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偏屈先輩を誘い込め!

 私と先輩は、暫くの間、アイスコーヒーのお供に、カップルの悲惨な別れ話+間男参上という真っ赤な修羅場を楽しんでいました。

「人の不幸は蜜の味だな。アイスコーヒーがとても美味い」

「そーですねー。さて、この絶望的な状況は、どう収まるのでしょうかー?」

 私と先輩は、にやにやと笑い合います。

 暫く3人の言い合いを聞いていると、なんと3人目の男が参上しました。

「新たな男ですよ。何役なんでしょうね?」

「んー。女の別の浮気相手とかじゃないか? 三股だったのか」

 私と先輩は小声で言い合い、アイスコーヒーをじゅろじゅろと啜ります。

 新たな男が現れて女とその振られる寸前の彼氏は困惑気味です。そりゃ別れ話の最中にいきなり知らない男がやってくれば迷惑にも思うでしょう。

 会話を聞いていくうちに、衝撃の事実が明らかになりました。彼はなんと間男の彼氏でした。間男はなんと両刀だったのです!

「「ぶふーっ!! げほっごほっ!」」

 その事実を聞いた途端、私と先輩は仲良くアイスコーヒーを噴出し合いました。

「何じゃそりゃっ! 男と女の別れ話の最中に現れた間男っていう修羅場に、間男の彼氏参上ってっ!」

「そんなんお笑いでしかないですよっ! もしかすると、あなたたちって4人のお笑いカルテットで、ゲリラコントしてるんじゃないですかぁっ!?」

「なるほど、それならば、納得だ。絹坂。賢いな」

「いえいえ、それほどでもー」

 私と先輩は「はっはっはー」と仲良く笑い合います。

「じゃあ、賢い絹坂に、この状況から、どーすればいいか聞いてみてもいいか?」

 ううーん。これは難問です。あらゆる方向から飛んでくる冷たい視線が痛いです。

「とりあえず、ここは、逃げましょう」

「賛成だ。店主! 金はここに置いていくぞ!」

 ダッシュで逃げ出す私たち。

「あ、ま、待って下さい!」

「何だ!? 釣りはいらんぞ!?」

 ダッシュで逃げる私たちにウェイトレスさんが叫び、先輩が怒鳴り返します。おぉ、先輩ってば太っ腹ー。

「100円足りません!」

「くっ!」

 ウェイトレスさんにそう返されて先輩はとても悔しそうな顔をしながら、100円を放り投げました。

「あははー。先輩、格好悪ーい!」

「やかましい!」

 走りながら頭をぶたれました。先輩ってば無駄に器用ですねー。


「先輩先輩こっちですー」

 私は先輩の手を取りながら走ります。

「げふ、ぜー、ぜー、き、絹。もう、走らんでも、いいだろ? てか、走ってまで、逃げる、必要も、なかった、ような気が……」

 私に手を引かれた先輩はぜーぜーと荒い息をしながら、よろよろと走っています。

「それは間違いですよー。先輩ー。私たちに爆笑されたあのカップルの怒りに満ちた恐ろしい顔を見ましたかー? あれは、私たちを八つ裂きにしても飽き足らないといった顔でしたよー」

「そーかー? いきなり、爆笑されて唖然としている顔にしか見えんかったがー」

「いえいえ。そんなことはありません。先輩はちょっと平和ボケしているんですよー。大学が平穏すぎるからじゃないですかー?」

「うぐ」

 何か心当たりがあるらしい先輩は、苦い顔で唸ります。

 高校時代の先輩は、学校当局の摘発から逃げ隠れつつも、組織の中での激しい権力闘争を繰り広げた後に、執行委員会を身内で独占し、生徒会や部活等の有力者の弱みを握って、傀儡と化し、生徒会や各種委員会、あらゆる部活に構成員を忍ばせ、学校において生徒ができる権限をほぼ全て1人で握っていたのです。

 当然、そこまで大きな権力を握っていれば、それを妬む反対勢力が出るのは必定です。先輩の高校生活は、権力を握るまでの闘争と権力を奪おうとする反対勢力の炙り出し及び鎮圧で占められていたといっても過言ではないのです。

 しかし、高校を卒業した今となっては、ただの平凡なる一大学生です。策略を巡らすことも追いかけっこをすることもなく、平和的に過ごしているので、ちょっと頭と体が鈍っているのです。まぁ、普通は、平和で何よりってことなんですけどねー。

 ちなみに、今も組織は健在です。先輩が君臨していたときほどの力はないのですけれども、それでも十分学校政治に大きな力を振るうことができていますし、組織の幹部もほぼ旧先輩派で占められています。

 勿論、私は旧先輩派の急先鋒ですよ。今、私が力を入れているのは、先輩を神格化し、伝説として学校の裏歴史として末代まで綿々と先輩の栄光が語られるようにすることです。よって、先輩はもう卒業した身にも関わらず生徒たちの殆どがその存在と偉業を知っているのです。


 そんなことを考えている間に、目的地へと到着しました。

 先輩は私の後ろでぜーぜーいっています。

「ささ、先輩ー。到着しましたよー。冷たい麦茶が待っていますよー?」

「ぜー…ぜー…げふ。つ、冷たい、麦茶?」

 疲労困憊なせいか思考能力が低下している先輩は冷たい麦茶という私の甘い言葉にぴくりと反応します。

「ええ、冷たい冷たい麦茶ですー。こっちに来れば氷のように冷たい麦茶が、先輩の口の渇きを癒し、喉を通り抜け、体を涼やかにさせること請け合いですよー」

 先輩は私の甘い言葉に誘われ、手を引かれ、大人しくよろよろと付いてきます。疲れ果てた先輩は御しやすくて楽でいいですねー。手練手管を弄せずに済みます。

 そうやって、私は先輩を誘い込みました。

 連れ込んだのは、一軒の新しめなアパートの一室。先輩の住んでいるアパートにも似ていますが、そちらよりもいくらか新しく大きいです。最近できた若い女性用アパートですからね。住んでいるのは独身女性ばかりという女の園です。勿論、オートロックやインターホン完備で、ボタン一つで警備会社の屈強なお兄さんが駆けつけてくれるサービス付。ついでに、何件か隣に交番まであります。やっぱ、女の子の一人暮らしですから、こーいう防犯のしっかりしたところに住みたいものなのです。

「ささー、先輩ー。どーぞどーぞー。狭くて汚い部屋ですけれども、遠慮せず上がって下さいー」

 私の案内に先輩は感謝も文句も言わず、黙って従い、玄関に座り込み、視点の定まらない目で自分の足元を見つめながら何かぶつぶつ呟きだしました。

「あ、頭が、くらくらする……」

 日射病ですかねー?

 しかし、先輩は相変わらず体が弱いですね。酒とか煙草とかやったり、不規則な生活してるからですよ。きっと。

「はい。冷たい麦茶ですよー」

 氷をたっぷり入れた麦茶を差し出すと先輩はそれを一気に飲み干しました。

「げほっごほっ!」

「あー。ほらほら、そんな一気に飲み干すからですよー」

 溢れた麦茶をタオルで拭いてあげます。こーやって甲斐甲斐しく世話してあげるのも楽しいんですけど、先輩は凄い嫌がるんですよねー。

「ええい! やめろ! 自分で拭けるわ!」

 先輩はそう怒鳴ると、私の手からタオルを奪い取って、濡れた服を拭います。

 先輩は一息吐いて落ち着いたのか、私を睨みます。何で、落ち着いて、最初にすることが彼女睨むことなんですかねー?

「で、ここは何処だ?」

「私の部屋ですよー」

「邪魔したな」

「何ですぐ帰ろうとするんですかぁっ!」

 いきなり、立ち上がって走り出そうとする先輩を後ろから抱き付いて羽交い絞めにします。まず、第一目標は首です。首を絞め、呼吸数を制限し、力が入らないようにします。

「ぐ、離せ! 首絞まってるぞ! 殺す気か!?」

「いいえ。離しません。逃がしませんとも。何処に巣に入り込んだ餌を逃がす奴がいますか」

「餌って、俺を食らう気か!?」

 先輩の悲鳴にも似た怒声に、私はにっこり笑って答えます。

「ええ、勿論です。比喩的な意味で」

「比喩的ってか性的な意味じゃ、ぐえっ! 服を引っ張るな! 首が絞まる! てか、何で、お前、こんなときだけ怪力なんだ!?」

 愛の為せる業です。


次話はエロい話にしたいと思います。

頑張って、エロくします!

エロ万歳!

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