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OTOGI WORLD   作者: SMB
* fall in otogi world *
29/92

案内人はウサギさん?


ドロシーとお買い物の約束をしていた私。


その為、またメルヘンな世界に溶け込むように、メルヘンな変装をしている。


たまに、1人でどこかへふらりと出掛けるレイルを見計らい、私も出発した。


やはり買い物は、城下町に限る。

いろんなお店があり、一番楽しめるのだ。


お城の方へと歩いて行く。


今日も天気が良い。

歩くのはとても面倒だが、嫌にはならない。


海希「....ん?」


分岐点までやって来る。

その前で、頭を抱えてうろうろしている人物がいる。


??「えーっと...確かこっちだったような...」


ブツブツと何かを呟いている。

その頭には、真っ白なウサギの耳が生えていた。


うわぁ、出た。

と、思わず目を疑ってしまった。

できるだげ、獣耳を生やした人間に関わりたくない。


ウサギ男「いや、でもこっちだった気もしますし....いや、その裏をかいてこっち....の裏をかいて実はこっちだったり...さらにその裏をかいて...」


どれだけ裏があるのだ。

そこまでいくと、どれが表かも分からない。


とりあえず、道に迷っている様子だった。


ウサギ男「...あっ!そこのお嬢さん!」


無視をして横切ろうとした時、後ろから声を掛けられる。

あまり関わりたくなかったが、この際、仕方がない。


ウサギ男「赤の裁判所に行きたいのですが、どこをどう行けば良いですか?」


海希「赤の裁判所?」


レイルに見せて貰った、この世界の風景。

大きな地図を思い出しながら、彼の言っている場所を探す。


海希「それなら、確かあっちの方だったような...」


行った事はない。

しかし、方角は記憶にある。


ウサギ男「こっちですね!助かりました!なにぶん、急いでいるものでして」


丁寧にお礼をされる。

私も悪い気分ではなかったので、軽く頭を下げた。


海希「いえ、気にしないで下さい」


一度は無視をしようとしたくらいだ。

なんだか罪悪に満たされる。


ウサギ男「では、私はこれで失礼しますね」


片眼鏡を掛けた美男だ。

とても大人びている。

ただ、それをウサギ耳が台無しにしているのが残念だ。


海希「ちょっと待って!」


歩き出すウサギ男を、私はすかさず止めた。

彼は、キョトンとした表情を浮かべている。


ウサギ男「はぁ、何か?」


こいつは人の話を聞いていたのか。

進んでいる方向は、私が言った方とは逆の道だ。


海希「こっちって、言いましたよね?」


??「あぁ!すみません、つい!」


つい、とはなんだ。

そんな軽い気持ちで道を見失わないで欲しい。


ウサギ男「では、改めて失礼しますね」


2度目の挨拶をされ、また彼は歩き出す。

しかし、私は声を荒げた。


海希「待ちなさい!」


今度は、道なき道を行こうとしている。

草むらに足を突っ込み、さらに進もうとしているのだ。


ウサギ男「はい?まだ何か?」


....こいつ、わざとなのか?

疑ってしまう。


海希「なんでそっちに行くの?!こっちだってば!」


半分怒り気味に言ってみる。

どうか届け、私の想い。


ウサギ男「またうっかりしていました。どうも私、恥ずかしながら方向音痴みたいで」


本当に恥ずかしい奴だ。

こうもすぐに道を外されてしまうと、教えてあげたこちらとしても、責任を感じてしまう。


ウサギ男「こっちですよね?もう大丈夫です、覚えましたから!」


胸をドンっと張りながらのドヤ顏。

そんな事で自信を持たれても困る。


海希「そう。じゃぁ、気を付けて」


揺れるウサギ耳が可愛い。

彼は、私の示した道へと進んでいく。


しばらく、彼の背中を見ていた。


しばらく。

しばらくだ。


海希「....って、なんでなの!?」


真っ直ぐの一本道なのだ。

なのに、道から逸れて、また道なき道を行こうとしている。


ウサギ男「....まだ問題でも?」


やはりわざとだ。

逆にわざとじゃないと、彼が可哀想だ。


クリクリとした赤い目をパチクリとさせ、不思議そうに私を見ている。


海希「ここを真っ直ぐなの!なんで、逸れるの!?」


私の想いは、どうやら彼に届いていなかった。

とても残念な結果だ。


ウサギ男「うーん....真っ直ぐに進んでいるつもりなのですが....どうしてでしょうね?」


こちらが訊いているのだ。

本人に自覚がないなら、この謎は永遠に迷宮入りだ。

きっと、どんな探偵の孫でもこの謎は解けない。


ウサギ男「やはり今日も遅刻ですか...また怒られてしまいます」


取り出した懐中時計を見ながら、深く深く溜息を吐く。


このウサギさんは、どうやら方向音痴の遅刻魔らしい。

耳をシュンっとヘタらせ、なんだか可哀想だ。


海希「....私が案内しましょうか?」


懐中時計を横から覗き見ると、まだドロシーとの約束の時間まで余裕がある。


私だって行った事のない場所を、行った事のある人物(人なのか?ウサギなのか?)に案内すると言うのは、とても複雑な気分だ。


それに、私の知っている白ウサギは案内人である筈。

これではめちゃくちゃな話になってしまう。


ウサギ男「良いんですか?貴女にも、何か用事があったのでは?」


心配してくれるのはありがたい。

しかし、私も彼が心配だ。


知らない人間について行ってはいけないと親に教えて貰ったが、人なのかウサギなのか、微妙な判断だったので、とりあえず良しとする。


海希「大丈夫、まだ時間はありそうだし....あなたの方が心配よ」


嬉しそうに跳ねるウサギ男。

その笑顔が、美男子によく似合う。


ウサギ男「貴女は優しいですね。感謝します」


2人で歩き出す。


いつもとは違う獣耳を生やした男と歩いているので、なんだかぎこちない。

私は、獣耳を生やした人間と、縁があるのだろうか。


ウサギ男「ところで、貴女は見掛けない人ですね。最近、こちらに引っ越して来た方ですか?」


海希「あぁ....そうね。そんな感じ」


答えに少し迷ったが、大体は合っている。

素直に頷いておく事にした。


海希「あなたは、裁判所で働いているの?」


ウサギ男「えぇ、そうなんです。でも、よく遅刻をしてしまって、怒られちゃうんですがね」


海希「....でしょうね」


仕事場から家まで、どのように帰っているのだろう。

毎回困った展開になるのは目に見えている。


海希「職場に泊まれば?そしたら、そこにいるんだから、迷わずに済む」


ウサギ男「えぇ?嫌ですよ、そんなの。私はプライベートと仕事を分けたい派なんです。メリハリはきっちりつけないと」


なかなか良い提案だと思ったが、本人が嫌なら仕方がない。

なにせ、彼が遅刻したところで、私には何の関係もないのだから。


海希「確かに、メリハリは大事ね。休みの日に、仕事の事なんて考えたくないし」


ウサギ男「そうでしょ?ストレスも溜まるし、疲れなんか取れたもんじゃありませんよ」


爽やかな笑顔。

美形だ。


日向先輩も、なかなかの美系だったが、彼も負けてはいない。


それに、あまり見た事がない片眼鏡が、なんだか知性的な雰囲気を漂わせている。

いや、話し方や裁判所で働いている彼は、確実にインテリ系の男性なのだろう。


ただ、ウサギ耳が気になるだけだ。


ウサギ男「おぉ!貴女の言った通りですね!」


たどり着いた先に、真っ赤な建物があった。

黒い柵に覆われ、あちこちに薔薇が植えられている。

とても目がチカチカする光景だ。


ウサギ男「とても助かりました!いやー、貴女は稀に見るとても良い人ですね!このご恩、一生忘れません」


海希「そこまでの事じゃないから、気にしないで」


命の恩人なら、そこまで感謝されても当然の事だ。

ただの道案内にしては、大袈裟過ぎる言い方だ。


彼が、誰も案内出来ない白ウサギだった事に、軽くショックを受けた。

裁判所で働くウサギなんて、あのウサギしかいない。


ウサギ男「では急いでいるので、これで失礼しますね!」


跳ねるように走っていく。

ここまで来たら、もう迷う事はないだろう。


海希「....まさか、建物の中で迷ったりしないわよね?」


嫌な予感が過ったが、すぐに掻き消す。

私がしてあげられる事はここまでだ。

そこまで心配する必要はない。


私は元来た道を、今度は1人で歩いて帰った。




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