プロローグ
少々長くなる完結予定のお話です...楽しんで読んでもらえれば嬉しいです汗
小さい頃。
よく自分の母親に絵本を読んで貰っていた。
その絵本の内容は、女の子なら誰もが憧れるお姫様や魔法などが出てくる夢の国の作品。
ガラスの靴で幸せを掴むお姫様。
雲の上にある宝を持ち帰った青年。
人間になりたいと強く願った少年の人形。
母親の口から溢れるおとぎ話の世界は、本当に夢のようで、憧れていた。
それが影響して、そんな夢に溢れる絵本の話が大好きになっていた。
いつか自分も、犬や猿、雉を連れて鬼退治へ出掛けたり
大人になったら月からの使者が迎えに来たり
助けた亀に、海の底にある都に連れてって貰えるものだと信じていた。
....が、それも昔の話だ。
今でもそんな事を願っていては、お痛いメルヘン女だ。
"夢を描く”と言うより、”妄想”になってしまう。
それも、とてつもなく痛い妄想だ。
海希「あー、もう、ちゃんと食べてるって!大丈夫、大丈夫!バイトも学校も、ちゃんと両立してるし...」
高校を卒業して、大学に進学した。
それをきっかけに、生まれた時から暮らしていた家を出て、小さなアパートで一人暮らしをしている。
そんな私を心配してくれるお母さん。
毎週金曜日の夜に電話をかけてきて、私の安否を確認するのが趣味らしい。
海希「また連休入ったら、そっち帰るわね。この前、先輩からビール貰ったんだけど、私飲めないし。お父さんに持って行くから...」
話の内容はいつもと同じ流れ。
ちゃんと寝ているか。
ちゃんとした物を食べているか。
金銭面で困っていないか。
友達関係はどうか。
そして、お母さんの愚痴の相手。
決して嫌ではない電話のやりとりだった。
ごく普通の親子の会話だ。
電話を切った後、携帯をベッドの上へ投げ捨てる。
机に向かい、来週には学校に提出しなければならないレポートに取り掛かる。
女子大生の一人暮らしにしては、とても華がないものだった。
友達は少なからず、多からずといったところ。
心から信頼出来る友達が数人いれば十分だと思う人間なので、広く浅くの付き合い。
それでも、こんな私を友人だと呼んでくれる人は多かった。
アルバイトはしている。
週に4日〜5日。
親に頼ってばかりではいられないので、それなりに頑張っている。
彼氏、って相手もおらず。
確かに、何度かそんな相手もいた。
人並みの恋愛は経験したはず。
だけど、今の私にそんな熱愛報道はない。
朝を迎え、学校へ行き、バイトに励んだ後は帰宅。
1人で温もりのない夕食をとり、裸に近い格好でテレビの前でゴロゴロと転がっている。
そんな毎日をローテーションしている。
まるで、一人暮らしのおっさんだ。
本当に華がない暮らしを送っている。
これではいつか、干物になってしまうだろう。
小さい頃、キスで永い眠りから目を覚まさせてくれるような王子様が、いつか迎えに来てくれると信じていた。
目がクリクリの、背の高い優しい王子様。
今もまだ、迎えに来てくれそうにもない感じだ。
とは言っても、この歳で王子様を信じている訳ではない。
この地球上には70億人以上の人間で溢れている。
その中から運命の人を探すなど、神業だ。
私は神様でもないので、そんな技を持ち合わせていない。
けれど、私だって一応女なのだ。
いつかはそう言う異性に出会い、結婚して子供も生んで、それなりの幸せな家庭を築き上げたいと、一応自分なりの人生設計は描いている。
海希「あぁーっ...続きは明日ね」
瞼が重い。
時計に目をやれば、知らない間に日付が変わっていた。
それが分かると、余計に眠気が襲ってくる。
誘惑に負け、このままベッドに倒れ込む。
ありがたい事に、明日は学校も休みで、アルバイトも夕方からのシフトだ。
このまま寝てしまおう。
面倒な事は、また明日...
頭に浮かんだその意識は、瞬く間に沈んでいく。
私は、薄暗い部屋の中で、すぐに寝息を立てていた。
気持ち良い...
暖かくもあり、涼しくもある。
私の頬をふわりとくすぐる微風。
目を開けると、青い空が広がっていた。
上半身を起こす。
一面が、草原で広がっている。
風に揺れる草花。
そこに私はいる。
向こうの方には山がそびえ立っていて、反対側には大きな湖。
とても静かで暖かい。
まるで、自分1人しかいないような世界だ。
それも当たり前なのかもしれない。
これは、私自身の夢なのだから。
また仰向けになり、瞼を閉じる。
夢の中なのに、また二度寝をしようとする。
この表現は間違いなのかもしれないが、実際に瞼は重く、そしてとても居心地が良い。
私は夢の中でも、また眠っていた。
この夢は、今までも何度か見た事のあるものだった。
同じ場所、同じ感覚。
そして、のどかに流れる時間。
私はいつも、また眠りに入る。
夢とは、自分の精神や記憶に関わるものらしい。
こんな場所に見覚えはないが、良い場所だ。
そんなに眠ってばかりの夢を見るのは、体が疲れているという事なのだろうか。
そんな実感はないのだが、この気持ちの良さは、私を更に深い眠りに誘ってくるのだった。