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征空の海鷲  作者: j
1942 ようこそ、地獄の南方へ
21/52

敵と対面

 泳いで、泳いで・・。

 ひたすら冷えた水を掻き分け、灰色の浜まで私は到達と同じく地獄猫もはみ出た髪を揺らしながらラバウルの地に足を踏み入れた。

 お前が最初のお客さんだ。


 この浜・・ラバウル東飛行場に近い。

 数回見た程度だがなんとなくそんな感じはした。

 と、月が照らす光に反射した拳銃が埋まり、敵と私はそれを誰が先に手にして先に紅に染めるか。

 乱れたベルトと救命衣を外し投げ拳銃に一目散に走るが一歩先遅く、地獄猫がすでに手にしていてこちらに撃とうとする瞬間、


「うおー!」雄叫びを上げ私は腹目掛けながら、地獄猫を押し倒す。

 銃火が真上に放たれ手から拳銃が離れる。

 私は無我夢中だ。

 奴の上乗りになって右左と手袋越しからパンチを食らわせると顔面に衝撃が走り背中から倒れた。

 柔らかい砂に私の背中がつかれる。

 猫は私の目玉に銃口の視界に入れられた。


 しまった、拳銃を握ったままか!

 だが銃は撃たれずに弾詰まりを起こしていた。その隙に拳銃を蹴り飛ばし、地獄猫の腹にキックを入れた。

 地獄猫は砂浜に倒れている。

 空戦にせよ地上にせよ私以上の人間なのか・・!?


「どうした!それで終わりか!?」

 仰向けに息だけして何も言わずに横たわる地獄猫に私は挑発した。

 飛行帽とゴーグルは殴った勢いで外れたのだろうか。散らばっている。

 無言、ゆっくりと立ち上がった。

 そして腰のベルトから銀の刃を輝かし抜いたのは、15cmほどある軍用ナイフ。私もその流れに読み腹切に使われる短刀をもち地獄猫の腹目掛けて手を伸ばすが後ろ一歩回避された。


 風を切る音がヒュッヒュッと何回も夜景の下で私達は踊っていた。

 私は頬をすり斬られて痛いようで熱いようで不思議なような感覚が感じられ、生暖かい血が流れている。

 蹴られて砂を背にして倒れると私の負けのようである。

 馬乗りのような体勢になった地獄猫は片腕いっぱい振り上げ、私の顔にナイフを振り落とそうとしたとき、


 軽く弾けた銃声がとどろき、ナイフは銃弾によって手から退けられた。

「Don't move!(動くな!) I will shoot you!(おまえを撃つぞ!)」

 誰かがカタコトの英語を叫んだ後にパーンと火薬がはじけた音が。


 気配的に十人の兵士は居るだろう。

 木の影からじわじわ歩いてくる日本兵が近づいてくるにつれて地獄猫は戸惑い始めた。

 彼女の髪越しから悲しそうな目が一瞬だけ見えた後、海に飛び込んだ。

 泳いで逃げる・・・!?フカの餌になるのに・・・!

 相手は馬鹿なのかそれともわかってて・・・?


 銃を地獄猫に構えた兵士の一人に、「撃つな!」と私はつい怒鳴ってしまうとユウコが飛行服姿のまま現れ

「あいつは撃つな。生かせ」と兵士に対して口にした。

「は!」

「美貴、大丈夫か?」手を差し伸べたユウコの手袋に手をつかみ私は立ち上がった。

「血が出ているな・・。マフラー」

 私の頬に当てたユウコのマフラーは少し冷たく、温もりは少しばかり伝わった。 

 ただ今回だけ身体が寒くて重たい・・・・。

 

 

 爆音の音に私は起こされ、木目の天井が目に入った。

「おっと。起きるな。風邪拗らせてるんだから」

 周りに清楚で白いベッドが並んでいる。病室だ。

 私は知らぬ間に風邪をひいていた。

 確かに深夜の状態を見れば風邪を引いてもおかしくない。

 飛行服姿のユウコはいつ見てもカッコイイ。

 少し前まで空襲があったのだろうか?私は気づいてなかった。

 しかし咳と鼻水が酷い。当分は飛べられそうにはなぁ・・。

「朝食だ。ミソで味つけたお粥だが・・な?」

 上半身をゆっくり起こして、母が子の口にスプーンで食べさせるような感じだ。


「あー」と口を開け、粥がスプーンを突っ込まれ私はそのまま胃の中に流しこんだ。

 うるさい戦闘機のエンジンの声と戦友達の楽しいお喋りだけが飛行場を包み、病室内はユウコと私の二人っきりで静かな空間になっていた。

 お粥も全部食べ終わり私はまた仰向けに。

 時間はまだ午前中・・。


「せっかくだし思い出話でもするか」

 楽しげにユウコが言うと私も少しワクワクする。

「聞きたいです」

「そうか・・。あれはー2年前かな・・。マレー作戦、私がシンガポールで戦っていた頃。1941年の時だ」



 ――1941年 マレー作戦。 シンガポールの戦い。

 緑の密林が囲まれたここ南東の地、マレー半島。

 月は輝き、天は我々を見守っていた。

 私は航空兵の人間であり、歩兵の人間でもあり、階級は航空少尉。陸戦軍曹。


 火薬の匂いが花の様に良い香りを漂わせ、遠くから撃たれる銃火と砲撃は雷の如く鳴り響き木や石を丸ごと吹き飛ばしていく。

 午後に発進された、すし詰めの大発ボート。

 遠く見える夕焼けの様に燃え上がるシンガポールの島に私達の分隊が今まさに、この地を踏むこととなるが、皆が皆真剣な顔つきでこの一戦が我軍の動きを左右すると言うくらいの表情であった。


 ボート先頭に立つのは私と同年代に近い女性、(ほまれ)サエカ陸軍少尉が腰の軍刀を抜き、敵前で浜に上陸したと同時に口を大きく開く。

「突撃!」

 頭が揺れるくらいの雄叫び、体内で血騒ぎが起こるくらい彼ら達は一斉に飛び出し敵に向かって走り出した。

「うおあああああ!!!!」

 私一人、密林の中を掻け走り、隙が空いた敵の防御陣地に突入し日本刀を引っ張った時、ビックリした顔でこちらに気づいた英国兵の頭を叩き斬る。

 鋭い切れ味が手の先に伝わると今度は隣の機関銃手の背中を斜めに斬り込む。


 顔に液体のようなはねるが気にせずに私は肉薄で敵を切り殺し続けた。

 塹壕に入ったとき。

 刀が土嚢に食い込み、抜けなくなったのだ。

 英国兵も気づき銃を向けようとした途端、耳元で乾いた音がはじけ敵は口から血を流して死亡したではないか。


「分隊長!危ないですよ、独りで肉薄なんて!」

 分隊員の一人がプンスカ私に怒ってしまい、4人集まった中の同じ隊員が「今日は気分がいいからだろう」と言うので、

「今日は不思議と血騒ぎがするからね」と自身よく分からないことを発した。


 それからまもなく昼夜問わず、しばらく我軍は進撃を続けると共に我々の体力を知らずして消耗していった。

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