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偏屈先輩父子息切れす

「貴様! 生んでもらった親に向かって、何て言い方だ!! 貴様がここで俺にベラベラ小賢しい罵詈雑言を吐いてるのも生んでもらってこそなのだぞっ!」

「だから、どーした! そんなもん関係あるか! 子供生んだら偉いのか!? 子供育てたら偉いのか!? そもそも、貴様は子育てなんざほとんどしとらんだろうが! いくら昔のことを思い出しても貴様がガキの俺にかまってたことなんかねーぞ! 母上に子育て丸投げしてたくせに偉そうなことほざくなッ!」

「こんの糞ガキめっ! べらべらべらべらと偉そうに態度で減らず口を叩きおって! 何様のつもりだっ!? 少しは年上を敬う気持ちってのはないのか!? そんくらい人間として常識だぞっ!?」

「馬鹿言うな! 俺は貴様以外の年上には一定の敬意を払っとるわッ! 俺が敬語を使わない年上の人間は貴様だけだっ! 俺は貴様が年上だから貶してるんじゃないのだ! 貴様の存在自体が気に食わんのだ!」

 私の両側で相変わらず先輩とお父様は言い争いを続けていました。不毛で無意味な戦いは延々と続き、既に時計の長針が一回り以上してしまっています。

 既に私もお母様も食事を終えてしまい、お母様は食器を片付けて食器洗いをしています。ここは私も手伝うべきかとも思うのですが、両側で先輩とお父様が喧嘩していらっしゃるので、なんだか立ち去り辛いのです。

 それに、放っておいたらとんでもないことになりそうです。例えば、今、2人の近くに刃物があったならば、既に誰かが刺されていることでしょう。これでは放っておけません。

しかし、今日が和食で良かったのです。もしも、洋食ならばナイフやフォーク、或いはスプーンすら武器になる可能性がありました。スプーンの武器としての使い道としては、例えば、目玉をぐりっ(以下略)。

 しかし、和食でも絶対的な安心はできませんでした。先ほど、先輩が「箸目に刺すぞ!」と怒鳴っていましたからね。なるほど、お箸は木製ですが、先は鋭く武器にもなりそうです。そーいえば、北朝鮮の秘密工作員はお箸(朝鮮の箸は金属製ですが)さえも武器にすると聞いたことがあります。

 そんなわけで、私はテーブル中のお箸を握っているのでした。流血沙汰はいけません。いけませんとも。

「ええい! 面倒臭い! いい加減、黙れ! いつまでこの不毛な言い争いを続ける気だ!? これだから器はちっせえくせにプライドだけは一丁前に高い最近のガキは困る。少し本当のことを言っただけで馬鹿みたいに怒り出すからな」

「そりゃお前もだろうが! 自分のこと棚上げにして偉そうなことぬかすな! そもそも、俺みたいな若造に本気でキレて怒鳴り散らす貴様の方が器が小さいだろうが。そんなんでよく政治屋が務まるな。議員ってのは随分と簡単な仕事らしい」

 先輩とお父様の口調が幾分か収まってきました。言葉尻に「っ」とか「!」が付かなくなりましたから。

 2人はそれでも少しの間、ねちねちとした言い合いを続けていましたが、やがて、疲れ果てたのか、その口からはぜぇぜぇという荒い息しか出なくなりました。

 時計の長針は二周していました。

「そもそも、私は何の話をしていたんだっけか?」

 ふとお父様が呟き、首を傾げました。

「物覚えの悪い奴だ。まぁ、政治屋は記憶力が悪いから当然だとも言えよう」

 ボソリと先輩が呟きましたが、そこはお父様が我慢しました。青筋はぴくりと動きましたが。

「あぁ、そうだった。彼女のことだ」

 先輩の挑発を受け流したお父様が私を見て言いました。どうやら先の論争の発端は私だったようです。まぁ、私がいてもいなくても同じことになってたと思いますけどね。

「いいか。さっきも言ったが、冴上家の嫡男たる者は……」

「そんな古臭い腐った言葉なぞ聞いてられるか」

 お父様の保守的説教に先輩は耳を貸す様子もありません。素直に耳を貸されては私が困ってしまいますから、今回は先輩の親不孝ぶりに感謝です。

「まったく、強情な奴だ……。そもそも、彼女は高校生だろうが、大学生と高校生が男女交際など許されるのか」

 お父様の言葉に先輩は呆れ果てたような顔をしました。たぶん、わざと作った表情です。

「貴様は阿呆か? 女は16歳から結婚が許されているのに、その結婚の前提となる恋愛が許されぬものか。それに、俺と絹坂は2つしか離れてないぞ」

 先輩の言葉にお父様は少し驚いた顔をして私を見ました。まぁ、確かに、私は小柄で童顔ですから年下に見られることは多いのです。たぶん、私のことを高校一年生とでも思っていたのでしょう。

「……つまり、君は、高校三年生か?」

「ええ、来年の春には卒業します。そーいえば、自己紹介がまだでしたね。絹坂衣です。宜しくお願いします」

 とりあえず、私は丁寧に挨拶して頭を下げようとしましたが、ガッと先輩に額を掴まれ、無理矢理上げさせられました。

「こんな奴に頭を下げるな」

 いや、挨拶のときのお辞儀ぐらいいいでしょうに。

「そもそも、何で、2人は付き合うことになっているんだ? いつからだ? きっかけは?」

「何でそんなことを貴様に言わんとならんのだ」

「親として知る権利がある」

「都合の良いときだけ親としての権利を主張しおって。親としての義務も満足に果たしておらんくせに」

 先輩はそんなにもお父様を怒らせたいのでしょうか?

 それは置いといて、たぶん、お父様が私と先輩との仲を知りたいのは、やはり、親としての愛情とかそーいうものゆえでしょう。口ではかなりぼろ糞に言ってますけど、お父様だって先輩のことが息子として大事なのだと思います。先輩はお父様のことを文句なしに超絶嫌っているようですが。愛とは一方通行なものです。

「私と先輩は高校時代からの知り合いで、付き合いだしたのはええっとー、この間―っていうかほんの数日前からですー。付き合うきっかけは私が告白してですけどー」

 私はとりあえず正直に答えました。

 とりたてて嘘を吐かなければいけない必要性も感じませんでしたし、もしも、お父様が2人の男女交際を認めなかったとしても、何も問題はないと思われたからです。先輩はお父様の言うことに従う人ではありませんし、反対されれば磁石のように反発して、余計に私へ接近してくれるだろうとも思われます。これは私にとっては都合の良いことです。結婚だって、先輩は既に成人ですから、両親の許可がなくてもできるのです。私は先輩と一緒になりたいわけですから、もしも、先輩が冴上家から断絶されても私的には大きな問題ではないのです。

「それじゃあ、付き合ってから全く時間が経ってないではないか」

「恋は時間じゃありませんー」

「いや、そんな奇麗事はいい」

 私のせっかくの良い台詞はあっさりと流されました。残念。

「そもそも、私はもう2年も前から先輩に求愛していたのですが、拒否されていたのですー」

「じゃあ、何で、今更になって付き合いだしたんだ? そもそも、こいつがそんな色恋に関心があるとは思わなかった。この歳になるまでそーいったこともなかったわけだし」

 お父様は心底不思議そうに言います。

 先輩は喉が痛いのか、辛そうな顔で麦茶を飲み干して喉を癒している最中です。

「先輩が今になって私と付き合ってくれるようになったのかは、イマイチ存じ上げませんがー」

 私はそう言ってから、ついつい口を滑らせてしまいました。

「先輩は高校時代にお付き合いしている人いましたよー?」


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