襲撃者
ユウコは2機、まとめて相手にしているようでサポートする必要は無かったが、鼎は機体後部に弾痕を見せながら必死に敵を振り払おうとしていた。
鼎の尻を食いつく敵の後部に張り付いて、機銃、機関砲を一斉にぶちまけると1機がこちらに気づき、フワっと風に乗るように上昇し、弾丸を回避した。
もう1機にエレベーターの系統部分を破壊すると紙を落としたかのように不安定なまま海上へと吸い込まれていき、後には白い落下傘が開かれた。
後の敵機が旋回すると、零戦の本能が発揮される。
後ろを約200mほどで敵の後部を狙い撃つ。
7.7mmをF4F翼の付け根に連続して叩き込ませ、敵の座席へと20mm弾をお見舞いしてやる。急激に速度が低下し、私は前に出されると粉々になった敵のキャノピーが形無く見える。
白い飛行服に一面、白い赤肉と血が混じり、頭は吹っ飛び上半身が操縦席から晒されていた。とても見ない光景を私は今ここではじめてみた。
どんな気持ちになっただろうか。私は現実から逃げるかのようにその場から去ろうとし編隊へと戻った。
2番機の鼎機は白い糸のように燃料が翼から漏れていた。
鼎は「問題ない」と笑顔で手を振ると、こちらも重たいものが体から消えたように心配が無くなった。
――ラバウル東飛行場基地
「弾痕が1、2、3、・・4、5!」
まるで子供のように私へ機体の骨組みが見えるくらいの大きい弾痕をあの敵の強さを伝えてくれた。
「しかしまあ、胴体に2発、燃料左翼の燃料に1発・・おまけにカウリングに2発食らったのにここまで帰れるなんてさすがだなあ」
黒く丸いカウリングは襤褸切れを破ったかのような姿で晒されていたが、エンジン自体には弾痕が無い。
どちらかと言うと、カウリング自体が弾丸によって剥がした感じになった。
「しかし・・これじゃあ飛ぶのに、ちと時間いりますわあ・・」
表情を崩した鼎の顔は少し寂しい顔になっていた。
「今日も仲間が還ってこないぞ・・」
「またやられたか。ははっこの調子じゃ俺もやられるかな」
思わずその声に振り返ると、
「お譲ちゃんどうした?」
うっ・・。
目が笑っていない・・。
魚の目をした古参の搭乗員は口だけ笑ってるだけで、冗談交じりのことを平気で言うことに何かと恐ろしさを感じる・・。
「い、いえ・・」
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しばらくポートモレスビーの敵を散々叩いて、今度は周辺基地をこれぞばかりと言う勢いで攻撃したが
物量に物を言わせない誇る連合軍は飛行機や高射砲をたっぷり補充されるので、連日の出撃であった。
私たちを含む零戦隊はしばらくの間、出撃を中止していた。
太平洋中部のミッドウェイ海戦で両軍が退いたらしく、戦況に影響がでると指揮官が本営を通じて全体にしらせた。
飛行場の端っこで鼎、私、ユウコの三人で飯盒の飯を食べている。惣菜は現地でとった鶏を捌いて焼き鳥に。贅沢は言えないので塩で味付け。
食べるのに夢中になると途端、胸騒ぎを一瞬にして沸き上げる空襲警報のサイレンがラバウル全体に鳴り響びく。
「クソ!敵さんやってきやがったな」
「その飯盒の中に砂入れるなよ!!」
と今回ばかりとてもプンプン腹を立てながら、愛機の一式戦闘機に向かって走っていく。
私は飯盒、惣菜盒や漬物盒に蓋をかぶせて、青いマフラーで鼎は私たちの飯を包み防空壕へ急いで向かう。
「おーい早く入れー!」
くぼみの前で足踏みをする搭乗員の掛け声にすぐさま走り出す。
「後ろ!!後ろ危ないぞー!!」
壕の前に立つ整備士が私たちに向けて叫ぶと、後ろから悪魔のようなエンジンの音がし私はとっさに鼎を抱いてその場に伏せた。
ダメだやられる!
とても冷たい銃火が我々の数メートル前で撃ち放たれ、土と砂利が混じった硝煙と立ち上がった大地の柱が高く聳え立った。
機銃掃射はこれは今日含めて2回目。
クソー・・。
私は無性に腹が立った。前にもやられて今日もやられてはとても我慢が出来ない。
縦横無尽に飛び掛るユウコの一式と、ほかの陸軍機がこの飛行場の真上で迎撃戦を展開し、睨むB25は再びこちらに旋回する。
簡単に作られた対空機銃がある!あれで撃退してやる!
それも砂袋で積み上げた簡素なものだけど、弾さえあたれば敵も墜ちる
歩兵が使う機関銃を上向けに設置しただけのものだけど、取り扱いに関しては機内にある機銃と大して変わらない。
ストックを右肩につけて、軽機関銃の装てんレバーを引いた。
「あ!これ陸戦隊の九九式軽機関銃ですよ!」
「こっちくるぞ!」
ずんぐりと大きな胴体が「今だ!」と撃てる位置、それは腹を見せて真上を通る所を狙い軽機関銃を発射した
金属片を空中に散らして頭上をゴアーっと通過!とても大きな音に私は機銃を抱いてしゃがんでしまう。
弾倉を装てんする鼎はじっと敵を眺めて「さっき撃ったB25、こちらに来ます」と言うと正面から突っ込んでくる敵機にまたして機銃を連射。
機首の閃光と共に、火玉のような弾丸が土嚢を吹き飛ばし、土煙を舞い上がらせながらジャングルの影へと消えていく。
少しだけど黒い尾が見えて、足元からガソリン臭が漂った。
陸軍機が追撃を開始した後、空襲警報は解除された。
「空の勇士も地上ではさっぱりだなぁ」と防空壕から出てきた搭乗員から冷やかされる。
そして、「空襲警報が鳴ったらすぐに防空壕に退避しろ」と指揮官からの厳重な注意に私は小さくなった。
ユウコが戻った時、機銃を撃った砂袋の上で飯盒の蓋を開けまた二回目の昼食を口の中に運び我々は空腹を満たし疲れを取った。
先週、日本軍はアッツ島を占領、果てにはカナダのバンクーバーまでを爆撃するという戦果を遂げたけど、そんなことはどうでもよくただ生き残ることだけを考えていた。