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OTOGI WORLD   作者: SMB
* have an adventure *
44/92

塔からの脱出


大きな窓を静かに開けた。


そこからふわりと入り込んできた冷たい空気。

思わず両腕を摩りながら、身震いした。


昼間は眠気を誘ってくるような暖かさなのに、夜になれば冬をまじかにしたような秋の気温。


この世界に、四季なんてものはあるのだろうか。

いつだって、春のような陽だまりに包まれている。

なのに、季節物の野菜や果物は城下町にある店にいつも顔を並べていた。


人だけじゃなくて、ここは季節も食べ物もおかしいのか。

いや、この世界では私の方がおかしいのだろうと、ふと考え直す。


どこからか聴こてくるフクロウの声は一つではなく、いくつもの声が重なり輪になって響いていた。


夜にだけ聴ける演奏会。

綺麗なハーモニーに耳を傾ける。


本当に自然が豊かな世界。

周りの人間の個性も豊かだが、この緑の豊かさだけは魅力的に感じていた。


真っ暗な空に浮かぶ半分に欠けた月が、朧げな明かりで私に催促する。


早く、ここから脱出しなければ。


私だって、早くここから出たかった。

だから、こうやって夜が来るのを待っていた。


結局、狙った獲物は逃がさない凄腕スナイパー姫から逃げる事は不可能だと悟った。

彼女の目が光っている内は、何をしても無駄。


帰して欲しいとお願いしてみても綺麗に流されてしまうし、外で遊ぼうと誘い出してみても、その銃口が火を吹こうとするだけ。


なので、バレッタと夜を共にした。

無論、変な過ちは犯していない。


所詮は少女なのだ。

力だけなら、私の方が上。

抵抗するのは容易い事。


眠れずにいた私は(眠れば彼女とのピンクの世界が待っているから)、バレッタが眠るのを待ってから、塔を脱出する決意をした。


隣で眠る少女は私が逃げないようにと、ご丁寧に長い髪で私を拘束していた。


けれど、彼女が眠れば、その呪縛から容易く抜け出る事が出来た。


どうやら、長い髪を操る事が彼女の能力らしい。

長い髪のお姫様らしい能力だ。


リュックを背負いながら、塔の下を見下ろす。


地面が、どこもかしこも大きくえぐれている。

大きなシャベルで深く掘り起こされたように、いつくもの大きな穴が空いていた。

緑が大幅にはげ散らかしている。

たくさんの木々の残骸と、焦げたような臭いが今も漂っている。


戦の深い傷跡を見つめながら、私はもう一度身震いした。


...だからか。


ここに来る時に、ヘンゼルが私にした誘導。

あれがなければ、私は完全に灰になっていた。


...いや、あいつのせいで私はここにいる。

この世界の子供は、みんな狂っている。

このままだと、子供が嫌いになってしまいそうだ。


そんな事はさて置き、私はここから降りる方法を考えた。


気持良さそうに眠っているバレッタの髪は使えそうにない。

そんな事をすれば、このチャンスは先送りになってしまう。


仕方なく、窓に付けられたカーテンを静かに外していく。

それを繋ぎ合わせ、部屋の柱に巻きつける。


窓から垂らしてみるが、地面からニメートル程の距離が空いていた。


仕方がない、なんとかあそこから飛び降りよう。

そんな決意を胸に抱きながら、私はベッドの上で眠っている少女に視線を移した。


少女らしい可愛い寝顔。

銃を使いこなす子供には見えない。


海希「バレッタ、ごめんね」


私がここにいては、彼女にとって毒にしかならない。

それに、私の身がもたない。

...純粋な少女に育って欲しい。


そう願いながら、私はカーテンに掴まりながら徐々に下へと降りていった。


地面から足りない部分は、痛い思いを覚悟し、カーテンから手を離す。

なんとか足で踏ん張り、小さな声を漏らした。


窓を見上げ、彼女が起きていない事を確認すると、私はすぐさま走り出した。

無意味に身をかがめ、戦場になった無残な地を走り抜ける。


バレッタに蜂の巣にされた、客人と呼ばれる刺客に感謝しなければならない。

でなければ、私はここから1人で逃げ出せなかった。


闇夜に紛れ、忍者になりきったように爽快に駆け抜けて行く。

足を止める事なく、木々の中を突き抜けた。

今の私は風より早く、猫より俊敏に動いている筈だ。


海希「ここまで来れば平気ね」


塔が見えなくなった所で、ふぅっと息を吐いた。


こんなメルヘンな世界で、いつまでも百合色を残していては駄目なのだ。

しかも、相手は少女...


彼女は引きこもりだ。

あんな場所に引きこもっているから、私のような変な女に惚れてしまうのだ。


もっと外に出れば、素敵な男性などたくさんいる。

たとえ女性が好きだとしても、私なんかより可愛い女性だっている。


彼女が言う可愛いの基準が分からない。

私を可愛いだなんて、趣味が悪すぎる。


だいたい、私に惚れていた日向先輩やレイルでさえ、好きになった理由に"可愛い"は入っていなかった(決して言われたい訳ではない)。


それに、私にちょっかいを出してきたあの葉緑体(ピーター)は、惚れていると言うより燃えているらしいし、あのウサギ男に至っては、もはや何がしたいのか分からない。


なにせ、可愛いなどという言葉は私には似合わない。


なんだか、変な体験をしてしまったがきっぱり忘れるしかない。


無駄に1日を使ってしまった。

自分で忘れそうになっていたが、私は時間に追われているのだ。


こんな事をしている場合ではない。


夜空にはまだ月が浮かんでいるが、夜明けを待っている気もなかったので、私は辿るべき道を歩いていった。


軌道修正しなければ。

私の目的も話の流れも逸れ過ぎている。


痛くなる頭を押さえながら、私は躊躇なく前に進んだ。






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