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OTOGI WORLD   作者: SMB
* fall in otogi world *
31/92

白ウサギは追いかけちゃ駄目

すっかり日は落ちている。


最近、ずっとレイルにベタベタされたり、逃亡劇を繰り広げたり、銃撃戦に巻き込まれたりと忙しかった。


しかし、今日は違う。

久々に女子会と言うものをした。


落ち着いた雰囲気で、ゆっくりとお喋りを楽しんだ午後。

とても良い時間を過ごせた。

服だって汚れていない(いつも土埃まみれになる)。

そのせいで、時間も忘れてしまっていた。


海希「ごめんね、ドロシー。こんな時間まで付き合わせて」


隣を歩くドロシーに謝っておく。

すると、彼女は首を横に振った。


ドロシー「あたしも楽しかったから、つい長話しちゃった」


女の子同士とは良いものだ。


危険な出来事は、何一つ起こらない。

とても幸せに感じる。

普通過ぎて、涙が出そうだ。


門を潜り、城下町の外へ出た。


互いの帰る場所が同じ方向と言う事もあり、しばらく並んで歩いていた。


帰り道でも女子トークを盛り上げていると、前を歩いて来る兵士達を見付ける。

一瞬焦りはしたが、頭巾を深くかぶり、出来るだけ下を向いていた。


列をつくって歩いて行く兵士達。

呼吸するのも忘れてしまう。


??「.....おや?」


最後の一人が通り過ぎるのを待っていた時だった。


やめろ、やめてくれ。

話しかけないでくれと願っていたが、彼は容赦なく、声を掛けてきた。


??「あぁ!貴女は確か、あの時の!」


顔を上げる。


ウサギ耳が、ぴょこぴょこと動いている。

彼に見覚えがあった。


海希「あ....どうも」


迷子のウサギさんだ。

耳を見れば、一瞬で思い出す事が出来る。


美系男のウサギさん。

相変わらず綺麗な顔立ちをしている。

男のくせに、なんとも羨ましい。


どうして兵士達と一緒にいるのだろうと思いつつ、出来る限り声を潜める。


ウサギ男「一日に二度も出会う事が出来るなんて、奇遇ですね。そうだ!あなたのおかげで、今日は1時間ほどしか遅刻しませんでしたよ!」


1時間も遅刻をしたのか。


いつもはどれくらい遅れているのかが気になるところだ。

現実世界なら、そんな遅刻魔は即刻クビにされている。


海希「はぁ...それは良かったのかしら」


耳が....耳が動いているのが気になる。


兵士「お知り合いの方ですか?」


兵士が近付いて来る。

私は咄嗟に下を向いた。


ウサギ男「えぇ。親切にも、私に道を案内してくれましてね」


兵士「はぁ...そうなんですか」


何故かその兵士は、私に同情の眼差しを向けている。


きっと、常習犯なのだろう。

彼の方向音痴には、みんなが迷惑している事が分かる。


ウサギ男「確か名前は...あぁ!そう言えば、助けて貰ったのに、名前をお尋ねするのを忘れていました!」


ウサギさんは、ポンっと手を叩いた。


そう言われてみれば、私も彼の名前を知らない。

いや、別に知らないままで良い。

知ったところで、何も変わらないし困らない。


兵士「ん....?」


相手の顔が、私に近付いて来る。

立派な兜。

目の辺りの位置から、強い視線を感じた。


兵士「お前は...!!!」


まずい。

非常にまずい。

バレてしまった。


ウサギ男「おや?どうかしたのですか?」


兵士「この女はチェシャ猫といた女です!しかも、他所から来た人間!」


隣にいたドロシーの手を咄嗟に掴んだ。

気が付けば、既に走り出している。


ウサギ男「あっ、待って下さい!」


ウサギ男に呼び止められたが振り向かない。

振り返っていられない。


ドロシー「アマキ!?」


海希「ごめんね、ドロシー!」


謝りながらひたすら走る。

背中の向こうから聞こえて来る兵士達の声は、私達を追ってくる。


今は、ピーターもレイルもいない。

頼れるのは自分しかいないのだ。


私は鬼ごっこが得意ではない。

逃げ切れる自信もない。


それでも、走る事を止めてはいけない事ぐらいは分かる。


かなりドロシーを巻き込んでいる。

申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだ。


兵士「女!止まるんだ!」


止まれと言われて止まる訳がない。

そんなセリフは無視する為にあるようなものだ。

止まって欲しいなら、追いかけて来ないで欲しい。


けれど、このまま何処に逃げて良いやら分からない。


建物も何もない、見渡しの良い場所。

隠れる場所さえない。


何処かに身を隠す場所がないかと探していると、前方に見覚えのあるものが目に入った。


突然、宙に浮かぶ青い光。

光はやがて円を描き、図形を創る。

そこから飛び出してきたのは、レイルだった。


海希「レイル!」


レイル「アマキ!あんた、何処行ってたんだ?いつまで経っても帰って来ないから、心配して...」


空いていたもう片方の手で、今度はレイルを掴んだ。

一緒に逃げる人物が、1人増えてしまった。


レイル「え?にゃににゃに?」


海希「逃げるわよ」


今の状況を分かっていないレイルを引っ張って行く。

けれど、彼が来てくれた事によって逃口は見つかった。


ドロシー「レイル、こんにちは...」


レイル「げっ、ドロシーじゃねぇか!なんでお前が...」


兵士「チェシャ猫だ!」


撃ってくる弾。

後ろでドロシーが悲鳴を上げた。


レイル「なんだ、追われてたのかよ?早く言ってくれれば良いのに」


と、レイルは私の手を離した。


拳銃を取り出し、相手に撃ち返す。

いつもの銃撃戦の始まりだ。


海希「ちょっと!今は逃げるの!」


今はドロシーもいるのだ。

彼女のいる前で、撃ち合いなんてしたくない。


レイル「大丈夫、すぐに終わるからさ!」


ちらりとドロシーを見てみる。

彼女はその場に蹲り、ガタガタと震えていた。


海希「レイル!駄目だってば!」


なんとかやめさせようと、レイルを引っ張る。

その瞬間、私の目の前を流れ弾が通った。


海希「ひっ....!!!」


一瞬、動けなくなってしまった。

怖すぎる。

現実的にありえない。

こんな状況は、あってはならないのだ。


レイル「てめぇら....!!!!」


レイルが怒っている。

両手で拳銃をガンガン撃った。

撃ちまくっているせいで、視界が魔法陣で埋め尽くされていた。


と、背中越しから何かが投げられた。

丸くて小さいもの。

それが私とレイルを飛び越し、宙を舞って兵士達の中へと落ちていく。

その瞬間、勢い良く爆発した。


お、遅かった....


私は爆風になびく髪と、痛くなる頭を押さえる。


ドロシー「やってやんぜ!てめぇらの心臓に風穴開けてやんよぉぉぉ!!!!」


大きな音を出しながら、なにやらどデカイミサイルのような物を一発だけ撃ち込んだ。


その瞬間、地面が一瞬で消し飛んだ。


勢いよく砂煙が立ち込める。

その大きな音に、私は耳を塞いだ。


レイル「こら、ドロシー!あんまり前に出てくるな!」


ドロシー「やかましい!あたいは補助役なんてまっぴらごめんだよ!」


レイル「お前のやり方はこっちまで巻き込まれるって言ってんだよ!」


なんなんだ、この状況は。

一体、どうなっているんだ。


頭が痛くなる一方だ。

今度、買い物をする時に頭痛薬を買った方が良さそうだ。


たまに爆音がする。

きっと、ドロシーがまた爆弾を投げているに違いない。


もう、私では止められない。

なにせ私は、無能な一般市民なのだから。


しばらく激戦が続く中、私はその場で耳を塞ぎ、ジッとしていた。

音が次第に静かになっていく。


顔をゆっくり上げると、やりきった感溢れる2人の背中があった。


レイル「チョロかったな。遊びにもならないっての」


ドロシー「雑魚が、調子に乗りやがって」


目の前に、バラバラになったたくさんの鎧が転がっている。

人がたくさん死んでしまったと思うと、吐きそうになった。


だが、吐いたりはしない。

何故なら、そこは私が想像していた惨劇にはなっていなかったからだ。


鉄の塊が転がっているが、肉片や血の痕跡がない。


中身が無いのだ。

鎧を着用していた男達。

中の人の姿がない。


海希「あれ....空っぽ?」


ドロシー「国王の能力さ。魂の無い人形。あいつらは国を守る為だけ動いている。どんなに殺したって、湧いて出てくるのさ。だから、これで一網打尽にするしかない」


そう言って、持っていたダイナマイトを私にちらつかせる。

更には消えた兵士達に向かい、中指を立てていた。

女の子にあるまじき行為だ。


つまり、生身の人間ではない....という事。

だから、この2人は容赦なく相手を殺そうとするのだろうか。

そうでなくても、やめて欲しいものだ。


人を傷付けたり殺したりしてはいけない。

たとえそれが人間でなくとも、やって欲しくない。


ウサギ男「あ〜ぁ....よくもまぁ、こんなにやってくれましたね....」


コツコツと足音を立てながら、やって来る人影。

そのウサギ男は、大きな溜息を吐いた。


レイル「なんだ?まだやるってのか?」


相手にカチャリと銃を向ける。

私は咄嗟にレイルを止めた。


海希「レイル、やめなさいって!」


レイル「あいつは裁判所の奴だぜ?放っておいても、どうせ俺を追ってくる」


それはそうかもしれないけど...

やはり、私には止めるしかない。


海希「彼はそんなに悪い人じゃないわ...たぶん」


曖昧な言葉に、レイルは首を傾げた。


レイル「はぁ?なんだよ、たぶんって?もしかしてあんた、あいつに惚れたとか言うんじゃないだろうな?」


本人が目の前にいるのに、ふざけた事を言わないで欲しい。

私は頬を熱くした。


レイル「浮気....じゃないよな?」


海希「馬鹿な事を言わないで!さっさと行くわよ!」


何を考えているのか、あのウサギ男は微笑んでいるだけで何もして来ない。

逃げるなら今の内だ。


レイル「ちぇっ。なんだよ、胸糞悪いな...」


不機嫌そうに言いつつも、レイルは私の言う事に従ってくれた。

適当に銃口を向け、そこに発砲する。

浮かぶ魔法陣が、青く光りながらグルグルと回っていた。


レイル「ほら、行こうぜ」


ふと、ドロシーを見てみる。

彼女は、にやにやとしながら持っていたダイナマイトに火を着けている。


その姿に、私の顔は青ざめた。


ドロシー「じゃぁな、白ウサギ!これはあたいからの選別だ!」


導火線を食い潰していく小さな火。

パチパチと音を立てたそのダイナマイトを、ウサギ男に投げ付ける。


彼女を止める事に間に合わなかった私。

そんな私の手を引っ張りながら、レイルが魔法陣を潜ろうとした時だ。


海希「......!!!」


時計の針が、カチコチと進む音。


グルグルと回っていた魔法陣が、動きを止めていた。


私の指が、魔法陣に潜らない。

まるで、透明なガラス板のように潜り抜ける事が出来ないのだ。


海希「な、なに?なんで?」


隣にいた彼に、助けを求めようと声を掛けた。


海希「レイル、なんか反応しないんだけど....」


声を掛けても、彼からの応答はない。

私の声なんてまるで聞こえていないかのように、まっすぐに魔法陣を見ている。


海希「....レイル?」


様子がおかしい。

よく見れば、ドロシーさえ動いていない。

まるで、時間が止まったようにだ。

不自然過ぎる雰囲気に、私は後退った。


ウサギ男「無駄ですよ」


思ってもみなかった声に、私の体は飛び上がった。


声のする方を見てみると、ウサギ男が立っていた。

その綺麗な微笑みが、今では不気味に見える。


海希「...何をしたの?」


今、自分がおかれている状況がよく分からない。

分かっているのは、あのウサギ男が何かをしたと言う事だけだ。


ウサギ男「そんなに慌てなくとも、彼らは死んでなんかいませんよ」


コツコツと足音を立てて、近付いてくる。

私の目の前で立ち止まると、その細長い指で顎をくいっと持ち上げられた。


ウサギ男「貴女がそうだったんですか....へぇ、チェシャ猫もなかなか趣味が良いですね」


あくまでも、優しく微笑んでいる。


なんだか怖い。

抵抗出来ない。

赤い瞳が、私を捉えて離さない。


海希「ど、どう言う意味よ?」


ウサギ男「褒めたんですよ。貴女がとても素敵な方だから」


この状況で口説かれているのか。

なんて、自惚れた事は言っていられない。

とてもピンチだ。


海希「捕まえる気ね」


強気な態度をとってみせる。

この状況に、平然を装ったのだ。


ウサギ男「えぇ、そうですね。貴女だけなら、捕まえる気はなかったのですが、後からチェシャ猫が出てきてしまったのでね」


やはり怖い。

初めて会った時、そうは感じなかった。

ただの方向音痴のおとぼけな可愛いウサギだと思っていた。


海希「.....っ!!!」


なんだか腹が立つ。

こいつの能力は一体何だ。

そんな事をひたすら考えていた。


そこで目に入った物は、地面に落ちているダイナマイト。

それを見て、私は目を疑った。


海希「....止まってる!?」


ドロシーが着けた火が、導火線に点されていた。

チカチカと火花を散らした火が、進まずそこで止まっているのだ。


ウサギ男「もう名前を聞いても大丈夫そうですね。って言っても、女性から名乗らせるのは、失礼に値する」


ようやく、彼の手から私は解放された。

私はすぐに彼から離れ、睨み付けた。


ウサギ男「私の名前はセリウス・アクランド。赤の裁判所の補佐をさせて貰っています。どうぞ、お見知りおきを」


まるで、王子様のように丁寧に頭を下げられる。


冷たく感じる赤い瞳。

既に、恐怖しか感じない。


海希「わ、私は稲川海希よ」


ゴクリと息をのみこんだ。

どうしてこんな奴に、名前を名乗らなければならないのだろう。


だが、名乗らなければと思わせられてしまう。

彼の視線に射殺されてしまいそうだからだ。


私の名を聞いた後、彼は嬉しそうに表情を明るくさせた。


セリウス「アマキ...いい名前ですね」


絶対に嘘だ。

そんな事は思ってもいないくせに。

と、心の中で舌打ちをする。


海希「これはなんなの?なんで、みんな止まっているの?」


レイルもドロシーも。

気付けば風の一つも吹かない。


ただ、さっきから時計の音だけが聞こえてくる。

カチコチと、針の進む音。

とても奇妙だ。


セリウス「私の能力は、時間を少しの間だけ、止める事が出来ます。ほら、見て下さい」


取り出した懐中時計。

秒針が進んでいる。

それも、逆に進んでいるのだ。

秒針が一周しても、長針は全く動いていない。

この時計は、壊れているとしか思えない。


セリウス「なにぶん、こんな能力だから武器は必要ないんです。もともと、争い事は嫌いですしね」


海希「ちょっと待って。じゃぁ、どうして私は動けるの?」


一番の謎だ。


全ての動きが止まっている空間。

なのに、私は動いている。

セリウスは少し考えた後、ふわりと笑った。


セリウス「貴女は、この世界の人間じゃない。この世界の人間ではないという事は、この世界の時間枠に沿って存在していない。おそらく、それが答えでしょう」


これは夢だ。

ある意味、この夢に囚われ続けている。

もちろん私はこの夢の住人ではなく、現実世界の人間。


...なのに、いつからこんなにリアルに感じ始めたのだろうか。

この世界が夢ではなく、現実の世界だと。

そうでなければ、こんなに怖いとは感じない。


今更の話だった。

そう考えると、私の額から嫌な汗が流れた。


海希「...レイルは見逃してあげて」


私の可愛い猫。

現実世界で、私を支えてくれた。

あの子だけは。

コロだけは助けてあげたい。


海希「私が代わりに行くわ」


すると、セリウスはクスクスと笑い始めた。


セリウス「何を言っているんです?」


海希「今、あの子の親は私よ。責任は私がとるわ」


たとえ、私と出会う前の事だったとしてもだ。

それぐらい、私はコロに死んで欲しくない。


セリウス「何か勘違いしていませんか?」


海希「...何がよ?」


セリウス「私達が追っているのは、もともとチェシャ猫1匹。貴女を追っていたのは、彼の情報を知っているかもしれなかったからです。けれど、本人が今目の前にいる。貴女を捕まえる理由がありませんよ」


もっともな答えだった。


私は何も悪い事などしていない。

むしろ、レイルに巻き込まれているとさえ思っていた。

なのに、今はレイルの身代わりまで考えていたのだ。


セリウス「...微笑ましいですね。あんな小汚い野良猫にも、こんなに愛情を注いでくれる女性がいるなんて」


その言葉に、私はカチンっと来た。


海希「レイルは小汚くも、野良猫でもないわ。私の自慢の家族よ」


たとえ変態猫だろうが、犯罪者猫だろうが、私の大事な家族。

どこまでいっても、それは変わらない。


海希「コロをいじめる奴は、私が許さない!」


またうっかりその名前を呼んでしまったが、そんな事はどうでも良い。

コロだろうがレイルだろうが、どちらでも一緒だ。


セリウス「そうですか。なんだかよく分かりませんが...まぁ良いでしょう」


セリウスが、懐中時計に目をやる。

そして、それを懐にしまい込んだ。


落ちていたダイナマイトを拾い上げ、導火線に点された光を手で握り潰す。


セリウス「時間がもうすぐ動き出します」


光が消えた事を確認すると、適当に放り投げていた。


ゆっくりと近付いて来る。

そして、私の腕を掴んだ。


セリウス「今回は見逃してあげましょう」


海希「え?!」


予想だにしなかった言葉。

私は耳を疑った。


セリウス「貴女も、私を撃とうとした彼を止めてくれたでしょう?」


そして私を引き寄せ、ゆっくりと顔近付けてきた。

彼の暖かい吐息が、耳に触れた。


その瞬間だった。


時計の音が止まる。

ふわりと風が吹き、何もかもが止まっていた静寂だった空間に時間が戻ったのだ。


レイル「....っ!!?」


元いた場所に居なかった私。

レイルは、後ろにいた私に気が付いた。


レイル「アマキ?!」


海希「!?」


セリウスは、時間が動き出すと共に私の耳に軽く口付けをした。

そのまま軽く甘噛みされ、首筋を唇でなぞられる。


驚き過ぎて、動けない。


こんな....こんな.....


セリウス「これは、ほんのお礼です」


耳元でクスリと笑らわれた。

私の顔は、真っ赤になった。


レイル「てめぇ!ふざけんな!!!!」


激怒したレイルは、二丁の拳銃をセリウスに向ける。

けれど、セリウスは私を盾にするように、前へ突き出した。


セリウス「この子に当たりますよ?それとも、この子と2人でバカンスにでも連れてってくれます?」


笑っている。

まるで、楽しんでいるようだ。


レイル「てめぇだけは絶対許さねぇ!!!」


そう言いつつも、レイルは撃たない。

私がいるせいだ。


セリウス「...次に会った時も、また道を教えて下さいね」


優しく言って、私をレイルの方へと突き飛ばす。

突き飛ばされた私は、レイルに受け止められた。


私の顔はまだ赤い。

熱くてたまらない。


レイル「絶対殺す!」


海希「レイル!」


別の意味で熱くなっているレイルを止める。

尻尾の毛がボワッと逆立ち、いつもより太く見えた。


相手には勝てない。

撃ったところで、また時間を止められてしまう。


海希「帰ろう?」


聞き分けの悪い子供をあやすかのように、私は優しく言った。


レイル「でも、こいつはあんたに....!!!」


海希「お願い」


もう一度言う。


レイルはずっとセリウスを睨んでいた。

すぐにでも撃ってしまいそうな勢いだ。


もしかすると、言う事を聞かずにこのまま撃ってしまうんじゃないかと思ったが、私が見守っていると、拳銃をゆっくりと降ろしてくれた。


グルグルと回る魔法陣に向き直る。

いつものように私の手を握り、歩き出す。

握る力は、いつもより強い。


私は、ちらりとセリウスに振り返った。


笑顔でこちらに手を振っている。

またね、と言わんばかりに楽しそうにだ。


レイルが飛び込む。

そして、その流れで私が。

その後に狂乱ドロシーが。


風景がガラリと変わり、そこはいつもの森の中だった。





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