アンブッシュP-38
波が揺られる東飛行場の海岸、いつものように変わらぬ顔をした星達を眺めると黒い人影が2つ、何か言い争っているようなので私は木陰に隠れた。
本当はこんなつもりなけど、何せ髪を解いた鼎が居るのだから・・。
「お父さんは内地に戻って!」
今にも泣きそうな声だ。しかしお父さん?誰だろうか。
寝巻き姿の老けた男性、淵田長官が海岸に立っている。
鼎の父は淵田長官なのか・・。
「いや・・駄目だ。ただでさえ敵連合軍が迫っていると言うのに、このラバウル、ブーゲンビル航空隊を見殺しにするわけにいかないのだ」
「何かヒントを得られるのかもしれないのだ」
「ヒント・・って何・・」
「グラマンを落とすヒント。あれは1機でやるものじゃない。2機で1機叩き潰す戦法じゃないと駄目なんだ」
「ただ、あくまで私のイメージだが、通用するかどうか分からない」
「私は明日、ブーゲンビルに向かう。そして彼らを撤退させるべき決断をもうしなければならない」
「で、でもブーゲンビルにはもう敵が居るのに・・」
「ああ、知っている。第六次の航空戦も展開された・・。時期にこのラバウルに今までにない大群がやってくるだろう」
何も聞かなかった顔をし私は宿舎に戻ろうとすると、胸に針が刺さるように痛くなる。
とても悲しい目が私の背中から伝わった。
そして朝になり私は戦友に起こされて、宿舎の裏にある水道で顔を洗うと今日も一日がんばるぞと、空っぽの身体の中から沸くような感じがした。
ただ・・、
「泣かないで・・。私だって悔しいよ・・・」
「お母さんのところに帰りたい・・・」
瑞鶴戦闘機隊の連中らだろうか・・・。
泣いている姿に私も気分が落ち込まれる・・。
白い布で被さった入れ物・・。2名の戦死者の遺品が入っていて、ジャングル内の慰霊所に戦友らが持ち運んでいた。
宿舎の中で飛行服を着用し指揮所前に集合。
13名の名が呼ばれると前に立たされ、私もその中の一人になる。
同じ鼎も入っているがどこかと顔が悪い。昨日のことが原因なのか少し残念そうな表情をしていた。
「今回は長官の護衛を行う。ブーゲンビル島までの間だけだ」
護衛か。ちょっと私には苦手だな。
みんな嫌がる護衛。
空戦は出来ないし、自由に動けないところが唯一の難点だけど自然と空中戦に巻き込まれてしまうのが現実。
と、何故か陸軍の将官が2名居る。護衛対象の人物だろうか?
その中の1人が、
「我々は陸海合同でこの護衛に参加してもらう。我々第八四戦、第五戦の派遣部隊も加わるのでよろしく頼む」
思えば飛行団長だった。
第八四飛行戦隊はユウコが所属している航空隊だ。
内地の防空と南西、南東諸島にも方面部隊を置いている大きな航空隊で私達より腕があるという噂だ。
「それでは各隊、出撃準備」
将官の声の元で我々、指名されたラバウル航空隊の精鋭たちは一斉に飛行場に並べられた零戦に駆け乗り、轟々走る戦闘機達は鷲の如く翼を連ね、大きな空高く飛び出していく。
そしてしばらく飛行していると高度はあっという間に6000m。
大きな三角形の戦闘機編隊の中に、黄土色の陸軍の四式重爆撃機1機、農緑色の一式陸上攻撃機1機が編隊の中に入っていて、敵一機も近寄らせないくらい固い防御陣営を取っていた。
正面、銀の光が太陽に反射されこっちに向かってきている、およそ5機。
だが高度1000m上に敵機9機が粒のように浮いている。
私はすぐさま長官、将官機を乗せた一式、四式爆機の前に出て翼を左右に振り、一番先頭に居る鼎に
「高度1000m上敵9、前方5機」と手信号で送ると鼎もこれに分かっていた。
『前方P-38が5機、高度1000上に同機が9機。陸軍隊散れ!』
「よし我々は長官機と将官機を守るんだ!」
二十数機が入り混じる大空戦。
『クソ!奴ら待ち伏せをしていたな!!』
ああ・・本当だ。
遭遇でさえこの数である。待ち伏せとしか言いようがないと思う。
長官機の後ろを取る一機のP-38がドサクサに紛れているのを見ると操縦桿を切り返し、赤い照準機に入れ込んだ。
そして凄まじい連射力と振動が揺れる20mm、13mm機銃をぶち込むと双胴のエンジンからは火の尻尾が伸び、たちまち火達磨となり海に落ちていく。
『隊長、増槽つけています』
戦友の声に私は、足元の燃料計器を覗き込む。
針はゼロさしておらず燃料満タン。おまけにタンク計の燃料はまだ半分以上残っていて捨てるのも勿体無い。
何なら私はこのままやれば良いと思いあえて外していない。
「分かってる。そのままにしておいて」
『連中早いぞ!見たことない!』
混戦する無線に私は性能の低い機械を弄り回し音量を下げる。この古びた無線機は途切れ途切れになったりと色々不調があるため指示に関してはハンドサインが多いのだ。
鼎の機体が見当たらない。四方八方、踊る空戦を視野に入れると鼎の列機だけが取り残され私の小隊に近づく。
若い青年パイロットは顔を横に振り「見当たらない」の仕草をする。
と、その時3機の物体が真横を通りすぎ、私はその方向に向けると鼎機が突っ込みP-38を追って、撃墜している。しかしその真上、もう1機くらいつこうとしている。
機体を滑らせ落下していくP-38と感覚600mと遠い距離で、発火の光と一緒に機銃を撃ちまくり、そのまま追尾するかのように操縦桿を操った。
そしてP-38は木の葉のように揺れて落ちていく。中身もろともやったのだ。
しかし鼎機はどこか必死のようで敵が後ろにいるのもお構い無しに、長官機に近づく敵機を叩き落すので心配になってくる。
「あっ!」と一式陸攻から白い尾が引かれ、紙を針に刺したかのように深い弾痕が胴体に!
不意を食らわれたか!
空戦なんてしてる場合じゃないのに・・・!
ブーゲンビル島は目と鼻の先までやってきたが不幸にも黒い線を延ばしているので、もう一撃加えられると一式陸攻は!
陸軍航空隊の連中は上手い具合に空戦から逃れようとするP-38を餌食にするが、機体性能的に追いつけないので苦しい状態である。
しかし遠目で見てみると鼎は列機を視界に入れずに突っ込みすぎている。
鼎機に火花が数回散ると、胴体に大きな穴がぽっかり。一撃を加えたP-38は真下に一気に急降下。
垂直尾翼がボロボロ。
鼎機は辛うじて飛行しているけど大丈夫だろうか・・・。
ブーゲンビル直前。
敵機が対空攻撃に驚いて、旋回して退いていく。
被弾した一式陸攻、四式重爆撃機の2機は着陸態勢に入った。
敵が来ないか数分ほど哨戒すると、ブーゲンビル飛行場から整備員が振る赤旗が目に入る。
"着陸由だ"
各機は最前線のブーゲンビル島に着陸する。
私はまず長官の安否確認のため、一目散に一式陸攻目指して走り出すと私は目を見開いた。
知らぬ間に弾痕だらけの機銃砲塔が目に入り、私は開いた扉から一人黙って入り込むと酷く血の匂いが漂う。
上部の機銃手は即死。
後部は弾痕は少ないもののやっぱり搭乗員が腹に大きな穴を作ったまま死んでいた。
「長官!長官は無事ですか!?」
「意識はあるが怪我をしている!すぐに衛生兵を!」
長官は無事だったが腕の怪我が酷い。
すぐに兵士達の動きで自動車に乗せられると「お父さん!」と甲高い声で走る鼎を私は見た。
無理もない・・。
機内をうろつき見てみると、丁度座っていた椅子の真上に弾痕が開いていて光が差し込んでいる。
多分掠ったのだろうか。
しかし掠ったもなにも私は長官の腕から、多量の出血を見たので重傷と判断。
「こらそこの君!どいたどいた!」
血に塗れた重たい人形を運ぶ兵士と私をじっと見つめるかのように冷たい死体の瞳が私の心を痛ませる。




