偏屈先輩を見つけたが
「あー! これカワイイーっ! あぅっ! こっちもいいなーっ! あれっ!? これ、いい形してるーっ! でも、ちょっと色が駄目ー! それなら、そっちの方がいいかも!? いやいや、やっぱこっちは外せないでしょっ! あん! でもでも、お値段的に女子高生の財布には辛いーっ! それなら、お手頃価格だけどキュートなこっちのやつの方がー!」
新作冬物売場にて自由奔放縦横無尽に駆けずり回りながらきゃわきゃわ騒いでいるミッチを私とススは冷ややかな目で見ていました。いや、別にファッションに興味がないわけではないんですよ? 人並みにあるとは言い難いですけど。しかし、例え、女の子はファッションに興味津々ってな生き物だとしても、そんなに大騒ぎするほどのもんじゃーないと思うんですよ。
「ところでスス。組織のことなんだけど、そろそろ後継を決めないとね」
「そーですねー。私たちももう受験ですからねー。ま。書記長は書記次長に継がせていいでしょうねー」
「石田? あの子、一年だけど大丈夫なん? 執行委員経由させて二年から書記長。その後、委員長ってな感じじゃないの?」
「いや、そんな遠回りさせなくてもいいですよー。書記長やって、二年の半ばくらいから委員長でいいんじゃないですかー?」
私とススは片手間に服を見つつ、組織の人事の話をします。組織ってのはうちの高校に伝統的に存在する学内秘密結社で、その目的は教師連中とその手先たる生徒会組織を監視、場合によってはその施策に介入し、生徒諸君の利益を追求するという名目だけはご立派なもので、実際には教師連中と生徒会のやることなすことに茶々を入れてみたり、組織内で宴会やらゲーム大会やらを開いてみたり、空気読めない駄目生徒or教師に身の程を弁えるように教育的指導をしたり(かなーり緩和した表現です)、恐い先生と鬼ごっこをしたりするのが主たる活動内容です。
うちの組織は数十年もの昔から長らくそんなことを行ってきましたが、昨今の若者の面倒臭いやる気ないかったるい精神のせいで一時期には構成員の数が執行部の定員と同じくらいの数に減退したこともありました。
そんなふうな黄昏感漂う組織を復活させたのが先代執行委員長であるところの我が愛すべき先輩(どこのなんていう先輩か?なんていう質問は今更受け付けませんよ?)なのです。
この組織という格好の遊び道具、もとい、生徒にとって有益なるものを見つけた先輩は人数が少ないことをいいことにさっくり執行委員長の椅子に居座り、御学友方を執行委員の席に据え、独裁体制を確立、その後は色んなところで色んなことをして目立ち目立たせ、生徒を片っ端から勧誘、或いは半強制的に構成員として組み込み、最終的には全校生徒の3人に1人くらいを組織の構成員にして、生徒会に組織の人間を潜り込ませ、生徒会長を傀儡をし、教職員の弱みを握り、高校政治を思うがままに操っていたという伝説が生徒の間では噂か都市伝説のように語られています。
その組織の今のトップ(即ち執行委員会委員長)がススで、私は実質ナンバー3たる書記長職にあるのです。
そして、私たちはもう3年生であり、もうそろそろ引退の頃合です。この先輩が滅茶苦茶巨大に育て上げたこの組織を若き次の世代に譲り渡さなければなりません。
後継人事とは大事な話なのです。そんなわけで私とススと他の執行部役員たちはこれから毎日のように次の執行部の体制を話し合うことになります。
ちなみに、ミッチも一応、組織には入っていますが、ただの平構成員です。平では、普段はただの生徒と何ら変わりなく、たまーに執行部からの下達される命令に基づき行動するのみです。よって、組織人事とは全く関係がありません。
そして、今の物語の進行とも組織も人事も関係ありません。ここまで長らく述べておきながらです。
物語の根幹たる重大なる出来事は、私とススは次期執行副委員長には誰が相応しいかということをお洒落服片手に語り合っていたときにおきたのです。
このとき、私はふと店の外を見て、重大なるものを発見したのでした。
「ぬうぇぐげにゃーっ!?」
「おう。コロ、何さ。いきなり意味不明な奇声を発さないでよ。びっくらすんじゃん」
「こ! こっ、これっ! これっが、叫ばずんにっいらっれますかぁっ!?」
混乱する私にススはムカつくくらい冷静な顔で言いました。
「もちつけ」
「やですよ! 正月でもないのに餅なんかついてられますか!? そもそも、臼と杵がありません! 更に言うならば、蒸した餅米もないじゃないですかっ!」
「いや、あんた、本当に落ち着けや」
私とススが話し合っていると、店の奥からバビュンとミッチがやって来ました。
「何々っ!? どーしたのっ!? 何があったのっ!? コロは何でいきなり叫んだのっ!? はっ!? まさか、一目惚れでもしたっ!? きゃっ! 恋だねっ! 恋っ! L・O・V・Eッ! ラブッ!」
「ミッチ煩いっ! 黙れぃっ!」
「ススーっ! コロが酷いこと言う!」
「お前、本当に煩いわ」
「ススも酷いっ!」
「お客様」
その言葉に私たち3人は一方向に目を向けます。そこには店員の女性がにこにこ笑って立っていました。でも、額に見えるあの青い筋はなんでしょうかねぇ?
「大変申し訳ありませんが、少し静かにして頂けませんか?」
そして、言外に含む思いをその表情に見ることができます。つまり、その思いというのは「買い物しねーんなら出てけ」というもので、私たちはその通りにすることにしました。
「で? あんた、さっきの奇声は何だったのさ?」
「あ、あれあれ! あれ! あれ!」
ススに尋ねられた私は道路の向こう側のオープンテラスを指差しました。そのオープンテラスはこの前、先輩と一緒に修羅場っているカップルの横でお茶をしたお店です。
そこに、そこに、なんと! 先輩がいるじゃあないですか!?
当然のことながら、それだけで私はあんなにも奇声を発したり混乱したり騒いだりしません。ただ、ススとミッチに「用事ができたからちょっとー」とか言って、先輩の所へ駆けて行くだけです。
私がそうしなかったのは、先輩と同じテーブルに他の人物がいたからです。これが、先輩のお姉さんとか妹さんとかご学友方ならば、私も気にすることはありません。
ですが、今回は違ったのです。先輩と同じテーブルに着いているのは、私が全く想像していない人物で、全く何故一緒にいるのかさえも理解できない人です。
その人は、檜さん。檜さんです。先輩の元彼女の檜さんではありません。その人は死んでますから。その元彼女の檜さんの妹さんです。その檜さん妹と先輩は一緒のテーブルに2人っきりなのです。
「あら? 浮気?」
「ガッデム!」
私の怒りが一気に沸点突破したことは言うまでもありません。