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OTOGI WORLD   作者: SMB
* fall in otogi world *
24/92

灯火の消し忘れにはご注意を


レイル「あぁ、なんてこった...可哀想に」


とても悲しそうに。

かなりの同情されている。


髪についた埃や土を丁寧に摘み取りながら、レイルの瞳が悲しみに暮れていた。


レイル「俺がいれば、絶対にこんな目に遭わせないのに...絶対に」


絶対に、と言う言葉を強調していた。

何度も何度も何度もだ。


海希「レイル、2人が見ているわ」


私も何度も強調する。

何度も何度も何度もだ。


大した怪我もない私より、ここまで運んでくれたピーターを労ってやって欲しい。


ピーター「良いよ、気にしてないから。どうぞ、続けて」


私達は、あのバスのある森へと帰って来ていた。

お菓子の家で変な双子から逃げて、私はここにいる。


すでにバスの中にいたレイルは、砂だらけになっている私に凄まじく驚いていたが、事情を話すと双子を殺しに行くと連呼していた。


その殺意をなんとかなだめ、今に至る。


その辺にあった岩の上に座り、自分の怪我の処置をしていたピーター。


彼は疲れているせいか、いつもの彼より、少し顔が老けている(老けていると言うより、大人っぽい)ようにも見えた。


ドロシー「いきなり帰って来て、なに色気付いてんだい野良猫」


ドロシーは、相変わらず狂乱していた。

今でもこうして、見た事もない銃を丁寧に磨いている。


いや、あれは銃なのか。

どちらかと言うと、銃と言うよりミサイルに見える。


ドロシー「男爵のじじいがいなくなって、寂しくなったのかい?逃げた先でも愛を求めるなんて、泣ける話じゃねぇか」


レイル「てめぇ...」


海希「駄目よ、レイル!」


銃を構えそうになるレイルを止める。

しかし、レイルの目は彼女を捉えたまま離さない。


海希「ドロシーも喧嘩はやめてよ。レイルが短気なの、知ってるでしょ?」


レイルは短気だ。

すぐに銃を出そうする。


ドロシー「あたいは良いんだよ、ここで殺り合ったって。安心しな、アマキは巻き込まないように手軽な武器を使うさ」


ピーター「もう巻き込まれているけどね、こっちは」


ボソリとピーターが口にした。

しかし、ドロシーは無視だ。


ドロシー「こっちの方が手っ取り早いんだ。ナイフや銃なんかより、一発で決められる」


海希「とりあえず、それをゆっくり地面に置きなさい」


手の中で投げて遊ぶ手榴弾。

まるで、お手玉のような扱いだ。

軽はずみで爆発したら、たまったものではない。

確実にあの世行きだ。


レイル「はっ!そんな玩具で俺を仕留められるか。そっくりそのまま投げ返してやるよ」


ドロシー「あぁ、そうかい。なら試させてもらおうか」


ピリピリしている。

とてもピリピリと。


海希「やめてってば!私が悪かったの!そう、私が!本当にごめんなさい!」


このピリピリ感をどうにかしたい。

それに、私が悪かったのは事実だ。

私が2人を巻き込んだ。

ただ、それだけの事だ。


ドロシー「巻き込まれてんのはアマキだろ?こんな奴のおかげで、あんたまで狙われるなんて可哀想に」


可哀想なのはドロシーの方だ。

あんなに大人しくて優しい子だったのに...

こんなやさぐれ方があるか。

グレている。

私が母親なら、泣いて話し合うだろう。


海希「....あなた、本当にドロシーなの?」


頼むから嘘だと言ってくれ。

そんな事を思いながら、恐る恐る訊いてみた。


ドロシー「あん?他に誰に見えるんだい?」


少なくとも、私が知っているドロシーには見えない。


やはりグレている。

こんなドロシーはお断りだ。

いや、こっちが本当のドロシーなのかもしれない。


海希「元に...元に戻るのよね?」


レイルにボソリと訊いてみる。

これは私の願望だ。


レイル「いつも、いつの間にか戻ってる。だから、いつになるかも分かんないけどな」


今でも、何か変なもの(たぶん、危険な武器のようなもの)を手入れしているドロシー。

自分が二重人格と言う事に気付いていないのだろうか。


ピーター「ドロシーは怖がりなんだ。怖がりで泣き虫。彼女の中で恐怖が最高潮になると、あぁやって人格が変わるんだよ」


と、ピーターが丁寧に説明してくれた。


確かに、私が最後に見た泣き虫ドロシーは、とても怖がっていた。

あれが最高潮だったのだろう。

それが引き金になっていたのだ。


レイル「昔、初めてドロシーと会った時、俺があいつをからかってやったんだ....あの時は軽く地獄を見たね」


海希「あんた、どっちかと言うといじめっ子そうだもんね」


レイルは苦笑している。

安易に想像出来た。

何故なら、まだあの地獄絵図が目に焼き付いて離れないからだ。


海希「ドロシー....一緒にお菓子でも食べましょう」


勇気を振り絞って、声を掛けてみた。

しかし、ドロシーはまるで興味を示さない。


ドロシー「お菓子なんて、そんな甘ったるいもん、あたいは嫌いなんだ」


海希「甘いものは、脳を休ませてくれるのよ。そんなに甘くないヤツだから、食べましょうよ」


ドロシー「まさかとは思うけど、毒なんて入っていたりしないだろうね?」


カチャリと、銃の音がなる。

私の体がビクついた。


レイル「てめぇ!アマキが毒なんか盛る訳ねぇだろ!」


海希「そうよ!毒なんて入れない入れない!とても美味しいクッキーよ!」


どこかの双子じゃあるまいし。

私はドロシーに殺されたくない。


ドロシー「いつだって戦場なんだ。仲間がいつ裏切るかも分からねぇ。あたいは、そうやすやすと背中を任せたりはしねぇ」


一体、何の話をしているんだ。

頭が痛くなる。

ドロシーだけは(他は猫男と緑色まみれの男だから)まともな人間だと思っていたが、完全に油断していた。


海希「ここは戦場でもないし、あなたの背中を私は狙ったりしないわ」


私はドロシーに近付いた。

いつ銃口を向けられるか、ドキドキハラハラだったが、優しく声を掛ける。


海希「それに、あなたが誘ってくれたのよ?だから、その約束を守りたいの」


ドロシー「約束?口約束だなんて、そんな緩いもんを....」


海希「どんなに小さい約束でも、私は守る。だって、あなたは私の友達でしょ?」


ドロシーは、怖がりながらもグレーテルを止めようとしてくれた。

とても嬉しかったのだ。

気の弱い彼女でも、頑張ってくれたのだ。


ドロシー「友達.....」


ドロシーがハッとなる。


鋭かった目つきが柔らかくなり、冷たかった瞳が、まるで温もりを取り戻したかのように潤んでいる。


ドロシー「あれ...?あたし、なんでここにいるの?」


そう言った瞬間、ドロシーは自分が持っていた銃に悲鳴を上げた。


ドロシー「なななななな、なんでこんな恐ろしい物を....!!!!」


そう言いながら、バスケットにしまい込む。

それは、飲み込まれるようにバスケットの中へ姿を消した。

一体、どう言う作りになっているのだろうか。


まるで、どこかのロボットの四次元ポケットのようだ。

不思議でしょうがない。


ピーター「うわぁ....君って凄いね」


信じれない、と言わんばかりの顔で、ピーターが唖然としている。


海希「なにが?」


ピーター「ドロシーが狂乱したら、もう誰も手を付けられない。自然に戻るまで待つしかないのに、君は彼女を正気にさせた」


私だって不思議だ。


こんな可愛い子が二重人格だなんて...

アニメや漫画などであったら面白いが、リアルに経験すると迷惑極まりない。


海希「ドロシー、大丈夫?」


一応、声を掛けてみる。

本人かどうかの確認だ。


ドロシー「アマキ?えぇ、平気よ。そうだ、確かお菓子屋さんで....」


海希「もうお菓子屋は良いわ」


駄目だ、その言葉を聞いただけでトラウマだ。

あの双子の消息も少し気になるが、もうどうでも良い事だ。

ドロシーが正気に戻り、私もやっと安堵する事が出来た。


彼女を怖がらせるのは、出来る限るやめておこう。

そう心から誓った。







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