永遠と緑と青年と
既に廃車にされていただろう、この錆び付いた一台のバス。
見れば見る程、レイルの自由気儘な性格が浮き彫りになって見えてくるようだった。
よくもここまで改築したものだ。
ここに警察はいないのだろうか。
いや、夢の治安を心配している場合ではない。
ここに来てから、いろいろと考え過ぎて頭が痛くなってくる。
重い足取りで、バスの方へ歩を進める。
扉を開こうと手を掛けた時、中から誰かの声が聞こえてきた。
??「へぇ、レイルも大変だったんだな。なかなかの大冒険じゃないか」
レイルとは違う、聞き覚えのない声。
男のような声だが、レイルの友達でも来ているのだろうか。
やけに親しげに話している。
レイル「はぁ?大冒険どころじゃなかったぜ。お前も行ってみれば分かるって」
今度はどんな登場人物なんだろう。
猫男、ピノキオ、人魚。
胸がドキドキするのは、私もなんだかんだでこの夢を楽しんでいるからかもしれない。
レイル「あ、おかえり!」
中に入ると、レイルと目が合った。
その向かいの椅子に座っていた青年の目が、こちらに向けられる。
青年「あぁ、この子が例の...」
レイル「そう、俺の恋人」
くらりと立ち眩みがした。
また同じような流れになっている。
海希「違う!」
レイル「えぇ?違わないだろ?」
この猫を放っておくと、私は猫耳男好きと言うレッテルを貼られてしまう。
青年「うーん、なかなか興味深いね」
スクッと立ち上がった青年。
全身緑色で固めている。
トップスもズボンも。
おまけにかぶっている帽子も緑色。
なんて目に優しい青年なんだろう。
青年「俺はレイルの友達のピーター・パン。よろしくね!」
握手を求められる。
渋々握ると、ぶんぶんと手を振られた。
海希「あ....どうも」
今度はそう来たか。
私の頭の中では、今まさに永遠の少年が夜空を飛び回っている。
少し違う気もするが、きっとどこかに妖精を隠しているに違いない。
ピーター「アマキって言うんだろ?話はいろいろとレイルから聞いてる」
おまけに緑色の瞳。
こいつは緑が好きなのだろうかと思うくらい、緑が似合っている。
背格好はレイルと似ているが、ファッションセンスが、どうもかけているように見える。
まぁ座りなよ、と何故かピーターに促され、レイルの隣に座らせられた。
私とレイルを交互に見た後、にっこりと笑った。
ピーター「うん、お似合いだよ、君達!なんだか見ていてほっこりする」
海希「どこが!?」
いきなりの言葉に、黙ってはいられなかった。
初対面なのに、つい強い口調で言ってしまう。
レイル「どうしてそんなに嫌がるんだよ?まじで、本当に傷付くんだけど」
シュンっとなってしまった猫耳を、つい可愛いと思ってしまうが騙されない。
騙されてはいけない。
ピーター「でも、あれだよね?君達は...恋人らしい生活をしていたんだろ?」
海希「恋人らしいってなに?」
俗に言うあれか。
手を繋いでランチや映画や買い物に出かけたり、人目を忍んでキスをしたり、愛を呟き合ったりする事か。
なら全く問題はない。
この猫男に対して、一切当てはまらない項目だ。
レイル「一緒に寝たし、キスもしたし、デートもした。膝枕なんてしょっちゅうだったぜ」
海希「!!!!」
レイル「あ、あと一緒にお風呂にも入った。俺は嫌がったんだけど、アマキに無理やり連れ込まれて....」
海希「それ以上言ったら殺す!」
嘘ではない。
コロと一緒にお風呂に入ろうとしたが、コロは水を嫌がった。
そんな猫をお風呂に入れようとしたのだから大変だった。
膝の上で眠っているコロを優しく撫でてやったり、鼻や唇を舐められた事(キスに入るのかは疑問)だってあった。
....いや、普通にキスはした。
コロの頭や鼻や口に、私からしたのだ。
レイル「ぶ、物騒な事言わないでくれよ...だから俺、アマキの事ならなんでも知ってる。胸が小さい事に悩んでたけど、俺は全然気にしないし。って言うか、暖かいし柔らかいから、俺はそれで満足だぜ?それに綺麗だったからね!俺はそっちの方が...」
海希「この変態猫ぉぉお!!!!」
この変態猫、最悪な事に私の裸を何度か見ている。
身に覚えはある。
一人暮らしなので、バスタオル一枚でウロウロしたりしていた。
それに、寝る時は抱きしめて寝たりした。
コロがこんな変態なら、そんな事はしていなかった。
レイル「へ、へんたい?」
海希「変態変態変態!!!ムッツリ猫!!!」
レイル「いや、俺ムッツリじゃないし...結構オープンにしてるつもりだけど」
確かにオープンだ。
そんな私の恥を、第3者がいる前で披露出来るのだから。
ピーター「オーケー、それはもう恋人だね」
嘘ではないのだ。
嘘ではないから腹が立つ。
言い訳のしようがないが、言い訳はさせて貰う。
ピーター「で?レイルはこれからどうする訳?ここに戻ってきても、なんのメリットもないでしょ?」
レイル「メリットならある」
カチャリと取り出した銃。
その銃を見るたびに、私は肝をひやりとさせられる。
レイル「別にどうするって訳じゃないけど、とりあえずあいつらに見付からないようにしないとな」
海希「あいつら?」
なんの話をしているのかついていけない。
そんな私に気付き、ピーターが目を丸くした。
ピーター「あれ?知らないの?」
知らない事などたくさんある。
まず、この夢がいつもと違い、変な登場人物がたくさん出てくる訳だ。
そして、何故こいつがこんなに緑色を愛しているかも謎だ。
が、次の瞬間。
ピーターは、衝撃的な事を口した。
ピーター「レイル〜、恋人なら教えてやればいいのに。こいつ、犯罪者だぜ」
....!!!!!
何て事だ。
コロが...あのコロが....
犯罪者と言う言葉が、凄まじく頭の中を駆け巡った。




