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征空の海鷲  作者: j
1942 ようこそ、地獄の南方へ
11/52

空襲警報

 ――ラバウル東飛行場

 珊瑚海を離れて一面海の中、ラバウルから来た空路をカンで当てながら私は飛行を続ける。

 時に「何かが違う?」と思うときは脚ポケットから飛行地図を手に取り、計器の方位磁針を頼りに操縦する。

 と、見事ニューブリテン島が雲の切れ目からヒョッコリ現れた。

 

 やった!還れる!

 特に敵機の襲撃も無く、火山が止んでいるラバウル東飛行場近辺を私達含む3機小隊は味方が粉塵をあげて着陸する姿を遊覧的に眺めていた。

 とある1機に目がついた。

 ラダーペダルを強く踏んでいるのか、1機気になった零戦が左右に揺れて着陸しようとするのをはらはらしながら見ている。

 あ、着地した。

 上手く操られてない。右往左往とふらふらしながら、待機中の飛行機に衝突寸前となるとこで停止。

 

 そろそろ私達の番かな。

 飛行場の監視台にたつ整備士が紅白の白旗を振り上げている。

「着陸よし」

 よし、私の手本を見せてやる。

 スロットルを絞って飛行場上空を緩やかに旋回。

 キャノピーを開き、飛行ゴーグルを装着。飛行場の滑走路を目前に迫るとき、脚を出してフラップを展開しながら機体の着陸角度を修正しながら操縦桿を動かしていく。

 お尻から突上げる衝撃が走る。

 速度計は100未満なので主輪ブレーキを緩やかに踏み込んだ。

 停止寸前の零戦に整備士が駆け寄り、誘導されながら掩蔽壕へと誘導されながらラダーペダルを動かしていく。

 よし停まった・・。

 疲れたと座席にぐったり。整備達がバンド類、ベルト類をはずしていく中で一人の少年が、

「美貴さん、お疲れ様です」と湯飲みをだしてきた。

 お茶が入ってる。

「ろ過した水と熱殺菌したので衛生的に大丈夫ですと、主計の人から」

「ありがとう」

 私は手にとって、ぬるいお茶をぐっと喉に流し込み乾いた口を潤した。


 基地に帰還しすぐさま報告をしに指揮所の前にパイロット達が集められた。

「友軍空母1隻、火災、残りは無傷でした。敵空母はすべて撃沈しましたが、我々の零戦一機が体当たりし、未帰還となりました」

 と、その隊が居た人間が言うと、しばらくその場が静ずかに沈黙する。

 初めて聞いた戦死者。

 私は胸が痛くなる。

  すべての報告を終えて、指揮所隣のテントの中に行く。

 と、青い髪を束ねた女性が1人と、ユウコが座っていた。

「あ、美貴か。こっち来なよ」

 呼ばれるままに近づくと彼女は目を輝かせながら私の方を向く。椅子に座る。

「あの!私、二六○海軍航空隊所属、淵田鼎(フチダカナエ)上等兵曹と言います!!」

  上等兵!?私は驚いてしまう。なんせ態度の問題だろうか、少し下の入りたてのパイロットが私より階級が上と言う事実。

「私は赤城美貴一等兵曹。よろしくお願いします。と、年齢は・・?」

「年齢ですか!?私は15歳です!兵学校卒業したてで、過酷な入隊試験は見事合格いたしました!」

 兵学校卒業したて・・。多分、この地で初戦となるのだろうか。

「二つ下なんだ」


「彼女は大物になるぞー」

 楽しく言うユウコに、私は鼎の目を見る。

 何と言うか妹みたいで・・。

「実は噂のマーキングを入れて、二六○空では実力の持ち主と聞いて・・」

 私は「ああ」と思い納得する。深く話を聞いて見ると、海軍の空戦映画が入隊のキッカケとなったらしく、本来艦に乗るはずが反対を押し切って航空にいったそうだ。

  ユウコが滑走路端にある、切り込み型の零戦を目にして私に聞くが、実は私も分からない。

  初めて見る機体である。


「あれは私が乗る零戦三二型なんです。栄二一型エンジン搭載、零戦の二一型より、速度、上昇性、横転は以前より上がりました!」

 銀胴体の零戦に混じる、濃緑の零戦三二型は目立つ。どうやら折畳みの部分を取り外した感じだ。

「ほ~ん・・。まあカウリングも長いしなあ」

 とユウコは呟く。

「ですが残念な事に、二一型より、燃料が少なくなり、航続距離、航続時間が短くなりました。あ、でも着艦フックは外してあるので運動性能は良くなりました!」

 話を云々聞いてたり。

 羨ましいなぁ・・。

 なんていうか、速そうだ・・。


  翌日、新人の鼎に起こされ静かな朝を迎えるととても、すさまじい爆音のサイレンが基地中に響き渡る。

 目覚ましのような空襲警報とともに飛び起きる。

 飛行服のつなぎなんて着る暇もなく、私は寝巻きの代用としてる上下白の短シャツ、短パンのまま、飛行場に向かうと、

 低空でグアーッと頭上を通る飛行機が目に入った。

「A-20だ!」

 と鼎が大声で言う。

「おーい防空壕に入れー!」

 遠くから聞こえる指令の声。


 塹壕から海軍の対空火器が撃たれるが、せいぜい20mmと7.7mmと貧弱なもので、遠くから見える砲煙は陸軍のものと段違いなもの。

 陸軍は自前の75mm高射砲を数門揃えているから・・。

 海軍は停泊してる駆逐艦の対空砲で火力を補うしかなく、いないときはとても痛い目に逢いそうだ。

「むっ・・」

 あんなにあざ笑うかのように飛び回る敵機に無性に悔しさを感じた。

 飛行機は隠されて出撃できる余裕もない。


 と、私は指揮所の隣に2機の零戦を見つけた。

「鼎!あれ乗るぞ!!」

「ええ!?あれ故障機ですよ!?」

 故障機・・!

「故障機でも飛べればまだマシなほうだ!!」

「え、ちょっと!!」

 私は鼎の手を引っ張り、ゼロ戦のとこまで無我夢中に走り出した。

 敵が背後から来ると感じ取り、私は鼎を抱きながら仰向けになりながらも地面に倒れ、その後からは火薬の硝煙の匂いに混じりながら銃火が撃たれていった。

「大丈夫?」と言うと、鼎は顔を赤くしながら「大丈夫です」と言ってくれた。

 そして指揮所の脇にあった零戦二一型2機に乗り込むと、


「君!!それに乗って撃退するのかい!?」

 老けた整備員が近づいてくる。

「それは発動機の調子がおかしいんだよ!あと、青い君!そっちは被弾して主翼が悪い状態だよ!大丈夫なのかね!?」

 ものすごい心配そうなおじいちゃんだけど、

「ええ、大丈夫です」

 微笑みながら私は言った。

 

  機内の機器には異常はない・・。いたって快適な感じである。

 主翼、尾翼、操縦桿、左右上下にやる。問題ない。次は燃料計を見る。

 燃料は十分余裕がある。満タンではない。

 どちらにせよ機内、翼、計器は大丈夫なのでエンジンコックを捻りまわした。


 ブルンと爆音をうならし、プロペラが一回転。白煙が中に舞う。

 しかし連続して回らない。私はもう一度回すが、エンジンはなかなか動かず「動け!」と吐きながら、栄エンジンはようやく正常に動き出した。

「よーし!チョーク外せ!」

「美貴一等兵曹殿!いつでも行けます!」

 笑顔で答えた鼎は右手を上げながら私に言う。

 整備員が一斉に、車輪止めを外すと「出撃用意!」と叫び、私は「発進!」の叫びと共に零戦を動かした。


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