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OTOGI WORLD   作者: SMB
* fall in otogi world *
30/92

世界樹と林檎


女性「お待たせしました〜。アイスのミルクティーと、アップルティーになります」


店員から、飲み物を受け取る。

私はミルクティーを。

ドロシーはアップルティーをだ。


ドロシー「....でね、パパがあたしに言ったの。最近、お前の売り上げが良いから、今度遊びに連れてってやるって」


とても嬉しそうに話すドロシー。


私達は、城下町にあるカフェにいる。

カフェテラスの席に座っている私達。

道行く人々を眺めながら、暖かい午後を過ごしているのだ。


海希「ドロシーは、お父さんの事が大好きなのね」


ドロシー「えぇ。厳しい時もあるけど、父親としては尊敬しているわ」


ドロシーには悪いが、私は別の事を考えていた。

彼女が口にする、そのアップルティー。

その一点だけを見つめている。


海希「....やっぱり不思議ね」


つい、本音が出てしまう。

それを普通に飲んでいるドロシーに対してではない。


ドロシー「どうしたの?」


ドロシーは私の目線に気付き、ピクリと体を震わせた。

なぜなら、私が凝視しているからだ。


海希「不思議なのよ」


不思議でしょうがない。

この世界の七不思議の一つに入ってもいいぐらい不思議だ。


海希「林檎は食べちゃ駄目なのよね?なんで、アップルティーは良いの?」


アップルパイや林檎のコンポート。

周りを見ても、明らかに林檎を使った食べ物を食べているお客さんだっている。


海希「成分?成分量の問題なの?」


ドロシー「アマキ、落ち着いて」


しつこく訊いてしまった事が彼女を怖がらせたのか、ドロシーは震えている。


海希「あ....別に怖がせていないから!ごめんね!」


彼女は、恐怖を限界まで感じると狂乱してしまう。

そうなってしまうと、ここは戦場にされてしまうだろう。

私のせいで、こののどかな午後を地獄絵図にしたくない。


海希「少し気になって。林檎を食べると死刑なんでしょ?なのに、みんな林檎を食べてる」


ドロシー「なんだ、そんな事を気にしていたの?」


彼女がクスクスと笑っている。


ドロシー「林檎は林檎でも、これは良いのよ。だってこの林檎は赤いもの」


林檎は赤い。

なら、青い林檎は駄目なのだろうか。


海希「じゃぁ、青林檎は駄目なの?」


ドロシー「そんな事はないわ。それじゃぁ、青林檎が可哀想」


可哀想なのは私だ。

一向に理解出来ない。

この林檎事件も、迷宮入りしてしまう。


ドロシー「この世界にはね、赤や青の他にも林檎があるの。でも、誰も見た事がないの」


海希「見た事がない林檎なのに、食べたら死刑なの?」


更に不思議だ。

とても高級で、手に入りにくい林檎なのだろうか。


ドロシー「そうよ。これは、ここに伝わるお話なんだけどね。遙か遠い昔、ここにたくさんの神様が住んでいたの」


と、彼女は昔話を話し始める。


ドロシー「もちろん、私達みたいな人間も住んでいたわ。彼らは、ユグトラシルを守り、この世界を守る事が役割だったの」


神話。


私の現実世界でも、そんな話はある。

私が相槌を打つと、更にドロシーは話を続けた。


ドロシー「...で、彼らには、もう一つ守るべき物があった。ユグドラシルに実る果実よ」


海希「果実?」


ドロシー「そう。その果実を口にすると、永遠の知を得ると言われていた。永遠の知は、永遠の力。その魅力に惹かれ、誰もが求めたそうよ」


ゴクリと息をのむ。

いつの間にか、ドロシーの話に聞き入っていた。


ドロシー「どんな力が手に入るのかは分からないけれど、とても良い物だったのね。その果実を巡って、皆が争った。我先に手に入れようとしたの。それが、神様の逆鱗に触れてしまった」


海希「それで...それでどうなったの?」


ドロシー「愚かな争いをした人々に、彼らは天罰を下した。それがラグナロク」


ラグナロク?

なんだか聞いた事のある言葉。

きっとまた、ゲームや映画の影響だ。


ドロシー「この世界を0に戻したの。一度無に戻し、新たな世界を誕生させた。それが、今、私達が住む世界よ」


なんて神秘的なんだ。

メルヘンの中に、そんな神秘なものが隠されていたなんて。

私の夢にしては、出来過ぎている。


ドロシー「再生された時に、神様は二度と争いが起きないよう、果実を実らないようにしたの。そして、その果実を口にする事を禁忌にした」


海希「もう実らないのに、禁忌にしたの?」


ドロシー「そうよ。この話は、ここじゃぁ、有名なの。本当の話かは定かじゃないけど」


しかし、現に法律に組み込まれている。

その果実を食べれば、首をはねられてしまう。


海希「それが林檎なのね。もう実らないのに、どうやってそれを食べるのよ」


矛盾している。

もう手に入らない林檎なのだ。

そこまで、重要視される意味もない。


ドロシー「噂ではね、その果実はまだ存在しているって言われてるの。現に、レイルはそれを口にした」


....そうだった。

レイルは、それで指名手配犯になっている。

一体、どこでそんな物を手に入れたのだろう。


海希「本物だったの?だいたい、誰かレイルが食べた所を見たの?」


ドロシー「お城の人がね。果実を持ったレイルを見つけたの。それで追いかけた....そして、逃げる寸前に口にしたのよ。金色に光る、その果実を」


半信半疑だ。

普通の林檎に絵の具を塗った物かもしれない。

レイルの事だ、十分に有り得る。


と、そこまでレイルを庇ってしまうのは、私もまだまだ良い飼い主だという事だ。


海希「....あなたは、レイルの事を信用していないの?」


恐る恐る訊いてみた。

彼女を疑っている訳ではないが、あのお菓子屋の双子事件の事もある。

いつ売られるか分からない。


ドロシー「禁忌を犯したとしても、レイルは友達よ。それに、戻ってきたレイルに会ってみて、彼は何も変わっていなかったわ。永遠の力なんて、どんな力なのかも分からないし、本当にあるのかどうかも疑わしいわ」


その言葉に安堵した。


ドロシーは、やはりドロシーだ。

優しくて、友達を大事にする子。

レイルに、もっとドロシーに優しく接するように、説教をしようと思う。


金色に光る果実とは、金色の林檎という事になる。

黄金の林檎...確か、あの奇妙な屋敷で見た言葉だ。


ドロシー「あたし的には、あなたの方が不思議よ?」


突然のドロシーの一言に、私は目を丸くした。


海希「え?」


ドロシー「だって、あなたってここの世界の人じゃないもの。何処から来たのかなって」


優しい笑みを浮かべ、紅茶を口にしている。


ドロシー「あなたの世界は、どんな場所だったの?」


初めて訊かれた事だった。

私が住む現実世界。


海希「そうね、私の世界は....」


少なくとも、ここの人達のような不思議な能力は持っていない。

車や電車が走り、人を殺せば捕まってしまう。


さらに言えば、レイルやドロシー、そしてピーターは銃刀法違反だ。

無免許の運転も、問答無用で処罰される。


獣耳を生えやした人もいない(遊園地のようなテーマパークに行けば、似たような人はいる)。


それが、私の現実世界。


もっと違いはある筈だが、全てを説明しようとすれば長くなるだろう。


女2人の楽しいお喋りは、まったりと時間を進めてくれた。

銃やナイフで邪魔されなくて済む、とても優雅なひと時だった。





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