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偏屈先輩密会中

 問い。彼氏が浮気している現場を目撃した彼女はどのように行動すべきか?

 1 見なかったふりをする。

 2 後で問い詰める。

 3 今すぐ問い詰める。

 4 証拠を押さえておき、後で喧嘩になったとき等に使うカードとして取っておく。

 5 ぶっ殺す。

「5! 5! 555555555555555555555ーっ! 断然5っ!!!」

「おいおい、ちょっと待ちなさいよ」

 私が思わず上げた絶叫に対してススが口を挟みます。何ですか? 私の決断に文句があるんですか?

「あんた、自分が大好きな先輩をぶっ殺す気なの?」

「誰が先輩ぶっ殺すなんて言いましたか? 先輩は至高にして唯一絶対の存在なのですから、ぶっ殺すことなんてできません。先輩が死んでしまっては私にはもう生きる気力などないでしょうから、先輩の死ぬときは私の死ぬときなのです。故に先輩の死=私の死と言えます。そして、私は自殺する気はありません」

「じゃあ、ぶっ殺すって……?」

「もっちろーん」

 私は彼女を睨みます。ススではなく、あの先輩と一緒にオープンテラスなんかに座ってなんか茶色っぽいカフェオレ的なものを飲んでるあの女です。その彼女を睨みつつ、私はススの質問に答えます。

「あの女に決まってるじゃあないですかー」

 そう言いつつ、私は辺りに視線を飛ばします。

「何。今度は何さ? 何探してんのよ?」

「いや、ちょっと武器をー……。鉄パイプくらい転がっているんじゃあないかなーと……」

「転がってないから」

「使えない町ですねぇっ!」

「そんなことに使える町には住みたくないよ」

 ススは呆れ顔です。しかし、私は気にしません。人目なんか気にするのは小学生のときに止めました。一々気にしていたら面倒くさいですからね。

 結局、武器になりそうなものは近くのお店の中にある椅子とかマネキンとか蛍光灯とかしかなく、それらを持って突撃するのも何なので、渋々と私は手ぶらで先輩たちの方へと向かうことにしました。先輩が密会をなさるということを事前に知っていれば、包丁でも鎌でも斧でも鋸でも釘バットでも持ってきて、似たような事件が起きちゃって打ち切りになっちゃったアニメ番組みたいなことができますのに。ちなみに冗談ですよ? 本当に。マジで。

「いざ! 突撃ー! やぁやぁー我こそは武蔵国の住人―、絹坂の衣なりー!」

「コロ! ちょっと落ち着いたらっ!? 言ってることと目ん玉がなんかおかしいことになってるよっ!? 台詞が古文みたいだし、目がくるくる回ってるよっ! あっ! ちょっと、待って! 待って待って待って待って待って待って待って待って待って待ってっ!」

 名乗りを上げながら突撃を行う私の襟をミッチが思いっきり引っ張り、私は後ろにかっくーんとなってしまいました。勢い、私の首は絞まり、おえってなってしまいます。

「おえっ! 何するんですかーっ!?」

「怒るんじゃないわよ。あんた、ミッチが止めてなかったらゴミ収集車にかれてミンチになってたところよ?」

「そうだよーっ! 私ってばさっきのはナイス行動だったよっ! コロがコロミンチになるの防いだんだからねっ! 私偉いっ! 褒めてっ! 褒めて褒めて褒めて褒めて褒めてーっ!」

「ミッチ煩い!」

「コロ……ひじょい……ぐず」

 仕方なく私は近くの横断歩道を渡り、道路の向こう側に渡りました。そこから、今度は道沿いに先輩へ向け突き進みます。

「せっんっぱっぃむぐぅっ!?」

 いーっっっ!!!っと怒鳴る前に口を押さえられ言葉は途中で失われてしまいました。誘拐!? ではありませんでした。

「こらっ! 絹ちゃん! 二人の邪魔したら駄目だぜぃっ!」

 私の口を押さえて発言を封じたのは、先輩のご学友でした。セミロングの茶色い髪で大きな瞳の女性です。えーっと名前は何だったでしょうかねー?

「あら? 名前忘れた? 蓮延はすのべ鈴子すずこっていうんだよ? 知ってる?」

「勿論ですよー」

 嘘です。私は人の名前を覚えるのが下手糞なのです。なんか記憶障害とかなのかもしれません。今度、気が向いたらお脳の医者に診てもらいましょう。

「ちょっちこっちおいで。そこだとバレっかもしれないから」

 蓮延さんが言い、私とススとミッチは揃って彼女に続いて移動します。

 誘導されたのは雑居ビルの二階席にあるファミレスの窓際席でした。そこには先輩のご学友が勢揃いしていました。

 男性が3名に蓮延さんの他に女性が1名。彼女は分かります。薄紫さんです。確か薄が苗字で紫が名前です。変わったお名前ですねぇ。

「お。お絹ちゃんも来てたのか」

 平々凡々でノリが軽そうな男性がへらへら笑いながら言いました。この人の苗字は思い出せます。草田さんです。先輩の最も古くから続いている友人です。ただ、それほど仲がいいとか信頼しあっているとかそーいう雰囲気は欠片もありません。なんか惰性だけで友達付き合いしてるだけっていう感じの仲の人です。

 あと2人は小柄で病弱そうな人と小太りで人がよさそうな人で、何処かで会ったことがあるはずなんですが、どーにも名前が思い出せません。

「皆さんは一体何をしてらっしゃるんですかー? というか、私はこれからあの女をぶっ殺、じゃなーい。先輩とあの人とが何故にどーして2人っきりで会っているのかを確認しなければいけないのですー」

「あれ? さっき、なんか物騒な言葉が聞こえたような気が……」

「気のせいですよー」

 小太りの人が首を傾げますが、私は笑顔で打ち消します。殺意は見せびらかすものではありませんからね。いざ、実行しようとする前に殺意が前に出ていては敵に悟られてしまいますから。

「あたしらはここから委員長とあの檜の妹さんの動向を調査しているのさ!」

 蓮延さんが胸を張って言いました。あんまりないけど。仲間です。

 見れば、彼らが占拠する窓際席には双眼鏡やカメラが用意よく準備され、すぐ近くの窓からは先輩たちの姿を見下ろすことができるのでした。よくもこんな絶好な監視スポットを見つけたものです。

「しかし、ここからでは2人の会話なんかが分からないじゃないですかー」

 そのことだけが不満でしたが、私の言葉に薄紫さんが鼻を鳴らし、自分の横に置かれている鞄を指差しました。そこにはなんだか大層な機械が。まさか、それは……。

「盗聴の受信機ですよ」

 薄紫さんはにこりと微笑みます。そんなものを、しかも、結構本格的な大きさと重さのものを持っているなんて、あなたは一体、何者なんですか?

「音量あんまり大きくするとお店の他の人に聞かれるから、小さい音でやってるから皆、耳澄ませなよー」

 蓮延さんが言い、私は無駄なことを考えるのを止めにしました。ここは、先輩と檜妹の密会の様子をじっくりしっかり聞くことにしようじゃあないですか。

 ちょっとでも気に食わないことがあったらタダで済ませませんから。

「コロ。なんか目恐いよ?」


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