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OTOGI WORLD   作者: SMB
* have an adventure *
41/92

落し物には要注意!


海希「疲れた...」


現実世界でも、このおとぎの世界でも、歩く事には慣れていたつもりだった。


けれど、私の足はとても正直だ。


関節が微かに痛み始めている。


歩いても歩いても同じ景色が広がるばかりで、鏡の城なんてものは一向に見えてこない。

その事が余計に、私の気力だけを削り取っていく。


どうしてこの世界は、こんなに緑が多いのだろう。

いや、植物が多い事はとても良い事だ。

動物だって快適に過ごせるだろうし、温暖化だって免れる。


だからと言って、電車や車を走らせてはならないと言う事ではない。


海希「駄目...少し休もう」


額から流れる汗を拭いながら、私は呟いた。


本当に、3日で鏡の城に着く事が出来るのだろうか。

まだそんなに経っていないが、今の私の足の疲労力がそう言っている。


...あの胡散臭いオヤジめ。

まさか、私に嘘を吐いたのではないだろうか。


一度道を外れ、木々の中へと入っていく。

影に入ると、風が涼しく感じる事が出来た。


少し奥へ入った先に、池を見つけた。

私はそこへ歩み寄り、水面に自分の顔を映す。


これはとてもラッキーだ。

そこに手を入れ、水をすくう。

ひんやりとした水の冷たさが、熱を持った私の体を冷やしてくれた。


とても気持良い。


なんなら、このまま飛び込みたいと思ったが、ここは外だ。

残念ながら、私はそんなに野性的ではない。


せめてと思い、ハンカチを取り出して水の中に沈めた。

水を染み込ませ、それを両手で絞った後、体を丁寧に拭いていく。


静かな空間。


銃声や爆音、叫び声も聞こえない。

ただ、鳥の可愛いさえずりが音楽のように聴こえてくるだけ。


とても平和だ。

私が求める安らかな時間。

私が想像していたおとぎの国。


どこかのお姫様が、小動物とお話をしに登場してきても、おかしくない状況だ。


海希「わっ!!!?」


癒されていた私は、思わず声を上げた。

足元で飛び跳ねた大きなカエルに驚き、思わず尻餅を着く。


とても油断していた。

私は爬虫類や昆虫が苦手なのだ。


海希「あっ!」


大きなカエルに気を取られていて、それを手離してしまった事に気付いていなかった。


私が気付いた時には、それは水面を漂い、水を多く含ませ水中へと沈んでいくさまだった。


私のお気に入りのハンカチが...


ここで買ったものではなく、現実世界から共にしてきたハンカチ。

母親に買って貰った、大事なハンカチでもあったのに...


姿を消したハンカチに、私は大きく溜息を吐いた。


ついてない。

たかがハンカチだが、されどハンカチだ。

諦めるしかない私は、もう一度大きく溜息を吐いた。


海希「....?」


池の真ん中辺りから、ブクブクと音が聞こえ始めた。

しばらくすると、慌ただしく泡が立ち始め、湯を沸かしたようにゴボゴボと激しい音に変える。


その異様な光景に、私は思わず後退った。


一体なんだ。


ドキマギしながら様子を見ていると、そこから飛び出してきた人物がいた。


跳ね上がる水飛沫。

その雫が、シャワーのように降り注ぐ。


??「.....」


優しい笑みを浮かべた女性。

白いワンピースのような物を着込み、長い髪には艶がある。

水の中から出て来た筈なのに、何故か服や髪は濡れていない。


その身なりと雰囲気からか、私の目には彼女から後光が差しているのが見える。


私は、ゴクリと息をのんだ。


女性「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?」


そう言いながら、女性がどこからともなく取り出したのは、金色に輝く斧。

それを見た瞬間、私の体は硬直した。


これは...

こんな場所で会えるとは。


という事は、彼女はこの池の女神様なのか。

と、勝手に解釈させて貰う。

が、話通り過ぎて私は焦っていた。


海希「....ち、違うわ」


明らかに違う。

全てにおいて違う。

金の斧なんて、落としていない。


女神「では、あなたが落としたのはこの銀の斧ですか?」


取り出したのは、今度は銀色に輝く斧。


眩暈がした。

さっきの言い方では、どうやら足りなかったようだ。


海希「いえ、違う。って言うか、全然違うわ」


そもそも、斧なんて物は落としていない。


私が返して欲しいのは、ハンカチだ。

何の変哲もない可愛らしいハンカチ。


それはどこへ行ったのだ。


女神「あなたは正直な方ですね。ならば、この2つの斧をあなたに差し上げ...」


海希「いらない!!!」


女神様に対して、とても失礼だったかもしれない。


だが、即答させて貰う。


確かに正直に答えた。

何故なら、斧なんて落としていないからだ。


そんな物は必要ない。

なんなら、荷物になるだけだ。

そんな重荷なるような物は欲していない。


海希「あの、私が落としたのはハンカチなんですけど」


話に忠実過ぎて、とても困った女神様だ。

これでは、何を落としても斧が出てくる。

なんでもかんでも、すべて斧で解決すると思わないで欲しい。


女神「あら、間違えたわ」


彼女は、ついうっかり、と舌を出して笑っていた。

所謂、テヘペロと言うやつだ。


女神「ごめんなさい、これは前にやって来た男性の物だったわ。あなたが落としたのはこっちね」


そう言って、仕切り直す。

けれど、彼女の取り出し物に私の顔は青ざめた。


女神「あなたが落としたのは、この金のアサルトライフルですか?」


思ってもみなかった物が飛び出してきた。


一度だってそんな物は手にした事がない。

その細長い黒い銃は、いつだって私を恐怖に陥れる代物だ。


海希「だから違うってば!」


人の話を聞いていたのだろうか。

いや、確実に聞いていない。

聞いていたら、こんな恐ろしい物は出てこない。

どうやったら、私の可愛いハンカチがこんな恐ろしい兵器に変わるんだ。


女神「では、あなたが落としたのはこの銀の...」


海希「違う!金でも銀でもないし、まずそんな恐ろしい物を落としていないわ!絶対にいらないからね!」


既に彼女のパターンは読めていたので、まとめて言ってやった。

そんな物を落としてしまう人物がいるとした、狂乱ドロシーか凶悪双子のいずれかだ。


女神「あら、また間違えたわ」


二度目のテヘペロを見せ付けられる。

もはや、この顔がしたいだけではないかとさえ疑ってしまう。


女神「あなたが落としたのは、ハンカチだったわね」


今更何を言っているんだ。

私は少し前に、そう言ったではないか。

と、心の中で舌打ちをした。


とても厄介な女神様だ。


落とし物をする時は、これからは細心の注意を払わなければならない。

今日の出来事は、私にそれを学ばせてくれたのであった。







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