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征空の海鷲  作者: j
サイドストーリー
47/52

IF海軍徹底抗戦 1945

IFです

 私は許せなかった。

「こんなことあるかっ・・!」

 260海軍航空隊の隊員らも拳を握り、怒りに満ちていた。

 戦争は終わった。けれども私はラバウル、ソロモン、そしてマリアナと散った戦友が無駄死にだと思い・・、私は勝ち負けの無い休戦を認めたくなかった。

 宿舎内に集まる隊員らは同じ気持ちだ。

 誰もが戦い、誰もが傷つきながらも懸命に戦ったのに・・!

「大本営はこんな事を受け入れ、共に戦った戦友らは何のために!」

「こうなったら我々だけでも勝つまで戦う・・!徹底抗戦あるのみだ!」

 海軍少佐の声に、闘志を燃やして最後まで戦う私達は、日の丸鉢巻を飛行帽の上に巻き、一言も発せず、戦闘機が並ぶ飛行場へと歩いていく。

「少佐、厚木海軍航空隊から徹底抗戦に賛同し協力するようです」

「そうか。協力に感謝する と返してくれ」

 厚木も同じだ、恐らく他の隊も・・。

 稼動可能機34機。

 零戦と紫電改・・その他局地戦闘機、飛行場の芝生はプロペラの風に大きく揺れる。

 海軍少佐が指揮をとる。攻撃目標は陸軍航空隊基地の襲撃、および飛行場掃射・・。

 多少の複雑さは感じた。でも分かってくれるはず・・。

 手早く乗り込み、機内ベルトと装着、車輪止めがはずされて、愛機の零戦五二丙型は発進する。

 

 機内時計は18時32分、西の空は真赤な夕焼けとともに染められ、海はオレンジ色に輝いているような景色が目にうつる。

 横須賀軍港上空・・。

 厚木飛行場から徹底抗戦を賛同する海軍航空隊と合流し、高度5000mの大空で計60機以上の戦闘機の大編隊をつくり、攻撃目標へ進路を転進する。

 しかし・・。

 突如として高度6000から降下する一つの機影が、雲の外から飛び出して矢の様に私達編隊に突っ込んでくる。

 そして暁雲から我々を待ち伏せたように、戦闘機たちが襲撃してきた。

 唐突な奇襲に3機の友軍機が、錐揉みのまま東京湾に吸い込まれていく。

 

 編隊を崩し、各機は散らばり赤い風景の中で空戦が起こり始める。

 そして日の丸の戦闘機が我が隊に攻撃する光景に、私は驚いた。

『日本陸軍め!我々の行動を知って待ち伏せしたか!』


 <<三人称入り・・)

 海軍反乱軍は気づいていなかった。

 陸軍の五式戦闘機二型乙、四式戦闘機一型甲、そして海軍の零式艦上戦闘機五二型。三角の3機1個小隊を組む中で、鼎がその工作をした事に誰もが気づかず、嵌められていた。

「美貴さん・・。ごめんなさい」

 鼎は泣きそうになりながらも、遠く届かない美貴に言う。

 そしてその3機は反乱軍と化した海軍航空隊の編隊めがけて突入を開始した。

 

 出撃前の事である。

 海軍基地の電信室内、海軍少佐に電報を伝えた一人の電信員は縛られ、布を口に詰め込まれて身動きがとれずに居て、とある海軍航空隊中尉が無線機の前に座り、微かな声でどこかと連絡を取っていた。

『なに、260海軍航空隊が・・!?』

「はい・・。恐らく厚木海軍航空隊のほうも・・!お願いです、美貴さんと彼らを止めてください・・!」

 鼎は今まで見た光景をこれ以上増やしたくないと言う願いを、無線越しのユウコに言い聞かせた。

 そして無線越しの返答は、

『了解だ。おい、司令部に伝えろ"260海軍航空隊、厚木海軍空、反乱を開始する。攻撃目標は陸軍航空隊基地"と・・』

『手早いな。鼎、聞いてるか。大本営から鎮圧命令が出た。関東陸空軍で抑える。多少の死傷者は出させるけど・・』

「でも、美貴さん・・」

『美貴なら私に任せろ。お前は先回りして横須賀陸軍航空隊基地上空に来てくれ』

「了解です・・!」

 彼女は一目散に飛行場へ走ると、すでに戦闘機はなく残るは五二型だけだった。

 反乱に参加すると勘違いした整備士は即座に手にかかる。

 彼女は到達までの時間を気にしながらベルト類を着用した。

 

 一方大本営の会議室では、机を囲んだ陸軍将官達が、海軍将官に対して責めかけまた怒鳴りつけるなど、海軍の威勢の面影はなくなっていた。

 しかし、両者が鎮圧を了解させ、陸軍側から各地に命令を下した。


 そして現在。

 四式戦を操るユウコは、反乱軍を指揮する海軍少佐の乗る紫電改に急接近する。

「貴様、我々の行為を邪魔するというのか!」

 犬の吼え事のように聞きとるユウコは、

『言うことの聞かない犬はこちら側のしつけで抑えてやるからな』

 と四式戦はエルロンロールで左横転。紫電改の後ろにつくと、機銃は発射され瞬く間に蜂の巣になる、海軍少佐機は火達磨に変わり果て空へと散った。

<<視点美貴・・))

 

 どうして・・どうして陸軍機が私達に襲うんだ。

 日の丸の飛行機は日の丸を撃墜し、それを追撃したりやられたり、何もかも滅茶苦茶な風景で私は混乱する。

 殺される、でも殺されたら皆が掲げた徹底抗戦が無意味になる。 

 きっと大本営にも伝わるはずだ・・!

 操縦桿を振り込む。陸軍機と海軍機を見分けながら私は左旋回、狙える敵機を探しこんだ。

 

 八四飛行戦隊の一式戦闘機・・!

 お前も白黒つけずに屈したか!

 旋回を続けさまに照準機にいれる。ガラス板の中で踊る一式戦闘機は零戦以上に軽快な動きをみせつけた。

 13mm機銃発射機を倒した。

 ダダダ・・。

 何十発もの曳光弾は自ら敵機につながり、翼の付け根から火と黒煙を吹き、赤い海へ落ちていく。

 見送る暇もなく次の陸軍機を見つけては私は機銃を撃ちまくるが、腕の差なのか命中しているようで実は当たっていない。

 あれは四式戦か・・!

 ぐいぐいと追い込もうとする。しかし四式戦闘機は簡単に私を振り切り、射線から逃れる。

 あいつは後だ、やれるものから徹底的に落としてやる。

『美貴ーっ!!』

 地獄猫以上の殺気と気配を真上から感じ、私は左ラダーペダルを踏み、機体を滑らした。

 1機の戦闘機が弾丸の雨を降らした。日の丸に白い"八"の文字。

「ユウコ!」

『バカなことはやめるんだ、美貴!』

「やめないぞ!私は戦う!」

 無意識に四式戦を追いかけていた。

 いつも見ていた彼女の姿は、ラバウル以来の一式戦より、手足の一つとして簡単に操り、また無駄のない動きを披露しながら私の照準から逃れようとしていた。

『お前はあの海で戦った戦友たちの思いを背けている』

 なっ・・。

『死んだ戦友も悲しがってるだろう。終わった戦いに、また櫻の花びらを増やすんだからな・・!』

 違う・・!

「違う!死んだ戦友が納得しないだろ!こんな勝ち負けのない終わりかたなんて!」

『それで負けたらもっと悲しむだろう』

『勝つのもそうだ。でも負けなんて一番嫌だろう?』

「でも私は戦うぞ・・、たとえユウコを墜としてまでも!」

『うむ・・、そうか。なら私にも考えがある』

 すると四式戦闘機は暁雲のほうへ遠ざかる。

「鼎!お前!」

 鼎の五二型がすぐ右に急接近し、横転しながら私の背後にくらいついた。

 機首から発火した機銃に私は操縦桿を倒し、その攻撃を避けつつ鼎機と巴戦に入ろうとしていた。

『ごめんなさい、美貴さん・・でもこうするしかなくて』

「お前は陸軍の行動を知っていたのか!」

 鼎の返答は無かった。私に威嚇射撃をするだけして、また胴体下へとその零戦が消える。

 機体を背面に、逆さな風景で私は鼎の五二型を補足し追撃をはじめる。

 小さい鼎機を視野に、周辺が黒く滲み身体から重りが感じられてGが増してきた。

 鼎もこれに気づいた。

 両者が宙返りの空中戦となり、私は空戦フラップを展開。少しでも丙型の旋回性能を上昇させる。

 鮮やかな紅円の零戦が照準機へ入るとき、脳内で微かなためらいに襲われる。

 鼎を撃ってもいいのか・・?

 何だろうこの感覚は、私が中国戦線で初めて空戦した時より・・!

 汗が頬からたれる。

 だめだ、今決めるんだ!

 震えた手で発射機を倒した!

 火薬の炸裂に連射される13mm機銃の野太い曳光弾が、鼎機に吸われ私は動揺をおこしながら発射機を手放した。

 零戦の主翼からパッと炎が生まれる。その姿はライターを紙に炙ったかのようにじわじわと機体を包み込む。

「鼎・・!」

 なんて事をした!

 私は我に戻るがすでに遅かった。

 炎上した零戦は海めがけて突っ込み、私は自分の犯した行為とその罪悪感が心のそこから蝕み、どうすればいいかわからない

 鼎、無事でいてくれ。と祈るしかなかった。

 すると純白の花が咲いた。落下傘である。

 緩やかに緑の内地へと流れる鼎の落下傘に、私は胸を撫で下ろした。

 落下傘を掃射する者も中にいるので「落下傘は決して撃つな」と私は全隊につげ、次なる目標、ユウコの四式戦を探す。

 乱戦の渦からだいぶ遠ざかっている。

 背後から機銃の音に、操縦桿を振り、ラダーペダルを踏み込みながら機体を反転ダイブ。黒く染まる視界にユウコの四式戦闘機を目で補足。両者が宙返りの空戦が展開されていた。

 だめだ、付かれる!

 あの地獄猫と戦った以上にユウコは強い・・!

 空戦フラップを開き、スロットルをダウン。

 四式戦に背後を取られる寸前のところで、機首を上げつつエルロンロール。

 よし、追い越したか!?

 確信したと思えば四式戦は動きを真似て零戦に張り付いていた!

 ユウコの表情や顔がしっかり見えるほどの近距離、彼女の素顔は楽しい遊びをするかのような感情を作り、私はゾッとし恐ろしくなる。

 撃ちっぱなしにされる機銃を背中に機体は何秒間と衝撃が走る。

 キャノピーをズタズタに撃たれば、座席の防弾ガラスはヒビで後ろが見えなくなる。

 殺しにかかってる!

『はっは!どうした、美貴!お前はそんなんじゃないだろ』

『次は20mmをお前の背中、燃料タンクに撃ち込んでやるぞ』

 舐めるんじゃない!

「撃てるものなら撃ってみろ!」

 私は答えた。

 射線に入りたくない、と言う勝手な本能に機体を滑らせなんとか逃げようとする。

 荒鷲に捕まったら生きて還れない・・・!

 必死の思いを胸にただ逃げ回ろうとする。

 突然、機体の動きが乱れ操縦不能になったとき右翼がもぎ取られ、ガソリンが吹き出ていることに私は驚き、今度こそ死を覚悟した。

 しかしユウコの機銃は一向にやまない。

 機内ベルトをすべて剥ぎ取り、風防がオイルで汚れ機首が炎で飲まれる前に、キャノピーを開き回る風景に身を投げた。


 ユウコ・・。

 あんな恐ろしい顔を見たのは初めてだよ。

 我に戻ったとき、私はどうして逃げていたんだろうと思い落下傘は開かれ、脇が締め付けられながら流れていく。

 すでに海軍機の大半は失い、暁の中で純白の花が沢山咲いていた。

 私の中ではほとんどが躊躇ったんだろうと思いながら、墜落する自機を眺めていた。



 


 

 

 

 

 



 


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