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征空の海鷲  作者: j
1944 出動せよ、瑞鶴戦闘機隊
41/52

手紙を渡して

 ――1945年 1月

 私の年齢もそろそろ成人を迎える頃ではないかと思い、過ぎる時間と共に実感した。

 1944年の8月に日本陸軍がオーストラリアを上陸し僅か2ヶ月の間で首都を占領すると言う電撃的戦闘で、敵はゲリラになりつつも戦意を喪失したらしく、当分の間は南アジアの侵攻は防げるらしい。

 それにラバウル航空隊も設立から3年経ち未だに変わらない消耗と共に最前線を守り続けている。


 マリアナ諸島を南下しトラック諸島を奪還、そしてさらに進んでニューギニア島を奪還し航空基地設立そこからオーストラリアの支援をした。しかし私は参加していなかったので少し悔しい気分であった。

 そして北上し今現在太平洋中部に我々連合艦隊は敵を探り当てていた。



 冷たい風が流れる中に立つ、ここ瑞鶴の飛行甲板から見える小さなウェーク島はど綺麗な光を浴びていて宝石の様に美しく輝いていた。

 その時、艦全体に響く空襲警報が鳴り渡り自分の仕事をしていた水兵達は一斉に機銃や高射砲の立場に向かい走っていく。

 鈍く轟く小さな音は次第に大きくなると、水兵達は真上を見上げ口をあけて呆れていたので私も釣られて見て見ると、どんぐり胴体の敵機が何か落としてそのままゆっくりと雲の中に消えていった。


「筒?」

 英語で書かれた金属の筒が私の足元に落ちていたので拾ってみると、缶詰の様な蓋になっている。それをこじり開けると丁寧に折りたたまれた紙が入っていた。


 "私のライバルであり憧れである海鷲へ。

 私は貴官によって殺された仲間の魂を背負いこの機動艦隊の戦いで決着をつけたい。

 我々はミッドウェー近海にいる。緑のマフラーをつけて返信をくれ、我々は歓迎する。

 戦うときは1対1で戦う、我々は列機をつけないので貴官も同じ様にしてもらいたい。

 by hellcat "


 決闘場への招待状か・・。

 しかしこの発見に我々連合艦隊の位置が察された時、エレベーターから零戦が1機ずつ上がり水兵が急いで並び始め、エンジンの爆音がなりプロペラがゆっくり左に回る。

 この空母は丁度北西に進んでミッドウェー島に駐留する艦隊に接触するのではないかと私は思い、水兵に「私の機も準備させろ!」と言い五二丙型を発進できる体勢に移行され、私は零戦の座席に乗り込んだ。

 バンドとベルトが整備士によって絞められる。


 各艦隊から発進された哨戒機はおよそ55機と異常に多い中、空を埋め尽くすかのようにこの連合艦隊を厳重に警戒し周辺近海を回っていた。遠くから見ればカラスの群れのようである。

 私はこの警戒態勢から抜きだし計器が示す北西の進路に向かい哨戒範囲を広げてみようと試みた。

 黒海は広く続き、フルスロットルの機体は燃料を蝕むように食い尽くしていく。

 そして数時間の飛行の果てに燃料計は残りの帰り分しかなくなっていて、地獄猫を見つけるのを断念しそのまま旋回し母艦へ戻ろうとした。

 オレンジ色広がる夕日の空には黒い艦達が私を待ったかのように海に浮かんでいる。「敵がこれを見計らって襲来するのでは」と不安を抱きながら私は零戦を滑らせて左旋回する。空母瑞鶴が段々と迫り、手で握る操縦桿を頼りに身を外へ出し、着艦体勢へ。スロットルは事前に絞ったのでエンジンはいつもより静かに動く。

 よし着艦だ。

 が、私と零戦ごと吹き飛ばそうと真横から来る突風に機体が揺れるも、右ラダーペダルを踏み、機首を垂直に修正し、甲板にタイヤが接触。下から持ち上げられる衝撃と一緒にフックがワイヤーにかかり、今度は前に投げ出されるようなショックがかかった。幸い頭は打たなかった。


 夜。

 結局敵機は来ないまま夜になると、私は薄暗い部屋の中で黙々と鉛筆で白紙にアルファベット文字を書き込んでいた。

 日本語にすれば、

 "私の勇士。

  手紙をくれてありがとう、私は貴様と1対1で戦えることを喜んで待っている。

  勿論列機はつけない。識別として戦闘機に黄色いラインを入れる。

 海鷲より・・。"


 この手紙を届けるのは明日と決められ、艦長の命令で敵艦の数と位置を欲しいとの事であるが、おそらく地獄猫も我々と同じ事をしただろう。


 翌日、水平線が発光する中、太陽は顔を出さず光だけを水平線に放っていた。私1機だけで夜明けの海へ飛び出すと連合艦隊は次第に小さくなり動く箱舟の様な姿に変わっていった。

 もしかしてこれを狙って私に襲撃するつもりだろうか・・?

 小さな思いが私の精神を乱し、果てには恐ろしいくらいな想像を生み出して行き桜のように散るのではと自身を追いこんでいく。

「駄目だ、しっかりしろ」

 しっかりしろ・・。

 もう戦ってずっと聞きなれた栄エンジンは今日も快調であり、模型のモーターが甲高鳴っているような感じがする。

 瞼が開かないほどに眩しい日射が降り注ぐ晴天日和にしばらくの飛行をすると、太陽の光が急に無くなるのを見てとっさに振り返る。見えないところからやってきたF4UコルセアとF6Fグラマン、数十機が私を取り囲んでいた!


「おのれ!卑怯だ!」

 だが、敵は攻撃してこない。まるで要人を護るかのように敵機は私の傍によってきて、風防越しに見える大きな白人の人間は指を下に指す。そこには空母が8隻、いや雲のから抜ければ母艦だけでも10隻いるではないか!

 戦艦が4隻、巡洋艦、駆逐艦はあわせてせいぜい10隻以上は余裕にある。

 マリアナ沖海戦で戦局を戻せたとは言え、物量と工業力にはまったく影響が無かった。


 風防を開き、10隻の母艦を囲い込む輪形陣で大きな白い尻尾を引いている、敵機動部隊のど真ん中に突っ込むかのように操縦桿を倒した。

 しかし肝心なことに奴の乗っている空母が分からない。仕方ないので灰色に塗られ敵空母までぎりぎりいっぱい近づこうとした。

 視界から光るサーチライトが点滅する。

 "ワレ ハ ココナリ"

 一番先頭の空母からだ。スロットルを絞り高度を落としていく。そして空母甲板の正面から侵入し、感じられる視線を浴びながら手紙が入った木箱を甲板に放り投げ、その場から去っていく。

 そしてどこまでも着いていく護衛のグラマンに私は複雑な気持ちで瑞鶴に戻ろうとする。

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