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OTOGI WORLD   作者: SMB
* fall in otogi world *
15/92

泡になって消えない美女


夢の中で眠り、その眠りから目覚めれば現実だと思っていた。


いつもの部屋で、私の胸の中ではコロが眠っている。

大学に行き、授業を受けた後はいつもの3人でお昼を楽しむ。

唯の恋愛トークを聞き、それに相槌を打ちながら返事をするありさ。

そんな筈だった。


眠った感覚がない。

まるで、ずっと起きていたような感覚だった。

目覚めた時も起きたって感じがなく、逆に眠たいと言う感覚もなく。


あったのは、嫌悪感だ。


私はいつの間にか、ベッドの上にいた。

そんな私を抱き枕のようにして眠っていた猫の青年。


嫌悪感のあまり、その猫耳を朝から引っ張ってやったのだ。

痛い痛いと叫んでいたが、気が収まるまで引っ張っていた。


そのおかげで、その猫耳が付け耳ではなく本物だという事が発覚した。

なので変質者ではなく、猫男と言う事にしておく。


とは言っても、あの猫耳が生えていると言う事はあの青年は猫の訳で。

猫と言う事は、やはり私の知っているコロなのだ。


海希「複雑...」


おんボロバスから少し離れた場所に水辺がある。

これは、私がレイルと歩いた草原にある湖に繋がっているらしい。


タオルで軽く体を拭きながら考える。


レイルがコロならば、可哀想な事をしてしまった。

もともと虐待で人間嫌いだったコロを、ここまで心を開かせたのにまた閉ざされてしまう。


それは嫌だ。

だけど、あの青年の姿でいられるとなんだか好きにはなれない。

好きになれないのではなく、抵抗があるのだ。


コロの姿に戻れないのだろうか。

そうすれば、体を擦り寄せられても優しく受け入れられる気がする。


青年の姿で好きだと言い寄られても、ただの軽い男にしか見えない。

本当に困りものだ。


海希「いや、あれを男として見ても良いのかな....」


猫なのか、人間なのか。

本当に複雑だ。

判断に困る。


海希「....ん?」


顔を上げ、やっとそこで気が付いた。

いつからいたのかも分からない。


水辺を辿って行き、岩場に向かう。

そこで、こちらに背を向けて座り込んでいる女性は、静かに泣いていた。

しくしくと、鼻をすする。


海希「あの....」


女性「!!!!」


綺麗なブロンドの髪に隠れた肩が、ビクッと跳ねた。

彼女はこちらを振り向き、慌てて逃げようとする。


海希「あ、待って!びっくりさせてごめんなさい!」


悪い事をしてしまったので謝っておく。

すると、女性はジッと私を見ていた。


透き通るような綺麗な瞳。

肌は白く、とても綺麗な人だった。


海希「なんかその...悲しい事でもあったの?」


知らない人間に声を掛けるとは、私も悪い人間になったものだ。

正直、さっきまで悩んでいた事を吹き飛ばしたいが為に、人の悩みを聞くのも悪くないと思ったからだ。


彼女が悲しい事以外に泣いているのなら、嬉し涙か花粉症の2択だ。


女性「...あなたは誰?」


しくしくと、悲しそうに泣きながら訊く。

それはそうだ。

私だって、相手が誰なのか気になる。


海希「稲川海希って言うの。あなたは?」


彼女は黙って、私を見つめたままだ。


海希「あ...ごめんなさい、いきなり怪し過ぎた」


見知らぬ人に、いきなり声を掛けられても警戒するだけ。

それは、レイルと初めて出会った時の私と同じ。

その事を忘れていた。


女性「あなたって....変ね」


海希「!!!!」


少し傷付いた。

いや、結構傷付いた。

私はまともな方だと思っていたからだ。


女性「私を見て、捕まえようと思わないの?」


海希「は?え?」


捕まえる?


それは、夕日をバックに浜辺で追いかけっこをしているカップルが言うセリフのあれの事なのだろうか。


もしくは、この女性が色気を巧みに利用する大泥棒で、私を警察だと勘違いしているかだ。


海希「なんで私が?あなたを捕まえる理由なんてないでしょ」


困っている女性がいれば、捕まえる事より助ける事の方が正解だ。


海希「嫌な事があったのなら、1人で泣くより、誰かに話を聞いてもらった方が楽になるわよ」


いつの間にか泣き止んでいる彼女。

私が優しく微笑むと、彼女は恥ずかしそうに笑った。


女性「泣けば癒えるかと思って...他人は治せるのに、心までは治せなかった」


確かに、泣けばストレス発散になる。

泣く事でヒーリング効果を発揮するのは、テレビでもよく見た事があった。


女性「私はエリーゼよ。エリーゼ・ウォータ」


外国人か、と少し考えつつ私は彼女に頷いた。


エリーゼ「失恋したの。彼は私を知らないだろうけど、彼をずっと遠くから見てた」


海希「あぁ...そうなんだ」


よくあるパターンだ。

一目惚れして、でも恥ずかしくて話し掛ける事も出来ないまま、恋が終わってしまう。


海希「よくある事よ。また、次があるって!」


と、元気づける為に明るく言ってみた。


海希「何もモーションかけなかったんでしょ?なら、仕方ないわ。やらない後悔より、やって後悔する方が、すっきりするもん」


偉そうな事を言ってはいるが、きっと私だって彼女と同じタイプだ。

内気で、何も行動できない。

好きな人の前では尚更だ。

呼吸だってできないかもしれない。


海希「だから、次に好きな人が出来たら、思いきって声掛けなきゃね。あなた、とっても綺麗だから、すぐに射止めちゃうわ、きっと」


こう言う話は、私なんかよりありさの方が、もっとうまく慰められるんだろうなと思う。


エリーゼ「あなた、とても優しいのね。ありがとう」


元気を取り戻してくれたようだった。

さっきまで涙を流していた瞳は、そんなに腫れてもおらず、綺麗なままだ。


海希「そんなに泣いちゃったら、せっかくの美人な顔が台無しになっちゃう」


エリーゼ「でも、みんなは私の涙を求めているわ」


みんな?


エリーゼはいじめられっ子なのだろうか。

まるで、みんなが泣かせようとしているみたいな言い方だ。


海希「泣いちゃ駄目!そりゃ辛い事もあるだろうけど、泣いたら余計に相手を良い気にさせる!」


私の夢で、そんなイジメはさせない。

私は少し熱くなっていた。


海希「やり返さないと!じゃないと強くなれない!もしくは、頼れる友達に相談するとか...私があなたの友達なら、絶対助けてあげるのに」


エリーゼ「本当?」


海希「うん!私、そう言う弱い者イジメって嫌い!だから、あなたも泣くなら自分の為とか、大好きな誰かの為に泣いた方が良いわ」


エリーゼは笑っていた。

とても明るく。

その笑顔が素敵で、本当に綺麗だった。


やはり、綺麗な女性は笑顔が似合う。

こんな事を口に出すと、またキザな男になってしまいそうなので、言わないでおく。


エリーゼ「ありがとう、とても元気が出たわ!あなたは不思議ね」


海希「うーん...ありがとう」


褒められているのか微妙なところだが、お礼は言っておく。


エリーゼ「私と友達になってくれる?」


海希「当たり前よ!むしろ、こんなに綺麗な友達ができるなんて、嬉しい」


エリーゼは最後に笑い、湖の中に飛び込んだ。

その水しぶきの中で見えたものに、私は目を見開いた。


エリーゼ「あなたに会えて良かった...!またね!!!」


跳ねるように泳いでいく。

鱗がキラキラと光り、とても綺麗で...

一瞬見せたその大きなヒレは、水の中に消えていった。


海希「半魚人....」


....ではなくて、人魚。

初めて見た生き物だ。


映画やゲームなどでよく登場する生き物だが、まさか本物を見る事が出来るなんて。

いや、これは私の夢だから決して本物ではない。


岩場の凹凸で上半身しか見えなかったので、油断した。

猫男がいるのだから、人魚がいてもおかしくない。


と言うか、私は人魚相手に熱くなっていたのか....


幻想的な相手に何て事をしてしまったんだと、恥ずかしくなった。

そんな事を考えながら、とぼとぼとバスの方へと向かったのだった。







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