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偏屈先輩友人たちの来訪を受ける

 俺が実家に帰ってきたのは母上に顔を見せる為である。それ以外には何の用事もない。一切ない。ゆえに、俺はもう帰ってきて母上と顔を合わせて飯まで食ったのだから、その足で現居宅へと帰ってしまっても悪くはないわけである。さっさと帰った所で文句を言われる筋合いはないし、帰ってしまっても何の不都合も問題もないのだ。

 しかし、やって来て一泊もせんと帰るのはあれだ。母上に気遣ってとかそーいうことじゃなくて、ここから駅までまた歩くとなるとやっぱりあの地獄の行軍で、それかタクシーで、どちらにせよ今から帰るたって電車はまだあるものの、自室に戻る頃には夜中だろう。それは面倒臭いし、疲れそうだ。

 そんなわけで、まあ、帰るのは明日でも明後日もいいか。JRの往復切符が期限切れになる前に帰れれば良しだ。


 俺の部屋にはクーラーがない。

 クーラーといえば車(カー)、カラーテレビと並ぶ3Cの1つであり、温暖化叫ばれる昨今の日本(北海道など一部地域除く)においては貧しい家はいざ知らずほぼ全ての家庭に備え付けられているといっても過言ではないほどに普及している家電製品である。

 外面は日本家屋だが中はバリバリ現代風な我が家においても当然の如く備え付けられ、あまり使わない部屋を除くほぼ全ての部屋に完備されている。黒い金がたくさんある家なもんでな。

 しかしながら、俺の部屋は長らく人がおらず、クーラーを置いておいても意味がなかった為、クーラーが撤去されている。まあ、当たり前っちゃあ当たり前の措置なのであるが、それじゃあ俺が蒸し死(蟲師ではない)してしまう。

 それは嫌なので、俺は仕方なく窓を開けて寝ることにした。ここは丘の上の恐い家なので泥棒が来ることはまずないし、網戸には防虫剤と殺虫剤をダブルスプレーしておいたし、丘の上なので車の音などもあまり聞こえてこない為、まあまあ我慢はできようものと思い、寝たところ、まあ、確かに我慢できた。

 が、しかし、翌朝のことだ。

「ふったっばっちゃーんっ!!!」

「どぅわぁれが双葉ちゃんじゃあーっ!?」

 いきなり外から叫ばれ、俺は布団から飛び起きながら反射的に怒鳴り返した。素晴らしい反射行動だ。脊髄偉い。

 やはり、窓を開けて網戸状態だと外の音が丸聞こえだな。とか、そんなことはどーでもいい。

「今その名を呼んだのは誰だっ!?」

 血走った目で窓から外を睥睨すると、そこにいたのは我が同胞ども。

「よ!」

 その中で先頭にいた蓮延が片手を高く上げてや行の最後の文字を口にした。

「よじゃない! 俺の名を呼ぶなと言ってるだろーが!」

「だって、い、い、ん、ちょーっじゃ語呂が悪いじゃーん。さ、え、が、みーじゃ君の家族皆だしねー」

 蓮延がけたけた笑いながら言った。何がおかしいか。俺は全然おかしくない。

「てかさ。君のそのパジャマは何さー? 桃色じゃん!」

「うるさい! 人の寝巻きに文句を付けるな! これは姉上のなのだ!」

 うっかり寝巻きを持ってくるのを忘れてしまったからな。俺はTシャツと下着だけで寝るような破廉恥な行為は断じて行わないのだ。しかし、桃色はないよなぁ。


「それで、貴様らは何しに来たのだ?」

 着替えてから1階リビングで連中に応対しながら俺は不機嫌に言った。

「おいおい、朝っぱらからそんな面すんなよ」

「貴様の顔を見ていたら尚更不機嫌になるわ」

 草田に言い返してやる。

「こいつ酷くね!? 酷くないか!?」

 喚く草田。しかし、全員で無視。我々は仲良しだ。

「で? 何の用だ?」

 部屋の隅でいじいじしている草田を無視して改めて尋ねる。

「せっかく地元に帰ってきたのですから、ちょっくた高校にでも行ってみようじゃあないかという話ですよ」

 薄村が相変わらずの無表情で答えた。

「ほら、委員長って、あんまり帰ってこないじゃない。だからさ。珍しく帰ってきたんだし、母校に行ってみてもいいんじゃない?」

 七飯が人の良い笑みを浮かべて付け足す。まあ、確かに、俺は滅多にこっちには帰ってこんな。理由は散々前述したと思うが、改めて簡略に言うと、つまり、面倒臭いのと、親父が嫌だということだ。それだけ。他に理由があろうものか。

 というか、まあ、それは悪くはない。悪くはないが、しかし、問題はある。

「何を言っとるんだ貴様らは。今日は高校始業式だぞ? そんなとこに勝手に入り込んでみろ。この物騒な昨今のことだ。下手すりゃ警察に通報されるぞ」

 俺の言葉に連中は一瞬目を少し大きく開いて俺を見つめてから、呆れたような顔で溜息を吐いたり肩を竦めたり。何かムカつく反応だぞ。

「やれやれ、委員長も小物になっちまったなー」

「失礼な。俺の器には貴様の器が10は余裕で入るぞ」

 かなりムカつく台詞を吐きやがった草田へ即座に言い返す。奴の器が小皿で程度ならば俺の器は丼以上であることは考えずとも分かることだ。

「おいおい、それは言い過」

「まあ、草田はそうだけど」

「そこは委員長の仰るとおりです」

「うん、まあ、そーだよね」

「僕もそう思う」

 草田はちょっと傷付いた顔で仲間たちを見やった。まあ、すぐに忘れるだろう。この辺は昔から変わらんなぁ。

「しかし、委員長」

 薄村が口を開く。こいつは人を言いくるめるのが得意だからな。会話するときは注意しなければならない。分かっていれば心の準備とか色々とできるから、問題はないのだがな。

「昔の委員長ならば、警察だの学校当局だのを恐れることなく、学校に突入しましたでしょうに、しかし、今じゃあ、世間の常識とか秩序とやらに縛られて思い切った行動もせず、大人たちの言い分に唯々諾々と従うような臆病な小物に成り下がってしまったかと思うと私は失望の意を感じざるを得ません」

「よし。いっちょ、母校に行ってやろうではないか。警察と学校如きが恐くて人間やっていられるか」

 俺は席を立ち、友人たちも当たり前のように続いた。

 今、俺のことを単純な奴だなぁ。と、思わなかったか? 奇遇だな。俺もそう思っているところだ。

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