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征空の海鷲  作者: j
1941 火蓋が切られて
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陸軍 クアラルンプール航空戦

 ジャングルに囲まれたコタバル飛行場に集められた陸軍航空搭乗員の中に、私も含まれていた。

 今、指揮所前に搭乗員達は集められ加藤隊長、陸軍の制服に身を纏った陸軍の航空参謀。誰もが肩を固くし緊張した雰囲気が漂う。

「隊歌合唱!脚一歩開け!」

 加藤隊長の怒鳴り声に隊員達、私は航空靴を鳴らしながら肩幅一歩分開く。

「エンジンの音、轟々と隼は行く雲の果て」

 加藤隼戦闘隊歌。堅苦しい雰囲気は皆が歌によって柔らかくなり、誰もが微笑んだ顔、隊長も参謀も笑顔で一つの声になり私も後に続いて声を出した。

「過ぎし 幾多の空中戦・・・」

 小中学校の音楽の授業を思い出し、もう還らない青春を兵学校に費やしたことに私は少し後悔したけどずいぶん前の事であった。


 歌い終わりに散らばるように駆ける搭乗員は一式戦闘機に乗り始め、爆音唸らしたエンジンに各機が滑走路を走り出し、翼を連ね大空へと飛んだ。



 ――クアラルンプール飛行場 上空

 さて、我々の任務はクアラルンプール飛行場の敵機を叩くことである。これも陸軍への支援の為であるが、私はまだ英軍機の戦闘機はみていない・・今回が初めてとなるだろう。

 搭乗している戦闘機は 一式戦闘機、通称"隼"。九七式戦闘機より速度もあり、変わらない感覚で操れる。早く慣れるな。

 私は以前の戦果を元に、小隊長になった。

 第六十四飛行戦隊には2人ほどヒヨッコがいる。それの小隊長となった。

「都市郊外に飛行場とジャングルか・・」

  やれやれ・・敵さん、こんな場所に飛行場作ってたか・・。通りで陸軍の連中が地味に進んでないわけだ・・。

『全機、攻撃開始!』

  総勢、17機の隼戦闘機は一斉に飛行場に潜りこむかのように突っ込んでいく。私も送れてはならない。

 飛行場を視界に入れる。

 噂に聞いていたホーカーハリケーンがそれぞれ10機ほど並んでおり、今発進しようとするカーチスP36が1機。

 皆、機銃掃射を加えようとする。


 ただ、私はやらなかった。

 何故なら奇襲が成功したとしても、高射砲が撃たれるからだ。

「1番機、2番機はいくな。私につづけ、美味い物を食わしてやる」

 私は敵機を数機、低空で見つけたのだ。

 高度およそ1000mまで、私に続く小隊を降下させ敵の真上まで迫る。

 肉眼で見れば敵機は 同じP-36が3機、ギリギリ発進したやつかもしれない。


「好きなのを食え。1人1機だ」

 そう言うと我々は敵機の後ろに張り付く。

 まるで、餌にありつけるかのように私より前にいく、ヒヨッコ2機はP-36を追っかけまわすかの様に鬼ごっこを始めた。

 残り、外れた敵1機は私に狙われる。

 距離およそ200m。十分撃てる。

 体いっぱい前に、遠望照準機を覗く。


 敵のP-36は必死で私を振り払おうと、いっぱいに旋回するが、これは逆に速度の低下の元となり距離が迫る。

 その時私は敵の顔を見る。

 斜めになった機体に、風防越しにはこちらを見る様に白く若い男が、遠望照準機に映ったのだ。

 思わず覗くのをやめてしまい生身の目でみる。


 私は元々視力が高かったので離れていても中の人間は見えるのだ。

「・・・」

 迷う。私は上下降を続ける敵機を撃っても良いのか。

 もしかしたら、次の日、我々の宿敵となるかもしれない・・。

「すまないな・・。これは戦争なんでね」

 また私は遠望照準機を見る。

 高度は感覚で1000mを保つ。


 ×の照準を敵機の風防目掛けて、左手で添えた12.7mm発射装置を指で倒した。

 高い銃声。エンジンの唸りに混じる。

 P-36の風防は吹っ飛び、機体胴体には沢山の穴が開いた。

 機体は急にサーカスでもやってるかのように大きくに機体を滑らし、ジャングルの中へと消えて行く。

「・・・」

 私はそれを見守る。

 脱出したのか、してないのか。

 と、パッと白い花が咲いた。落下傘である。


 私はフッと一息。

 2機の小隊気が私の近くに寄ってくる。

 どれも皆、笑顔だ。

 周りを見渡し、旋回する我軍の機体が見えた。

 機体を傾けてその方向へと向かう。


 敵機飛行場が小さく見えるが赤い炎に包まれていた。そして私達を襲う敵機は居なかった。



 ――コタバル飛行場

 静かな夜に満ちた。私は椰子の下で座り、マレーの夜空を眺めていた。

 と、そこで奈緒子が半袖半ズボンの夏服姿で私の隣に座る。

「・・どうだった?」

 私に問う。どうだったとは何をどうした。

「どうだったって?」

「敵機よ。敵機」

「ああ・・私は1機撃墜」

「私もよ。ユウコ」


 快進撃を続ける日本軍だが撃墜の数は日常茶飯事だ。

「こうやって、夜景を見るのも中国戦以来ね」

「そうだな・・。あの時は色々やって喧嘩したっけ」


 脳裏で蘇る。

 寒い、中国戦のときだ。

 私と奈緒子は同じ兵学校を卒業し、中国の漢口と言う場所の陸軍航空隊に所属していた。

 最初、九七式戦闘機で1機、2機と撃墜数を上げてきた仲であった。


「さーて・・あっこれ召集令状」

 ん?もしや。

 渡された封筒をあけてみると、陸軍司令部からこんな文が。

『シンガポール戦に備え唯一航空歩兵のユウコ軍曹を参加されたし』

 ほほう・・。

 歩兵になるのは陸軍学校以来だな・・。

 無性にやる気が漲ってきた。


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