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征空の海鷲  作者: j
1942 ようこそ、地獄の南方へ
18/52

昨日の敵は明日の強敵

 飛行場は穴だらけ。

 しばらく旋回すると「着陸よし」の合図が指揮所の監視塔から赤旗が振られて私達は列機を連れて着陸態勢に入った。

 掩蔽壕に隠せなかった零戦の残骸が飛行場の隅っこに置かれてガソリン臭が微かにする滑走路に愛機が脚をつく。

 ガタガタ揺れた愛機は停止。整備士が駆けつけてきたので「負傷者は!?」と問うと「地上待機員の4名が爆弾にやられて戦死しました」と・・・。

 どうして平然と言えるんだ。

 私は悔しさと腹立たしさが込み上げた。

 けど・・。

 現実を見ればこれが当たり前だから当たろうにも当たれない・・。

 なんとも言えない気分になって私は愛機から降りる。

 

 そして空に上がった勇士達が地上に還り、指揮所前に搭乗員達が集合した後戦果報告を飛行隊長、指揮官に各自が伝え解散。

 戦死者4名、空戦でやられた搭乗員が3名。

 ああ・・疲れる・・。

 

 幸い指揮所のテントや施設は吹っ飛ばされておらず、相手が狙ったのは艦船だけだった。4名のことについては内地から来た搭乗員で無断でラバウル湾に行ったらしい・・。

 英気を養う気持ちは私にも分かる、私も欲しい。

 毎度毎度の定期便に私は指揮所隣のテント下で横になる。

 しかも何人か死んだのに誰も悲しまない。せいぜい泣いているのはここに配属した訓練上がりの連中ばっかり。

 長くついている搭乗員の目は虚ろ。生きているのか死んでいるの分からない。魂が抜けた人間みたい。

 海軍の搭乗員と将棋で遊ぶユウコの目は生き生きとしているけど、瞳の奥から伝わる殺気が何となく感じられる・・。

 

 鼎は他人に元気な振る舞いをしているけど、実際はかなり追い込まれている。

 休む暇があればベンチに座ってはボーっと空を眺める。瞳の輝きなんてものはない・・。

 これが普通になってきているんだ・・。

 

 飛行場の隅っこに黒なった敵機の残骸、2機がど真ん中に放置されているが整備兵がちらほら近寄るようになり、私達もそれに釣られるかのように傍によった。

 胴体に白い星のマーク、米軍の艦上戦闘機。


 が、F4Fと違い丸く太ったと言うべきだろうか、原型をある程度留めながら武士にやられたかのように機首だけはしっかり残っていた。

 まるで戦国大将の首を取る・・なんてね。

「あ、これ強かったですよー」

 ひょっこり現れた鼎。

「零戦より強いのか?」とユウコが聞き出すと、

「強いかどうかはわかりませんけど、性能はかなりあるんじゃないですかね。零戦より速度はかなりありましたし、運動も悪く無かったですし防弾も高くて20mm弾撃ちこんでも中々落ちないんですよね、これ。」


 と小耳に入れたとき、また新たな新鋭機と戦えるのかとまたワクワク一人でしているが脳裏に蘇る死傷者の事を考えるとやはり、どうも複雑な気分である。

 この残骸は陸軍、海軍と共に回収され新たな新たな新型機を作るヒントになると誰もが思っていた。

 しかし空戦で戦死した戦友達の顔は月日が流れても、青い空の欠片となり我々を見守っているはず・・・。

「空襲ーっ!」

 またか!定期便はすぎたばっかだぞ!

 もう戦闘機なんて乗ってる暇はない。しかたなく私は防空壕むけて一目散に走っていく。

 ジャングルの中にコンクリート製で作られた防空壕がある。

 私達搭乗員らは開放された防空壕に逃げ込むと、すでに偉い参謀方々がいち早く退避していた。

 雷のような爆発と地響きが防空壕をゆらし天井からはコンクリの砂が降る。


 経験の浅い搭乗員らはビクビクおびえている。いつここに爆弾が直撃するかわからない。

「空の勇士は地上でもさっぱりだ」とユウコから冷やかしを受ける。

「この様子だと飛行場はただですまないな」

 空襲警報が解除され、防空壕からでると飛行場はめちゃくちゃになっていた。

「ひどいなぁ・・」

 午前の空戦を遅く終えた零戦の10機以上が爆弾にやられ残骸に変わり果てていた。濛々とガソリンに引火した炎が立ち上がる。

 設営隊や応援に駆け付けた陸軍らが消化活動、戦車を改造したブルドーザーで飛行場の修理を行っている。

「稼動できる戦闘機が日に日に少なくなってきているし、参謀から応援の許可もでない・・。内地の連中らはラバウルを何だと思っているんだ・・」

 怒りをあらわに指揮官がこの現場をみて口にした。

 

 ラバウルに太陽が海に沈み青い夕焼けが浮かんでいる夕方の時間。

 星は戦友の数だろうか、笑顔に光ってる。

 独り、ラバウル東飛行場の海岸では波が引いたり押したり、暖かい海水が私の裸足被りまた引き寄せられるように海は鳴いていた。

「さーらーば ラバウルよまたくるまーでーはー・・」

 ?

 どこからだろう。

 とても美しく、ビブラートの利いた華麗な声が赤い夜景をやさしく包み、知らずに私はその声を追うかのように足を動かしたのだ。

 黒い人影に青黒い長髪がやしの木に居るのを私はじっとその人を眺め続けている。

 ああ、鼎か・・。

 歌を歌うのが大好きなのだろうか。

「あ、美貴さん」

 こちらに気づく。

 陸戦の上下短の夏服姿でザクザクと砂を踏む音に混じり、私は黙々と彼女が歩く所をで鼎は口を小さく開き、

「お恥ずかしい所を見せました」と恥ずかしそうに答える。

「良い声だったよ」と私は微笑みで返すと鼎は嬉しそうに顔を変えた。


 この頃、ラバウルの襲撃と共に本土では増槽をつけたB25と噂の新型戦闘機とともに本土空襲が発生し上層部には泥を塗られたらしい。

 しかし思うことに内地までいけない距離になぜ敵が来るか。不思議でしょうがない。

 見えぬところに空母が居ると思う。私はそう確信する。


 今日の戦死者は7名。未帰還が増えつつあった。

 だが私はへこたれない。何故なら"ヤツ"を倒すまで、戦い抜かなければならないのだ。

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