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偏屈先輩の御令姉

「兄様!? 私の作業着知りませんか!?」

 知ってる。しかし、言わん。

「あれなる趣味悪き雨蛙作業着は1人旅に出た」

 俺は緑茶を啜りながら言った。

「訳分からないこと言わないで下さい! 私が入浴している間に盗りましたわね!?」

「はて? 何のことだか……。しかし、貴様は実の兄を盗人扱いする気か? そんな酷い奴だったとは俺は悲しいよ……」

 嘘であることは言うまでもない。現に盗んだのだから盗人だしな。

「むぅ……」

 三津花は険しい顔で突っ立っている。着ているのは清楚な白いワンピース。うむ。うちの妹はこーいうのじゃなきゃいかん。

「白い帽子もあったら良いな」

「家の中で帽子をかぶるんですか?」

「いや、花畑で」

「わけが分かりません。日本語を話して下さい」

 呆れた顔で俺を睨む三津花。うぅむ、目が恐い。これは親父の遺伝で、我が家の3子の共通項であるが、これはあまり頂けない。もうちょっと柔らかい目つきの方が宜しかった。やはり、あの親父は害悪ばかりをもたらすな。

「ところで、他の連中は何処だ? 外出中か?」

 三津花が風呂に入っている間に、己の部屋に荷物を置き、ついでに家の中を見て回ったのだが、誰もいる気配はなかった。

「ええ。母様は買い物に、姉様は仕事に、父様は」

「あの糞親父の現在地などどーでもいい。地獄以外に奴の居場所はない」

「あ。そですか」

 俺と親父の関係は一族の間では既によく知られたことだ。三津花も軽く頷いただけだった。

 三津花は俺の据わっているソファの隣に腰を降ろしてテレビをつけた。

 テレビではこの夏の高校野球で活躍した実家がお寺の丸坊主の高校生が頭の悪そうな女子アナにインタビューされていた。この高校球児は活躍もさることながら、つるりと禿げ光る頭に、実家がお寺という特異性もあって「坊主王子」と少々語呂の悪いニックネームで呼ばれよくよくテレビに出ている。

「私はこーいう人気者というかテレビに出まくるガキが大嫌いだ。何が坊主王子だ。普通にイジメで呼ばれそうな名ではないか」

「そう思ってるならそんな嫌そうな顔で彼を睨まないでもいいじゃないですか。マスメディアのパンダになってんなーって生暖かい目で見守るのがこういう場合の正しい対処法ですわ」

 まあ、それは分かっているのだ。坊主王子本人も「坊主王子って……イジメじゃん……」などと考えているかもしれないのだ。悪いのはマスコミであって、彼ではない。というか彼が一番の被害者とも思える。

「たらみまーんもすー」

 俺と三津花がマスメディアの害悪と利益に関して話し込んでいると、玄関方面から馬鹿丸出しの訳分からん言葉が聞こえてきた。一体、何が言いたいのか意味不明だ。

「やっぽー。おーう、双葉ちゃん久し振りー」

 1階リビングに入ってきたのは少し茶色い長い髪で、少し目つきの悪い切れ長の瞳で、派手さを抑えてはいるがばっちり化粧をした背の高い若い女。こいつが冴上家の長子の樹だ。

 うちの馬鹿姉はリビングに入ってくるなり、ソファにいる俺に後ろから抱きつこうとしたが、俺は素早くそいつの射程範囲から離脱した。

「その名を呼ぶな!」

 ついでに怒鳴っておく。

 ソファの後ろから俺に抱き付こうとしていたそいつは俺に逃げられた為か、数歩横に移動して三津花に抱きつこうとして、やっぱり逃げられた。

 そして、さめざめと泣く。

「弟妹が冷たい……」

「泣き真似ですね」

「泣き真似だな」

 俺と三津花は敢えて冷たい視線で馬鹿姉を睨み、冷たい声音で呟く。

「何よ何よ! あんたら2人揃ってあたしを馬鹿にしてー!」

 ヒステリックに叫ぶ姉上。まあ、これもいつものことだ。てか、いつものことだった。俺は2人と話すのは久々だがな。

「ところで母さんは?」

 さっきまで泣いたり怒ったりしていたはずの姉上だが、もうけろっとした顔でソファに踏ん反り返っている。まあ、こいつはこんな奴だ。小学生くらいから。たまにうざい。

「買い物だとさ」

「あー。母さんの買い物長いからなー」

 買い物短い派の姉がちょっと苦々しい顔で言い、同じく短い派の俺と三津花も頷く。ガキの頃は長いこと買い物に付き合わされて、うんざりしたものだ。その経験は3人共通だ。

「あ。そーだ。双葉ってさ」

「双葉って言うな」

 姉上がいきなり何事か思いついたのか言い出した。そして、またその名で呼ぶか? いっぺん何とかして分からせたいものだが、こいつ空手の有段者だからなぁ。運動苦手な俺には力では敵うべくもない。

「あんた、もう成人だよね?」

 名前で呼ばないとなるとあんたらしい。まあ、人のことを貴様とかお前とか言う俺も人のことを言えたものではないのだが。

「うむ、まあ、もう成人だが、それが何かって、まあ、聞かんでも分かるが」

 俺はリビングの隣にあるダイニングキッチンに向かって歩いていく姉上を見ながら言う。

 予想通り姉上は冷蔵庫からビールを取り出した。500の2本。てか昼間から酒か。

「あんたと酒を飲むのが夢だったんだよー」

 お前は息子を持つ父親か?


ちょっと短いですね。

次は両親です。

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