若鷲
1939年
誰もが飛行機憧れて海軍予科練へ入隊した若い少年少女たち。鳥のように誰もがなりたいと思っていたなかで新たな鷲一匹がここから巣立とうとしていた。
ようやく一人前の戦闘機乗りとして胸をワクワクさせながら予科練の門を抜けて道路に立つ一人の少女は、海軍の二種軍装を身にまとって、束ねた銀髪を揺らしながら紙切れを見ながら指定の場所へと歩いていく。しかしそれは長く辛い切符だということを彼女はまだ知らない。
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「えっと・・・ここかな」
横須賀予科練から離れた山の中、私は居たけど周りは何も無くて畑と田んぼだけ。バス停って書いてるトコに足を止めてる、ここでいいのかなあ・・・?ちょっと地図の絵が汚れててよくわかんない・・・。
紙には"12:00 迎えが来るので待つように"って書かれてるし、今は11:50、待ってみよ・・。
古びたベンチに座り、私は市街地で買ったシベリヤを黙々食べていく。
ああ美味しい。
羊羹とカステラが一緒に食べれて味も一味違うような気がする。
そして遠くから自動車の走る音が聞こえてくる。
四輪車だ。男の兵士が搭乗している、服は第三種軍装・・・?っていう薄緑の軍服を着ていた。私の手前で車が停車して「赤城美貴上等兵ですか?」と言ってきた。
「は、はい。そうです」
緊張しながら答えた。だって顔が怖くて強そうだから・・。
「私は室口一郎軍曹です。荒城大尉からお伺いしております。荷物と一緒に自動車に同乗してください。原隊へ送迎をしますので」
このための地図と時間だったんだ・・・。
トランクを後部座席に、私は運転席の隣に座った。車は緩やかに発進して田んぼと山々が流れて見えた。
生まれた故郷を眺めているうちに大きな建物が聳えたって、訓練でつかった飛行機とは違う機が何度も旋回して私を歓迎しているようにも見えた。
正門をくぐり赤いレンガの建物前で自動車は静止して、運転手の兵士さんが助手席の扉を開けてくれた。トランクを両手に私は、
「あ、ありがとうございます」
とお礼を言いながら車から出ると笑みをつくって「どういたしまして」と返してくれて私はちょっとだけ緊張がほどけた。
「この建物の中にいけば飛行長がいますので」
「あっそうですか・・」
「では私はこれで」
と言って車に乗って去ってしまう・・。
原隊についたからには堂々としなきゃ!
私は胸をぐっと張ってレンガの正面玄関に足を踏み入れて、紙切れに"飛行長室3階"と言う文字だけを頼りに同じ軍人の中に混じって廊下を歩く。
二種軍、三種軍装目に入る・・・・!
みんなこっち見てるなあ・・、私が押しつぶされそう。
何とか階段を上って3階端の飛行室前までやってきて、私はドアを3回ノックした後「う、あ、あの今日原隊に着任しました、赤城美貴上等兵で、です!!」
ああ何やってんだろう私、ここで緊張して噛むなんて・・・。
「入ってー」
顔が熱い・・。その顔と一緒に私は飛行室の扉を引いて、室内へとお邪魔した。
「君が赤城君ね、ままここに座ってお茶出すから・・・」
何やかんやでお菓子を食べながらこの施設の説明をしてもらった。私は260海軍航空隊の所属の人間と言うことが正式に決まったけど・・・、
「突然だけど中国の漢口に行ってもらう。今ダグラス輸送機が発進するからその機に乗ってもらって欲しい。もちろん君と同じ、予科練上がりの者も乗るんだ」
「え、で、でも・・」
「戦争ってのは臨機応変でね、君のような少年少女はここでまた訓練していかなければいけないんだけど、人が足りなくてね・・」
そ、そんな・・まだ心の準備が出来てないのに・・・。
「これと言っては何だけど・・・君の手当て代」
テーブルに紙袋がのせられたけどこれは・・?
「60円(1円=約3000円で今の価値にして大体18万)、命の代わりにお金がたくさん入るから」
「え、こんなに・・・」
「若いんだからこれくらい貰わなきゃねえ・・。まあ5年もしないうちにお給料減っちゃうんだし」
「そ、そうですか」
紙袋をポケットに入れて紙包みの茶菓子を貰って飛行長に誘導されながら飛行場へとむかう。じろじろと見られるのはどうしても慣れない・・。
本当に入ってよかったのかなあ。
双発の輸送機がプロペラを回して待機していた。トランクを片手に乗り込んで空いた席へと座っていく。
同い年かな、大人の人もいる。
私が最後だったらしく輸送機は動き出した。
輸送機は上昇すると山々の間から海が見えてきて、鉄の物体が浮かんでいるのが見えて視界の右からはゴマの物体が飛行機の形と大きく接近して、私の真横で翼を振りながら手の平を見せてきた。
見送りかな?
真っ白の戦闘機をじっと眺めながら空を行く。その戦闘機の胴体は細くて、モデルの脚のように美しく、脚部のなくて訓練機とは違う格別さを誇っていた。
いくつか経由地点で補給を済ませて中国大陸へ。それぞれの地域に着陸すると乗員達は少なくなってとうとう私だけになってしまい、寂しさを紛らすために窓から見える荒地を見続けていた。
私を取り囲むような戦闘機は内地で見たのと一緒のものだ。
最新型かなー・・・・。思っているうちに地上が広がって一つの滑走路に着陸しようとして、機内が地震のように揺れると次第に収まり機は静止した。
知らない土地にとうとう着ちゃったよ。何をすればいいか分からない、ただ周りをひたすら見回してるだけなのに心臓の鼓動だけが激しく動く。
飛行機の扉が開かれると私は無意識に外に出ようとした。一面カーキ色の地平が遠くまで見えて小さな丘や山々の間から銀翼の戦闘機が光に反射して目に刺さる。
「あなたが赤城美貴上等兵?」
わ、綺麗だなあ・・・。
笑顔で迎えてくれた海軍搭乗員の女性が軽い敬礼をして私に尋ねてきた。もごもごしながら私はそのことを返すと「それじゃあ指揮所にいこうか」となぜか手をつなぎながら歩いていく。
指揮所内で飛行隊長、指揮官に挨拶をした後で指定された宿舎に向かった。
一つ屋根の下で私と同い年の人で少女ばっかでなんか安心する・・。
「ここが君の寝床・・・。あ、悪いけど今着替えてね」
「は、はぁ・・」
ハンモックかと思ったらベッドだ。新品の毛布に枕、予科練に居たころはハンモックで寝てたのに。飛行兵は優遇されてるんだなあ。
ベッドテーブルも置かれてる、私物のトランクを置いて一つ一つ、小さな二種軍装のボタンを解いて見られる視線を恥ずかしながら感じながら飛行服を着用する。落下傘用のバンドも一緒に。
飛行帽を片手に案内をしてくれる飛行兵と一緒に飛行場へ出て行くとドラム缶が詰まれた隣に1機の戦闘機が整備されていた。
「これが彼方が使う戦闘機、九六式艦上戦闘機」
「わぁ・・」
思わず声を漏らしてしまう。着任後、初めて愛機が与えられたのだもん..。嬉しくてしょうがない、エンジンかけて飛びばしたい。
後ろの垂直尾翼に260の数字に尋ねた。
「あれは君自身の原隊。所属が260海軍航空隊だからね」
「まっ、あれが君の愛機になるかどうかは次の任務次第...」
なにかこなさなきゃダメなのかな。でも頑張ろう、着任早々戦闘機が与えられたんだ..!
夜、酒保でテーブルを取り囲んで歓迎会が開かれた。参加するとテーブルには缶詰、うどん、アンパン色々、予科練で食べたものや隊内特製料理が振る舞われて私1人のためになんだか申し訳ないような気がした。
「予科練を卒業しました、あ、赤城美貴上等兵です!よろしくお願いします!
緊張したけど自己紹介を終えた!あっ..。
そっぽ向いて嫌そうな顔をした同い年の搭乗員..、なんだろうなにかしたのかな私....。
か、考えすぎだ。さ、席につこう...。
テーブル自分の席についたけど湯呑みがなくなってる。
あれ、誰か間違えたのかな。一つのテーブル見渡したけどみんな均等にある...。
まあいいや、美味しご飯食べれるなら気にしないよ。
宴の中で私は皿に盛られた甘いあんぱんを
食べながら隣席の戦友と親しくしようとした。