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征空の海鷲  作者: j
1942 ようこそ、地獄の南方へ
10/52

珊瑚海戦

――ラバウル東飛行場基地

 また夜がやってきた。

 モレスビー飛行場を火の海にし、そして3機の敵機を追っ払った、いや逃がしてしまったが友軍の被害はゼロと喜ばしいものであった。

 昨日と同じ、ユウコの宿舎でまた一杯付き合う感じに、テーブル前の椅子に座った。

「ふう・・今夜は日本産じゃなく、欧州産だ。フランスのワインだ」

 いつからお酒を飲む様になったのだろうか。

 昨日はたまたまだったかもしれないが。

 しかしどこから仕入れてきたのか私は不思議に思う。


「どうしてお酒を飲むんですか?まだ20歳満たしてないですよ」

「どうしてって・・。いつ死ぬか分からないこの前線ラバウルは、生きる事さえ貴重なんだ。酒なんてまだまだ甘いものよ。それに、20じゃ遅い!」

「ただ、今夜で最後だ。明日は飲まない」


 少し酔った感じで口調が多少荒いユウコだ。

 私もただ座っても面白くないので、二つ用意されたグラスをユウコの様に押し出す。

「ふふん、飲みたくなった?」

「はい・・。じっとしてもつまらないので、少しぐらいは」

 そう言うとユウコはニヤッと表情を変えて大きな瓶を片手に、私のグラスにワインを注ぎこむ。

 赤黒い液がランプと一緒に色を表した。


 グラスを口に私は一口だけ飲みこむと、葡萄の味が広がりアルコールが後から来る。

 しばらく黙り込むと私は「どこから仕入れたのか」と聞くと、彼女は「実家から」と小さな声で言う。

 ポートモレスビーに関して話を考え、最後に例の戦闘機と格闘した話をすると、ユウコが

「あの敵機には注意しろ」と言う。

 私自身何故かと問い出したくなるが、振り返って見れば零戦より、遥かな運動を持ち、私から逃れられたともしかしたら強力な戦闘機なのかもしれないと考えたのだ。

 あの敵機に逢うのはそう遠く無いと、ワインを口に思うのだった。


 ――1942年 5月7日

  午前6時を回って飛行服に身を纏った我々は指揮所の前にユウコを含む搭乗員の数人が集合していて、その中にも私はいた。

 だが、指揮所内のテーブル前にはユウコとその中隊長がなにやら話し合っていた。

 薄暗い中を入り、囲むテーブルを見るとそこには大きな東洋の地図があった。

 インドから中国、ソ連を含み、日本列島。南西アジア、そしてアメリカ大陸。

 何を話しているかとさりげなく割り込んで入る。


「珊瑚海の機動部隊から電報が入った。輸送船団を守りつつ、敵の空母を撃滅、もしくは援護」

 陸攻の中隊長がパプアニューギニアからなぞり、珊瑚海を指す。

「しかしここからでは行き帰り持つのか?ここはあえて友軍の機動部隊に任せればいい」

 と、今度は零戦の中隊長が陸攻隊に顔を向けて言った。

「任せるも何も今がチャンスだ。もう時間が無いぞ」

 陸攻隊長は自慢の腕前でとにかく空母を叩く事しか考えていないのだろうか。叩けば戦局が逆転できると思い、零戦隊長の言葉にはしばしば苛立っていた。

「まあ、とにかく敵空母を撃沈してもらう。すぐさま準備を」


 我々はラバウル東飛行場から、友軍機機動艦隊の居る珊瑚海へ向かう為、零戦10機、陸上攻撃機が10機の編隊を組んで断雲の狭間を飛んでいた。

 今日も列機がついてきている。

 襲来したラバウルの臨時小隊長以来、私は2番機"栄"3番機"山本"を授かったけど、偉いと言う感じなのにどうも実感がわかないし、むしろ嫌々私は受け入れてそれに緊張やプレッシャーが私の心身を圧迫する。


 ダメだ!せっかくの小隊長はもう手に入れられないくらい貴重なんだ!

 しっかりやり遂げなきゃ・・!

「ふー・・」

 しばらく飛んでいると正面の海上に白い線を描くものが動いていた。

 味方の空母である。

 友軍空母の真上を通過する。

 1隻だけ、甲板にぽっかりと爆弾が爆発したのか大きな穴が開いている。

 S字の白線を引きながら回避運動を起こしていた。

 友軍空母の真上を通過する。

 戦闘は終わってしまったのかなと、思うと貧弱な無線から「敵空母発見」の言葉が入ってきた。

 空母の偵察機がこちらに向けて送信したらしく、陸攻機は攻撃態勢に入ろうとする。

 水平爆撃の陸攻は我々と同じ高度を保ち敵空母までひたすら前進すると、雷撃陸攻は徐々に高度を落としていく。

 


 キラキラ光るものが目にささる。

 共同で発進した陸軍機のオレンジ色の増槽がガソリンを噴出品がら回転しながら落ちていく。

 敵機を見つけたんだ。

 同様、私は一式戦闘機を操る中隊長のユウコに機体を近づけて「敵発見。3機上空」と指で送ると、薄茶色の飛行帽を外しながら上を見て確認すると「了解」の頷きをこちらに向けて了承する。

 操縦桿を左右に倒し零戦隊にバンクを送る。


 あの時と同じ殺気を感じる。

 大空を背に急降下する敵戦闘機が12機は零戦隊に機銃を向けて来た。

 各機が散開すると真上からの赤い紐の弾丸が降り注ぐ。操縦桿を壊れんばかりに横下へ倒し、機体を上向けにさせて上昇する。

 私には感じ取れた。


 乱戦する空戦の渦に奴の機体がどれがわからなくても、視線だけがピリピリと感じ取れる。

 敵戦闘機1機が右翼下にいた!

 絶好の立ち位置!


 すぐさま右ラダーペダルを踏み、機体を滑らせて敵機の上後方から照準に入る寸前に20mm弾を数発撃ち込んだ。

 これは見事に命中。

 翼の付け根を折ったので敵機は錐揉み落下で海面に吸い込まれていく。

 後方から聞きなれない重たい機銃に、とっさに機体を反転させて、その敵機を補足すると、それは私に対しての兆戦なのか後を追ってくる。


 くるならこい!相手になるぞ!

 あの殺気も感じられる・・!

 操縦桿を振って、あの時の旋回戦に持ち込む。

 私と敵がお構いなしに追いかけっこをやっているのに、敵機は私を撃とうとしない。

 相手は何をしたいんだろう・・!

 せっかくの一対一、味方の介入はされたくないけど・・!

「ふっふフー・・」

 息継ぎを続けてやっている。相手もきっと苦しいんだ・・!

 黒い視野に敵を入れているのに後ろをつかれない!

 スロットルレバー一杯に下ろすと回転計の動きは緩む。

 旋回は私の有利となり、相手の後ろを取ったときだ。

「あっ!」

 

 敵機の速度が遅く、私が追い抜く寸前と言う瞬間になった。

 返って不利になり相手はいつでも撃てる立場になってしまう。

 あれ、私と同じ速度で保ってる・・?

 私は敵機のキャノピーを伺った。


 真珠湾、ポートもレスビーと同じ銀の髪の色。肌は我々の色とは少し白く同年代的な感じはする。

 じっと見てると、地獄猫は腕を見える様に上げて、親指をピンっと伸ばす。そして下に合図を送るかのような動作をした。


「死ねと言う事だろうか・・?」

 アメリカ式の合図なんだろうか?

 彼が操る機はその場から離れると、私も様子を窺いにその間逆の方向を取りしばらく1周旋回すると、敵機も同じ事をする。相手同士、正面から私は機体を突っ込ませると、相手も同じ様に正面からくる。

 両者機銃を撃たずにそのまますれ違う。

 首が千切れるくらいに後ろを向き、腹を出した敵機を目で捉える。

 凄い腕前だ。私以上かもしれない!

 零戦得意の旋回戦に持ち込めば勝てる!

 

 操縦桿を引っ張る。

 身体全体は太陽の光一杯浴びながら、機体はループする。


 しばらく宙返りすると、光学照準器に近づくくらいまで尻尾を捕らえていた。

 彼は諦めたのか、宙返りをやめた。これで勝った。

 距離はおよそ300m程あるけど敵は左右に踊り始めた。

 回避をする為のブレイクである。

 無駄な行為だと確信すると、7.7mm機銃を撃ち放ち、敵の後部を蜂の巣にする。

 指を離し、様子を窺う。穴だらけになっているが燃料は吹かず、火もでない。


「零戦の場合じゃ火達磨だろうなあ・・」

 数発ほどの20mmを撃ちだすと、敵のエンジンは止まり、木の葉のように飛行機は落下する。

 そして黒い海上に落下傘が開かれるのを確認すると私はすぐさま味方部隊への合流を急いだ。

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