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征空の海鷲  作者: j
サイドストーリー
45/52

頼られるかな、中隊長

 1944年2月、ラバウル海軍航空隊東飛行場。

 美貴、ユウコが引き上げた二日後。

 

 視点、淵田(ふちだ)(かなえ)

 日が窓から差し込む。

 光は眩しく、私が配属されてから毎日変わらない太陽が、日射と共に挨拶をする。

 連日の空襲に私たち搭乗員はみんな疲れきっていて、日中交代なんてなく熱が38度あろうと、腹痛や体調不良になろうと、とにかく撃退して生きることばかりが私たちの精一杯。

 

 あっ・・。

 そうだ、美貴さんはもう居ないんだっけ・・。

 誰も使っていない白いシーツにベッド。空のロッカーや棚が静かに置かれただけで、寂しく感じる。

 何だろう。

 美貴さんやユウコさんに依存してたのかな・・。

 慣れない中隊長になった時でも美貴さんは援護や、私より先に発見したり・・心強かった。でもなんだか心細い。

 でも頑張らなくちゃ!

 パイロットだもの、負けたら死ぬんだから・・。


 早速、私は飛行服に着替え、指揮所隣に張られたテントの下、椅子に座りながら部下と会話をしていた。

「油断したグラマンを追うのは禁物だぞ、1機が襲いにかかる」

 ベテランのパイロット達が手真似で経験の浅いパイロットに、米軍が使う戦法を研究、教えている。

 が、不気味な空襲警報サイレンが基地中に鳴り響く!

「監視員から連絡!敵戦闘機30機以上がラバウル向けて襲来!爆雷機は編隊にあらず」

 指揮所の電信員からの声に、慌しい基地で待機していたパイロットは一目散に零戦に乗り込む!

「まわせ、まわせーっ!」

 早く乗らなきゃ、敵は待ってくれないぞ! 

 すぐさま愛機の零戦五二型、260所属、9号機に乗りついて、飛行ベルトとバンド、手持ちした飛行帽をかぶってゴーグルを装着した。

 ブルンとエンジンの始動音にプロペラは緩やかに左回転する。

 16機と少ない稼動機と苦しい中でも、私は戦わなければならないんだ。

 中隊長としての私の機は一番最初に飛行場を滑走し、十分な速度で離陸する。後継から部下達の機が続々と空へとあがっていく。


 中隊長、中隊長・・私はその立場になって心が重たく、なんとも言えず非常に緊張した気分になる。

 美貴さんの列機のほうが安心感があって・・、私はプレッシャーに弱いのかも、見えない重りはどうやれば解消できるかな。

 だめだめ、心配より自信を持て!

 とにかく自信を持たせることに自分に言い聞かせた。

 洋上が幻の世界のように、光の粒が一面広がっている。

 高度4200m、薄白い雲が頭上、翼下、散らばって見える中で、私は周囲の見張りを厳重に確認していた。

 後ろには黒いラバウル湾、そして正方形に小さな海軍東飛行場。

 友軍機の1機が横目から流れて、それを追うと私の隣に。

 指を真上に振っている、敵機を確認したんだ。

 断雲上に、粒が動いてる・・。敵機だ。

 操縦桿を左右に倒して私はバンクする。


 敵も気づいた!

 急降下してくる敵機は太陽を背に、私達編隊に襲い掛かる!

 全機が機体を右左と滑らして霰の弾丸を避けていく。

 敵1機を補足、両翼から発火される機銃を難なく回避、頭上からくる降下がすぐ真横から通り、翼下へと消えた。

 確認できる形状でもアメリカ海軍のF6Fと逆ガル翼のF4Uだ。

 珊瑚、ソロモンの奥深くまで進出してきたと思うと、ラバウルはもう持たないと感じてしまう。

 大乱戦が展開されると、真横や頭上と曳光弾が通ってとても危ない。友軍同士で落とされたらたまったものじゃない!

「深追いは禁物だぞ!対零戦法には注意するんだ!」

 無線で連絡。

 頭上に大きな影が生まれるとグラマンが気づかずに追い越してしまう。

 しめた!

 距離は50mと近距離、敵の後部下にいる私は絶対有利位置にいる!

 チャンスと思い左手で添えた、機銃発射ノブの20mm発射装置に親指を押しこんだ。

 連射されて撃たれる機関砲弾はF6Fの胴体に飲まれ、何個かできた弾痕からガソリンが大量に噴出した。

 攻撃に気づいた、角ばりの機体、F6F。急旋回しようと機体を斜めにするも私は再び20mm機関砲を撃ちかまし、敵の主翼は真っ二つに撃ち折り、錐揉みに黒海へと落ちる敵機を見届けながら空戦の渦へと突入する。

 2機の列機はしっかりついてきている。

 高度4200m、大空戦の中この高度はまずいと思い、操縦桿を引いて高度を上げることにした。

 スロットルレバーを押し倒す。エンジンの回り具合が早くなり、速度と共に零戦と小隊機は青空向けて上昇する。

「そして2番機と3番機に「攻撃を開始する」と手信号で送る。

 本来なら無線を使うべきところなんだけど、無線が古かったり、雑音で役に立たなかったり、重たいから外す、とあるので手信号を使わざる得ないという状況なので、しょうがないことだった。

 高度5000m、速度は260km/hと無茶な角度で上昇したので、操縦桿を下ろす。

 機首は空戦の渦のほうへと急降下。

 スロットルを絞り、次第に近づくエリアへ撃てる敵を探し、補足した。

 手前のコルセアが狙いやすい・・・。

 光学照準機から自らはいったコルセアは気づいていない。

 距離は縮まる・・600、500m・・・。そして200m・・。

 7.7mm発射機の引き金、20mm弾のノブボタンを押し倒した。

 機内の7.7mm機銃が発砲と共に振動、ベルト弾丸が本体に流れるように給弾される。

 20mmの赤い曳光弾、7.7mmがコルセアの蜂の巣だらけに撃ちぬき、白煙と赤黒い風防を一瞬すれ違うところを目に、愛機は降下した。

 不動な動きでコルセアは墜落する。

 列機も狙える獲物を一撃で撃墜する。

 よし、もう一回・・切り替えし・・!

 背後からゴゴゴ・・と重たい機銃の音と、視界に入るF6Fは列機の銃撃を受け、黒煙を吐いて離れ去っていく。

 再び左旋回し機首を持ち上げ途端、

「うわ!」

 私はびっくりした。

 火達磨の零戦がすぐ目の前を通り抜いていったからだ!

 また一人死んだんだ・・。

 次は私かな?って思いながら、左右見ながら敵を狙える敵機を探していた。

「またグラマンか・・しつこいぞ・・」

 背後に3機、列機とはぐれてしまい私は孤立していた。

 横転する操作を行い、機体をエルロンロールすると敵機が回転して見えて、撃たれる黄色の曳光弾を難なく回避。

 私はこいつが憎い。

 できればこいつを生かさず、一撃で落とすべきだと、列機や部下に教えていた。

 座席下のフラップレバーを引いて機体を左急旋回。

 F6Fは零戦以上に性能がいいので、それ以上の技術を発揮しないと落とせないと私は思っていた。

敵を逃さず目で捕捉・・。

 3機のうち、2機が小隊から崩れ、1機だけが残され、左旋回に負けた敵機の後ろに張り付いた。

 相手は左右旋回と私を振り切ろうとする。

 後方確認する暇も無く、一点集中射撃で20mm、7.7mm機銃をぶちかますけどなかなか落ちない・・!

「くそ、早く落ちてよ・・!」

 何秒も引きっ放しの発射機が炸裂する中、焦りを中に感じていた。

 炸薬弾が爆発したのか、敵機は木っ端微塵に空中で分解され形なく、残骸だけが無残に落下する。

「ハァハァ・・」

 この頑丈機め・・。

 わきの下が水で浸したタオルのようにシャツが濡れいて、とても冷える。

 そして後方にF6Fが2機、待ち構えていた!

 だめだ、死ぬ・・!

 頭が少しずつ白くなって黒光りする13mm機銃だけが冷たく光っている。

『中隊長!危ない!』

 列機の無線に私は我に返り、とっさに操縦桿を振り、機体を急降下させ反転すると後から機銃が撃たれて、空中で描く赤い線が何発も飛んだ。

 そしてF6Fの2機は列機によって撃墜されるのを私は見届けると、また背後にコルセアが愛機向けて銃撃してきた。

 

 右ラダーペダルを踏み操縦桿を壊れんばかりに倒したが、機内に衝突されたかのように揺れに、思わず頭を伏せた途端、風防を粉々にガラスが太ももに散らばる。熱壁が耳元を通り過ぎた。

 ふー、セーフ・・。

 なんだかやられっぱなしで無性に腹がたつ。

 同じく列機がコルセアを火達磨にさせて、私の近くに1機が寄り、状態を確認した。

 2番機が手振りで後ろに指を振っている。

 私のことかな?

 操縦桿を引いたとき、持ち上げが悪いことに気づいた。

 エレベーターがぼろぼろになってるじゃないか!

 割れた風防越しに、あちこち千切れたエレベーターと尾翼は骨組みを露出しながらも辛うじて飛んでいる。

 エンジンは異変無く元気に動いているが、両翼に幾つかの弾痕ができあがっていた。エルロンができるか、できないかと微妙な状態である。

「あれ?」

 3番機がいない・・。

 私は2番機に「3番機はどうした」と手、指と信号で送ると手を横に振って「見ていない」と返ってきた。

 まずい・・!

 心配になりその場で周囲を見渡すと、1機だけ空戦の渦から逸れて追われている機体が目にはいる。

 あれは3番機か!?

 ずいぶんと低い高度で逃げ回っている。助けなきゃ!

 高度を落として、その方向へ急行し、フルスロットルでオーバーブースとを発動し、零戦は鷲のように一気に降下する!

 機体の耐久速度がギリギリなのか、翼や胴体がガタガタと泣きはじめ、速度計は生き物のように回る。

 よし、ここだ!

 3番機を追撃していた敵機はF6Fの2機!

 こちらに気づかず、次第に先頭の1番機が照準に合わせられ、7.7mm機銃、20mm機関砲が一撃とばかりに発射される!

 野太い20mm機関砲の曳光弾は敵と一緒につながり、その間撃たれる銃弾でたちまち炎の尻尾を引きながら、離脱すると私の一撃にコルセアは逃げ腰に、急旋回する。

 逃がさないぞ!

 操縦桿をいっぱいに下げ、空中分解を防ぎつつ上昇した。

 上は抑えた。後は一撃食らわせるのみ。

 しかし敵機が逃げ腰となるとこちらは追いつけない。

 参ったな・・。ん・・?

 3番機?がコルセアを追っているのを眺めると、海上に赤い線を何本も繋ぎながら攻撃している。

「撃墜・・撃墜。」

 コルセアは操縦を誤ったのか海面に衝突、水柱は立ちあがり、虹のような液体が浮き上がる。被弾した部位からガソリンが漏れていたんだ。

 

 3番機が駆け寄った。

 風防をあけて腕を振る。

「撃墜しました」の合図だった。

 怪我は無いけど機体の傷は大きかった。

 でも生きているだけ嬉しかったので、私は笑みを溢しながら「基地へ還ろう」とラバウル指して伝えた。


 空戦も一段落終えたので全機がラバウルの飛行場に着陸し、全員が指揮所の前に集まる。

 戦闘の激しさを物語る愛機と戦闘機の姿に誰もが一言も語らず、ただ報告の声を待っていた。

「撃墜確認者、報告せよ」

 指揮所内で横一列に並ぶ将官達から、指揮官の声に私は口を開くが別の隊から報告がでる。

「未帰還が3機、撃墜数は5機です」

「そうか・・。」

 3人が空に散った・・。

 私の目の前を通った零戦・・。

 次々と個人の撃墜数があげられ、最後は私の小隊。

「撃墜数4機です」

 と私は簡単に答えた。

 総合計数が16機と半数超えた戦果が黒板に記入されるが、私は嬉しくなかった。

 もし3人が敵に襲われなければ賑やか、歓喜に包まれるべき基地が、静けさだけが広がっていたから・・。

「以上、解散」

 指揮官の声に皆が搭乗員達が散らばり、自分のやりたい事、明日の準備に取り掛かろうとした。 

 日に日に私の腹はキリキリと痛く続いて、血が回らないか立ち眩みがする。

「中隊長・・」

 私の小隊じゃない小さな少年搭乗員が声をかけてきた。

「あの、いつも助けられてなんと言うか・・これを」

 4粒のキャラメルが手のひらに渡される。

「えっ・・?」

「毎日疲れてる様子で、みんなが言い難いらしく・・、頼りにしてますって」

 ・・・あっ。

 そう言えば追われてる敵機とか狩ってたような・・。

 もしそれが隊内の助けになってると思えば私は嬉しくなる。

「うん・・。ありがとう、なんだか自信が出たよ」

「自信ですか?」

 少年搭乗員は尋ねる。無理もないよ、ずっと隠してたんだから。

「ちょっとプレッシャーとか、不安持ちながら中隊長やってるからさ・・」

 んん、余計増してるような気がするけど不思議とそんな事が感じられなくなった。

「そうなんですか?じゃあもうちょっと軽く言えばよかったですね。」

「いや、もういいよ。私は明日に備えて仮眠を取るよ」

 と言って彼を背中に宿舎に戻る。

 貰ったキャラメルは子供のころ食べたものより、とても甘く感じた。


 




 


 


 

 

 


 

 

 


 




 

 

 



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