ガールズトークでお茶会を
私は午前中の授業を終わらせ、友達とのランチを楽しんでいた。
キャンパス内での、のどかな時間。
けれど、いつも見る夢とは違い周りは騒々しい。
唯「それでさ、本当に腹が立って。もう別れた」
私の数少ない信頼出来る友達の1人。
彼女は口を尖らせながら、最近付き合った男の話をしている。
最近付き合ったばかりのはずなのに、最近別れてしまった事が、今発覚した。
最近の若者はくっ付いたり別れたりと、とても忙しそうだ。
ここ数年恋人がいない私には、関係のない事だ。
若い者同士、どうぞイチャコラすれば良い。
ありさ「まぁ、話を聞いてるだけでも唯とは合わなさそうな子だったもんね。あんたには歳上が向いてるよ、きっと」
隣に座る彼女も、また私にとって数少ない大切な友達だ。
恋多き乙女という言葉が似合う唯とは違い、サバサバとしたクールな印象。
こんなお姉さんタイプにも、実はファンがいる。
私は知っている。
彼女が頼れる女性なので、何人かの奥手草食系男子が彼女に夢中なのを。
周りにファンの気配もない私には、関係のない事だ。
若い者同士、キラキラした恋を存分に桜花すれば良い。
唯「頼りになる歳下くんだったのになー。なんかがっかり。やっぱり、歳上の王子様タイプが合うのかなー、あたしって」
ジュースの入ったパックを、ズルズルとすする彼女。
彼女が口にする王子様という言葉。
確かに唯なら、そんな言葉が口から出てきても、納得がいくキャラだ。
ふわふわのゆる髪に、ふわふわのスカート。
更に雰囲気もふわふわとしているのだから、小悪魔女子だ。
その可愛さを、ぜひ私にも分けて欲しい。
いや、私だったらこんな小悪魔になりきれないだろう。
小悪魔と言うより、本物のデビルになってしまいそうだ。
唯「ねぇ、海希ちゃんは良い人いないの?」
海希「え?」
そんな事を振ってくるな。
2人の視線を感じながら、苦笑で返すしかない。
海希「いないいない!いるわけないでしょ、興味もないし」
"興味がない"と言うより、そう言った男性に出会っていない、と言う方が正しい。
決して、恋人がいらないと言うわけではない。
けれど、過去にいくつかの恋愛をした事によって、頭のどこかで恋愛なんて面倒だ、と投げやりになっているのかもしれない。
とりあえず今の私には、胸をときめかせてくれるような異性はいないのだ。
ありさ「そう言えば、海希って先輩と仲良いよね」
海希「先輩?どの先輩?」
一体誰の事を言っているんだ、と焦る。
頭に浮かぶたくさんの顔。
大学の先輩からアルバイト先の先輩まで。
高校の時に入っていた部活の先輩とも、まだ交流はある。
ただ、どの先輩にも好意(恋愛と言う意味で)をもった事はない。
ありさ「なーに?そんなに彼氏候補の先輩がいる訳?」
にやつくありさの顔は、どこか意地悪だ。
海希「いる訳ないでしょ!」
即答する。
間髪もいれずに。
いつの間にか、女子トークの中でもかなり定番な恋話になっている。
ありさ「日向先輩の事。この前、結構話し込んでたじゃん」
ガッデム!
見られていたのか!
日向先輩と言うのは、1つ歳上の男性で同じ学部の先輩だ。
つい最近の出来事だった。
たまたま校内を歩いていて、そしてたまたま仲の良かった日向先輩に会ったのだ。
校内で会うのは珍しい事でもないのだが、先輩が聞き上手の為か話しやすい割に、たくさんの話題の引き出しを持っている話し上手な器用な人だったので、ついつい話し込んでしまったのだ。
それを、友人に見られていた。
いや、やましい事などないのだが、そんな言い方をされると、なんだか見られてはいけなかったような気がしてくる。
唯「仲良いもんね、海希ちゃん。良いなー、日向先輩優しいしさ」
歳上で、優しい。
女性からすれば、高得点の青年だ。
けれど、私がときめくような王子様ではない。
先輩はモテる。
実際に、下の学部の子から、これでもかってほどバレンタインデーのチョコレートを貰っていた。
きっと、今まで付き合った女性の数は両手では数え切れないと思う。
先輩に浮ついた話は、今の所聞いた事はないのだけれど。
海希「いやいやいや、話す程度で別に変な感情はないから」
唯「ふーん...じゃぁ、あたしが狙っちゃおうかなー」
いいよね?と、私にご丁寧に確認を取る彼女は、少し上目遣い(女の小悪魔的な技の一つ)で擦り寄ってくる。
海希「私の許可なんていらないでしょ」
中庭にあるベンチで、3人並んで食べる昼食。
暖かい日差しの中で、女3人が話す事なんて、だいたいこんな感じだ。
他にテレビ番組の話や、ファッションやコスメの話。
実に女友達と話すような内容だった。
そして、話題は次に変わる。
ありさ「そうだ!この前みんなで川に遊びに行った時の写真出来たんだけど、見る?」
彼女が鞄から取り出した一冊のクリアファイル。
ページを開いてみれば、いくつもの写真が綺麗にファイルされている。
唯「うわっ!こんな写真まで撮ってたの?」
川に勢い良く飛び込む唯の姿が、綺麗に写っている。
ひらひらの可愛い水着がとても良く似合う。
最近、私達は近くにある川へ泳ぎに行ったのだ。
そこは、山の奥の方にある場所で、この辺りの若者の間では隠れスポットとされている。
ただし、そこまで行くには、大変面倒くさい道程になっている。
車では抜けられない狭い道を通り、とても歩きにくい場所だ。
おまけに、急な崖が多く油断すれば足を滑らせ転落する可能性だってある。
そんな可能性を引き当てたのが、この私なのだ。
ありさ「あの時は本当にどうなるかと思ったよ。海希が崖から落ちて、行方不明になるなんて、まるでどっかのドラマみたいだったんだから」
海希「心配掛けてごめんね。私もよく覚えてないのよね」
私は、足を滑らせ見事に崖から転げ落ちたのだ。
そこまでは覚えている。
気が付いた時には、両親が見守る病院のベッドの上にいた。
なかなかの大規模で捜索をしてくれていたらしい。
まさか、自分がそんな目に遭っていたとは思わなかったのだ。
唯「奇跡的に怪我も無かったし、これからは気を付けないとね。本当に無事で良かった」
自分でもよく覚えていないが、命があったのだから良かった。
私達は、その時の写真を見ながら、思い出に華を咲かせたのだった。
午後からの授業を終え、いつものようにバイト先へ向かう。
駅前にある小さな本屋さん。
そこで4時間ほど接客を済ませ、帰りにコンビニに寄り、適当にお弁当を買ってからアパートに戻る。
テレビを見ながら遅い夕食を済ませ、お風呂に入り、またテレビを見る。
いつもの日常。
もう、この生活が身に染み付いている。
私も、もう就職活動を目の前にしている。
なので、そろそろこんなメリハリのない生活から脱却しなければならない、とは思っている。
瞼が重い。
自覚はないが、やはり私は疲れているようだ。
また、睡魔が襲ってくる。
いつの間にか、私はその場で深い眠りについていた。
いつも見る夢の中に、また私はいる。
風に乗って飛んできた花弁が、私の鼻をかすめる。
目に映る光景は、また、あの草原だった。
のどかな時間が流れる。
どんな場所よりも落ち着くと言って良いかもしれない程、居心地が良い。
私は、私自身の夢の中が一番落ち着くと言っているのだから、寂しい人間である。
気候は春の設定なのか、とてもポカポカしていて暖かい。
寒過ぎず、暑過ぎず。
本当に居心地が良い。
こんな夢なら、何回見ても悪くないな...
心を満たされながら、また瞼を閉じる。
何かに追いかけられたり、殺されそうになってしまう悪夢なんかより、全然良い夢だ。