ら号作戦決行 ブーゲンビル南海戦
早朝、すっきりした朝日を浴びながら飛行場で搭乗員の数人の中に混じり朝の体操をすると、サイレンが渡り響いたと同時に
敵機戦闘機数機が目の前から凄まじい機銃の音とエンジンの音に私はとっさに、地面に張り付くが仲間の悲鳴と生々しく響き渡り戦闘機はとっさに過ぎ去った。
私は戦闘機を睨むも彼らはまた旋回するが、白い玉と黒煙が空にはじかれる高射砲が撃たれ敵はびっくりしたのか、そのまま遠き空へと消えていく。
砂埃を被った身体と一緒に起き上がると血まみれに冷たい人形になった戦友が4人。
そのほか生きているものはぴんぴんしているが、負傷したものは自力、うずくまって動けないもの。
「おい!しっかりしろ!」
すぐ傍に居た2番機の栄優花を抱き起こすも彼女は目を開け、ぐったり。人間の形をした重りを持ったように。
引き裂いた衣類から赤い液体が止まらんばかり溢れ出ていて留まる様子も無く私は駆けつけた衛生兵に、死体を片付けられるところをただただ見るだけで
無差別に刺さる胸の痛みが私の身体に響いた。
この時1943年、4月7日。
仲間を失った仇に大本営からラバウル航空隊を主力にら号作戦が決行し敵艦船、敵飛行場を叩き南太平洋の防衛を長引かせる作戦であった。
この時決行と同時に私の戦闘機に250kg爆弾が乗っけられまさに決戦の時と言うことを改めて実感した。
瑞鶴戦闘隊・・。
真珠湾以来の顔はまったく無くどれも古参のパイロットや経験を十分積んだ若手ばかりであのときの小隊長の顔はない。戦死したのか内地の教官をやってるのかわからない。
でも大先輩である荒城伊予中佐という25歳のベテラン搭乗員の姿もあって私は嬉しかった。予科練のときの若手教官だったので馴染みやすく訓練生から人気があった。
瑞鶴戦闘機隊と予科練時の仲間達が配属した。
二人とも仲のいい、五十鈴理恵と金子茜らは予科練時代の知り合い。インド洋、トラック諸島、そして珊瑚海と渡ったらしい。
そして男性搭乗員に大橋健二、加藤泰助、野口一郎たちも派遣として配属。
瑞鶴の戦闘機部隊、艦上部隊が穴埋めに送られた。
全員が指揮所に集められ、
「諸君。ら号作戦の決行元、敵輸送船団の発見が入った。増援の瑞鶴航空部隊と連携しこれを撃滅。各自出撃準備!」
と皆が飛行機向かって走りだし目に入る、久しい瑞鶴戦の航空機の胴体に白い波線が入られている。
識別だと私は判断した。
戦闘機、爆撃機、第一線にその名の歌の歌詞と共に燃えゆる大空向かい彼ら達は発進し、鷲となる戦闘隊はどこかと活気溢れていて見ている私も意気が込み上げた。
ラバウルから離れいつもの零戦の座席内部は変わらず一心同体。
青い空に顔を出す太陽、戦友達と天よ、見守ってくれ。
『戦闘機隊、爆撃隊へ!こちら久坂偵察隊!ブーゲンビル南部海域に敵輸送船団が西へ移動中!そして新たな目標!空母2隻、巡洋艦1隻、駆逐艦3席を発見!!』
敵機動部隊も随伴しているのか!
『敵と交戦中!繰り返す、交戦中!』
無線越しから唸る敵のエンジンと銃座から撃たれる機銃が耳元で爆発し私は一瞬びっくりするが、その前に発進した偵察機が心配になる。
白い綿の縮れ雲を貫くと海に浮かぶ箱舟が見え、雷撃隊、爆撃隊は攻撃態勢に入るのか機体を上げたり、下げたりと慌しくなってきた。
もちろん250kgを詰まれた零戦隊は爆撃隊の一種に入るので彼らのお尻を追うかのように機首を上昇させる。
私は急降下爆撃などやったこと無いので頭の中でイメージ。
機首を下げ・・艦船が大きくなったところで投下する・・。
それに艦船との戦いはこれが初めてで心臓がばくばくと騒ぎたてる。
『爆雷コース侵入!全機、突撃!』
海の中に獲物を見つけた鷲達が騒ぎ立てる艦の弾幕に突っ込み始め、爆弾を積んだゼロ戦もその後に続いて突撃した。
計器が暴れ周る。締め付けられるGは降下速度と共に、私を蝕むかのように身体が石のように重たくなり意識が飛びそうになるも、血管が千切れるくらいにまぶたを開き火砲が撃たれる輸送船が大きくなる。
ここだ!と言うところに私は増槽レバーを引き倒し爆弾を切り離した。
零戦は重たいお荷物を外した嬉しさかエンジンをフルパワーに速度が増していった。
危ない!すぐ間近の輸送船にぶつかりそうになったので操縦桿を力いっぱい引くとこれもまた押されるくらい肉体に負担をかけるGが圧し掛かる。
視界が破裂する白煙と黒煙の中、背後から凄まじい爆発と共に機体は水平に直された。
250kg爆弾の当たり所がよかったのか輸送艦は黒い柱に炎の竜が踊る地獄絵図になっていて遠くから見える、火達磨の水兵が私の目に映っていた。
あれはきっと弾薬を積んでいて艦だったのだろう。
しかし爆撃では物足りなかったので、機銃掃射で〆をつけて帰ることに。
水を掻き分ける敵機動部隊の空母を視認!
砲から吐かれる炎にも何のこれしきと言うくらいに、90度で急降下する艦上爆撃機が黒いゴマを落としていったあとに赤い炎が立ち上がる。
上手い!すごい腕だ!
見とれているうちに ポンポンと近くで爆発するので周りを見ていたら対空弾が付近で爆発していて私を狙っているらしい。
アメリカ空母の正面から侵入、炎の中を貫き、飛行機が露骨な姿で並べられる甲板に13mm機銃と20mm機関砲を逃げ惑う水兵と航空搭乗員をあざ笑うかのように撃ちまくり、目と目があった兵士の顔は「あいつはクレイジーだ」と言うくらいに驚いた顔をしていて、
私自身恐ろしい人間だとしぶしぶ心の中で実感する。
しかしこれでは満足ならないので機体を滑らして旋回、撃たれる対空砲を零戦に運をかけて回避し同じ空母の甲板後部から入り最後、艦長が見守る艦橋目掛けて機銃をぶっ放した。
ガラスは微塵に砕け、白い服の男は原型を留めずに肉だけを散らし、弾丸は跳弾し火花だけが弾ける。
顔を弾痕だらけの艦橋に向けると血の海になっていてどれほど我々を舐めきって観戦していたか私には何となく分かる。
瑞鶴航空隊の皆々はすごいものだ・・。
黒い鉄くずが黒い重油と数個と浮かせているのだから・・。
こんな戦果、とてもとても無いだろう。
「ん?」
グラマンとは違い変な形をした戦闘機が1機、対向するように揺れる海に着水しようとする。
普段なら攻撃のチャンスだが私は虫を観察するかのように低空でその様子を眺める。
彼の機は水飛沫を飛ばしながら上手く海に乗り、キャノピーから地獄猫と同年代くらい顔つきのよい白い肌の美しい女性が立ち上がり、飛行帽を外しオレンジ色の髪を揺らした。
「なんて美しい人なんだ・・」
グルグルと緩やかな周りで巡航速度を保ちながら私は見とれていると、彼女はにっこりと楽しそうな顔で私に向けて手を振ったではないか!
同じ人間、違う国でも必ずしも絶対的ではなく、相対的な敵だと両国はそう思っているにも関わらず彼女はそれを背くかのように振り続け、しまいには「ハーイ!」と挨拶まで。
頬に血を流しているところを目視で見ると私は首に巻いていたマフラーを取り、手の感覚で機体を操る。
彼女の手がすぐそこまで届くと言うくらいに超低空で投げ渡すと「ありがとう」と大きな片言日本語でお礼を言われ私は少し照れてしまう。
見送るられる形で私は各機の編隊につこうとするも黙っていくのもなんなので手を振ってこのブーゲンビル近海を背にして帰ろうとした。
日付訂正