夜襲 アスリート飛行場の戦い
私は疲労の重なりで熱を出してしまい瑞鶴の病室内で私は真っ白な天井を眺めていた。何も考えずに。
丸い窓から見える小さな緑の島々、マリアナ諸島だろうか。陸軍の連中、今どうなっているか、負けてはいないだろうかとそんな事を思いながらじっと眺めていると、黒ゴマがV字の編隊を作り島のほうへ行ってしまう。
「いいなあ・・」
そんな事をぼやきながら寝服姿のまま私はベッドから起き上がる。すると重たい扉が開き予科練から卒業したてだろうか、新品の真っ白の水兵が私の分の食事を手にしてやってきた。
「失礼します」と16歳の少年はおぼんを両手に食事をじっと見ながら私のほうへ持っていくので手を伸ばして受け取った。湯気が立ち込める熱々のうどんである。しかし何故か木製の空いた容器がある。もしやと思い、
「君、食べたいのかい?」と尋ねたときビックリした表情を見せて拒否をしたが。目線はうどんに言っている。
「無理はしなくていいよ。ご飯は食べた?」
「食べました!ただ・・、内地のうどんが恋しくて」
「そうか。じゃあ一緒に食べよう」
うどんを半分こっつ。育ち盛りの年齢なので勢いよく食べる姿はまるで餌に植えた野獣のようであった。
久しぶりの内地飯に私は満足したので小さな水兵にチョコレートを渡すと嬉しそうにポケットにしまいこみ、その場を後にした。
6月27日の出来事である。時刻2200、具合もよくなったので飛行服に着替えいつでも動ける準備をした時私を含む召集命令が出され私は甲板に一目散に駆け上がり集合の艦橋前に整列した。
「見てみろよあれ」
戦友は不安げな口調で指をさした。私もその方向に振り向くと、夕焼けのように明るいオレンジの光源が島の一部を包むかのように輝いてる。
何だあれ・・。ユウコは大丈夫かな・・。
不気味に映えるサイパン島に不思議と目が乾く。
今夜の出撃で陸軍の部隊の電信に「敵地攻撃後、海軍の支援求む」と言う受信が送られた後、我々は今この立場に立っていた。今回発艦する零戦には250kg爆弾が搭載され敵の飛行場を叩くものだという。しかしリスクもあり、100名の陸上部隊がその場で壊滅する恐れがあるとの事だ。
零戦5機、彗星爆機が5機が離艦し燃えるサイパン島の方向へ一目散に空を走った。
やさしい緑の蛍光文字が浮き、計器の数字や文字がはっきりと見える。
今夜の黒紫の夜は時刻2215を過ぎていて燃え盛る飛行場まであと5分になると、私を含む爆戦は高度を落として機銃掃射をいつでもできる体制にし左手で機銃発射機を添えた。
横須賀から聞いた大きな爆撃機、銀のB29と言う機体は照準機からはみ出るくらいに近づき機銃発射機を倒した。
ダダダ・・。
発射機を倒し、高度はぐんぐん下がりB29との距離は縮まっていく。そして衝突寸前に操縦桿をいっぱいに引き、振り返り地上を睨んだ。翼の根元から小さな火が出ていて続く友軍機をこれを撃破した。
重たい爆弾を抱き高度をまた稼ぎ、そしてまた落とす。一気に操縦桿を倒し一 面火の海の中に未だに傷さえついていないB29に向けて、250kg爆弾を切り離しそのば左に旋回しまた後ろを振り向いた。
熱が伝わるくらいの燃え具合に悪魔が叫ぶような気もした。
全機が投弾を終え、各自機銃掃射を命令する。
親元から離れる鷲達がそれぞれ散らばり、炎の海の中に突っ込んでいく姿を私も後に続いていき、標的として見つけた敵歩兵群は僅かながら光る閃光のほうに向かって走っていく。それに怯え我々に銃口を向けるものもいた。
かんしゃく球が連続して爆発する機銃は人間を飲み込むように、砂柱が立ち上がりそれを包んでいく。着弾と一緒に赤く破裂する炸裂弾は人体諸共吹き飛ばし、ひき肉のような姿に変わり果てる。
ラバウルの時の機銃掃射は酷いものだったが、こうして自分から撃ちに行くのも中々汚い感じがする。
そう思いながら往復的に機銃掃射を繰り返すと予定時刻の2240になったので引き上げを開始し、マリアナ諸島に待機する瑞鶴の方角へ機体を旋回させた。




