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偏屈先輩の似合わぬ思考

ごめんなさい!

全然、笑えません!


 大変長らくぶりだ。という作品上の都合は脇に置くとして。

 さて、諸君。もう長いこと俺と絹坂のどーしようもない上に突飛なこともなく、シリアスな展開も特にないのんべんたらりとした物語をだらだらと見続けてきた者ならば、改めて言わずとも理解していることであろうが、俺には良心というものがそれほど多く備わっていない。

 勿論、犯罪を好んでするようなキチガイではないし、加虐趣味にそれほど悦楽を覚えるわけでもない。俺は最低限のルールはきちんと守っているのだから、良心が欠片もないわけではない。

 しかし、まぁ、それを守っているのは、良心の発露や周囲からの評価を気にしているわけではないし、ルールを破った際にそれほど大層な罪悪感を覚える性質でもない。最低限のルールを守っているのは、あくまで、破ったとき、面倒臭いことになるからだ。破ったことによって得る利益に比べ、破ったことによって生じるリスクの方が大きいと予想される場合、そのルールを破ろうとは思わない。悪ぶって喜ぶほどガキでもないしな。

 つまり、俺が最低限のルールを守るのは、利己的な思考に基づいているのだ。決して良心からではないことは自分が最も分かっているところだ。

 俺に人としての良心が平均的な人間よりいくらか欠けていることの証左は、今までの話を見てきた者であれば、改めて説明する必要もないかと思うが、付け足しておくと、絹坂に対する俺の態度は、かなり甘かったということを申し添えておく。やはり、何だかんだ言って、実際のところ、真実を包み隠さず、恥を忍んで言えば、俺もいくらか絹坂に惹かれていたのだろう。やはり、人間、どんなに良心の欠けた人間でも、好きな相手にはいくらかは甘くなるものだ。

 本来の俺は、雨の日に道端でずぶ濡れになった子猫を見殺しにすることや赤点を取った友人が泣きついてきた前で存分に満足な点数を獲得した己のテスト用紙をひらひらさせること、うっかりと漏らした他人のマイナスな情報を利用して己の利益を引き出すことなどに、何の良心の呵責も覚えず、姉が飲もうとしている牛乳が賞味期限が切れて明らかにダメっぽいことを知りながら敢えてそれを知らせず後に腹を壊してのた打ち回る様なんかを見て喜びを感じたりするような奴なのだ。加虐趣味はそれほど持ってはいないが、全然持っていないとは言い難い。

 そんなふうに良心をあまり持ち合わせていない人でなしの俺ではあるが、さすがに、例の件に関しては、かなりの罪悪感を覚えざるを得ない。

 例の件とは何かというと、今までの経緯を知っている者ならば、すぐに思いつくことであろうが、ここで改めて例の件に関して説明しておくのが親切設計といえよう。誰に対する何の親切なのかは全く意味不明であるが、ここは見えざる神(作者)の手というかキーボードを叩く中指の赴くままに説明したいと思う。全くの蛇足であるが、作者は何故だか中指だけでキーボードを叩く変な癖がある。作者って何だ?

 さて、こーいう掟破りなギャグはスルーするとする。駄洒落ではない。

 例の件とは、つまるところ、檜の件に他ならない。

 檜とは、勿論、木の種類ではない。どこまで説明すればいいのか分からんが、とりあえず、全部説明することにする。

 檜は、かつて、俺が高校生だったときに、同じ組織に属した仲間であり、友人であり、一時期はクラスメイトであり、そして、まぁ、もったいぶるのは、恥ずかしいからであるが、まぁ、ずるずる引っ張ってもしょうがないので、さっさと言うが、檜は俺の恋人であったわけだ。

 檜という少女は、これがまたよくできた奴だった。

 凛々しい切れ長の瞳を持ち、長い黒髪を、平素はポニーテールにしていた。恋人であった俺が言うのは惚気にしか聞こえんかもしれないが、間違いなく、美人の部類であったと断言できる。

 その上、性格は利発で行動的で、愛想も面倒見もよく、運動が得意なのは剣道で結構な成績を収めたことからも明らかで、その上学力も高いという才色兼備の、まさに才女だった。

 人並み以上には勉学ができても、運動がからっきしで、しかも、いつも無愛想で不機嫌で気難しく偏屈で独尊的な俺よりも数段優れた奴であったことは自明の理であり、俺に相応しからぬ過ぎたるものであったことは言うまでもない。

 と、このように檜のことを考えていると、自分自身、驚くほどに劣等感というか自虐的な感情に囚われる。鬱々と檜のことを考えていると、自分と世界とその他、色々なものの価値など全くないように思えてしょうがない。まったく、俺らしくもないことだ。俺がたまにこんな糞下らない感情に囚われているなどと誰が思うだろうか。過去の俺ですら、俺自身がこんな考えをするようになるとは予想だにしなかった。それほど、檜という存在は俺にとって大きなものであった。願わくば、彼女にとっても俺がそうであったならば、いささか傲慢ではあるが、嬉しい。

 さて、俺が彼女のことを考える度に、こんなネガティブな思考に囚われる理由は他でもない。彼女はもう俺の側におらず、二度と言葉を交わすことも、肌に触れることも、その姿を見ることすらも、彼女が今何をしているかと想像を巡らすことさえもできないからだ。死んでしまった人間とはそういうものだ。生きている人間とは全く隔絶された存在へと遥か彼方へ遠ざかってしまう。

 檜が死んだのは、まぁ、病気だった。色々と手を尽くしたが助かる見込みは臓器を一個取り替えるしかなく、それだって時間の猶予なんて殆どなく、いつ死んでもおかしくはないような状態だった。当然、24時間365日病院から出ることなどできず、いつでも医者が診察できる状況になければ生き長らえる見込みはなく、そして、将来、生き延びられる可能性もなかったわけだが、しかし、厳密には絶対に生き延びることができないというわけでもなかった。もしも、檜がまだ生きていて、手術を受けて耐えられるくらいの体力が残っていて、檜の身体に合う臓器が見つかれば、生き延びることはできただろう。

 しかし、彼女は、それはもはや不可能だと、そんなものは夢物語だと断じた。

「たぶん、もうダメだ」

 と、彼女は言い切った。たぶん、というのも、おまけで付けたようなものだろう。

 しかし、一方で、奴は俺に、

「この世はどーなってるか分からないし、未来はどーなるか分からないよ」

 などと矛盾したことも言うのだから、このときばかりはこやつの性格も完璧ではないなと忌々しく思ったものだ。

 だいぶ長くなっている。檜のことを考えると、いつもこうだ。鬱々とネガティブなことを延々と考え続け、終わりまで考えが止むことはない。途中に考えを遮るものが外部から来ない限り。

 ともあれ、ようやく、俺の俺らしくない思考も最後に至る。俺が、冒頭で、良心の話をした理由もようやく説明できるというものだ。俺が俺の良心というか罪悪感を最も感じるのは檜に関連したことなのだから。

 己は死ぬと断じた檜が選択した最期は、自分と俺以外の他者を全て排除した二人だけの最期だった。

 ある日、俺の眼前で血を吐いた彼女は、医者を呼ぶことを許さず、俺と二人だけでこの世を終えることを望んだ。自分の最期を、俺だけが見ることを望んだ。このあたり檜もいい性格をしている。最も愛する人が死んでいく様をキスをしながら間近でずっと死ぬまで見ていてくれというのだから。それ故に、俺はキスという行為を思い浮かべるごとに奴の死んでいく様を、死に顔を脳裏に浮かべる羽目になってしまったのだからな。これもまた、俺が抱える恋愛トラウマの一因だ。

 この選択は、俺と檜のエゴであった。檜はそれで満足だったようだし、俺も檜がそう望むならばそれでよかった。

 しかしだ。人間は誰しもそうであるとおり。自分は自分だけのものではない。彼女は彼女だけのものではない。彼女は俺のものでもあり、親のものでも、家族のものでも、友人のものでもある。自分の命など自分の意思でどうこうしても勝手だというのはあまりにも馬鹿馬鹿しい思考に他ならない。そう俺は思う。俺は今まで檜を追うこともなく、ぐだぐだと生きているのもそれが一因だ。他には、彼女に「生きて」と遺言されたせいでもある。まったく、ひどい女だ。

 さて、檜には妹がいた。大変、姉想いな、姉のことが何よりも大好きな、姉が大の自慢であり、また、姉にかわいがられ、守られてきた妹が。二人の姉妹の愛の深さに、俺と檜の恋人としての愛の深さは負けないとは思うが、その歴史ははるかに姉妹の方が長い。

 俺が檜を、檜が俺を愛したように、妹も姉を、姉も妹を愛した。

 だが、最後の最後になって、姉は妹よりも恋人を選び、その最期から妹を排除した。

 そして、恋人と一緒に最期を迎え、妹には何の言葉も遺さず逝ってしまった。

 その妹の報われぬ愛と、裏切られたという想い、悲しみ、憤りを理解できないわけではない。俺はそれを理解する良心を持ち合わせている。性別も立場も違えど同じ女を愛した者同士なのだ。その気持ちを理解できないわけがない。同じ喪失感と悲しみを抱える同胞なのだ。その愛する者から、最後の最後に選ばれなかった怒りと悲しみが分からないわけがない。

 それゆえに、俺はその妹から責められ、憎まれ、恨まれることを望んだものだ。そうすることで、彼女の悲しみが少しでもなくなればよいと俺の陳腐な良心は考えたわけだ。

 しかし、俺の良心はあまり大きくない。その小さな良心ゆえに、ここ暫くというかずっと彼女から恨まれることを彼女任せにしてきた。俺の方は何のアクションも起こさずただ憎まれるがままにしているというのは如何なものか。それでは、彼女は別のことを、そう姉を失った悲しみと喪失感の方に気が向いてしまうではないか。責められるならば、とことん、悪役を演じるべきではないか。と、俺の良心はいくらか前に思った。彼女から姉を奪ったのは誰あろう俺なのだから。もっと怒りと憎しみをぶつけられて然るべきなのだ。

 だから、俺は檜の妹と会うのだ。彼女にもっと責められる為に、憎まれ、恨まれ、怨嗟の声をぶつけてもらう為に。そうすれば、彼女の悲しみと喪失感はいくらか紛れるに違いない。

 まったくもって、俺に似合わぬ思考だ。


物凄い久しぶりに更新しやがったと思ったら、なんかコメディのくせに全然笑えない話ができてしまいました。こんなコメディ失格ですよ。

しかし、ストーリー上仕方のないことなのです。すいません。大変申し訳ないです。

できるだけ早期に、すちゃらかおちゃらかなだらだらコメディ戻します。

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