対面の相手に何を言い争っているのだろうか。

私は、こんな事をしに来た訳じゃない。


海希「じゃなくて、あなたが私を助けてくれたんでしょ?」


彼は、適当な場所で腰を下ろしていた。

少し不機嫌そうに、私を見上げる。


ジャック「助けた?...あぁ、道のど真ん中で寝ていた子か」


棘があるような言い方だった。

なんだか、一々腹の立つ奴だ。

しかし、その怒りをグッと堪える。


海希「まぁ、そうね。間違ってはいないわ。お礼を言いに来たの。ありがとう」


ジャック「別に。あんな所で寝るなんて、変った趣味をしているよ。それも女が...今時いないよ、そんな奴」


いつか、私は似たような事をエリックに対して思った。


けれど、私は口に出していない。

思っただけだ。

少なくとも、こいつよりは性格が良い筈だ。


お礼を言いにここまで来た事を酷く後悔した。

良い人なのかと思いきや、こいつはかなりの捻くれ者だ。


ジャック「さて、お腹でも空いたし、何か食べるか。え〜っと、確かお弁当が...」


ゴソゴソと荷物をあさっている。

けれど、彼が言うお弁当らしき物が見当たらない。


ジャック「あっ!もしかして、忘れて来たのか...あっちゃー、本当最悪」


どうやら、こいつは腹ごしらえも出来ないらしい。

ざまぁみろと、本日二回目の毒を吐く。


でも、彼は私の命の恩人でもある。

かなり性格は捻くれてはいるが、そこは変わりない。


こんな奴に助けられてしまったのだから、私はある意味、可哀想な奴だと言える。


海希「....良かったら、食べる?」


ジャック「!」


リュックの中から、適当に食料を取り出した。

パンや干し肉、バナナや林檎。

私は彼の隣に座り、それらを渡した。


ジャック「あんたは食べないの?」


海希「私は良いわ。さっき、ビアンカにスープをご馳走になったから」


それに、食欲がないのもある。

今は体力温存の為に、無理に食べているだけだ。


海希「それじゃぁ足りないだろうけど、無いよりマシでしょ?」


ジャック「道中で倒れていた奴に、こんな物を貰うなんて気が引けるんだけど...」


海希「とっとと忘れて!」


こいつはいつまで引っ張るつもりなんだ。

とてもしつこい男だ。


ジャック「....じゃぁ、遠慮なく」


私に気を遣っているのか、とても浮かない表情を浮かべながら私をチラチラと見ている。

かなりの捻くれ者なので、本当に気を遣っているのかは不明だ。


シャリシャリと、林檎をかじる音だけが響く。

2人の間に、変な沈黙が流れた。


ジャック「....なんであんな所で倒れてたんだ?」


意外にも、この沈黙を破るようにジャックが話し掛けてきた。


倒れていた事をあんなに馬鹿にしていたくせに、ご丁寧に理由を訊いてくるなんて...少し驚きだ。


海希「ずっとここまで歩いて来たから、ちょっと疲れて....いつの間にか倒れてたの」


レイルが知ったら、心配してくれるだろうか。

頭に過るのは、鬱陶しいほど私に懐いてしまった猫の姿だ。

彼の為にここまでやって来た。


ジャック「旅でもしてるのか?」


海希「違う、鏡の城に用があるの」


私がそう言うと、彼は驚いたように目を丸くした。


ジャック「あんな所に?!あんた、凄く変わってるな...!!」


変わっているのはこの世界だ。

その住人であるこいつだって、変わっている奴に違いない。


それに比べれば、私は至ってノーマルな人間だ。

いや、そうに決まっている。


ジャック「あの辺りはあんまり近付かないほうが良い。まぁ、用があるって言うなら、止めはしないけど」


海希「そうね。止められても、行かなきゃいけないから」


ジャック「.....大変そうだな」


ジャックは、それ以上の事は訊いてこなかった。


興味がなかったのか、それとも空気を読んでくれたのか。

どちらにしろ、私にとってとてもありがたい事だ。


海希「あなたって、この鉱石を集めているの?」


先程から、視界に入ってくる輝き。

壁から放たれる光りは、とても色鮮やかだ。


ジャック「そうだ。これを業者に回す事が僕達の仕事。あんたは石とかに興味はある?」


海希「あんまりないけど...でも、こんなに綺麗なら、好きになりそう」


壁に埋め込まれている鉱石に触れる。

なんだか目を奪われてしまう。


まだ磨き上げられたものでもないのに、自ら光輝いている。


ジャック「女はそう言うのに弱いからな。ほら、宝石とかアクセサリーとか好きだったりするだろ?」


目の前で光っていた鉱石が、少し出っ張っていた。

私はなんとなく、それに爪を立ててみる。

土が柔らかいので、なんだか簡単に取れそうな気がする。


もちろん、ジャックの話はうっすらと聞いていた。


ジャック「あれを磨くのも、結構苦労するんだ。一度やってみたら、宝石なんか惹かれなくなるよ....」


夢中になっていると、スポリと綺麗に鉱石が取れる。


なんだか気持ちが良い。

赤色に光る石が、キラキラと私の手の中で輝いている。


...と、その時だ。

パラパラと上の方から土のようなものが降ってくる。


ガタガタと振動が伝ってくる。

不穏な気配に、私の心臓が激しく脈を打った。


その瞬間、目の前の壁が勢い良く崩れた。


海希「えぇ!!!?」


ジャック「!」


大量の土砂が流れてくる。

土の中にいるのに、このままだと生き埋め間違いなしだ。


私は無意味に受身を取った。

が、崩れ落ちる土砂は止まらない。


私の前に立ちはだかったジャック。

急いで両手を地面に当てると、そこからメキメキと何かが生えてきた。


海希「!?」


立派な木が、崩れてきた土砂をせき止める。

何本も生えてきては、それらが絡み合い、大きな柱の役目を果たした。


いつの間にか、目の前には小さな緑が覆い茂っていた。

こんな場所には、とても不釣り合いな光景だった。


ジャック「あんたは何を考えているんだ!?」


崩れるのが止まった事に安堵していた私だったが、ジャックに怒鳴られ体を硬直させた。


固まっている私に、彼が怒声を浴びせた。


ジャック「ここは地盤が緩かったんだ!だからそのままにしておいたのに!」


こんなに怒るのも無理はない。

言い訳する余地もない。

完全に私が悪かった。


海希「ご、ごめんなさい!」


急いで謝っておく。

命に関わる事だ。

危うく、この捻くれた男と絶命してしまう所だった。


ジャック「だから素人は困るんだ!だいたい、怪我でもしたらどうするんだ?!僕は責任なんか....」


彼は言葉を途切らせた。

その途端、私の腕を掴んだかと思うと、更に彼は続ける。


ジャック「あんた、怪我してるじゃないか!!」


海希「え?」


いつの間にか血が出ていた。

とは言っても、大した傷ではない。


どこで怪我したものだろう。

全く気が付かなかった。


けれど、怪我なら既にたくさんしている。

今更の話だった。


海希「本当だ...いつの間に怪我しちゃったんだろ?」


ジャック「さっきのだろ!たくっ、だから言ったのに....!!!」


そう言うと、彼は何を思ったのか、その箇所に顔を近付けた。

血が出ている所に唇を押し当て、軽く吸い付いてきたのだ。


彼の暖かくて柔らかい感触と、その突然の行動に目を見開いた。


海希「ちょっと!?」


ボッと火が着いたように顔が熱くなった。


こんな治療法は見た事がない。

と言うか、こいつはどう言うつもりなのか。

一体、こいつは何をしているんだ。


ジャック「唾でもつけとけば治るだろ。ほら、よくお婆ちゃんに言われなかった?」


そんな話はしていない。

それは、他人にするようなものでもないし、そんな迷信を全く信じていない。


そんな事より、顔が熱いのだ。


ジャック「...なんか顔赤いけど、頭がどうかしたんじゃないのか?」


海希「あんたのせいでしょ!」


どうして自覚がないのだろう。

女が嫌いだと言うのは本当なのだろうか。

頭がどうかしているのは、こいつの方だ。


ジャック「なんで僕のせい?意味が分からない」


海希「意味が分からないのはあんたよ!見知らぬ女の子の肌をあんたは舐めたのよ!?」


何故分からないんだ!


と、はっきりと言ってやると、ジャックは口をポカンと開けた。


ここまで言ってやったのだ。

私の言いたい事が伝わったみたいで、みるみるうちに頬を赤くしていく。


ジャック「別にそんなんじゃない!僕はただ、血を止めようとしただけで...って言うか、全部お前が悪いんだろ!?」


海希「あんた、馬鹿なの?!血を止める方法なんて、いくらでもあるでしょうが!」


ジャック「誰が馬鹿だ!!お前の方が馬鹿だろ!こんな所で怪我するなんて、いい迷惑だ!」


海希「だったらもっと分かりやすくしないさいよ!触るの禁止って札でも提げてなさい!色々あるでしょうが!」


ジャック「勝手に入って来たのはそっちだろ!だいたい、ここは立入禁止なんだ!」


海希「それをもっと分かりやすくしとけって言ってるの!子供だって勝手に入ってこれるわよ!」


激しい言い争いが始まる。

気が付けば、お互いが立ち上がってひたすら叫び合っていた。


あぁ言えばこう言う。

こう言えばあぁ言う。

その繰り返しだった。

まるで、子供の口喧嘩だ。


最終的には、何が原因で言い争いが始まったのか分からない程の内容で罵り合っていた。


やはり、こいつとは相性が悪いらしい。

レイルといる時より、よっぽど疲れる。


ジャック「本当にムカつく奴だな....なんか疲れる」


海希「私だって疲れるわよ....」


一通り言い争いをした後、お互いに肩を上下させていた。


呆れたように溜息を吐くジャック。

柔らかそうなオレンジ色の髪をかき上げ、彼はその場にまた座り込む。


そして、これみよがしにまた溜息を吐いた。


海希「....でも、良い気分転換になったわ」


短い髪を耳にかけ直しながら、私はポツリと言った。


舐められた傷口にまだ違和感は残っていたが、それも私を思っての事だろう。

かなり許し難い行為だと言えるが、レイル達と比較すればマシだと言える。


...なんだかこの世界に来てから、随分と自分の中のハードルが低くなった気がする。


ジャック「なんだよ、いきなり?」


海希「ずっと落ち込んでたから、スッキリしたわ。ありがとう」


なんてみっともない事を言っているんだろう。

そのストレスを、彼にぶつけてしまった。

思わず作った笑顔に、ジャックは少し慌てている。


ジャック「なっ!?それって、僕に八つ当たりしてるって事だろ?!」


海希「そうよ...じゃぁ、謝った方が正解ね。ごめんなさい」


なんだか自分がおかしくなった。

初対面の人間と言い争いをするなんて、現実世界なら有り得ない。


ジャック「まぁ....僕も仕事ばかりの人間だから、スッキリしたかも」


私から視線を逸らし、彼が口にした。

私は、彼の隣に腰を下ろした。


海希「友達は居ないの?」


ジャック「友達?友達なんか必要ない」


凄く寂しい事を言う男だ。

いくら仕事ばかりとは言え、人付き合いは大事なものだ。


海希「休みの日なんかはどうするのよ?1人なの?」


ジャック「そりゃ、家で本を読んだり料理をしたり....って言うか、僕のプライベートなんか訊いたりして、やっぱりストーカーじゃないか」


お前の人付き合いの心配をしているんだと、声を張り上げたいくらいだった。

こいつは、まだ人をストーカー扱いしたいらしい。


海希「そんな事する訳ないでしょ!だいたい、友達も居ない奴をなんでストーカーしなきゃいけないのよ」


それに、私はストーカーされる側だ。

現に、裸だって盗み見られていた。

私はジャックの裸など、全く興味がない。


海希「ビアンカは友達じゃないの?それとも恋人とか?」


ビアンカが彼の事を教えてくれたのだ。

それなら、彼女とは面識があるだろう。


ジャック「彼女は同僚の保護者みたいなものだ!変な勘違いするなよ」


海希「そうなの?じゃぁ、あなたは友達が本当に居ない訳ね」


ジャック「居ないとは言ってない。ただ、要らないって言ったんだ」


どちらでも同じじゃないか。


こいつは、友達が居ないぼっち人間。

なんて可哀想な奴なんだ。


こんな薄暗い所でひたすら仕事ばかりしているから捻くれてしまうのだ。

そうに違いない。


と、勝手に決め付けておく。


海希「友達は大事よ?あなた真面目そうだから、ストレスとか溜め込みそうだし....そう言うのを友達に吐き出さないと、身が持たなくなるわよ?それに、病気になった時とか誰に助けて貰うのよ?」


ジャック「それは...って言うか、大きなお世話だって。そこまで心配して貰わなくても、僕は誰かみたいに、道端で倒れたりしないよ」


本当に捻くれている。

私の上げ足を取るなんて、なんて奴だ。


それでも彼は、私の命の恩人でもある。

嫌味を言われても、そこまで怒っていない私は、ふと軽い気持ちで言ってみた。


海希「あなた、本当に捻くれているわね。そんなんだから友達がいないのよ」


ジャック「それはあんたもだろ。人の事が言えるのか?」


海希「そうね、私もだいぶ捻くれているかも。だから、ひねくれ者通し、友達になってあげる」


ジャック「はっ?」


目を丸くさせ、私を唖然と見ている。

私は気にせず続けた。


海希「友達よ。なんだか、あなたが心配だしね」


彼の柩に誰も葬列しない事を想像すると、可哀想過ぎて、涙が出てきそうだ。

せめて命の恩人の為に、私だけでも並んであげるべきだ。


こんな危険な仕事なのだから、いつ死んだっておかしくない。

現に、私もさっき死にかけたのだから。


ジャック「なんだよ、それ?凄くありがた迷惑...って言うか、友達なんて要らないって」


まだ彼は言い張っている。

このぼっち症候群め。

と、とりあえず毒吐く。


海希「あなたね...」


そう言って、私は彼に体を寄せた。

手を伸ばし、何気なく彼の頬に触れる。


ジャック「!?」


土で汚れていた頬を、優しく拭ってやる。

その間、彼は硬直したように大人しくしていた。


海希「泥がついてたわよ。こういう事も、友達がいないと気付かないでしょ?」


綺麗になった彼に、クスッと小さく笑った。

すると、彼の顔がまた赤くなる。


ジャック「な....ななななっ!!!」


まるで、壊れた玩具のようだ。

ひたすらその言葉を繰り返している。

何をそんなに焦っているんだ。


ジャック「お、お前、馬鹿じゃないのか!?そんな...!!」


海希「泥を取ってあげただけでしょ?キスした訳でもあるまいし....」


ジャック「キス!!?」


さっきから煩い奴だ。

一々大声を上げてくる。


...あぁ、そうか。


私の中の黒いものが疼く。

私は、思わず口元をニヤつかせた。


海希「あなた...女の子に慣れていないのね?」


仕事一筋のぼっち人間。

確実にそうだ。

そうとしか思えない。


女が嫌いだと言っていたが、嫌いと言うよりも扱いに慣れておらず苦手と言った方が正しいのだろう。


今時、とても珍しいタイプの男性だ。


ジャック「え?」


私がズイッと詰め寄ると、彼は後退る。

更にこちらが詰めると、その分彼も退く。


なかなか面白い反応だ。


こういう人間を見ると、少しいじめたくなってしまうのも、私が悪い性格の持ち主だと言う証だ。


海希「まぁ、良いわ。あなたが友達が要らないって言うなら、私も別に無理強いはしないし。変な事言って、ごめんなさい」


私は立ち上がり、服についた土を払う。


長くここに居座り過ぎた。

早くここから出なければ、間に合わないかもしれない。


悪ふざけとは言え、命の恩人に失礼な事も言い過ぎた。

ここは、足早に去ってしまおう。


ジャック「...あんたとなら、良いよ」


海希「?」


突然、ポツリと彼が口にした。

電球に照らされた暗い場所で、彼の声が響く。


ジャック「あんたとなら、友達になってやっても良い」


素直じゃない男だ。

でも、素直じゃないのは私も同じ。


そう言った所は、私も人の事が言えないだろう。

なんだか親近感が湧いてしまい、私は笑うしかなかった。






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