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OTOGI WORLD   作者: SMB
* fall in otogi world *
25/92

永遠なのは緑だけ


あの後、レイルはまた何処かへ行ってしまった。


まるで猫だ(いや、猫だけど)。


少し前まで甘えてきたと思えば、私を1人にし、のらりくらりと何処かへ出掛けていく。

何をこそこそしているのか、私には全く見当も付かなかったが気にしていない。


いつもの可愛さを取り戻したドロシーは、バスの中でお茶会を楽しんだ後、また明日ね!と、明るく帰っていった。


やはり狂乱ドロシーなんかより、今の彼女の方が断然に良い。

レイルがドロシーを少し毛嫌いしているのも、狂乱ドロシーの方なのだろう。


なにせ、あの時はとても機嫌が悪そうに見えた。

どちらも短気で、水と油の関係のようなものだ。


それに比べ、ピーターはとても平和主義だ。


ナイフ投げ(?)と言う、際どいラインの趣味の持ち主みたいだが、いきなり銃をぶっ放そうとしたり、奇声を上げて爆弾を出してくるような人間ではない。

それに、目に優しいのだ。


海希「ピーター」


話し相手をしてくれていたドロシーがいなくなったので、木陰で休んでいたピーターに声を掛けてみる。

相当疲れているのか、まだ表情は優れなさそうな気がする。


ピーター「やぁ、ドロシーは帰ったの?」


海希「うん。隣り、いい?」


どうぞ、とピーターに返事を貰ってから、隣りに腰を下した。


ピーター「俺なんかの相手して、レイルに怒られるんじゃないの?」


冷やかすように言われ、少し考えてみた。

確かに嫌味は言われそうな気もしたが、彼は私の友達でもある。


海希「誰の相手をしても言われるわね、きっと」


ピーター「ははっ、君も大変だ」


他人事のように笑っている。

少なくとも、怒られるのは私じゃなくピーターの方だと思うが、それは黙っておく。


海希「ピーターには、2回も助けて貰ったわね。ありがとう」


ピーター「お礼なんて良いよ。友達が困っていたら、助けるのが友達だろ?」


本当に良い奴だな、この人。

常識のある人は好きだ。

この夢の中では、それが一番の条件になる。


ピーター「だから、俺が困っていたら、今度は君が助けてね」


海希「うん、分かった。私にできる事は限られているけど」


私は、レイルやピーターのような能力はない。

かと言って、空手や柔道を習っていた訳でもなく、戦闘力が100万を超える戦闘種族でもないのだ。


海希「あなたみたいに空を飛べる能力はないけど、どこかに助けを呼びに行く事は出来るかも」


ピーター「あぁ、空を飛ぶ事は能力じゃないよ」


あぁ、そうだった。

その事は、確かレイルから聞いていた事だ。


海希「あ、そっか....ピーターの能力はどんなものなの?」


気になる。

確かレイルによると、ピーターのは趣味みたいなものだと言っていた。


ピーター「気になるのかい?もう君は見ているよ」


え?


ピーターの趣味はナイフ投げ(偏見)と緑色のものが好き(これも偏見)と言う事しか分からない。


海希「何処からナイフを投げても的に当たる....とか?」


銃を持たせれば、百発百中のガンマン。

何処かの大泥棒一味のようだ。


ピーター「ははっ!それって褒めてくれてるの?あれは俺の腕前だよ」


あれを実力でやっているのなら、それはそれで凄い事だ。

それがないのなら、どんな色でも緑色に変える能力だとしか考えられない。


ピーター「う〜ん、そうだな...」


彼は辺りを見回す。

1枚の落ち葉を見つけると、それを拾い上げた。


水分のない、茶色い葉。

握れば、パリパリと簡単に崩れてしまうだろう。


何に使うのかと見ていると、ピーターはにっこりと笑い、私に見えるように、それを指先で摘んだ。


海希「!」


目を疑った。

まるで、生命を宿したかのように、落ち葉はみるみるうちに色を変えていく。

今さっき、木から摘み取ったかのような新緑の葉だ。


やっぱり....

彼は緑色が好きなんだと確信した。


海希「どうやったの?!」


と、つい聞いてしまいたくなる。

これはマジックではないので、そんなタネ明かしはない。


ピーター「これが俺の能力。面白いだろ?」


くだらなさ過ぎて、逆に面白い。

と言うより、自分の予想が当たってしまった事に驚いている。

いつか、体の皮膚まで緑色にして会いに来そうだ。


まさに、彼は葉緑体。

この能力に魅力を感じない事は黙っておく。


ピーター「せっかくだから、君にも試してあげようか?」


海希「いや、いい」


即答した。

即答過ぎて、彼の言葉に若干かぶせ気味に口にしてしまっていた。


海希「私は葉緑体になりたくないから」


ピーター「え、なに?」


海希「ここの人達は、みんな能力を持っているのね。なんだか不思議」


とても興味深い。

私にもそんな能力があれば、ガンガン使っているだろう。


ピーター「みんなって訳ではないと思うけど....君も、能力を使いたいのかい?」


海希「だって、面白そうじゃない」


出来れば、生活に役に立つ能力が良い。

今のところ、レイルのワープ能力に惹かれている。

けれど、拳銃を使わなくてはならないのが少しマイナスポイントだ。


海希「そう言えば、ドロシーはどんな能力なんだろ?今度会ったら聞いてみようかな」


まさか、あの二重人格が能力だったりするのだろうか。

いや、有り得る。


ピーター「彼女の能力は、バスケットだよ。ほら、いつも持っているだろう?」


海希「....商品を入れているやつ?」


商品を入れてあるバスケット。

思い出してみれば、彼女はいつもそれを持ち歩いていた。

だけどそれは仕事中だったので、気にもならなかった。


ピーター「あのバスケットは、何でも入るんだ。バスケットの口から入れば何でも。中は無限大に広がっている。俺も、そんなに詳しくは分からないけど」


.....なんと言う事だ。


彼女のバスケットが、本当に四次元ポケットだったとは。


だから、あんな大きなものまで入るのか....

頭の中に浮かぶ、恐ろしい兵器達。

全てあのバスケットに隠している。


海希「なんでも入るなら、かさばらなくて役に立ちそう。買い物した時とか助かるしね」


ピーター「女の子だね。って言うか、能力をそんな風に実用的に使おうとするなんて...君、夢がないね」


葉緑体に言われてしまった。

夢がない事なんてない。

こうやって、メルヘンな夢を現在進行形で見ているのだから。


海希「....夢って覚めるものよね?」


思わず口に出してしまっていた。

葉緑体...じゃなくて、ピーターがキョトンと目を丸くしたのも分かる。


ピーター「.....え、なに?夢がないって言ったの、気にした?」


そんなものは、擦り傷にもなっていない。


海希「覚めないの、夢から。これって、有り得ないわよね?」


夢の住人に相談するのもおかしな話だ。

けれど、私の中で彼は一番まともだ。

真剣に話を聞いてくれそうな気がする。


ピーター「.......」


引いている。

とてつもなく引かれている。

確実に人間性を疑われている。


海希「....いい、やめましょう。ごめんね、今の忘れて」


やはり馬鹿だった。

この問題は、1人で解決しよう。


ピーター「....君って、意外に夢見る乙女なんだね」


海希「気持ち悪い事言わないでよ」


喋る葉緑体と会話をしながら、のどかな時間を過ごす。


この夢から早く覚めたいと思っている訳ではないが、少しずつ怖く感じてきているのだ。

夢と現実の境目が分からなくなってくる。


私の現実と、この非現実的な世界がひっくり返されたように、ごく普通に過ごせている。


気付かない内に馴染んでいっているのだ。

これは、とても問題だ。


























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