表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/50

偏屈先輩始業式に乱入す

「絹坂ぁぁーっっ!!!」

 講堂のドアを蹴り上げるようにして開けると、無数の視線が一斉に俺に集中した。

 そりゃそうだ。大人しく眠たく始業式をだらだらやっていたら、いきなり、ドアがぶち開けられて怒声が響けば、注目だってするだろう。

「君! 何をやっているんだ!?」

「うちの生徒じゃないぞ! 不審者か!?」

「あなた、冴上君じゃない!?」

「卒業生がここで何やってるんだ!?」

 わらわらと先公どもが走り寄ってくる。

「総員! 先公どもを足止めろ!」

 暫し呆然としていた生徒たちの一割ほどがはっと身体を震わせる。

「現執行委員は指揮を執れ! 講堂を占拠せよ!」

 続けて怒鳴り付けると、幾人もの生徒諸士が、今まで綺麗に整列していた列から飛び出し、先公どもの行動を妨害し、押さえつける。彼らは身元が判明しないようにイスラム過激派の戦士のように布切れを顔に巻き付けたり、マスクをしたり、サングラスを掛けたり、中には何処から取り出したのかモップやらトイレ掃除用のゴム手袋(これが地味にかなりの威力を発揮するのだ)なんかを装備している者もいる。まるで、強盗団だ。

「うわっ! お前たち、何のつもりだ!?」

「こら、止めんか! 縄跳びの縄で縛るな! 何で亀甲縛りができるんだっ!?」

「そ、そのトイレ掃除用のバケツをどうするつもりだ!? ぎゃー!」

 先公どもは我が組織の忠実なる構成員たちによりほぼ全員が拘束され、一部残虐な仕打ち(亀甲縛りされたり、トイレ掃除用バケツを頭にかぶせられたり、理科室のアンモニアの匂いを嗅がされたり)を受けているが、まあ、その辺は現執行委員会の指揮に任せよう。

「おいおい! こら! 双葉!」

「双葉言うなっ!」

 咄嗟に怒鳴り返す。無礼にも俺の名を呼び捨てやがったのはしぶとく追いやってきたヒゲであった。

「誰か! トイレブラシで奴のヒゲを整えてやれ!」

「イエッサー!」

「うわぁっ! 寄るな寄るな!」

 しかしながら、我が組織の勇猛なる同志諸君がいる中じゃあ、ヒゲ鬼とはいえ敵には値せん。ヒゲのことは同志諸君に任せる。

 俺はそんなことにかまけている暇はないのだ。

「おい、絹坂は何処だ!?」

 とりあえず、近場にいた構成員に尋ねる。

「絹…書記長ですか? 書記長なら、あっちに」

 そーいえば、奴は現書記長だったな。

「ところで、この人誰だ? 反射的に命令に従っちまったけど」

「さあ? OBじゃねえか?」

「お前ら! あの人を知らねーのか!?」

「あ、先輩は知ってるんですか?」

「あぁ、先代の執行委員長だ。うちの組織を2倍の大きさに拡大させ、生徒会を傀儡に仕立て、校則に大幅に改訂しと様々な行動をして、うちの学校を誰からも分からんように大変革させた人だぞ!」

 俺の背後で何やら会話がなされているが、俺はそんな大層なことをしたかなぁ? まあ、やったかもな。うむうむ、俺は確実にこの高校の歴史に名を刻んでいるようだな。

 いや、そんな感慨深くうんうん頷いている場合ではないのだ。絹坂を探さねばならぬ。そして、殴り飛ばさんとならぬ。

「どーも、久し振りです」

 俺に話しかけたのは背が高く長い髪の眼鏡の女生徒だ。俺が後任の執行委員長に推薦した奴だ。確か、彼女は絹坂の親友であったはずだ。

「コロと付き合うことにしたらしいですね」

 そして、やっぱりこいつも知っていやがる。この学校で絹坂に最も近い人物なのだから、ヒゲが知っているのならば、彼女が知っているのは当然であろう。ちなみに、コロとは、絹坂の友人たちの間での絹坂のあだ名だ。「衣」から「も」を取ったのだな。

「その糞阿呆な噂を撒き散らしている絹坂を知らんか?」

「あー、その辺にいると、思いますけどー」

「うわーい! せーんーぱーいー!!」

 と、俺たちが話していると、探している主ののん気な声が聞こえてきた。腹が立つほどにのん気な声だ。

「ぐふぅっ」

 声のする方に顔を向けると同時に、絹坂が俺に衝突してきた。肋骨あばらぼねにがつっと絹坂の頭蓋骨がぶつかってきた。しかも、頭をぐりぐりしてくる。そこには、少し前に絹坂に包丁で刺されてしまった傷もあるのだ。痛い痛い。

「先輩先輩ー。どーしたんですかー? 何で、ここにー? はっ!? まさか、私に会いに来てくれたんですかー? もうっ! 先輩から来なくても、こっちから行きますよー! 学校終わるまで待てなかったんですかー? もうもうっ! 先輩ったらぁ! ちゅーしちゃいますー!」

 俺に抱きついてわけのわからんことをほざきまくる絹坂。お前は、そうやって突撃してきて、俺を交通事故に遭わせたのを忘れたわけじゃああるまいな? あと、少し、お前に気付くのが遅れていたら、俺は体育館のワックス塗られた床を滑るように吹き飛ぶところだったよ。

「絹坂ー?」

 俺は肋骨と脇腹辺りの痛みに顔をしかめながら呼びかける。

「何ですかー?」

 のんきに応じる絹坂の顔を見つめながら、俺は怒鳴った。

「こぉんの糞馬鹿めーっ!!」

「うぎゃーっ!?」

 怒鳴ると同時に思いっきり絹坂の腹を蹴っ飛ばす。

「ドメスティックバイオレンスだー!」

 体育館の中の誰かが叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ