表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OTOGI WORLD   作者: SMB
* fall in otogi world *
27/92

男爵夫妻の不在


エンジンを停めたのは、しばらく走った後だった。


ポツンと、それだけが切り離されたように建っていたお屋敷。

とても静かで、人の気配がない。


レイル「1人で来ると不安だったからさ。アマキに付き合って貰おうと思って」


珍しい。


レイルの弱々しい発言。

なんだか怖い。


レイル「.....そんな目で見るなよ?俺だって、1人で行きたくない場所だってあんの」


......可愛い。

コロ、あなた可愛過ぎるわ。

都合のいい時だけ、コロにすり替える。


お屋敷の中に進む。


大きな庭が広がっていた。

手作りの小さなブランコやベンチまである。

手入れがされておらず、草が生い茂り、伸び放題だった。

それに、花壇の土は荒れ放題。

せっかくの広い庭が、台無しだ。


海希「誰か住んでいないの?」


私の前を歩くレイルに訊いてみる。


レイル「.....あぁ。今は誰も近付かないんだ」


.....レイル?


ここからでは、彼の顔は見えなかった。

ただ、さっきまでのレイルじゃないような気がした。

なんだか、声に元気がない。


屋敷の入り口まで来ると、レイルは立ち止まった。

扉は、鎖で頑丈に塞がれている。


海希「これじゃぁ、入れない」


むしろ、入ってはいけない区域なのか。

しかし、レイルは気にしない様子で拳銃を取り出した。

扉に向かい、発砲する。

見慣れた魔法陣が姿を現わした。


レイル「手、離さないでね」


レイルに手を引かれ、魔法陣を潜った。

スルリと中に入る。

レイルにとって壁もドアも鍵も、おまけに鎖も関係ないのだ。


海希「お邪魔します....」


本当に入って良いものなのかも分からないまま、レイルについて行く。


広めの廊下には、たくさん絵が飾られていた。

どれもこれも、埃をふんだんにかぶっている。

埃臭く、とても薄暗くてどう考えてもレイルが好きそうな場所じゃない。

どこに向かっているんだろう。

黙々と歩いて行く。


一階には寄らず、階段を上っていく。

歩を進めるたび、階段の軋む音が響いた。


階段を上りきると、一番奥のドアへと歩いていく。

その前まで来ると、レイルはドアノブに手を掛けた。


ゆっくりとドアを開ける。

そこに広がる光景。


海希「ここって....」


カーテンが開きっぱなしの窓から日の光が差し込んでいた。


本棚に囲まれた部屋。

床にはたくさんの資料が散らばっている。

どうやらここは、書斎のようだった。


椅子の上に乱雑に置かれた紳士物の上着。

ここに住んでいた人の物だろうか。


レイル「俺が来た時には、もう駄目だったんだ」


ふと、口を開いたレイル。

天井を見上げ、どこか一点を見つめている。

私も視線を追ってみたが、そこには何もない。


レイル「何度も考えたんだ。どうして、男爵が....」


あっ....


ピーターの言葉を思い出す。

確か、彼の名前は....


海希「レオナード....さん?」


レイル「なんだ、もう知ってるんだ」


レイルの瞳に悲しみの色を感じる。


彼らしくもない。

とても悲しそうだった。


レイル「俺って、自由気儘な猫だからさ。あっち行ったりこっち行ったりして1人が好きだったんだ」


もっとも猫らしい行動だ。

私が初めてコロと出会った時も、そんな感じだった事を思い出す。


レイル「....で、ここに住んでる男爵のおっさんと出会ったんだ。きっかけは忘れたけど。俺って、あんまり他人に懐かないんだけど、男爵は変わっててさ。いろんな物を直してた」


海希「修理屋さんか何かしてたの?」


レイル「男爵の仕事は、確か研究者だって言ってた。何の研究をしていたのかは知らないけど、おっさんの能力は再生。壊れた物を直す能力だった」


海希「へぇ...じゃぁ、壊れたものなら何でも直せるの?」


レイル「そうだったら凄くイカす能力だなって俺も思ったんだけど、それが残念。物しか効かなかったんだよなー。それも、小さい物限定って所がミソ」


再生の能力だと聞いてとても凄そうな気がしたが、深く聞いてみればそうでもなさそうだ。


話を聞いているだけで会った事はないけれど、レオナードと言う人物に愛着が湧いた。


海希「それで?仲が良かったんでしょ?」


レイル「それは言い過ぎだ。俺も暇だったし、ちょくちょくここに遊びに来てただけ」


海希「それだけ親しかったって事でしょ」


きっと、レイルがとても信用する人物だったのだろう。

そんな人なら、私も会ってみたかった。


こんな立派なお屋敷に住んで、研究者となるとイメージはとても堅苦しい感じがするが、レイルの話だとそうでもないような気がする。


レイル「でも、男爵はいつも忙しそうにしてた。あんまり相手をしてくれなかったような気がするんだけど....俺、なんでしょっちゅうここに来てたんだろ?」


海希「あんたが1人でお昼寝してたんじゃない?ここの庭、広かったしね」


たくさんの埃と書類で散らかっている机。

その端に、写真が飾られてあった。


こちらに向かって笑っている男性。

長い髪を後ろで束ね、眼鏡を掛けている。


海希「この人がレオナードさん?」


私が訊くと、レイルが顔を覗かせた。


レイル「そう。すっごいおっさんだろ?」


悪戯っぽく言った。

とても懐かしそうに眺めている。


海希「この隣の子は?」


レオナードさんの隣に写る少女。

日光に当たり過ぎたのか、胸から上が茶色くやけて見えない。

スカートを履いているので、女の子だという事は分かる。


レイル「俺も分からないんだ。俺がこの家に通ってた時、こんな子いたかな....?」


海希「娘さんか、親戚の子なのかな?」


仕事机の上に飾るくらいだ。

きっと、深い関係のある子に違いない。


隣の写真立てには、綺麗な女性の姿。

奥さんなのか、それとも他の誰かなのか。

私には分からない。


そこから、更に目を移す。

机にかさばっていた書類。

その一つに、大きく走り書きされている文字。


"黄金の林檎"


海希「.....っ!!!」


急に頭に痛みが走った。

床がグラリと歪み、ぼやける視界。


胸が締め付けられる。


とても悲しい。

悲しい気持ちでいっぱいになる。

ここには居たくない。

いや、居てはいけない...


顔を上げた。


ぼやけた視界に映る姿は、男性の後ろ姿。

こちらに背を向けたまま、ゆらゆらと揺れている。


海希「!」


....夢。


いつか見た夢と重なる。

テレビの映像のように、その男性の姿が曖昧に映る。


揺れているのだ。

こちらに背を向けたまま....


レイル「アマキ?」


座り込んでいた私の肩を、レイルが支えてくれた。

映像を振り切るように首を振る。


海希「ねぇ、レイル....」


次第に映像が消えていく。

けれど、私はある事に気付いた。

いや、気付いてしまったのだ。


海希「....レオナードさんは、亡くなったの?」


まだ頭がグラグラしていた。

レイルに支えられたまま、私はジッと彼を見ていた。


レイル「....あぁ」


レイルの表情は、とても冷たい。

いつも私に見せる顔ではない。


レイル「ここなんだ。男爵はここで....」


どうして、こんな映像が見えるんだろう。

こんなにメルヘンな夢を見ているのに、私はとても酷いものを見ている。

レイルの言葉が、それを確信させてくれた。


レイル「....首を吊ってたんだ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ