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偏屈先輩と厄病女神の関係

 ところで、俺という人間は思考が古風であり、外来のものが苦手なせいか、カタカナ語なんかを言われると、それの解読に少々時間を有する。

 だから、ドメスティックバイオレンスと言われてもピンとこなかった。少し首を傾げていると思い出した。ニュースでやってた。確か家庭内暴力とかって訳されていたはずだ。配偶者を攻撃したりするやつだ。ん? ということは、つまり、絹坂は俺の配偶者もしくはそれに近い存在?

「なーにがドメスティックバイオレンスかー!? こいつは俺の嫁さんかっ!?」

 俺が声のした方に怒鳴ると、そこら辺の生徒全員が「ひぃっ!」とビクついた。臆病者どもめ。

「うふ。私、DV受けちゃってますー」

 床に寝そべりながら絹坂が気持ち悪い笑みを浮かべて呟いた。そのヤバイ感じの笑みと台詞は止めろ。

「あら、騒がしい人がいらっしゃると思ったら、兄様じゃあありませんか」

「誰が騒がしい人だ。誰が」

「兄様が」

 俺を指差す三津花。あぁ、そーいえば、こいつもここの高校の現役生徒であったな。あと、指差すな。

「あれ? 先輩、お知り合いですか?」

 床に寝転がったまま絹坂が尋ねる。こいつは俺の妹が同学年にいることを知っていないらしい。同じ苗字なんだから、普通気付くだろ。

 俺が呆れ顔で見ていると、絹坂はじとっとした目で俺を睨んだ。てか、ええ加減、立ったらどうだろうか?

「まさか、浮気相手ですか?」

「ええ、そのまさかですわ」

 俺が答える前に三津花がしれっと答えた。吃驚した顔をする絹坂。

「そ、そんなぁ……」

 項垂れる絹坂。

「んなわけあるかっ! 貴様は何を言っておるんだ!?」

「いや、面白いかなと思いまして」

 俺が怒鳴っても三津花は平然とした顔で答える。

「全然面白くない。全く面白くない」

「そんな2回も言わなくても」

 俺と三津花が真顔で話し合っている間に、絹坂はゆらりと立ち上がった。

「くぅ……先輩が浮気をー……」

「だから違う言うとるだろうがぁっ!」

 しかし、絹坂は耳を貸さない。1人で勝手にどんどん変な方向へと走っていく。

「私が少し目を離した途端、浮気なんて……。先輩どんだけ女好きなんですかっ!?」

「無礼なことをほざくなっ!? 舌引っこ抜くぞ!?」

「先輩はもう私に飽きてしまったんですね……。よよよ……」

 絹坂は再び床に座り込んで、制服の袖を目に当てて泣き真似をする。真似に決まっていよう。よよよなんていう泣き声を出す奴が実際にいたら見てみたいもんだ。

「よよよじゃねぇっ! とんでもないことを言うなっ! 周りの連中が引いてるではないかっ! 貴様らもそんな浮気して女泣かせる鬼畜みたいな目で俺を見るなっ!」

 いつの間にやら辺りの生徒たちは俺を非難するような目で見ていた。遺憾だ。大いに遺憾だ。

「先輩は私の何が不満なんですかー。今まで、ずっと何をされてもくっ付いてきたのにー。何を言われても従ってきたのにー」

「嘘をこけっ! 貴様、いい加減にしろ! お前がいつ俺に従順だったというのだ!? とにかく、立て!」

 とりあえず座り込んでいる絹坂を怒鳴り続けるのも外聞が悪いかと思い、腕を掴んで立たせることにした。

「きゃあ。何する気ですかー」

 絹坂は怯えたような表情で言った。分かった。これ演技だ。しかし、演技だと分かっても、というか、演技だと分かったら余計に俺の頭には血が昇るのであった。俺は短気な人なのだ。もう知ってる? だろうな。

「きゃあじゃねぇっ! 何もせんわっ! この糞馬鹿めっ!」

「ぎゃあ! 叩かないで下さい! ぶたないでー!」

「待て! この阿呆め! 10発くらい殴らせろ!」

 その後、俺と絹坂は講堂の中で追いかけっこを始めた。生徒たちは唖然とした、何割かは呆れた顔で見ていて、俺はただひたすらに不機嫌かつ恥ずかしい上にムカついでしょうがなく、絹坂は何だかとっても楽しそうだった。それが余計に俺を腹立たしくさせ、更に呆れての視線が増え、余計に俺は不機嫌になり、ちょろちょろと逃げ回る絹坂を捕まえようと躍起になり、しかし、何だか絹坂は楽しげに逃げ回り、余計に俺の気分は劣悪になりと、悪循環極まりない行為を10分くらい続けた。結果、俺と絹坂の体力及び俺の精神的エネルギーを大いに磨り減らすこととなった。何とも不毛なことだ。

「この馬鹿! 貴様のせいでとんだ恥をかいた!」

「ぎゃわわー! 頭を握り潰さないでー!」

 絹坂は悲鳴を上げるが、無視。

「きーさーまーはー、極めて余計なことを学校中に広めた上に、今度は人を浮気者の鬼畜扱いしおってー! 許さん! 許さんぞー!」

 腹立たしさと羞恥の気持ちが、絹坂の頭を掴む指に更なる力を込めさせる。

「うぎゃー! ず、頭蓋骨がー! て、浮気者じゃないんですかー?」

「違う言うとるだろうが! こいつは妹だ! 名字一緒だろ!?」

 俺が怒鳴ると、彼女はきょとんとした顔で三津花を見つめる。

「い、もうと、なんですか?」

「ええ」

 聞かれて三津花は頷く。

「知らんかったのか? 冴上なんぞ珍しい名字なんだから名字見れば分かるだろ」

 俺が知る限り、我が一族以外に冴上なんていう変てこな名字の奴は知らん。見たことも聞いたこともない。まぁ、神社とか貴族とかの関係の家系の名字ってのは変わったもんが多いからな。

「うーん、だって、私、彼女の名字知りませんでしたもん」

 絹坂は真顔で答える。

「は? だって、お前ら、同学年だろ?」

「それどころか去年同じクラスでしたわ?」

 こいつは元クラスメイトの名字も知らんのか?

「私、クラスメイトの8割の名前は知りませんよ?」

 絹坂が真顔で言い放った。

 こいつ、クラスの人間関係どうしてんだ? いじめられてるのか? 何だか、心配になってしまう。

「コロはクラスのこととかには何の興味も持たないんですよ。彼女が興味持ってるのは、例の秘密組織活動と先輩のことだけみたいなんですよ」

 現委員長が俺の横で言った。そんなことで複雑で繊細な高校生活を生きていけるのか? いじめられたりしないのか?

「せーんぱーい。そんな心配そうな顔しなくても大丈夫ですよーん」

 むっつり黙り込んでいると、絹坂がべたっと抱きついてきた。

「こら! 離れろ! こんな衆人環視の中で何をやっておるか!?」

 怒鳴っても絹坂はにっこにっこと嬉しげに笑って更にくっついてくる。

「私は先輩と一緒にいれれば他はなーんにもいらないんですよー? そんな当たり前なこと今更知ったんですかー?」

「ぐ……」

 俺は言葉に詰まった。そんなことを言われては恥ずかしくて何も言えんじゃないか。

「このバカップル」

 三津花がぼそりと小声で呟いた。聞こえているぞ。

「うん、愛は美しいね。元委員長と現書記長の愛に拍手ー」

 現委員長がせんでもいいのに拍手を始めた。我が組織においては、幹部が行動すれば、構成員は右にならえとなっている。よって、うちの組織の連中がせんでもいい拍手を始めた。それに釣られて他の生徒どもも拍手し始めた。何だか、どいつもこいつもええ感じの笑みを浮かべている。まるで俺たちを祝福するかのように。だが、何故か馬鹿にされているようにも感じる。恥ずかしいこと極まりない。顔が熱い。穴があったら飛び込みたい。

「いやー、どーもどーも」

 絹坂はへらへら笑いながら手を振っている。そして、何だか幸せそうな顔で言った。

「何だか、結婚式みたいですね?」

「くっ…………こんの馬鹿ぁっ!」

 俺はそう叫ぶしかなかった。何だか恥ずかしさで泣きそうだ。


だいぶ久し振りの更新です。

相変わらず話の流れは遅いです。

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