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征空の海鷲  作者: j
1942 ようこそ、地獄の南方へ
20/52

夜の紅

 ――ラバウル東飛行場 夜

「この大馬鹿モノォ!!」

 ひゃー・・川西指揮官ってこんなに怖い人だったっけなあ・・。

「重大な作戦に協力せずに地獄猫とグラマン3機に相手するとはどういうことだ!!」


「ま、まあ落ち着いてくださいよ。彼は彼なりに友軍の損失と制空権を確保を目的にやっただけで...」

 ユウコがカバーに入ると川西指揮官は茹蛸のように赤くしていた顔を急に白く変え始め、

「まあ地獄猫相手にするのも確かに結構だ!しかし将兵救出援護が優先だっただろう」少しもごもごした口調で答える。

 気になった私はあることを口にする。


「陸軍将兵の戦死者は?」言うと「2万4千万人が死んだよ。そのうちの生存者は1200名。で、残りの5000人は大発や潜水艦の事前的に撤退が完了してたから大丈夫よ」と言われ

 私は少し安心した気分になる。

「しかも陸軍将兵は戦意喪失。海岸に近い密林にじっと隠れてひたすら待ったってさ。輸送艦に積んだ大発、どれほど使ったか。すし詰めに入れたって」

「まったく・・。陸軍の連中も無理やり戦わせて・・。将兵は弾と食糧、水が無いと戦えんのだ..。だがこんなこと言うと我々海軍も輸送艦に飛行機や駆逐艦の護衛さえつけてればってなるのに、今頃遅いよ・・・」


 指揮所が静まり返る。

 何か言ってはいけないような事を言ってたのか指揮官は謝り、例の任務をユウコと私に下した。

「了解です。中将。さあ美貴、ついてきて」


 言われるまましぶしぶお仕置きが待つと言われ怖いようで緊張が走る。

 真っ暗な飛行場に連れて行かれ零戦二一型、正式採用された四式戦闘機、この2機がエンジンが踊り我々を待つかのように声をだしていたではないか。

「え、何やるんですか!?」

「何って夜間哨戒だ」


 夜間哨戒だって!?冗談じゃない!

 と内心で言うがユウコには届かない。冷や汗がしっとりとして冷たい。

 私は夜間飛行が始めてである。

「なに、私が目になる。安心しろ」と満面の笑みで言われまた少し気が楽になった。


「やあ!作戦違反さん!」

 陸軍の戦闘衣に手には小銃。奈緒子さんが勝手なあだ名で私が呼ばれて「ええ・・」と少し困惑すると「時間が無い」と言われて私はゼロ戦の座席に乗り込んだ。

 腰にずっしり重たい落下傘がつけられ体重が増えたような感じに襲われる。

「チョークはずせ!!」

『発進!』

 馬のように揺れる機内にはやさしく点される蓄光文字が浮かび上がって暗闇の中でも景気が見れると言うところがありがたい部分だ。

 そして私とユウコの二機、未知なる夜のラバウルの空へと翼を連ね大空へと飛び立つ。


<>

 ――ラバウル航空隊基地近辺、上空4000m

 暗闇の空は一面青黒く、静かに光を放射させる月だけか我々を見守っていて、戦友達の血で染められる海は戦闘などなかったかのように海面の星だけを揺らしている。

 無線機に線が繋がるフォンからは暢気に鼻歌を歌うユウコの声だけが耳越しになっていた。

 エンジンの音で皆はうるさいとは思わないのだろうか?


 私は疑問に思う。

「この高度でもみんな安心して寝てるんですね。うるさく思わないのでしょうか」

 独り言のように小さく呟く。

『みんな慣れてるさ。前々からだけど堅苦しく喋らんでもいいよ。もう長い付き合いじゃないか』

「え・・。え、じゃあ呼び捨ては」

『いいよいいよ。好きに呼んでね。でも好きすぎて言い過ぎるのもダメだな』

「ははは」

 相変わらず面白い人だ。


 このまま同じ夜景を何度も見ながら見張りを続け、軽い夜食を食べながらまた哨戒、と時間的に繰り返すと時間は深夜を回っていて私もそろそろウトウトと気が遠くなり始めた。

 いけないと思い頬を引っ張ったり、殴ったり。とても眠い。

『美貴。機体の動きが不安定だ。我慢だ我慢・・!いかん!上から敵機!』


 敵か!と思ったそのとき、何かのエンジンの爆音と一緒に金属の音が甲高く響き、引き裂かれるような感じがし機内が暴れた馬みたいに激しく動きまわっている。

 視界も回り非常に気分が悪い。落ち着きながら冷たいキャノピーを開き我が身を海に放り出した。


 目も開けないほどの風が私全体を通りぬき、首や手首、背中、飛行服に空いた隙間と言う部分にくまなく侵入し、体温を一気に蝕もうとする。

 自力でゴーグルを着用、そして胸元の落下傘を開くための紐を短刀で引っ張り切る。

 ブチッの音と一緒に脇が一瞬にして窮屈さを表し、降下風のと一緒に私は流れ、そして目の前の人影は私を睨むようにパラシュートのベルトをつかんでいた。


 この感じ昨日と同じ感じだ。

「...」


 敵のパイロットはゴーグルを着用しながらも私をじっと見て、不自然に動く右手から黒い拳銃が抜かれ冷たい銃口が私に向けられるが撃ってはこない。

 私も拳銃をいつでも撃てるように頭に照準を定め引き金に指をかけていた。


 パン、パン。

 2発の乾いた音が風と共に紛れ鳴り、手に持っていた拳銃は突然の痺れと共に手放してしまった。

 と同じ私も撃った感覚が人差し指に残っており敵の拳銃も、銀光しながら浜のほうへと落下していく。

 海との高度差はもう50mだろうか。


 海面も深くない・・。

 短刀で落下傘ベルトを切り外した。


 耳に篭る風音と共に、敵と共に私は青く冷たい海の中に飛び込んだ。

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